■なぜ一転して、「謝罪」したのか
12月9日夕方、旧統一教会の田中富広会長による辞任の会見がありました。会見席では田中会長が一人で座り、いつも横にいた信者弁護士や幹部が不在で、「これまでの会見とは違う」という印象を持ちました。
2022年夏の安倍晋三元首相の銃撃事件以来、旧統一教会による霊感商法や高額献金の被害実態、政治家への工作などが明らかになり、公の場に出て釈明や弁明を行ってきた会長だけに、辞任に際して、どのようなことを話すのか。その言葉に注目が集まりました。
冒頭で会長はこう言って謝罪をしました。
「今なお被害を訴える方々がいらっしゃることに対する道義的な立場からです。私たちの活動が一部の方々にご心痛を与えたことは決して軽視できません。会長としてその事態を真摯に受け止め、社会からの信頼回復に向けた一歩を踏み出すためにも決意いたしました。改めてお詫びさせていただきます」
以前の会見では、「謝罪という言葉には、距離を置いている」などと話して「おわび」であって「謝罪でない」という論理を展開していましたので、今回は、被害を訴える人に対して、明確に謝罪しており、前進はあったといえます。
■組織としての謝罪は拒否
しかし一番注目していた教団が組織的に引きこしたことによる被害への謝罪なのかを問われたことに関して、「教団の会長としてのお詫びです。したがって、組織的責任をどこまで背負うか。今、裁判がまだ継続しているので、あまり組織論だけで、これを私が簡潔に述べきることはちょっと難しいかなと思っております」と明確な言及を避けました。
旧統一教会の教義では、メシヤのいる韓国をアダム国家(父親の立場)として、日本はエバ国家として、母親の立場でお金や人材面で支える国として存在するとされています。韓国本部からの指示や命令は絶対で、それに反する行為は許されません。
信者らへの多額の献金のノルマの指示が長年続き、安倍元首相を銃撃した山上哲也被告の家庭にみられるような、高額献金による家庭崩壊が次々に起きました。そのため、今の一世信者の多くは多額の献金をしたために貯金もなく、経済的に先がまったくみえない状況です。何よりその元で生活してきた宗教二世たちは心身ともに相当な苦しさやつらさを感じてきました。
こうしたことは当然、会長自身も銃撃事件前から知っていたずです。内部事情を知る筆者(元信者)として、それに対する明確な答えがなかったのは、非常に残念です。
■高裁からの解散命令が近いことを見据えて
会長が「社会からの信頼回復に向けた一歩を踏み出すため」と述べている通り、辞任は「高裁での解散命令が近いことを見据えての動き」と私はみています。
現在、旧統一教会は外部の弁護士を入れた補償委員会を設置して、被害者への返金を進めています。また、12月8日現在、全国統一教会被害対策弁護団による東京地裁で行われている集団調停に対し、旧統一教会側が、被害者ら182人に対して総額約36億8000万円の解決金を支払うという調停が成立しています。
なぜ、返金をすすめているのかといえば、一つには、係争中とはいえ、東京地裁から解散命令が出たことが大きく影響していると考えています。
東京地裁の決定文のなかで、旧統一教会が「類例のない甚大な被害を生じさせた」としたうえで「今も類似の被害を生じさせるおそれがある状況が残っている」と指摘しています。
教団としては、今後、高裁の解散命令の決定がなされても、任意団体として、信者をつなぎとめて教団を維持していくためにも、「今も類似の被害を生じさせるおそれ」があるといった文言は取り除きたいのでしょう。それが、今の実質的な救済に取り組む姿勢に転換した一因になっていると考えます。
しかしながら、誰が見ても遅きに失した感は否めません。もっと早く被害者への謝罪や返金の行動をするべきで、多くの人に、付け焼刃的な状況にみられるのも仕方ないところです。
■旧統一教会の宗教二世信者に取材すると…
今回の辞任は、教団のトップである韓鶴子総裁も逮捕、起訴されたことも影響しています。これまで韓総裁のもとで、教団に反対するものはすべてサタンとして、国の解散命令請求に抗い、被害は捏造・誇張されたものであるなどと主張しながら、田中会長を中心に徹底抗戦してきました。
しかし、教団内部には「もっと早く謝罪と被害者補償をするべきだった」と思う信者はいたはずで、このタイミングでの会長の辞任は、これまでの教団本部の姿勢の誤りを示すものともいえます。
会長の辞任について、旧統一教会の宗教二世だった方に取材すると「田中会長自身も、1年以上前から会長の辞任を韓総裁に打診していたようだが、待つようにとの指示を受けていたと聞いている」といいます。
会長自身も会見で「何度か会長の辞任の件は役員会のテーブルに載せましたが」と、認められてこなかった経緯を語っており、そのあたりがうかがえます。
会長を辞して、心の中には、教団としての方針転換を図りたかった思いもあったのかもしれませんが、日本は韓国をアベル(より神に近い存在)として常に許可を得たり、その指示に従わなければなりませんので、そのあたりが簡単にできない難しさもあったことが推察されます。
■内部から改革を行うのは、きわめて難しい
今回、15代会長に就任する堀氏については、前出の宗教二世によれば「韓鶴子総裁は、2015年頃から(これからは)二世信者の時代だと話していて、日本の組織を二世への切り替えをしたい意図もあり、もともと会長に就任させたい意向もあったようです」とのことです。
しかし今は韓総裁が逮捕・起訴されて、解散命令の決定が近いなどの状況もあります。そのうえで「韓国の幹部らと相談して、もともとの韓総裁の意向である二世への人事権の譲り渡しになった経緯があるのではないか」と指摘します。
日本国内の高額献金などの被害の実態が明らかになり、旧統一教会への解散請求の裁判が行われて、日本の教団本部もこれまでの韓国からの指示を待つ一辺倒ではなくなってきているのも実情かと思います。
集団調停の成立による被害者への支払い、韓国への巨額な送金の停止など、韓国側からの指示ではなく、日本側からの提案を受けて了承され行われたとみられる動きも出ています。
今後は、これを延長して、韓国主導によるものから脱却して、日本の教団が社会の人たちと向き合い、法律を守り行動していこうとするのか。新しく会長となった人物が日本国内の事情を優先させるような、舵取りをどのようにしてくのかが注目されます。
しかし今も、SNSなどにおける、被害者家族や教団をやめた元信者、宗教二世、弁護士、ジャーナリストらへの誹謗中傷は続いています。
信者には古参信者から、二世、三世もおり、教義のとらえ方についてもさまざまです。こうした信仰の濃淡があり、一筋縄ではいかない人たちをどう束ねられるのか。そもそも、教団はいらないという声もある国民にどう答えるのか。
また、二世の立場の人が会長になることで、これまでの一世信者が引き起こした過去の被害には線を引き、向き合わない姿勢をとる恐れもゼロとはいえませんし、教団内部での対立が勃発する可能性もあります。
被害の実情を踏まえて、昨日、田中会長が辞任・謝罪をしたことは、教団が今後、社会のなかで共生してきたいという意思の表明だったのでしょう。しかしながら、会長が「謝罪だから、すべての罪を認めたとか、そういうざっくり受け取られてしまうとこれは困る」という言葉からもわかるように、いまだうわべの謝罪にとどまっている感は否めません。
筆者は安倍元首相銃撃事件以降、田中会長の会見をウオッチしきましたが、信者を多く抱えるカルト思想を持つ教団が、「早くなくなれ、完全に解散しろ」という国民の声が大きい中、内部から改革を行うのは、きわめて厳しいと感じます。その中で、新会長体制で何をどのように進めようとするのか、国民は注視し続けなければなりません。
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多田 文明(ただ・ふみあき)
ルポライター
詐欺・悪質商法に詳しい犯罪ジャーナリスト、キャッチセールス評論家。1965年北海道生まれ、仙台市出身。日本大学法学部卒業。雑誌「ダ・カーポ」にて『誘われてフラフラ』の連載を担当。2週間に一度は勧誘されるという経験を生かしてキャッチセールス評論家になる。キャッチセールス、アポイントメントセールスなどへの潜入は100カ所以上。悪質商法や詐欺などの犯罪にも精通する。
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(ルポライター 多田 文明)

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