※本稿は、山岸久朗『人生のトラブル、相場はいくら?』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。
■なぜ離婚の慰謝料は200万円が相場なのか
「慰謝料」は、精神的苦痛を慰謝してもらうために払ってもらうお金です。離婚の責任がある人(有責配偶者)が、相手を精神的に辛い気持ちにさせてしまったとき、心を慰謝するために払います(ただ、私がかつて経験した中には扶養的慰謝料という事例がありました。
これは不貞行為があり無一文で家を出た妻に対して、裁判所が収入、財産がある夫に対し、「このままでは奥さん飢え死にするからいくらかお金払ってくれ」と言って扶養的慰謝料が例外的に払われたものです。このように慰謝料にはさまざまな種類があるので注意が必要です)。
日本では精神的慰謝料といって、心の苦痛に対して支払われる慰謝料がほとんどです。最高裁判所の調査による『司法統計』を見ると、不貞行為、DVなど不法行為の種類にかかわらず、実際に下りた慰謝料の額は、100万~300万円の中に収まり、私の感覚で約200万円というのが一番多い金額です。
心の苦痛という目に見えず、人によって感じ方の違うものを金額で換算するのは困難なので、裁判官はどうしても過去の例を参考にせざるを得ず、どんなケースでも一律の金額になりやすいので問題です。有責配偶者の収入、財産を問わない金額なので、この点、今後、日本の裁判も変化していかないといけない時期に来ているのではないかと思います。
■慰謝料で金額以上に揉めること
よく、大金持ちの男性が、浮気が妻にばれて慰謝料を請求された際に、「えっ、200万円でええの? ほな払っとくわ」と嬉しそうに言うてるのを聞きます。これでは妻側は納得いかないでしょう。
離婚問題で一番揉めるのが慰謝料で、たとえば中高年の夫婦が離婚する、いわゆる熟年離婚の場合、財産分与をすれば1000万円単位のお金の攻防になります。
たとえば財産が4000万円あったら、財産分与したら4000÷2でそれぞれ2000万円になります。これは相当に高額なのに、不思議と、財産分与については夫婦は揉めないことが多いです。スッと支払が済んで離婚が成立します。
それに対して慰謝料はせいぜい200万円と金額は少ないのに、財産分与をそっちのけにして金額でエスカレートします。慰謝料が争点となった場合は、離婚に際してどちらが悪かったかを認定しないといけないため、揉めるのです。
毎回、裁判前に準備書面が敵方から私の事務所にファックスで届くのですが、うちの依頼者の悪口ばっかり30枚ぐらい来ることがざらにあり、なかなかファックスが止まりません(笑)。
読むと、「新婚旅行の時に……」とか何十年か前まで遡っての恨みつらみが書き連ねられていて、慄いたことがあります。
■自分が悪くない証拠をかき集める
離婚の原因は相手にあって、「自分は悪くない!」と思ってるので、慰謝料を払うということはすなわち自分が悪かったことになるので絶対に折れないのです。お金には色が付いていないはずなのに高いほうは揉めず、安いほうが揉める……不思議です。
私としては慰謝料で精神を削って争って疲弊するよりも、財産分与に重きを置いて闘うほうをおすすめしたいのですが、しかし、「財産分与なんてどうでもいい、それより長年のうっぷんを晴らしたい、とことんやったる!」という人には、私もとことんおつきあいさせていただきます。
離婚の原因を作ったほうが作られたほうに、精神的苦痛を埋めるために支払わねばならないお金が慰謝料ですが、解決にはかなりの時間がかかります。離婚の相談に来られた人に、私はすぐに次のように言っています。「慰謝料が欲しいなら、解決は1年延びます」と。
先ほど申し上げたように慰謝料は精神的苦痛に対する慰謝ですから、精神的苦痛が大きくなればなるほど高くなります。総じてモラハラは低く、肉体的暴力や不倫は高くなりがちです。慰謝料を増額させるためには、いかに精神的苦痛が大きかったかを裁判官に理解させるのがキモになるので証拠を充実させる必要があります。
■裁判で有利になる「DV写真」の撮り方
不倫であれば現場写真を押さえるのがベストです。腕のいい探偵は現場をクリアに撮影する能力を持っています。インターネットで広告を出している探偵の中には高くふんだくる割には何も結果を出せない詐欺のようなヤカラもたくさんいるので要注意です。
この点、大阪弁護士会が業務提携している3つの調査会社なら、これまでいつも結果を出してくれてきたので安心です(もちろん絶対ではありません)。弁護士の紹介だと割引があります(弁護士には1円も入りません)。
DVの場合は、やはり即座に医者に行き、診断書を取ることが重要です。
このような確たる証拠が取れない場合、有効な補完策は「陳述書」です。できるだけ過去まで遡って、時系列で、どんなできごとがあったかを詳しく書き連ねるのです。迫真性に富み裁判官が理解できる文章であれば、客観的証拠より証拠力は劣るものの有力な証拠になってくれます。
■浮気した夫を許し、不倫相手を憎むワケ
ただやはり、何度も言いますが慰謝料額はほとんどが100万~300万円の間で決着しています。たいへんな労力の割には実入りが少ないのです。あくまで、どちらが正しかったかの感情論、大阪弁で言うところの「けったくそ」でしかないのです。経営者感覚・損得で言えば、慰謝料に心血を注ぐよりは、財産分与のほうが利益率は高いと言えるでしょう。
「夫に浮気されたので、不倫相手を訴えたい。しかし、夫は訴えたくない」というにわかには信じがたいご相談があります。
そんなとき、妻の憎しみはひたすらに愛人に注がれます。そこには一切の情はありません。魔人ブウが生まれ変わった後のように、そこには純粋な悪意しかないのです。
■不倫相手に鉄槌を下すために離婚する
法的に言いますと、夫婦の結婚は、「婚姻契約」という一種の契約関係なので、この契約関係を不倫によって壊した不倫相手には、「婚姻侵害」(夫と女が浮気によって結婚生活を侵害すること)という状態が発生するのです。それを根拠に損害賠償請求ができます。損害賠償請求のほとんどは、精神的苦痛の慰謝料です。
ここで注意があります。慰謝料は、夫婦が離婚まで至ったか否かでかなり差が出ます。
しかし、離婚にならなかった場合だと50万円くらいとかなり少なくなります。離婚まで至っていないんだから精神的苦痛も少ないでしょ、という裁判所の考え方なんです。このために、慰謝料を女からたくさん取るために結局は離婚を選ぶ奧さんも多いです。夫への情よりも不倫相手の女への怒りのほうが勝つのです! 怖いですねぇ。
今の日本の裁判では「婚姻侵害」の慰謝料額がとにかく低いと思います。夫の浮気によって夫婦関係が壊れ、その後の人生をアンハッピーにされてそれで200万円では安すぎる気がします。アメリカみたいに数千万円のレベルでもいいと思います。
----------
山岸 久朗(やまぎし・ひさお)
弁護士
大阪府生まれ。神戸大学法学部卒業。2000年司法試験合格。
----------
(弁護士 山岸 久朗)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
