※本稿は、平野 敦士カール監修『すぐに使えるビジネス教養 マーケティング』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。
■Netflixの絶妙なサブスクプラン
Netflixは、ただの定額動画サービスにとどまらず、「選ばせ方」と「続けさせ方」を徹底的に設計したサブスクリプション戦略の教科書的存在です。その仕組みには、あらゆる業種に応用可能なヒントが詰まっています。
KEYWORD→サブスクリプション
段階的なプラン設計と価格の絶妙なバランス
VOD(Video On Demand)の覇者、Netflixのサブスクリプションは、広告付きスタンダード・スタンダード・プレミアムという三段階の価格帯に分かれています。
一見シンプルなこの設計は、実は利用者の選択行動を巧みに誘導する「アンカリング効果」や「ゴルディロックス効果(ちょうどよい中間プランが最も選ばれる傾向)」を活用した緻密な価格戦略です。
例えば広告付きの低価格プランを導入することで、従来のスタンダードプランに対する価値観を相対的に高め、さらに、視聴可能画質や同時再生可能台数といった明確な差異を設け、単なる金額の違いではなく「使い方に応じた最適プランの選択」という建前を成立させているのです。これにより、加入者は価格ではなく価値に基づいて選択していると感じやすくなります。
■心理的ハードルを下げる柔軟な設計思想
Netflixは、加入・解約の手続きを極めて簡単にすることで、ユーザーの「心理的障壁」を劇的に下げることに成功しました。従来型の定期契約サービスにありがちな縛りや違約金を一切設けず、気軽に試せる設計を徹底しています。
これは「損をしたくない」という人間の心理に対し、「すぐにやめられる」という安心感を与える逆転のアプローチです。加えて、契約前に機能・料金をすべて明示する透明性が信頼感を生み、結果として高い継続率へとつながっています。また、視聴履歴からパーソナライズやレコメンド機能も、解約防止の大きな役割を果たしています。
顧客は自分の嗜好に合った作品に出会えることで「やめる理由がない」と感じ、長期利用につながるのです。このように、離脱への不安を先回りして取り除く設計が、収益の安定化に貢献しています。
応用可能な「選ばせ方」と「続けさせ方」の本質
Netflixのサブスクリプション設計は、単なる価格の工夫ではなく、「顧客行動をどう設計するか」という行動経済学的視点の応用です。
例えば、複数プランのうち中間を選ばせる構造は、保険や通信プラン、サブスク型の飲食店やコワーキングスペースでも有効です。また、契約を「続けたくなる設計」は、ジムや英会話など継続率が鍵となる業種でも応用できるでしょう。
解約のしやすさを前提にした構造でありながら、サービスの中身が「やめにくい魅力」を持つことで、結果として高いLTV(顧客生涯価値)を実現しているのです。重要なのは、サービスを提供する側が「選ばせ方」と「続けさせ方」の両輪を意図的に設計している点です。
これは中小企業や個人事業でも十分に活用できる普遍的な発想であり、自社の強みと組み合わせることで、安定収益の新たな道筋となり得ます。
■Spotify~無料トライアル→自動で有料プラン
Spotifyは、無料から始まり、自然と有料プランへと移行していく設計で成長してきた音楽配信サービスです。その根幹にあるのが「フリーミアム戦略」です。ここではその仕組みと収益構造などを学んでいきましょう。
KEYWORD→フリーミアム
■フリーミアム:無料の先に利益見据えるモデル
フリーミアムとは、「Free(無料)」と「Premium(有料)」を組み合わせた造語で、基本サービスを無料で提供し、一部のユーザーから有料で収益を得るビジネスモデルを指します。
スウェーデン発の音楽配信サービス、Spotifyはこのモデルの代表例で、無料ユーザーの行動データと広告表示によって収益を生み出しつつ、有料への自然な移行を促しています。
無料プランでは広告付きで音楽が聴き放題という設計になっており、これにより利用のハードルが極めて低く抑えられています。この構造によってSpotifyは5億人超のアクティブユーザー(※)を獲得し、実は、その多くが無料プランを利用中です。
※註:2025年5月時点で6億7800万人(プレスリリースより)
2017年には広告収入が541億円を突破、課金以上の伸びを記録しました。広告原価が小さいため、無料層でも高い利益率が確保され、「無料でも儲かる」体制が整えられているのです。
解約されても、また戻ってくるという設計の妙
Spotifyのサブスクには一定の解約率が存在するものの、それを前提にした再獲得戦略が巧妙です。月間解約率は約5.1%とされますが、解約者の約40%が3カ月以内に再加入し、1年以内には50%が戻ってくるというデータもあります。
これはSpotifyの音楽体験が日常化している証であり、単なるサービス以上の存在感を持っていることを示しています。加えて、解約理由の3割は支払い失敗などによる「意図しない離脱」で、サービスに対する不満とは限らないようです。
Spotifyは、アカウント情報やプレイリストを保持し、再ログインすれば即座に元の環境が復元される設計を採用。これにより、復帰をためらわせない導線が確保されています。「戻ってきてもらう前提」の構造が、収益の安定を支える重要な柱となっているのです。
■無料でも「戦力化」できるユーザーという資産
Spotifyは、無料ユーザーをコストではなく「収益を生む存在」として捉えています。広告付きの無料プランでは、ユーザーが音楽を聴くたびに音声広告やディスプレイ広告が配信され、広告主からの収益が発生します。
広告原価が抑えられているため、無料ユーザーが長時間利用しても採算性が損なわれません。この構造によって、Spotifyは膨大な無料ユーザーベース全体を利益資源として活用できるのです。
Apple MusicやAmazon Musicと異なり、無料提供に積極的な姿勢もその象徴です。また、長く無料で使ってもらうことで有料移行の機会を増やすという設計も機能しています。無料でも収益化でき、将来的な課金ユーザー候補にもなり得る――。
この多層的な価値構造が、Spotifyを業界内で際立たせているのです。
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平野 敦士カール(ひらの・あつし・かーる)
経営コンサルタント
カール経営塾塾長、ネットストラテジー代表取締役社長。米国イリノイ州生まれ。麻布中学・高校卒業、東京大学経済学部卒業。日本興業銀行、NTTドコモを経て現職。
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(経営コンサルタント 平野 敦士カール)

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