※本稿は、佐藤勝彦『眠れなくなる未来の宇宙のはなし』(宝島社文庫)の一部を再編集したものです。
■2013年にロシアを襲った巨大隕石落下事件
近未来の地球を襲うかもしれない、いくつかの災厄が存在します。なかでも多くの生物種を存亡のふちに追い込む最大級の自然災害があります。小惑星や彗星の衝突です。
巨大な天体が地球に衝突するといえば、SF映画『アルマゲドン』や『ディープ・インパクト』(ともに1998年公開)で描かれたパニックを思い浮かべる方がいらっしゃるかもしれません。あるいは、6500万年前に恐竜を滅ぼす原因となったとされる、直径10キロメートルもの「巨大隕石(小惑星)の衝突」を連想する方も多いでしょう。
しかし、「それは所詮、SFの世界の話でしょう?」とか「何千万年前という大昔の出来事で、現代の私たちには関係ないでしょう?」というのが、一般の皆さんの偽らざる思いだったはずです。
「宇宙から隕石が降ってくるのは知っているよ。でもそれが私たちに危険をもたらすだなんて、普段考えたこともない。考えたところで、その危険度なんて限りなくゼロに近いんじゃないの?」と、そうお考えだったのではないでしょうか。
ですが、天体衝突の心配をすることが必ずしも杞憂とはいえないことを教えてくれたのが、ロシアの「チェリャビンスク隕石」の落下事件でした。2013年2月15日の午前9時20分(地方時、日本時間では12時20分)、ロシア西部・ウラル地方のチェリャビンスク州に巨大な隕石が落下したのです。
■衝撃波で4000棟の建物のガラスが割れた
秒速18キロメートル(マッハ50以上)で大気圏に突入した隕石は、大気との摩擦によって数万度の炎に包まれました。そして上空20キロメートルで爆発し、太陽よりも眩しい閃光に街が包まれます。その直後、粉々になった無数の隕石が、半径約100キロメートルの範囲に落下しました。
さらに大爆発から90秒後に爆音と衝撃波が街を襲い、4000棟の建物のガラスや壁が崩れ、1200人以上の人々が負傷しました。死者が出なかったのが不幸中の幸いという、まさに大惨事だったのです。
隕石とは、宇宙空間から地球の大気に飛び込んできた小天体(小惑星や彗星)のかけらが、燃え尽きずに地上まで落下してきたものです。宇宙からはたえず、無数の小天体が地球の大気に突入してきますが、ほとんどは重さが数ミリグラムから数十グラム程度のものです。
これらは大気との摩擦で熱くなって光り、地上からは流星(流れ星)として観測されます。上空100キロメートルあたりで光り、70キロメートルくらいで燃え尽きるのが普通です。
しかし、飛び込んできた小天体のサイズが大きくなると、上空で燃え尽きずに地上まで到達し、それを隕石と呼びます。
■大都市に落ちていたら負傷者数は桁違いだった
ロシアでは1908年にも「ツングースカの大爆発」と呼ばれる、小惑星の落下がありました。シベリアの山林に推定40~50メートルの巨大な小惑星が落下して上空1キロメートルで爆発し、半径30キロメートルにわたって森林が炎上したといいます。僻地であったために人的な被害はなかったということです。
もしチェリャビンスク隕石が落下したのが大都市であれば、負傷者の数は文字通り桁違いのものとなったでしょう。
さらに、今回幸いだったのは、隕石の落下速度が比較的遅く、また低い角度で地球に突入してきたことです。そのために隕石が高温状態にさらされる時間が長く、隕石は上空20キロメートルで爆発して粉々になりました。隕石の密度が低く、全体がもろい状態だったことも、空中分解した原因だったと考えられています。
■広島型原子爆弾25個分の衝突エネルギー
もし空中で爆発せずに、そのまま大地に激突していたら、広島型原子爆弾25個分の衝突エネルギーが地上で解放され、直径200メートルのクレーターができたはずです。そして数万度の高温と圧力で粉砕されたクレーター内の岩石が100キロメートル四方に炸裂して、甚大な被害を及ぼしたと想像されています。
また、ツングースカ大爆発のように、上空わずか1キロメートルで爆発していたら、数キロメートルが焼け野原となり、衝撃波の被害で数十キロメートルの範囲に壊滅的な被害が生じたとされます。今回の被害もけっして小さくありませんが、それでも「この程度」ですんだのは、いくつもの幸運が重なった結果のこと、偶然の出来事にすぎないのです。
■隕石の元になる小惑星と彗星
さて、隕石の元となる小天体には、小惑星と彗星があります。
小惑星は、おもに火星の軌道と木星の軌道の間にあって、太陽の周囲を公転している数十万個の小さな天体です。ただし、小惑星探査機「はやぶさ」が訪れた小惑星イトカワのように、もっと地球に近い場所を公転するものもあり、そうしたものが地球と衝突するおそれがあるわけです。
大きさは最大で直径950キロメートル程度、大多数は直径10キロメートルにも満たず、ジャガイモのようないびつな形をしたものがほとんどです。太陽系誕生の際の、惑星に成長する前の姿を現代に再現していると考えられることから、小惑星は「太陽系の化石」とも呼ばれます。
一方、彗星は数年から数十万年ごとに太陽に近づく、楕円形の軌道を持つ天体です(一度太陽に近づいて、それきり2度と戻ってこない彗星もあります)。太陽に近づくにつれてどんどん明るくなり、長い尾を引くようになります。彗星はおもに氷でできているため、太陽に近づくと氷が溶けて、内部に含まれていたガスが太陽風に流されて尾を引くのです。
では、こうした小惑星や彗星のうち、地球に衝突して大きな被害をもたらすものは、どのくらいの頻度でやって来るのでしょうか。
今回のチェリャビンスク隕石の元となったのは、直径17メートル、重さ1万トンの小惑星でした。直径10メートルクラスの小天体ですと、研究者によって数値に差はありますが、およそ数十年から100年に1回の頻度と予想されています。
■恐竜を絶滅させた直径10キロメートル級天体
これがツングースカ大爆発クラス、直径50メートル程度の小天体になると、数百年から1000年に1回くらいになるそうです。
6500万年前、直径10キロメートルの天体が地球に衝突した時、そのエネルギーは広島型原子爆弾の10億倍に相当したそうです。10キロメートルとは、東京を走る山手線の長径ほどの大きさです。その衝撃によって、マグニチュード12(14という説も)という想像を絶する巨大地震が起きたと推定されています。
地震の規模を示すマグニチュードは、1つ上がるごとにエネルギーが32倍になります。マグニチュード12といえば、地球上で起きる最大級の地震とされるマグニチュード9の、3万倍以上のエネルギーです。また衝突によって、高さ数千メートルという巨大津波も発生したとされます。
さらに膨大な土砂や灰が空中に巻き上がって、何年も太陽光を遮り、地球は急速に寒冷化して「衝突の冬」が訪れたと考えられています。これらの影響で、繁栄を極めていた恐竜を始め、地球上の多くの生命が死滅したのです。衝突の痕跡は、直径約160キロメートルの「チチュルブ・クレーター」(メキシコ)として残っています。
直径10キロメートル級の天体が1億年に一度、地球に降ってくるとしたら、単純計算ですが3500万年後には同じ災厄が再び地球を襲っても不思議ではありません。6500万年前の天変地異は、恐竜が滅び、代わって哺乳類が地球生命の主役の座を獲得するきっかけとなりました。
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佐藤 勝彦(さとう・かつひこ)
東京大学名誉教授
1945年生まれ。京都大学大学院理学研究科物理学専攻博士課程修了。理学博士。自然科学研究機構機構長、日本学術振興会学術システム研究センター所長などを歴任し、現在は明星大学客員教授、日本学士院会員。専攻は宇宙論・宇宙物理学。「インフレーション理論」をアメリカのグースと独立に提唱。また日本物理学会会長、国際天文学連合宇宙論委員会委員長を務めるなど、その功績は世界的に知られる。著書は『宇宙論入門』(岩波新書)、『眠れなくなる宇宙のはなし』『ますます眠れなくなる宇宙のはなし』(ともに宝島社)、『科学者になりたい君へ』(河出書房新社)ほか多数。
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(東京大学名誉教授 佐藤 勝彦)

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