※本稿は、森下彰大『戦略的暇 人生を変える「新しい休み方」』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。
■画面を見ているのは「スマホ時間」だけではない
スマホやPCの利用時間を計測するアプリ「レスキュー・タイム」が同アプリのユーザー1万1000人を対象に行った平日のスマホ利用の調査によると、1日の平均利用時間は3時間15分でした。そして、上位20%のユーザーの利用時間は、1日あたり4時間30分とも報告されています。
この数字を見て考えなければいけないことが、二つあります。
一つは、調査対象のユーザーは、スクリーンタイムを計測するアプリを自主的にインストールしていた点です。彼らは、かなりデジタル機器の利用に対して意識的だと考えられます。スクリーンタイムを特に気にしてない一般的なユーザーであれば、平均時間がより延びる可能性もあります。実際、コロナ禍を経て、各国でスクリーンタイムは増えています(インドでは子どもたちのデジタル機器の利用時間が100%増えたという報道もあります)。
もう一つは、あくまで「スマホの利用時間」であるということです。ほとんどの人たちが仕事でPCを使う時代、PCの利用時間を無視するわけにはいきません。
そこで、アキュビュー(J&J社)が2000人の事務職員を対象に実施した調査を見ると、対象者の仕事中のPCの利用時間はなんと年間1700時間。1日(平日のみ)に換算すると、約6時間30分です。
■起きている時間の半分以上は「モニターの前」
これらの数値を併せて考えると、一般的なスマホユーザーかつ仕事でPCを利用する方であれば、デジタル機器に触れている時間は、試算にして9時間45分よりも長く(平日の1日だけで)、起きているうちの半分以上は「モニターの前に居る」と考えられるのです。
この数字をもとに、1カ月と1年のスクリーンタイムを算出すると……
1カ月でおよそ195時間(約8日間)
1年で約2340時間(約97.5日間! つまり、約3カ月!)
あくまで、これは少なく見積もった数値であることにご留意ください。スマホの利用時間が比較的多い10~20代では、この時間はさらに跳ね上がると考えられます。
■「利用時間」よりも深刻な問題
前記のデータを見ると、躍起になって「なんとかスクリーンタイムを減らさねば!」と考えたくもなります。もちろん、現代人はおしなべてデジタル機器を使いすぎだと多くのメディアが指摘していますし、実際その通りだと思います。僕が講演する中でも、「利用を何時間までに抑えるべきか」という質問が多いです。
しかし、利用時間よりも問題なことがあります。それは、デジタル機器を断続的に使うことで生活そのものがぶつ切りになり、「ながら」状態になってしまう点です。
アメリカの企業が行った調査によれば、スマホユーザーは寝ている時間を除き、平均5分おきにスマホをチェックしています。
テレビを見ながらスマホを触ったり、スマホ内で複数のアプリを行き来したり……。デジタル機器には、このようなマルチタスク(複数の作業を並行して進めること)をしてしまいがちな側面があり、ついつい複数のことを同時進行してしまいます。
ただ、「自分は複数のことに同時に対応している」と思っていても、そうではない可能性が高いのです。実際は複数のタスクに集中力が分散されてしまい、脳はその都度、各々のタスクに合わせて対応しなければなりません。その結果、脳が過労状態になってしまい、本来のパフォーマンスを発揮できなくなってしまいます。
自転車で走る際、止まった状態からペダルを漕ぎ出すときが最も力を使いますよね。脳も同様に、異なる作業の「停止・発進」が続くことで、疲労度が激増するのです。
■良い中断と悪い中断がある
カリフォルニア大学アーバイン校のグロリア・マーク教授は、「多くのデジタル機器が作業中断の原因になっており、注意があちこちに飛散している」と指摘しています。
さらにマークは、良い中断と悪い中断があると語っています。たとえば、割り込んできたタスクが現在自分のしている作業内容と一致する場合や、今は解決できない問題をいったん寝かせておく場合(あとで答えが浮かぶかもしれない)、そして書類にサインをするといった極めて簡単な作業の場合は、むしろ作業の切り替えが有益であると。
しかし、ある仕事に集中しているときにまったく関係ないタスクで中断が起きると逆効果のようです。
「思考を完全にシフトしなければならないので、新たなタスクに集中するまでに時間がかかるし、元のタスクに戻っても、何をやっていたか思い出すまでに時間がかかります。」
マークの研究によれば、IT労働者が1つの仕事に集中するのは、なんと11分ほど。いかに仕事が頻繁に中断されているかがわかります。さらに、マークはこうも語っています。
「私が研究論文を書くときも、創造的な思考に至るまでに2~3時間はかかります。もし10分半ごとに作業を切り替えていたら、深く考えることなどできないでしょう。」
私たちがスマホをチェックする頻度を考えると、いかに集中力を損ないやすい環境で生きているのかがわかるはずです。デジタル機器にとっては複数のアプリを起動する「マルチタスク」は可能ですが、私たちの脳ができるのはあくまで「スイッチタスク」(タスクを切り替えるだけ)だけ。
私たちの注意力(注意資源*)はスマホのバッテリー同様、無限ではありません。
そして恐ろしいことに、私たちの限られた注意資源の多くは、通知がなくともスマホに向かってしまうのです。
*注意資源:人間が何かに意識を向ける際に脳が使うエネルギーのことを指す心理用語。
■スマホは「対面での会話」の質も下げる
私たちの有限な注意資源は、使っていなくてもスマホが近くにあるだけで消耗しています。よくスマホを机の上に置いたまま話している人たちを見かけますが、実はこれも彼らの関係にとっては危うい行為かもしれません。
スマホの影響を調査した研究では、対象となる100組のペアを無作為に振り分け、幅広い話題をテーマに、10分間話し合ってもらいました。研究の助手たちは10分間の会話を遠くから観察し、参加者が携帯電話やスマホなどのモバイル機器を卓上に置いたり、手に持ったりしたかを記録します。
結果、モバイル機器がない状態で会話したペアは、対話する相手に対して共感や関心を抱く傾向が強かったことが判明しました。
一方、ペア同士が親密な関係であってもモバイル機器が卓上にある場合、「親密ではないペアよりも会話の共感レベルが下がる」傾向にあるとわかりました。
■近くにあるだけで認知機能は低下
では目に見えない場所にスマホを保管しておけば良いのかというと、そうでもないようです。
2017年に発表された米国での研究では、548人を対象に認知作業のテストを行いました。
被験者は次の三つの作業環境のうち、いずれかを指定されてテストを進めます。
1 スマホを別室に置いて作業
2 スマホを机の上に置いて作業
3 スマホをポケットかカバンに入れたまま作業
結果、最も良い成績を収めたのは1のスマホを別室に置いたグループでした。他方で、最も成績が悪かったのは2のスマホを机の上に置いたグループ。ちなみに、スマホをポケットやカバンに入れたままの3のグループの人たちもテストの成績が悪かったのです。これらのことから、スマホが近くにあるだけで認知能力が下がることが示唆されました。ONの時間、OFFの時間と共に、スマホの存在があるだけでいかに目の前のことに集中するのが難しくなっているかがわかります。
■スマホ利用時間が長いと、勉強していても成績が下がる
東北大学の川島隆太教授は、仙台市に住む中学生の家庭での学習時間とスマホ(LINEやカカオトークなどの通信アプリ)の利用時間の比較から、「家庭での学習時間の長さが同じ場合、平日のスマホの利用時間が増えると成績は下がる」というショッキングなデータを発表しました。
さらに、スマホの利用時間が長くなると、勉強していても成績は下がってしまうことがわかったのです。
ちなみに、この問題を「スマホを長く使っている分、勉強をする時間が減ったため成績が下がった」と片付けることはできません。
■長くても1日1時間まで
スマホの使いすぎによって、学校で習得した内容が頭に残らなかったと示唆するこの報告。川島教授はこのプロジェクトの結果から、「子どものスマホ利用は長くても1日1時間まで」と推奨しています。なぜなら、スマホを毎日1時間以上使っている子どもたちは、成績が下がってしまうからです。そして、たとえスマホを毎日1時間以上使っていても、毎日1時間未満にすることができれば、成績が上昇することも分かったからです。
この研究では、勉強中のアプリの利用数が増えると4科目(国語・社会・算数・理科)の成績が下がるとも報告されています。勉強中にスマホを「ながら」で触っていると注意散漫(マルチタスク状態)になり、勉強に集中できなくなるようです。勉強するときは、いかに勉強だけに集中できる環境を作るかが鍵だと言えそうです。
----------
森下 彰大(もりした・しょうだい)
一般社団法人日本デジタルデトックス協会理事/講談社「クーリエ・ジャポン」編集者/Voicyパーソナリティ
1992年、岐阜県養老町生まれ。中京大学国際英語学科を卒業。在学中にアメリカの大学に1年間留学し、マーケティングと心理学を専攻。2019年にライティング・エージェント「ANCHOR」を立ち上げ、記事制作業を本格化。
----------
(一般社団法人日本デジタルデトックス協会理事/講談社「クーリエ・ジャポン」編集者/Voicyパーソナリティ 森下 彰大)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
