健康な食事法として野菜から食べる「ベジタブル・ファースト」が注目されている。ではその野菜は何をかけて食べればいいのか。
同志社大学糖化ストレス研究センター客員教授の八木雅之さんは「青じそ、ゴマドレ、マヨネーズを比べたところ、血糖値の抑制効果に明確な差が出た」という――。
※本稿は、八木雅之『老けない食べ方の新常識』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■食事前に「ヨーグルト・ファースト」
かつて「ベジタブル・ファースト」が健康法として注目された時期がありました。
食事の始めに野菜を食べることで、血糖値の上昇を抑えられるという食事法です。
いま、私たちの研究で新たに注目しているのが、「ヨーグルト・ファースト」。ヨーグルトは、発酵の過程でアミノ酸が豊富に生み出される食品。そのヨーグルトを食事の最初にとることで、効率よくアルデヒドトラップ(※)を起こせると期待できるのです。
(※)食事によって発生した、老化を促進する「アルデヒド」を無毒化する方法
しかも、ヨーグルトには、野菜以上に血糖値上昇を抑える作用があります。
たとえば、白ご飯を食べる5分前にプレーンヨーグルトを摂取すると、白米だけを食べたときに比べて、食後血糖値が約20mg/dLも抑えられました。この結果は、20~40代の健康な男女20名を対象とした試験で得られたものです。
なぜヨーグルトがこれほど効果的なのでしょうか。
そのカギの一つは、ヨーグルトに含まれる「乳酸」にあります。

乳酸は、酢に含まれる酢酸や、レモンやグレープフルーツに含まれるクエン酸と同様に、胃から腸への食物の移動速度を緩やかにする作用を持っています。これにより、糖の吸収も穏やかになり、血糖値の急上昇を防ぐことができるのです。
その結果として、血糖値の急上昇によって引き起こされるアルデヒドスパークも予防でき、老化の原因物質AGEsの蓄積を抑える効果が期待できるのです。
■ヨーグルトの透明な液体「ホエイ」の効能
さらに、ヨーグルトにはもう一つ、老化予防によい理由があります。
ヨーグルトには、乳酸菌がつくり出す「ホエイ」という液体が含まれます。ヨーグルトを冷蔵庫に入れておくと透明な液体が浮いてきますが、あの液体がホエイです。
ホエイを摂取すると、「インクレチン」というホルモンが腸で分泌されます。このインクレチンには、インスリンの分泌を刺激する作用があるのです。
ただ、食後高血糖が起こった際にも、大量のインスリンが一気に分泌されます。では、インクレチンの作用によるインスリン分泌と、食後高血糖によるインスリン分泌では、何が違うのでしょうか。
最大の違いは、「タイミング」と「負担」です。
インクレチンによるインスリン分泌は、血糖値が急上昇する前に、体が「準備」として穏やかに分泌する自然な反応です。
少量で穏やかな分泌なので、脂肪をため込むほど強い作用ではありません。
むしろ、血糖値の急上昇を抑えて膵臓への負担を軽くし、結果的に肥満や糖尿病のリスクを下げる働きをします。
■無糖のヨーグルト100~200gを先に食べる
一方、食後高血糖の際には、膵臓が急激な変化に対応するために、大量のインスリンを慌てて出している状態です。この慌てた対応が繰り返し続くと、膵臓に大きな負担がかかり、徐々にインスリンの効き目が悪くなる「インスリン抵抗性」を招くリスクが高まるのです。そのことがゆくゆくは糖代謝の低下を起こし、糖尿病へとつながっていくリスクを高めます。
では、ヨーグルトは、どのくらいの量を食べるとよいでしょうか。
1回の摂取量の目安は、100~200gです。ヨーグルトは、一般的な家庭用サイズで1パック約400g入っていますから、4分の1から2分の1の量になります。大事なのは、無糖のプレーンヨーグルトであること。ホエイも一緒に食べること。なお、加糖タイプでは効果を得られないので注意しましょう。
■「ベジタブル・ファースト」は本当に健康的なのか
「ベジタブル・ファースト」という食べ方が話題となったのは、日本糖尿病学会誌『糖尿病』(2010年5月号)に掲載された2本の論文がきっかけでした。
これらの論文では、白ご飯を食べる10分前に野菜サラダをとると、血糖値の急上昇が抑えられるという結果が示されていました。
そこから「食事の最初に野菜を食べるのが正解」という情報が広まり、ダイエットや糖尿病対策の定番となっていきました。
私たち研究者にとって、流行の健康法を科学的に検証するのは大切な使命です。そこで、「野菜を先に食べるだけで本当に血糖値は下がるのか?」を確かめるため、千切りキャベツを使った実験を行ないました。
被験者は20代の健康な男女10名。「白米のみ」「白米+キャベツ50g」「白米+キャベツ100g」の3パターンで血糖値の上昇を比較しました。キャベツは白ご飯を食べる5分前に摂取しています。結果は、なんと3つすべてがほぼ同じカーブを描き、血糖値変動曲線に大きな差が見られなかったのです。
■中高年ほど日々の健康に役立てられる
一方、同様の実験を30~40代の健康な男女に行なったところ、血糖値のピーク値が20mg/dLも抑制されるという結果が出ました。
この年齢による差の要因として考えられるのは、「消化力」や「インスリンの働き方」の違いです。若い世代は消化吸収力に優れ、インスリンも効率よく分泌されます。
しかし、加齢とともにインスリンの分泌量や感受性も低下していきます。

この加齢による体質の変化が、年齢とともに血糖値が上昇しやすくなる一因と考えられます。
ちなみに、私たちの研究は、大学生たちと共同で行なうため、被験者の多くは20代の健康な若者です。そのため、若い世代では数値の差が出にくいという特徴があります。
裏を返せば「若い世代で効果が出た方法は、中高年にとってはさらによい結果を得られる」ということです。つまり、研究で得られた知見は、年齢が高い人ほど日々の健康管理に役立てやすいのです。
■野菜サラダは何をかけて食べればいいのか
さて、ここで改めて『糖尿病』に掲載された論文に注目していきます。「野菜サラダ」という表記にはもう一つ重要な意味があります。
論文中のサラダには、オリーブオイルと酢を使ったドレッシングが添えられていました。オリーブオイルには脂質、酢には酢酸が含まれています。つまり、黄金トリオ(タンパク質・脂質・酸)のうち、2つを同時にとっていたことになります。
つまり、血糖値の上昇を抑えたのは野菜だけではなく、ドレッシングの作用が大きかった可能性が高いのです。
その後、私たちは、ドレッシングの種類によって血糖値にどのような違いがあるのか、検証された論文を見つけました。

白ご飯100g(おにぎり)と、キャベツとレタスを使ったサラダ100gに、ドレッシング15gを加えて比較したところ、興味深い結果が出ていました。
健康志向の人がよく選ぶノンオイルの青じそドレッシングを使った場合、血糖値の抑制効果は10mg/dLにとどまりました。
これに対して、ゴマドレでは20mg/dL、マヨネーズでは30mg/dLも血糖値の上昇が抑えられました(図表1)。
ただし、マヨネーズは中性脂肪が上昇してしまう、という別の問題が現れました。
■野菜サラダにはゴマドレがベスト
この結果から、ベストな選択はゴマドレといえるでしょう。
ゴマドレは、ゴマに含まれるタンパク質、油(脂質)、そして酢(酸)で構成されており、黄金トリオをすべて満たしています。しかも、原料として使われるゴマや醤油、味噌、酢にはアミノ酸が含まれています。これによってアルデヒドトラップを期待できるのです。
過去には「キャベツを食前にたっぷり食べるとダイエットに効く」という健康法も流行しました。しかし、食事の最初に皿いっぱいのキャベツを毎回食べるのは、けっして楽しくはなく、飽きてしまいます。実際に私たちは「チャレンジしたけれど、続かなかった」という相談を多数受けました。
どんなによい健康法も、苦に感じれば続きません。
継続には「楽しい」「おいしい」という感情が不可欠。そのためには、方法を1つに絞らず、その日の気分にあわせて変えられることが大切です。食前にヨーグルトを食べたり、サラダにゴマドレをかけたり、いくつか方法を持っておくと、老化予防を効果的に実践できます。

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八木 雅之(やぎ・まさゆき)

同志社大学生命医科学部糖化ストレス研究センター客員教授、農学博士

京都生まれ。京都工芸繊維大学繊維学部卒業、同大学院修士課程修了。1989年、京都府立大学大学院農学研究科博士課程修了。日本抗加齢医学会評議員、糖化ストレス研究会理事。糖化アミノ酸分解酵素を用いたグリコヘモグロビン測定系や、抗糖化作用をもつハーブ素材の開発などに従事。糖化ストレスに関する基礎研究から応用研究まで一貫して取り組む。2011年より現職。老化や生活習慣病の原因となる“糖化ストレス”の解明と対策に力を注ぎ、抗糖化素材や測定法の開発など、糖化研究の最前線を支える、日本を代表する第一人者。「糖化は老化」「糖化ストレス」「抗糖化」という言葉の生みの親。

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(同志社大学生命医科学部糖化ストレス研究センター客員教授、農学博士 八木 雅之)
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