※本稿は、山岸久朗『人生のトラブル、相場はいくら?』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。
■言い寄ってきた「イケメン医師」の正体
最近、増えているのが詐欺事件です。特に、SNS型ロマンス詐欺と呼ばれる特殊詐欺事件の件数が増えていて、メディアなどで注目されています。
たとえば、インスタグラムやXなどをしている女性にダイレクトメッセージで連絡が来て、「私はアメリカ在住の医師です。あなたの投稿はすてきだ」から始まり、やりとりするうちに「あなたに恋をした」とうまいことを言うようになり、1回も会ったことがないのに、「いい投資話がある。10万円を振り込んでくれ」または、「今、お金に困っている。一時貸して欲しい」と噓をついて金銭を騙し取るのが手口です。
10万円が50万円になり、100万円になり、貯金をすべて使い果たしたなどという例が後を絶ちません。かく言う私にも、アメリカ人のゴージャスな女性からしょっちゅうDMが来ます(笑)。
私も何人もの方からロマンス詐欺の相談を受けてきましたが、お金を取り返すのはかなり難しいと言わざるを得ません。
まず、そのSNSを発信している主体が不明です。
犯人は証拠を残さないことに長けた常習犯がほとんどで、私の経験から言うと、そんな詐欺師は大抵が騙し取った金銭はすぐに抜きもの(シャンパン)などでぱーっと浪費してしまうことが多く、取り戻すことは不可能に近いのです。
もし、SNSが海外から発信されていたらさらにお手上げです。民事事件として立件して損害賠償を請求するなら該当する国で請求しなくてはいけないので、非常にハードルが高くなります。
■ロマンス詐欺が厄介な理由
私は以前、ロマンス詐欺に遭った方のお話を聞いて、助けてあげたい、何とか取り返してあげたいと思って引き受けたことがありました。
しかし、長い時間をかけたのに、1円も返ってこず、そしてそれが私のやり方が悪いかのように思われ、引き受けるべきじゃなかったと後悔したことがありました。その経験から、最近では詐欺事件を引き受けないようにしています。
弁護士は問題解決にあたり、着手金をいただきます。旧日本弁護士連合会の報酬基準では、300万円以下のご依頼の場合は、請求金額の8%と決められていました。300万円の請求なら24万円ですね。しかし、結局はお金が戻ってこないとなると、私に払ったお金の分、余計に損が増えます。それでは申し訳ないからです。
警察に行っても同じです。先ほどの話は民事事件としての話ですが、刑事事件として立件することもできるので、被害に遭った人は警察に訴えることもできるのです。
■詐欺罪立件の落とし穴
ここで、「刑事事件」と「民事事件」の違いについて簡単に説明します。
「民事事件」は私人間のトラブル(たとえば不当解雇された、不倫相手に慰謝料を請求したい、交通事故の賠償をして欲しいなど)について、被害を受けた側が原告となって提訴します。
これに対して、刑事事件は、簡単に言うと、殺人、傷害、窃盗などの事件があった場合に警察が捜査し、検察官が起訴するかどうかの判断をし、起訴されたら最終的には刑事公判で有罪か無罪かが判断され、かつ、量刑が判断されるシステムです。
刑法の詐欺罪は犯罪をした時点、「いい投資話がある」「お金を貸して」と言った時点で、明確に騙す意思があった、つまり最初からお金を返さない意思があったことを、警察・検察が証明しなくてはいけません。
被疑者に「そのときは儲かると思っていた」「最初は返す意思があった」と言われれば立件することは難しいのです。
■警察にも裁判官にも同情されない
私の経験では、警察に相談に行った際、詐欺罪は最も警察官から嫌われ、のらりくらり言われて受理してもらえない犯罪ナンバーワンなのです(それと、詐欺に騙される人というのはどこかスケベ心がある人が多い。金だったり、異性だったり、そういったスケベ心につけ込まれてほいほいと大金を騙し取られ、後になって「自分は被害者だ!」と大声を出されても、警察も裁判官も納得しにくいのです)。
つまり、民事事件でも刑事事件でもにっちもさっちもいかなくなるのがロマンス詐欺で、そこはもう弁護士をしていて、忸怩たる思いのする特殊な分野と言えます。
厳しいことを言うようですが、ロマンス詐欺はやられたら負け! お金出したら負けです。スケベ心をコントロールしてください。
このような詐欺に騙されないようにするにはどうしたらいいでしょうか。それは、とにかく前提の知識を入れることです。
■「私は大丈夫」の人ほど引っかかる
詐欺師は手を変え品を変えどんどん違う手口を繰り出してきます。私も仕事で何人かの詐欺師と実際に話しましたが、それはもう天才的にしゃべりがうまく、手口を事前に知っていなければ、コロッと騙されてしまうのです(なお、「自分は詐欺に遭わない」と思っている人ほど引っかかるようです。これを「正常性バイアス」と言います)。
日ごろ、行政やメディアで詐欺防止の啓発活動が行われていますので、アンテナを張って事前に知識を得て、騙されないようにするのが最大の防御策であると言えます。
結婚に関したトラブルで多いのが婚約の不当破棄、つまり婚約不履行です。男性と女性が知り合って結婚しようということになり、婚約し、結婚式の日取りや披露宴会場を決め、知人友人に招待状を送ったところで、どちらかが突然、結婚の話は無しにして欲しいと一方的に言う。言われた側からどうにかして欲しいと相談に来られるケースが多いです。
法律的に言えば婚約とは結婚するという契約です。結婚をするという債務(債務とは、他人のために何らかの行為をする法的義務のことです)が発生しているので、不当に破棄すると債務不履行に該当して、被った精神的苦痛を慰謝するための損害賠償請求ができます。
■「婚約破棄」の呆れた真相
私は女性から婚約不履行の相談を受けることが多いため、女性に味方することが多く男性は敵なので、男性側が婚約破棄に至った理由を聞くことがほとんどなくて、真の理由は分かりません。
しかし、私の推測では、男性が優柔不断で、結婚に至る根性がなく、直前で逃げ出すことが多いような気がします(だったらそんな男は結婚しなくて正解だったと思うのですがねぇ)。慰謝料を請求する場合、破棄した側に婚約を破棄するだけの合理的な理由があるかどうかが問題になるので、私は依頼人には最初にその点をしっかり確認します。
たとえば、ある女性が相談に来られて、婚約者の男性が婚約を破棄したということがありました。よくよく聞いてみるとこの女性はほかの男性と浮気したという事実が判明したのです。
この場合は当然、男性に対して慰謝料請求はできません。逆に慰謝料請求されてもおかしくないくらいです。男性が請求する気がなかったのに、私が女性の代理として請求したら、それきっかけで逆請求をカマされるというヤブヘビ事案もあり得るでしょう。
■異例の慰謝料が支払われた特殊ケース
また、本当に婚約していたのかという事実も確認します。かつては結納を交わすことが婚約の証拠になりましたが、現在では結納の儀式があまり行われないために、婚約を形で認定することが難しくなっています。
しかし、たとえば親や兄弟姉妹を交えて食事会をしたとか、婚約指輪を交わしたとか、葬儀や法事、結婚式に参加して親族席に座っていたなどは婚約の間接事実になります。
間接事実とは、婚約を直接裏付ける事実ではないけれど、間接的に婚約を認めることのできる事実を言います。
裁判になって、2人は婚約していたかどうかが争いになった場合は、このような小さな間接事実を、まるで賽の河原で小石を積むように積み重ねていき、最終的には裁判官が決めます。
このような確認の上、婚約が不当に破棄されたと分かったときに慰謝料の請求ができます。これまでの私の経験から言うと、1年程度裁判をして、裁判官が金額を決めるのですが、大体100万円前後で慰謝料の支払が命じられるのが相場です。
破棄の理由が酷かったり、精神的苦痛が甚大だったりしたらさらに増えるときもあります。過去の事例では、女性と婚約しながら、その間何度か妊娠、中絶させ、女性が結婚適齢期を過ぎたあたりで破棄した事案では500万円を超える高額が認められたことがありました。
■「恐喝」は弁護士の特権?
なお、婚約破棄は弁護士が相手と交渉するだけで慰謝料が支払われるケースのほうが、裁判まで発展するケースよりも多いです。
たとえば私が扱った事例では、依頼人の女性に話を聞くと、彼女は職場を既に寿退職し、職場の同僚や親戚一同に結婚式の招待状を送った後になって不当破棄されました。
激おこで、「200万円ぐらいはもらわないと納得いかない」というのです。私が「実際に裁判で判決になった場合は100万円の慰謝料が相場のケースと思いますがそれでもいいですか」と言うと、「最終判決でそうなるならそれでもしかたないが、訴訟前の段階では200万円で請求して欲しい」と言いました。
そこで私が元婚約者の男性に「200万円払ってください」と内容証明を送ると、元婚約者の男性はBダッシュでうちの事務所に駆け込んできて、「この不当破棄が会社にばれたら私の将来に傷がつく、出世も望めなくなるから穏便に済ませたい」と平謝りで言いました。
彼女が一切このことを口外しないと秘密保持条項を入れて200万円払うとスピーディーに決まったことがありました。
秘密保持条項とは、契約書に定める条項の1つで、約束した内容を一切第三者の外部に漏らさないと約束する条項です。某アイドルと某女性の示談契約で一躍有名になりましたね(あれは綺麗に破られてますけど)。
秘密にしてもらうことにメリットのある人間は、秘密と引き換えに、判決相場よりも高額を支払うものなのです。「秘密にするから金を払え」とは、通常人であれば一歩間違えれば恐喝になり得ますが、弁護士の世界では日常茶飯事。
弁護士とは合法的に恐喝できる唯一の仕事なのです。知らんけど。
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山岸 久朗(やまぎし・ひさお)
弁護士
大阪府生まれ。神戸大学法学部卒業。2000年司法試験合格。2002年大阪弁護士会に弁護士登録。2007年山岸久朗法律事務所開設。なにわの熱血弁護士として多岐にわたる法律問題の解決に奔走するかたわら、毎日放送「せやねん!」、朝日放送テレビ「おはよう朝日です」、TBS「グッとラック」等のレギュラーコメンテーターを経て、現在もテレビ、ラジオ、監修など、様々なメディアで活躍中。趣味は食べ歩きとインスタグラム、特技は空手。
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(弁護士 山岸 久朗)

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