仕事の視野を広げるには読書が一番だ。書籍のハイライトを3000字で紹介するサービス「SERENDIP」から、プレジデントオンライン向けの特選記事を紹介しよう。
今回取り上げるのは博報堂生活総合研究所『Z家族 データが示す「若者と親」の近すぎる関係』(光文社新書)――。
■イントロダクション
「Z世代」が社会で注目されるようになってから数年が経つ。しかし、Z世代とはどんな人たちなのかを正確に説明することは、いまだに難しい。
博報堂生活総合研究所は、19~22歳の若者を対象とした30年スパンの時系列調査を実施。Z世代の価値観に、「家族」が大きな影響を及ぼしていることを突き止めたという。
本書は、Z世代の幸福度が高いこと、その背景に緊密な「家族関係」があることを出発点とし、親子へのインタビューや母子・父子間のチャットアプリのやりとり分析などによって、Z世代とその家族の実態を深掘りしている。
近年、若者の反抗期が減少している背景には、子どもと親世代の間の価値観の差が小さくなっていることがあるようだ。また、母親と共通の趣味を持っていたり、化粧品や美容家電を共有したりしている子どもは、男女ともに増えているという。子から親へのトレンドの伝播など、マーケティング上の参考になることも多い。
著者の博報堂生活総合研究所は、1981年に設立された博報堂のシンクタンク。本書は、同研究所の若者研究チームによる調査・分析をもとに構成されている。
はじめに:Z世代の幸福度を上げる「家族関係」

第1章 若者論のウソを見破る「超」データ

第2章 近く、親しく、密すぎるZ家族の姿

第3章 令和の親は絶対的味方⁉ 「メンター・ペアレンツ」プロファイル

第4章 大公開! Z家族のリアルなチャット画面

第5章 Z世代の上司論――なぜ若者は職場で本音を話さないのか?

金沢大学融合研究域 融合科学系教授・金間大介氏へのインタビュー

第6章 令和の若者がつるむ「ローリスク仲間」

第7章 Z世代の緊密な関係の先にある課題――若者が「外」に向かう社会へ

スタンフォードオンラインハイスクール校長・星友啓氏へのインタビュー

終章 令和の企業が、Z家族から学ぶべきこと(研究員座談会)

■「かわいそう」と言われるZ世代
本書のタイトルは「Z家族」。
Z世代を家族との関係性で捉えることを主なテーマにしています。若者の「オペレーティングシステム(OS)」、つまり「基本的な価値観や思考の枠組み」に、以前に比べて家族が格段に大きな影響を及ぼすようになっているからです。
Z世代へのインタビュー調査のなかで幾度となく耳にしたのが「大人、特にバブルや経済成長を経験した人たちに、『かわいそう』という言葉をよく投げかけられる」という話でした。不景気しか知らない、だからきっと不幸なんだろう。そんなイメージを抱かれ、同情をかけられているわけです。
■30年前の若者よりもずっと幸福感が高い
しかし、(*19~22歳の未婚男女を対象とした「若者調査」では、)幸福感を確かめるための「生活満足度」「幸福を感じる程度」「生活の楽しさを感じる程度」という3つの項目で、「かわいそう」というイメージとはまったく反対の結果が出ているのです。
「生活に十分満足している」と答えた人の割合は、30年前の9.4%から、なんと30.0%へと3倍以上に増加しています。「非常に幸せ」と感じている人も、19.7%→33.5%へと大きく上昇。「生活が非常に楽しい」と答えた人も2倍以上に増え、今では3割近くにのぼります。
なぜ今の若者はここまで幸せなのか? 若者調査において、幸福度に関連するもので変化が際立っていたのが、「家族」との関係です。30年前と比べると、家族というコミュニティに安心感や幸福感を見出す若者が大きく増えている。つまり、Z世代の圧倒的な幸福感の裏には、これまでとはまったく異なる「親密な家族関係」があったのです。

■「反抗期があった」人が減っている
19歳~22歳の「コアZ世代」と親の関係性を、1994年と2024年の「若者調査」の結果比較から紐解いていきましょう。まず、「いわゆる反抗期があったと思う」と答えた人は1994年の71.4%から2024年には57.0%にまで減少しています。
反抗期はなぜ減ってきているのでしょうか。かつては、子どもと親世代の間にはっきりとした価値観やライフスタイルの「断絶」がありました。子どもサイドから見ると「大人たちが選ぶものは古くてダサい」、大人サイドから見ると「若いやつらが選ぶものは奇抜ではしたない」という埋めがたい対立構造があったわけです。
■「リビングなどの共有スペースを広く取りたい」
ところが、今の親子は激しくぶつかり合うことなく平和に仲良く共存しています。ある時代までは世代や年齢によって分断されていた価値観や嗜好の違いが、目に見えて縮まってきている。つまり、親子間の「感覚のギャップ」がどんどん小さくなってきているのです。コアZ世代が幼少期のころには、子ども本人の意思や気持ちを尊重する「自己肯定感を育む子育て」が広まりつつあったことも無視できません。
日常的に過ごす場所にも変化が見られました。大手住宅メーカーの方に伺ったところによると、最近の住宅購入希望者は口をそろえて「リビングなどの共有スペースを広く取りたい」とリクエストされるそうです。子どもにとっても、狭くてさみしい自分の部屋にこもるより、広くて快適なリビング空間(しかも反抗したくなるような親もいない)で過ごしたいと感じるのも自然なことなのでしょう。
スマホ等をそれぞれが持つようになったことで、リビングに家族で集っていても、各々好きなことをしているからこそ気疲れもしないのです。
■「お母さんと一緒」に外出するZ世代
さまざまな人間関係のなかで、家族――特に母親が若者にとって最も信頼できる、心を開ける存在になってきたわけですが、Z世代は母親を母艦のように「心のよりどころ」とするだけでなく、灯台のように「道しるべ」にもしているのです。たとえば「母親のアドバイス通りに行動することが多い」に対する数値は、51.5%→68.0%と増加。今や7割近い子どもが母親を頼り、教えてもらったことを素直に行動に移しています。
現在では、女性が男性と同じように学歴社会を歩み、社会のなかで実績を積んでいるケースも増えています。特にZ世代は、共働き家庭が増えるなかで「働く母の背中」を見て育ってきた世代でもあります。母親がさまざまな経験をしているからこそ、具体的かつ説得力のあるアドバイスができるのです。
もう一つ、大きな関係性の変化は、「母親と共通の趣味をもつ若者が激増している」ということです。「母親と共通の趣味がある」若者の割合は、かつての29.9%→50.7%と大幅に増加しています。
かつて、特に男子は思春期に母親と外出すること自体が気恥ずかしさを伴うものでした。しかしZ世代の若者に取材すると、どこに出掛けるにしても男女ともに一切のネガティブさを伴わない自然な行動として「お母さんと一緒」があることに驚かされます。
■洋服どころか美容家電まで共有する親子
また、さまざまなモノやサービスを母子間で共有しているのも、Z世代とその母親の関係の特徴です。
ファッションや美容では、母娘での共用はもはや当たり前になっています。母息子でも、「洋服を母親によく取られますし、自分も取ります」(20歳・男性)、「光脱毛器を母と共有しています」(19歳・男性)といった声にあるように、ユニセックスなパーカーやキャップ、化粧品や美容家電(ヘアアイロン、光脱毛器など)でも「お母さんと一緒」の姿が多数見られたのです。
もちろん、子どもから親へとトレンドが伝播するケースも多く見られます。娘の影響で母親がeスポーツにハマり、プロゲーマーの試合を一緒に観戦しに行くようになったなど、推し活ではこのパターンも少なくないようです。Z世代の若者にとって、親は自分の少し前を歩くメンターであり、共依存的だったり、閉塞感を伴ったりするような関係ではないのです。
「それで、父親はいったいどうしたんだ?」と思われている方も少なくないでしょう。30年前と比べて大きな変化が見られない項目も多く、一定の存在感を保っているとも評価できます。チャットアプリ上のやりとりを分析すると、ギャンブルやタバコなど、母親にはやや話しにくいような話題についても、父親とはやりとりする姿が見られました。十分に「メンター・パパ」である――Z世代の幸せ度に貢献しているといっていいでしょう。
■大切にするのは家族だけではない
ここまで家族の関係が密接だと、Z世代は血のつながった家族だけを大切にしているように思えるかもしれません。実は同性の友人との関係は維持され、見方によっては以前より密接になっているのです。
「仲間の溜まり場がある」若者の割合は1994年と2024年ではほぼ同じ。
かつては部室やカフェ、コンビニの前などリアルな場が主な溜まり場でしたが、コロナ禍も後押しし、現在はオンラインゲームや通話アプリなどのネット空間が溜まり場として台頭しています。
マーケティングの観点から注目したいのは、プレゼントの贈り合いです。今、最もプレゼントのやりとりが活発なのは、実は同性の友人なのです。
■「男友達」同士でのプレゼントが激増
男性がプレゼントをもらった相手は「男友達」が66.9%でトップ。贈った相手も「男友達」が63.9%で、やはり最も多くなっています。女性でも傾向は同じで、もらった人でも贈った人でも女友達が9割でトップです(91.5%/87.5%)。女性の場合は30年前からこの傾向は変わりませんが、男性は「男友達にもらった」が23.9%→66.9%、「男友達に贈った」が22.8%→63.9%と大きく増加しています。
逆に(特に女性で)激減しているのが「恋人」で、大人世代が想像する「誕生日プレゼントは恋人から」という構図は、今や「同性の友達」に置き換わってきています。「何でも話せる同性の友人」からのおすすめやプレゼントは、もともと興味を持っていなかった層にも商品やサービスの魅力に気づかせるきっかけになります。若者の人口ボリュームが少なくなっているからこそ、親しい仲間内でのトライアルを伝播させ、新たな習慣にしていくことも必要そうです。
※「*」がついた注および補足はダイジェスト作成者によるもの
■コメントby SERENDIP
本書では、母子・父子間のチャットアプリでのやりとりを分析し、母親は「共感」、父親は「課題解決型」のコミュニケーションが多いと指摘している。さらに、父親世代が職場で「1on1」や「傾聴」など、サーバントリーダー型のマネジメントを実践している点に注目し、その影響が家庭にも及んでいると考察する。
共感・課題解決型のコミュニケーションはいずれも職場で必要とされるものであり、Z世代の子どもとの関係づくりは、部下との関係づくりに通じる部分もありそうだ。Z家族を理解することは、マーケティングの視点だけでなく、職場の人間関係を考えるうえでも多くの示唆を与えてくれるだろう。

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