リクルートが2025年11月17日、運営する婚活サービス「ゼクシィ縁結び」と「ゼクシィ縁結びエージェント」のサービス終了を発表しました。オンラインマッチングの「ゼクシィ縁結び」は2026年3月末頃、結婚相談所の「ゼクシィ縁結びエージェント」は2026年6月末頃に提供終了を予定しています。
結婚情報誌「ゼクシィ」を擁するリクルートが、なぜ婚活事業から撤退するのか。エージェントビジネスに詳しいAnother works 執行役員の近岡一磨さんは、今回の決断をこう読み解きます。
「リクルートは、以前からさまざまな新規事業を試し、検証したのちに、グループ全体で将来の成長ドライバーにならないと判断した事業から戦略的に撤退する『見切り千両』の判断に長けています。常に“情報”と“テクノロジー”を武器に、非効率な産業を効率化し、マスでスケールさせることで会社をあの規模まで成長させてきました。ですから、人的介在コストが高く、成長曲線が緩やかな事業は、収益性の観点から『本丸』にはなり得ないと判断したのでしょう」
■転職と違って一度成功したら顧客が戻ってこない
近岡さんは、リクルートが手掛ける転職事業と比較して、婚活事業の「弱み」を指摘します。
「転職市場と異なり、婚活市場は『一度成功したら離脱する』構造でリピート性が低い。少子化という構造的逆風もある。エージェント型は属人性が高くスケールに限界があり、アプリ型は差別化が難しく価格競争に陥る。どちらも、リクルートの強みである『仕組み化による圧倒的なスケール』が効きにくいのです。
リクルートが今後注力したいのは、テクノロジーでスケールし継続的な収益を生む事業だと読み取ることもできると考えます。エージェント型の相談所だけでなく、マッチングアプリも同時にクローズさせるのは、婚活市場そのものが、今後の成長戦略において、リクルートの求める成長曲線を描けず、将来の主力事業になり得ないという判断に至ったのだと思われます」
■デザインも機能も保守的で、ユーザー数が伸びなかった
「Pairs」「Omiai」「タップル」「with」といった主要プレイヤーをはじめ、現在マッチングアプリの数は100を超えると言われています。それらの中で、リクルートは比較的「後発組」でした。
マッチングアプリのプロフィール添削などを行う婚活アドバイザーのおとうふさんは、この要因を「出会いの二極化」だと分析します。
「Pairs、Omiai、タップル、withの大手4社は圧倒的なユーザー数を背景に、心理テストやすぐ会える機能など多彩な機能を提供し、楽しみながら気軽に出会える設計になっています。一方、ゼクシィ縁結びは信頼性とユーザーの真剣度を売りにしていましたが、デザインや機能は保守的で、ユーザー数も大手に遠く及びませんでした」
近年、マッチングアプリに関係する詐欺やトラブルのニュースは増えています。それでもユーザーは信頼や安全面より、機能の充実度や出会いやすさを優先するのでしょうか。
おとうふさんは、「そうではない」と指摘します。
「ユーザーは安全性を無視しているわけではありません。しかし『有名であれば安全』という認識が強いので、そういった点でゼクシィ縁結びは大手4社ほど認知度が高くありませんでした」
■女性無料の世界で「有料ならではの出会い」を提供できなかった
また、おとうふさんはゼクシィ縁結びが女性も有料(男女同額)だった点も不利に働いたと指摘します。
「マッチングアプリは口コミの影響が極めて大きい市場です。多くのアプリが女性無料の中、ゼクシィ縁結びにわざわざ有料で登録したのに期待以上の出会いが得られなかった――そうした不満がSNSで拡散されました。
機能も充実していない、UIも使いにくい、ユーザーの質も期待に届かない。『それなら無料アプリでいい』と女性ユーザーが離れれば、男性も集まらなくなります。婚活パーティーでも同様の現象が起きていますが、女性が集まらない場は持続できません」
■リクルートがハマった「中途半端」な立ち位置
特に、女性の課金意欲の低さがゼクシィ縁結びには不利に働いたとおとうふさんは指摘します。
「男女平等が叫ばれる時代ですが、特にライトな出会いを求める層においては、女性が出会いにお金をかける文化はまだ根付いていません。これが有料モデルのゼクシィ縁結びには不利に働きました」
一方で、本気の婚活層はどうか。おとうふさんは続けます。
「本気で結婚したい若年層は、YouTubeやSNSで情報収集し、コストパフォーマンスやタイムパフォーマンスを重視して、アプリを経由せずいきなり結婚相談所に行くケースが増えています。つまり、ライトに出会いを楽しみたい層は無料の大手アプリへ、本気で結婚したい層は結婚相談所へ――市場が両極に分かれた。ゼクシィ縁結びは、この中間に位置していたがゆえに、どちらの層も十分に取り込めなかったのではないでしょうか」
結婚式情報では盤石な地位を築いてきたリクルートですが、その川上にあたる「出会い」という領域では、信頼やブランド力だけでは戦えませんでした。
マッチングアプリ市場は、ユーザーのニーズが刻々と変化する世界です。機能のアップデート、UIの改善、口コミへの迅速な対応――これらに継続的に投資し、適応し続けなければ、たちまち競合に追い抜かれる。
■婚活は「デジタル」との親和性が低かった
リクルートが撤退する事業には、ある共通点があります。
リクルートは2025年8月、新卒向けのエージェントサービス「リクナビ就職エージェント」のサービス終了を発表しています。「ゼクシィ縁結びエージェント」も同様に、人が介在するサービスです。
この2つの撤退は、果たして偶然でしょうか。
リクルートが得意としてきたのは、「情報」を軸にしたマッチングビジネスです。求人情報、美容情報、飲食店情報――膨大な情報を集約し、ユーザーの意思決定を支援する。このモデルは、デジタル化との親和性が高く、スケーラビリティに優れています。
一方、エージェント型のサービスは労働集約的で、一人ひとりに寄り添う人的リソースが必要となります。成長のスピードには限界があり、収益性の観点からも課題を抱えやすい。
さらに、婚活エージェントの場合、成婚までの期間が長期化すれば、その分サポートコストも増大することになります。マッチングアプリと異なり、月額課金だけでは事業性を担保しにくい構造なのです。
■婚活からの撤退で問われる「仲介業の存在価値」
前出の近岡一磨さんは、エージェント事業についてこう指摘します。
「今、仲介業全般の存在価値が問われています。転職、結婚相談所、M&A、不動産――あらゆる仲介ビジネスが、デジタル化の波に晒されています。退職代行サービスの普及が象徴するように、現代の消費者は『人間関係が伴わないほうがストレスが少ない』という価値観を持ち始めています。
しかし、すべてがデジタルに代替されるわけではありません。人生の重要な意思決定において、デジタル情報だけでは納得できない領域は確実に存在します。最適化だけで人生を決めたいとは思わない人々、『答えのない問い』に向き合いたい人々──AIには代替できない感情的判断のサポート需要は今後も残るはずです。
仲介ビジネスは、対象産業の成長性に完全に依存しています。介護事業者向けのエージェントが伸びているのは、介護産業そのものが拡大しているからです。
また今後、エージェントビジネスは特定顧客に深く寄り添う高付加価値サービスであり、マニアックな市場として再定義されると考えています。機械的最適化はデジタルに任せ、人生の伴走者として『人生全体最適』を提案できるエージェントが生き残っていくのではないでしょうか」
■リクルートは業界の「HAT」を壊した
リクルートは確かに業界から一部撤退という判断を下しました。ただし、今回の決定を単なる事業の失敗と見るべきではありません。
結婚相談所業界には長らく「HAT」という言葉がありました。「恥ずかしい」「怪しい」「高い」――これらの頭文字です。閉鎖的で不透明、そして高額。消費者にとって心理的ハードルの高い業界でした。
この構図を変えようと業界各社はさまざまな努力を重ねていたなか、「ゼクシィ」の参入はひとつの大きな契機となりました。結婚情報誌で絶対的な信頼を築いていた同ブランドが結婚相談所に参入したことで、消費者が抱いていたネガティブなイメージは薄れていきました。「リクルートが運営しているなら安心」――そう考えて初めて結婚相談所を利用した人も少なくありません。実際、ゼクシィ縁結びエージェントの展開後、安価なサービスは増えてきました。
リクルートの基本理念は「新しい価値の創造を通じ、社会からの期待に応え、一人ひとりが輝く豊かな世界の実現を目指す」というものです。婚活市場の透明性を高め、より多くの人が結婚という人生の重要な局面で前向きな一歩を踏み出せる環境を整えた――その意味で、「ゼクシィ縁結び」も「ゼクシィ縁結びエージェント」も、理念を体現したサービスだったと言えるでしょう。
事業としては終了しますが、その社会的意義は残ります。
■「社会的価値」と「収益性」のバランスが問われる
リクルートの撤退は、婚活市場にどのような影響を与えるのでしょうか。
まず、「大手でも撤退せざるを得ない厳しい市場」という印象が広がれば、新規参入のハードルは上がります。マッチングアプリ・結婚相談所事業への参入障壁は、さらに高まるでしょう。
今回の撤退が浮き彫りにしたのは、社会的価値のある事業をどこまで継続すべきかという企業経営の普遍的な課題です。人の人生に深く関わる事業は、単なる収益性だけでは測れない価値と責任を持っています。しかし同時に、どんな企業も収益性を無視して続けることはできません。社会的価値と収益性のバランスをどう取るか――この命題に、簡単な答えはないのです。
リクルートの決断が正しかったかどうかは、数年後にしかわかりません。ただ確実なのは、この撤退が投げかけた問いに、業界全体が向き合わなければならないということです。
リクルート撤退で生まれる空白を、単なる顧客の奪い合いで埋めるのではなく、業界全体のサービス品質向上につなげられるか。婚活市場の成熟度が問われています。
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平田 恵(ひらた・めぐみ)
タメニー 広報
立命館大学卒業。新卒で人材派遣会社に入社し、入社後わずか7カ月で課長に昇進。その後約5年間、高校野球のリポーターなどフリーランスとしてさまざまなメディアの現場を経験。再び人材業界の勤務を経て、2016年9月にタメニー(旧パートナーエージェント)に未経験広報として入社。2019年8月に人事部マネジャーへ異動(広報も兼任)、2020年10月からグループ広報の立ち上げをひとりで行う。2023年第1子を出産し、産後8週で仕事へ復帰。結婚式や婚活のプロとして数多くのメディアへ出演中。
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(タメニー 広報 平田 恵)

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