転職がうまくいく人とそうでない人の違いは何か。転職ライターの安斎響市さんは「職務経歴書や面接で、採用する側の気持ちを考えられているかどうかだ。
とくに面接では、自分視点の人か企業視点の人かではっきりと差が出る」という――。
※本稿は、安斎響市『定年までこのまま働き続けるのはちょっと…と思ったら読む 40代からの転職と副業』(育鵬社)の一部を再編集したものです。
■大原則「職務経歴書は2ページ以内」
40代ともなると、社会人経験は20年以上の長いものとなります。
職務経歴書を作成する際には、過去の経歴について列挙するだけでも相当なボリュームになりそうです。経験した部署の数は二つや三つ程度ではないでしょうし、これまで何度も転勤や担当変更などがあったことでしょう。
それらを一生懸命思い出して「キャリアの棚卸」をして、何とかアピールできそうな要素を探そうと努力していると、自然と書類のボリュームも増えていきます。経歴自体が長いのだから、文章量が増えるのも当然だとも言えます。
しかし、このとき注意しないといけない点として、「職務経歴書は2ページ以内」という大原則があります。
もちろん、職務経歴書を何枚書くかは個人の自由ですし、明確なルールはありません。ただし、採用する側の目線としては、応募書類は「長ければ長いほど低評価になる」傾向があります。
■200ページの資料を読みたい人はいない
「いやいや、たくさんの情報を網羅した方が評価は上がるはずだろう」

「スカスカで中身が薄い書類よりも、たくさん書いた方が見栄えは良いだろう」
と思う人もいるかもしれませんが、それは完全に間違いです。
ちょっと考えてみてください。

例えば、あなたが、近所で通えるスポーツクラブを探しているとき、
「基本情報と月額プラン、施設や設備の要点がまとめられた1枚のチラシ」

「その施設の魅力だけでなく、創業以来の会社の歩みや、ブランドに込められた想いまで、あらゆる詳細を網羅した200ページ超の資料集2冊」
このうち、どちらを手に取りたいですか?
おそらく、200ページもの資料を読みたい人はほとんどいないはずです。
ただ、「そのスポーツクラブはどんな雰囲気で、月額いくらで通えるか」「清潔で使いやすそうな設備が揃っているか」などをチェックしたいだけなのに、そこに付随してあれこれと追加情報を次々に出されても困ります。
どちらかというと、「判断基準として十分な情報が1分で分かる資料」の方がありがたいのではないでしょうか?
■採用担当者の立場になってみると…
情報が多ければ多いほど良いと考えるのは、「作り手」側のエゴです。
必要のない情報を足せば足すほど、何が言いたいのか分からなくなります。そもそも、あまりにも膨大な資料だと、読む気が失せてしまいます。
採用活動でも、まったく同じ話です。
企業の採用担当者や、面接官は、日々たくさんの人の職務経歴書に目を通しています。場合によっては1日に20枚以上の書類を読むこともあるでしょう。
そして、そのプロセスの目的は、「誰を優先して面接に呼ぶか判断すること」です。
その判断ができる情報を、なるべく短時間で見極められるのがベストな書類であり、合格か不合格かを決めるのに時間がかかってしまうのはダメな書類です。
原則として、職務経歴書は2ページ以内にまとめてください。
10年以上前の経歴などは細かく書く必要はありません。
資格や受賞歴なども、転職先の仕事と直接的に関係しないものは「ノイズ」になってしまうので、最初から書かない方が良いでしょう。
どうしても付け加えておきたい情報があってページ数が多くなってしまう場合は、職務経歴書から切り離して「添付資料」として別紙にしてください。
職務経歴書はあくまで2ページ以内にまとめ、そのほかの参考資料として提出するのです。
その方が、「簡潔に完成度の高い書類を作成できる人材」として評価が上がります。
■「仕事ができなそう」と思われるだけ
ビジネスにおいても、必要な情報を分かりやすく短くまとめて、端的に伝えるのは重要なスキルです。
転職活動における書類選考とは、ある意味でその「書類作成スキル」を見られているとも言えます。
ビジネス文書の完成度が低く、やたらと文字数が多い割に、細かいところまで何度も読まないと欲しい情報が得られない場合、「この書類を書いた人、なんだか仕事できなそうだな……」と思われてしまうのです。
まとめると、応募書類に記載する情報はあまり増やしすぎない方が良く、きちんと読み手の気持ちを考えたうえで「必要十分な情報」だけに絞って、できるだけ簡潔にまとめるのが大事だということです。
■面接は愚痴ではなくメリットを伝える場
いざ、40代で転職活動をすることになって、その進捗を見ていると、とんとん拍子に即内定を決めてくる人と、なかなか上手くいかなくて暗い顔をしている人の両方がいます。
その差はいったいどこから生じているのかというと、両者のもっとも大きな違いは「自分視点」か「相手視点」かだと私は感じます。
40代以降の転職活動が上手くいかない人の最大の特徴は、「面接で相手のメリットを語ることができていない」ことです。
「もう転勤を繰り返すのが嫌になってしまって、次の転勤の辞令も出そうでちょっと怖くて、早く転職先を決めたいんです」

「今の職場はちょっと合っていなくて、商材にも個人的に興味が持てないので、あまり長くは働けないと思ってしまいまして……」

「リモートワークで働きたいんです。
現在、通勤時間が毎日往復2時間以上かかっていて、残業で帰りが遅くなったりすると、さすがに体力的に厳しくて」
こういう内容を面接で喋っているうちは、内定にたどり着くことはありません。
「転勤が嫌だ」

「商材に興味が持てない」

「リモートワークしたい」
これらはすべて、現職企業に対する愚痴でしかなく、「企業側があなたを採用する際のメリット」ではないからです。
■「印象が良い」だけでは採用されない
多くの人が勘違いしていますが、面接とは、「聞かれた質問に答える場」ではありません。
聞かれたことにすべてスラスラと答えることができて、言葉を濁したり沈黙したりすることなく面接終了時間まで耐えられたとしても、それは「内定をもらえるかどうか」とはあまり直接的に関係がありません。
面接官は、別に、質問票の回答を集めたくて面接をしているわけではありません。
質問内容は単なるコミュニケーションのきっかけに過ぎず、一定の面接時間の中で、「あなたを採用すべき理由」を会話の端々から一生懸命探しているのです。
和やかに会話が進み、終始穏やかな雰囲気で面接を終えたとしても、会話の中から得られた「あなたを採用すべき理由」が十分に強いものだと認められなければ、内定が出ることはありません。
どんなに印象が良かったとしても、向こうは「印象が良い」「好感が持てる」というだけで40代の人材の採用を決定するわけにはいかないからです。
■面接官は「プラス材料」を求めている
面接官は、社内の採用決定会議において「なぜこの人を採用するのか」を説明する責任があります。
会社にとって、一人の正社員を採用するのは極めて大きな投資なので、そう簡単に「いいよ、いいよ」とGOサインを出してはくれません。
面接の場で、採用を決定するためにプラスとなる材料をたくさん与えてあげないと、面接官はその後の社内会議で上司や人事部を説得して承認をもらうことができません。
採用面接とは、あくまで
「あなたを採用すると、企業側にどのようなメリットがあるか」
という情報を、できるだけたくさん、具体的に、説得力と共に面接官に提供する場です。

この対策としては、一つ一つの質問をフックにしつつ、
・「私を採用してくれると、こんな業務を担当できますよ」

・「以前の仕事ではこんな経験があるので、御社でも生かせるはずです」

・「具体的に、御社のこういうビジネスの、この部分に貢献できます」
という明確なメッセージをひたすら送るのが良いです。
■「自分のこと」ばかり語る不合格者たち
逆に言うと、面接では「自分の身の上話」をしてはいけません。
「現在の仕事で自分がいかに苦しいか」、「いかに切羽詰まった状態で、早く転職をしたいか」なんて、相手から見たらどうでもいいことです。
それにもかかわらず、多くの人が「相手のこと」ではなく「自分のこと」ばかり語ってしまいます。
私が外資系大手企業で採用面接を担当していたときには、40代・高学歴の大手有名企業出身者であっても、多くの人が「自分のこと」ばかり語って不合格になっていくことに非常に驚きました。
その人たちが思慮不足だとか、センスがないとかいう話ではなく、おそらく、ただ単に「面接慣れしていない」のだと思います。
新卒の就活以来、20年以上、本気で「職探し」をしたことのない人が、感覚だけで転職活動をすると、こういう状況になりがちです。
■質問をきっかけに自分を最大限PRする
例えば、面接中に「退職を検討している理由」などを聞かれると、なぜかみんな「上司との人間関係が悪いから」「会社の将来性が薄いから」など、本当に自分が思っていることを本音で語ってしまいます。
たしかに、「退職理由」「志望理由」は自分事として大事な話ではあるのですが、面接はあくまで自分を採用してもらうための商談の場なので、「相手にとってのメリット」を分かりやすく語れない人は採用決定に至りません。
どんな質問が来たとしても、上手く流れを作って、効果的な自己PRや企業とのマッチングのアピールにつなげることができないといけません。
「すべての質問に正確に正直に答えること」に終始しているうちは、面接の合格率は上がりません。
「よし、緊張せずに、スラスラと上手く受け答えができたぞ」と本人は満足していても、3日後に届くメールには「不合格」と書かれています。

面接での会話を通してあなたの気持ちや本音を理解できたとしても、企業側にとってそれは「貴重な採用枠を一人分使ってあなたに内定オファーを出すべき決定打」にはならないからです。
あらゆる質問に対する回答内容が、最終的に「企業があなたを採用すべきメリット」の提示につながるように、しっかり事前準備をして面接に臨んでください。

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安斎 響市(あんざい・きょういち)

転職ライター

1987年生まれ。日系大手メーカー海外営業部、外資系メーカーなどを経て、2020年より外資系大手IT企業のシニアマネージャー。「転職とキャリア」をテーマに、ブログ、Twitterなどで情報発信を続け、日経BP『日経トレンディ』、東洋経済新報社「東洋経済オンライン」、マネーフォワード「MONEY PLUS」など、多くのメディアで取り上げられている。著書に『私にも転職って、できますか?~はじめての転職活動のときに知りたかった本音の話~』(ソーテック社)、『転職の最終兵器 未来を変える転職のための21のヒント』(かんき出版)などがある。

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(転職ライター 安斎 響市)
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