健康で長生きする秘訣はあるか。医師の高橋亮さんは「90代になっても元気な人が共通することがある。
それは“体のある部位”を動かし続けていることだ。血管を守り、ひいては人生の質を高めることにつながっている」という――。
※本稿は、高橋亮『血管の名医が薬よりも頼りにしている 狭くなった血管を広げるずぼらストレッチ』(サンマーク出版)の一部を抜粋・再編集したものです。
■90代になっても元気な人の共通点
私の外来に通われていた最高齢の患者さんは、なんと105歳でした。
最後まで自分の足で歩いて来院され、駐車場から100メートルほどの距離もゆっくりと自力で歩かれていました。
転倒による外傷で亡くなられましたが、それまでずっと、家事や身の回りのことも自分でこなされていたのです。
多くの患者さんを診てきて感じることがあります。
それは、90代になっても元気に通われる方々に共通するのは、「自分の足で歩ける」ということ。足腰の強さが、そのまま心臓の強さと寿命につながっているのを実感します。
では、なぜ足腰の筋肉がそこまで生命力に直結するのでしょう。
それは、人体の多くの筋肉が下半身に集中しているからです。
人間の体には、約600の筋肉があります。
そのうち、実に6~7割が下半身に集中しているのをご存知でしょうか。
なぜ下半身にこれほど多くの筋肉が集中しているのかというと、人間が二足歩行をする動物だからです。
四足歩行の動物は、体重を4本の足で支えます。
でも、人間は2本の足だけで、全身の重さを支えなければなりません。
しかも、ただ立っているだけでなく、走ったり、ジャンプしたり、階段を上ったりと様々な動きをこなします。
そのためには、強力な筋肉が必要です。だから、下半身には大きな筋肉が集中しているのです。
■上半身を動かすより2倍以上効率的
そして、この事実が血管の健康にとって非常に重要な意味を持ちます。
筋肉を動かすと、その筋肉の中を通っている血管が引き伸ばされ、NO(エヌオー)(※)の分泌が促進されます。

※筆者註:NO(エヌオー)は一酸化窒素。血管の内側から分泌される「血管やわらか物質」。『』(サンマーク)で詳しく説明していますが、以下4つの働きがあります。

①血管を広げる②血管をやわらかく、しなやかに保つ③血栓ができるのを防ぐ④動脈硬化を防ぐ
大きな筋肉を動かせば、それだけ多くのNOが分泌されます。つまり下半身を動かすことが、最も効率的にNOを生み出す方法なのです。
計算してみましょう。体全体の筋肉の70%が下半身にあるとします。腕や肩、胸など、上半身の筋肉は30%です。
つまり、下半身を動かすほうが、2倍以上効率的なのです。しかも、下半身の筋肉はひとつひとつが大きい。
その中には“四天王”とも呼べる筋肉たちがいます。
太ももの大腿四頭筋(だいたいしとうきん)とハムストリング。

お尻の大臀筋(だいでんきん)。

ふくらはぎの腓腹筋(ひふくきん)&ヒラメ筋。
これら4つの筋肉は、体の中でも特に大きく、強力です。

「大腿四頭筋」は、体の中で最も大きな筋肉です。
太ももの前側にある、太くて長い筋肉。動かすだけで、大量のNOが分泌されます。
太ももの裏側にある筋肉「ハムストリング」も同様です。
歩く、走る、立ち上がるなど多くの動作に関わっています。この筋肉をストレッチすると、効率よくNOが発生します。
■“四天王”ストレッチで体全体を刺激できる
お尻の筋肉、「大臀筋」も重要です。
これもかなり大きな筋肉のひとつ。
階段を上る時、立ち上がる時、この筋肉が活躍します。ここを刺激すると大量のNOを生み出せることでしょう。
「ふくらはぎ」も忘れてはいけません。
ふくらはぎは「第二の心臓」とも呼ばれます。
なぜなら、ふくらはぎの筋肉が収縮することで、足の血液を心臓に押し戻すポンプの役割を果たすからです。
ふくらはぎをよく動かせば、血液循環がよくなります。
NOも効率よく分泌され、全身の血流も改善される一石二鳥の筋肉ほぐしなのです。
私が「下半身ほぐし」を強調する理由は、ここにあります。
上半身だけ鍛えても、効率が悪い。腕立て伏せや腹筋運動も悪くはありませんが、使っている筋肉量が少ないのです。
一方、“四天王”をはじめとした下半身の筋肉をストレッチすれば、体全体の筋肉の大部分を一気に刺激できます。
しかも、下半身の筋肉は大きいので、NOの分泌量の多さも期待できます。
つまり、時間対効果が抜群にいいのです。
■ストレッチは“ずぼら”でいい
「ストレッチ」と聞くと、ヨガマットやバスタオルを敷いて、時間を取って、真面目にやらなければいけない――そう思っていませんか?
でも、実際に血流を良くする動きは、もっと“ゆるくていい”のです。
私は外来で、こう話すことがあります。
「ずぼらストレッチは、頑張ろうとしないほど結果がよくなります。
座ったまま何となくストレッチすれば十分。いつしかドラマやスマホに夢中になって、ストレッチしていることを忘れているくらいが理想の状況です」
そんなふうにできるだけ気楽に行えたほうが、長く習慣化することが可能となります。
そのために考えたのが、『ずぼらストレッチ』(サンマーク出版)で紹介している「ずぼらストレッチ」です。
「ずぼらストレッチ」の良いところは、たくさんあります。
まず、いつどこでも、始められること。

次に、テレビやスマホを見ながらできること。

また、ほとんどの動作は「座るだけ」でいいこと。

さらには「結果を求めなくていい」こと。
5分やれたから合格、3分しかできなかったから失格――そんなことはありません。
大切なのは、「気づいた瞬間にやる」こと。それが血管にとっての最高のプレゼントです。
おすすめは、テレビ番組のCM中や、スマホの動画を見ている時。

あるいは仕事をしている人なら、オンライン会議の最中にやってもバレません。
■ちょっと足を動かすだけで、血流が動き出す
「椅子に座りながら」の場合、床がツルツルと滑りやすいフローリングならば、「靴下をかかとまで脱ぐ」とかかとがブレーキ代わりになって行いやすくなります。
あるいは、足の甲を床につけるストレッチの場合は、直接床につけると痛いので、「履いているスリッパ」に足の甲を乗せると、痛くなくなります。
こんなふうに「ずぼら」でいいのです。
中には椅子代わりにソファやテーブルを使うストレッチ、エクササイズもあります。
それらを試しながら、下半身の筋肉がじわ~っと伸びたら、そのまま呼吸を止めずに5秒キープ。
この“気持ちいい”感覚こそ、NOが分泌されて、血管がやわらかくなるサインです。
椅子にず~っと座る。それだけで、じつは血流は止まりがちです。
下半身の血液は重力で足にたまり、心臓に戻りにくくなります。
でも、「ずぼらストレッチ」のように、ちょっと足を動かすだけで、血管の中はたちまち活性化します。
ストレッチでなくても、たとえば、朝のニュースを見ながら足首をくるくると回してみる。
パソコンを打つ手を止めて、肩を回す。
打ち合わせの合間に、ふくらはぎを少し持ち上げてストンと落とす。
通勤中の電車でもできます。
座っている時に、足の指を少し動かす。床を押すように、かかとを軽く上下させる。
誰にも気づかれませんが、それだけでふくらはぎの筋肉が働き、血管が動き始めます。
この数秒の“血管のゆらぎ”で、血液の流れは確実に変わります。
私も診察室で、無意識にふくらはぎを動かしています。
患者さんがカルテを書いている私を見て「先生、足が動いてますよ」と笑われることもあります。
けれどそれが、1日中診察室で座りっぱなしになっている私なりの血管健康法なのです。
血管は、“一瞬の努力”よりも“長年の習慣”で変わります。
だからこそ、ストレッチは「ずぼら」でいい。「ながら」でもいいんです。

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高橋 亮 (たかはし・りょう)

医師、医学博士

東京大学医科学研究所に所属した後、医療法人理事長。1979年千葉県生まれ。北里大学大学院修了。オーストリアのウィーン大学留学中に最先端の心臓移植に接したことで、血管に興味を持つ。以来、血管のエキスパートとして、内科と外科、基礎研究と臨床という「二刀流×二刀流」の実績を持つ。がんの転移を抑制する新たな治療の可能性を世界で初めて示し、日本炎症・再生医学会賞、北里大学黒川賞を受賞。米国で開催された数万人が集まる国際学会ではアジア代表のひとりとして特別講演を行う。がん転移の研究過程で、血管と血管壁の潜在的な力を見出し、がん・血管・免疫細胞からなる「神の見えざる手」理論を提唱した。海外の病院での経験や研究成果をベースに、格闘技有段者としての「自重トレーニング理論」や、藍の服用といった自身の肉体で試した「実践的栄養学」なども融合させ、本書の健康ノウハウを開発。新しい健康的な生き方として「血管道」を世に広めている。北里大学医学部非常勤講師。外科指導医、内科認定医、麻酔科標榜医、移植認定医、内視鏡専門医など専門医資格多数。Dell統括産業医も務めた。

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(医師、医学博士 高橋 亮 )
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