夜中にふと目が覚めてしまった――そんなときはどうすればいいか。睡眠専門医の渥美正彦氏は「15?20分たっても眠れないなら、いったん布団から出たほうがい。
そのままゴロゴロしていると、脳が『ここは眠る場所ではない』と覚えてしまう」という――。
※本稿は、渥美正彦『ぐっすり! 1万人を治療した専門医が教える最強の睡眠メソッド』(徳間書店)の一部を再編集したものです。
■「夜中に目覚めて布団でゴロゴロ」はNG
夜中に目が覚めて眠れなくなることを「中途覚醒」と言います。
もっと寝なきゃ、と焦る気持ちを抱く人も多いと思いますが、「中途覚醒」したときにもっとも大事なのは、眠れないままベッドや布団にとどまらないことです。
しばらく眠れそうにないと感じたら、思い切っていったん寝床を出てください。
目が覚めて15~20分たっても次の眠りがやってこないときは、それ以上粘らないことが大切です。
布団から出たら、照明を落とした静かな部屋で、自分が落ち着けることをして過ごしましょう。
たとえば、心が安らぐ音楽を聴く、呼吸法やマインドフルネス瞑想を行う、短時間だけ本を読む、あるいは目を閉じて静かに座るなどがいいと思います。
眠気が戻ってきたら、再び寝床に入りましょう。
中途覚醒して眠れないとき、布団の中でゴロゴロしながらスマホを手に取ったり、読書や考え事をしたりする人もいますが、これはますます眠れなくなる原因になります。
寝床の中で起きているときの行動を繰り返すと、脳が「ここは眠る場所ではなく、覚醒する場所だ」と覚えてしまうからです。
ベッドや布団は「眠るための場所」として脳に学習させることが大切です。

■悪循環を断ち切る認知行動療法
このように「中途覚醒→寝床でゴロゴロ→スマホや考え事→ますます眠れない」という悪循環を断ち切る方法を「刺激制御法」と呼びます。
これは不眠治療に効果的とされる「認知行動療法」の一部であり、睡眠学会などのガイドラインでも強く推奨されている方法です。
さらに大事なことは、眠気が出てから寝床に入るという習慣です。
「就寝時間になったから」と義務的に寝床に入るのではなく、自然な眠気が訪れたときに入るようにしましょう。
■光のコントロールが睡眠の質に直結する
夜中に目が覚めてしまったとき気をつけたいのは、光の刺激です。
私たちの体は、光の強さや色で、昼か夜かを判断しています。
脳の視交叉上核(SCN)にある体内時計が光の情報を受け取って、起床時間や就寝時間を調整しているのです。
万が一、夜中に目が覚めて強い光を浴びてしまうと、体内時計は朝と勘違いするので、メラトニンが抑制され目が冴えて再入眠しにくくなります。
特に、スマートフォンやパソコン、LEDライト、蛍光灯などの青白い光は、体内時計を強力に朝にリセットしてしまうので要注意です。
眠れないからといって、スマホやタブレットを見るのは覚醒を促すことにつながるので絶対にやめましょう。
光の刺激を最低限に抑えることで、脳は「まだ夜だ」と認識して眠気が高まり、眠りやすくなります。
私たちの体が光によって時間を把握するメカニズムは、2000年前後のいくつかの研究によってようやく解明されました。

それまでは、光を感じるのは目の網膜にある視細胞(桿体・錐体)だけと考えられていましたが、アメリカの研究グループによって、網膜の一部に「自分自身で光を感じることができる特殊な細胞」が存在することが発見されたのです。
この細胞は、メラノプシンという光を受容するタンパク質を持ち、ipRGC(内因性光感受性網膜神経節細胞)と呼ばれています。
ipRGCは特に青白い色の光(波長460~480nm付近)に敏感で、網膜から脳の視交叉上核に直接信号を送り、体内時計に「今は昼か夜か」を知らせます。
この発見によって、夜に青白い光を浴びるとメラトニンの分泌が抑えられ、脳が「朝だ」と勘違いして目が冴えてしまう理由が明確になりました。
つまり、夜間の光のコントロールは、体内時計と睡眠のリズムを守るためにとても大切なのです。
光とうまく付き合うことで、体内時計が整い、中途覚醒を起こさない眠りを手に入れることができるのです。
■ジュネーブ大学が立証した「夢のイメトレ」効果
悪夢を見て、目が覚めて眠れなくなってしまう。
そんな人は意外と多いものです。
時々、悪夢を見て眠れなくなるようなら、悪夢を楽しい夢、ポジティブな夢に書き換えるイメージトレーニングが効果的です。
悪夢を自分が安心できる内容に書き換えると、悪夢を見たときの恐怖感や中途覚醒が軽減され、睡眠の質を高めてくれます。
2022年、スイス・ジュネーブ大学の研究者たちが、悪夢障害の患者を対象に「イメージリハーサル療法」と「ターゲット記憶再活性化」を組み合わせた画期的な治療を試みて、その効果を実証しました。
「イメージリハーサル療法」とは、悪夢の内容をポジティブな内容に書き換え、それを日常的にイメージして、悪夢の頻度や中途覚醒を減らす療法のことです。

「ターゲット記憶再活性化」とは、眠っている間に特定の記憶を思い出させることで、治療効果を高める方法です。
■起きているときに夢の記憶を書き換える
ジュネーブ大学の研究では、
(1)怖い夢を楽しい夢に書き換えながら、ピアノの音楽を聴く

(2)睡眠中に同じピアノの音楽を流す

(3)脳が楽しい夢を思い出しやすくなり、悪夢が減った
という結果が出たそうです。
夢の「イメージリハーサル療法」だけでも、悪夢には効果があります。
悪夢を楽しい夢に書き換えるなんて、とても楽しい作業ですね。
書き換えは、次のようにやります。
たとえば、怖い人に追いかけられる夢なら、追いかけてくる人が大好きな友人になり楽しく遊ぶ夢に書き換えます。
また、崖から落ちる夢なら、落ちる瞬間にふんわり浮かび上がり、雲の上で休んでいたら、可愛いトイプードルがなついてきた夢に書き換えます。
夢の書き換えは、楽しくわがまま、自己中で構いません。バカバカしくて、クスッと笑えるような内容だったら、最高です。
書き換えた楽しい内容を、日中時々思い出すのも効果的です。
その際、できるだけ楽しい気持ちに浸ってください。
それができれば、睡眠の質も上がり、一日を気分よく過ごせるでしょう。

■中途覚醒の裏に隠れた病気の可能性
夜中に何度も目が覚めてしまう「中途覚醒」。
これは睡眠の質を大きく下げるだけでなく、日中の強い眠気や集中力の低下にもつながります。
いびきが大きく、一晩に何度も目が覚めるようなら、「睡眠時無呼吸症候群」を疑ってよいかもしれません。
「睡眠時無呼吸症候群」とは、眠っている間に呼吸が何度も止まったり、浅くなったりする病気です。
医学的には、10秒以上呼吸が止まる「無呼吸」、あるいは呼吸が止まりかけて体内の酸素が減ったり睡眠が浅くなる「低呼吸」が1時間あたり5回以上あれば、「睡眠時無呼吸症候群」と診断されます。
この病気の主な原因は、気道がふさがってしまうこと。
特に仰向けで寝ていると、舌のつけ根が喉の奥に落ち込み、気道が狭くなります。その結果、大きないびきをかき、息が止まり、苦しくなって目が覚める……ということが起こるのです。
■閉経後や妊娠中の女性も注意が必要
代表的なサインは、
(1)大きないびき

(2)夜中に何度も目が覚める中途覚醒

(3)日中の強い眠気や集中力の低下

(4)強い倦怠感

(5)朝の頭痛
これらに加えて、夜間の頻尿や寝汗、むせるような息苦しさが出ることもあります。心当たりがある人は、早めに睡眠専門医を受診することをおすすめします。
なぜなら、この病気を放置すると、高血圧、糖尿病、心筋梗塞、脳卒中など命に関わる病気のリスクが高まるからです。
日本人の潜在患者数は数900万~1000万人と推定され、その多くは診断も治療も受けていません。

特に女性の睡眠時無呼吸症候群は見逃されやすく、妊娠中や閉経後に増える傾向があります。「ただのいびき」「年齢のせい」と思って放置してしまうケースも少なくありません。
治療法には、CPAP(シーパップ)と呼ばれる鼻マスクによる陽圧呼吸療法、マウスピース、体重管理や禁煙・禁酒などの生活習慣改善などがあり、適切に行えば日中の眠気や生活の質が劇的に改善します。
いびきや中途覚醒に悩んでいる人は、早めに専門医の診断を受け、眠りの質を整えて健康な毎日を取り戻しましょう。

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渥美 正彦(あつみ・まさひこ)

睡眠専門医/精神科専門医

1997年大阪市立大学医学部卒業。上島医院院長。2017年よりYouTubeチャンネル「睡眠専門医渥美正彦」を開設。睡眠障害、不眠症、うつ病、双極性障害(双極症・躁うつ病)などの情報を発信する。登録者数16.7万人(2025年12月現在)。著書に、『睡眠専門医が教える!子供が朝起きなくなったときに、親子で読む本』(セルバ出版)、『子どもの発達障害がよくなる睡眠の教科書』(マキノ出版)がある。

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(睡眠専門医/精神科専門医 渥美 正彦)
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