就活や転職の面接で落とされてしまう人には、どんな特徴があるか。アナウンススクール代表の松下公子さんは「最近の若い世代の就活生は、妙に仰々しい言葉づかいをする傾向にある。
就活生に聞いてみると、書類の作成から面接練習まで生成AIに相談している人が増えている。面接では出来るかぎり自分の言葉を使うべきだ」という――。
■「仰々しい言葉」を連発する若者
「なぜこんなに仰々しい言い回しを使うのか――」
今、若い世代の就活生や転職希望者の面接練習で、そう感じる場面が増えてきています。
私が代表を務めるSTORYアナウンススクールの講師からも、こんな報告が届きました。ある日の模擬面接練習で、社会人1年目の転職志望者が自信を持ってこう話したそうです。
「地域の魅力を立体的に捉えて、多角的に発信していきます」
一見すると、とても意識が高く、優秀な話し方に感じます。
ですが実際には、「立体的に捉えて」「多角的に発信」と普段の会話では使わないような難しい表現が続いています。
そこで講師が質問しました。
「立体的に捉えて、多角的に発信って、具体的にどういうことですか?」

「あ、はい……いろんな方向で……」
言葉を探しながらタジタジしてしまい、曖昧な答えしか返ってこなかったそうです。
立派な表現を使っているけれど、質問ひとつで崩れてしまう――。これが今、若い世代の面接現場で増えている話し方の課題なのです。
■就活面接の相談相手は生成AI
おそらくこの違和感の背景には、面接対策の相談相手として生成AIが使われる機会が増えてきたことと関係があります。

以前は、OB・OG、キャリアセンター、先輩など「人」に相談するのが普通でした。しかし、就活生たちに聞いてみると、今は、ES作成から自己PR、志望動機、さらには模擬面接の回答まで、まず生成AIに相談する若者が増えているのです。
例えば、彼らが好んで使う言葉は次のようなものです。
・立体的に捉えて

・多角的に発信して

・課題を抽出して

・価値提供につなげて

・~を軸に再構築して

・本質的にアプローチして
たしかに、どの言葉も立派で、「できる人」のように聞こえます。ただ、面接でこうしたワードを連発されると、綺麗に整えた文章を読んでいるだけという印象で、自分らしさが感じられません。
まるで「整った文章を読むロボット」のように見えてしまいます。実際に企業の採用担当者からは、こんな声が上がっています。
「言葉は立派だけど、中身が見えてこない」

「みんな同じような表現で話すので区別がつかない」

「質問すると固まってしまう子が多い」
優等生の言葉ほど、内定に結びつかないという矛盾が起きているのです。
■言葉は綺麗でも、面接官には響かない
面接官が本当に知りたいのは、難しい言葉を操る能力ではありません。
その人がどんな経験をし、何を考え、どんな感情で行動してきたのかという「人となり」です。しかし、AIで作成した表現はきれいな言葉だけを積み重ねた、それっぽい話になりやすく、「人となり」が伝わりづらいものなのです。
例えば、最近も模擬面接でこんな自己PRをした方がいました。

「プロジェクトの未来が揺れ動く瞬間に向き合い、尽力してきました」
文章としては立派で、どこかドラマのナレーションのようです。でも私はこう伝えました。
「未来が揺れ動く瞬間……かっこいいけれど、それ、普通の会話では使わないでしょう?」
この一言に、本人はハッとしていました。
多くの人が、面接を自分の実績を立派に語る場だと思いがちです。実はそれは違います。面接はコミュニケーション、いわゆる会話をする場なのです。面接官の表情や頷きを感じ取りながら、自分がどんな体験をし、何を大切にしてきたのかを、そのときの気持ちも合わせて伝えていく場なのです。
ところが、AIが整えた文章をそのまま口にしてしまうと、まるで台本(セリフ)を話しているように聞こえてしまいます。どれほど難しい言葉を並べても、「この人はどんな人なのか」という自分らしさが伝わってきません。
■「経験と感情」が乗った言葉が力を持つ
面接官は、難しい言葉そのものを評価しているわけではありません。
「この人はどんなときに心が動くのか」

「何に困り、どう工夫してきたのか」

「一緒に働くとどんな空気感の人なのか」
そういった「人となり」を知りたいのです。逆に、少しぎこちなくても、こんな話には力があります。

「担当していた地域イベントの集客に苦戦し、何かできることはないかと思い、Instagramを始めました。最初は反応がなく落ち込みました。ですが、写真の撮り方や紹介文を工夫しながら投稿を続けました。その後、お店の方から『来店が増えました、ありがとうございます』とDMをいただくことができました。本当に嬉しかったです。」
ここには、
・行動

・失敗

・工夫

・成果

・感情
という流れがあるため、面接官の頭にも残りやすいのです。綺麗な言葉で飾るほど、人は遠ざかっていきます。これは面接に限った話ではありませんが、自身の経験と感情がある言葉のほうが、圧倒的に強く、印象に残ります。
■自己アピールは盛るほど印象が悪くなる
面接の現場では、生成AI的な文章を参考にした結果、必要以上に“盛った”自己PRになってしまうケースが後を絶ちません。
「リーダーシップを発揮し、チームを牽引しました」「プロジェクトの成果を最大化しました」
このような表現は、一見すると優秀さを感じさせます。しかし、面接官の表情はむしろ曇ることが多いのです。というのも、完璧すぎる話には、人が本能的に不信感を抱きやすいという結果が出ているからです。
心理学には、スタンフォード大学の社会心理学者アロンソンが提唱した「プラットフォール効果」があります。

これは、「人は完璧な人よりも、少し不完全な人のほうに好感と信頼を抱きやすい」という現象です。わずかな失敗や弱さが、その人の人間らしさを感じさせ、距離を縮めてくれるのです。
面接で誇張した自己PRが嫌われるのは、この心理がそのまま作用しているからです。例えば実際には、
・議事録をまとめただけ

・日程調整をしただけ

・ポスターを作成しただけ
なのに、AIが生成した文章に引っ張られてチームの成果を大きく押し上げた存在のように話してしまう――。
しかし面接官は日々何百人という応募者を見ています。過剰なアピールは、すぐに見抜かれてしまいます。そして一度「盛っているな」と感じさせてしまうと、面接官の評価は一気に下がります。
■上手く話す必要はまったくない
AIが文章を整えてくれる時代だからこそ、面接での違和感はより目立つようになりました。
どれだけ言葉が綺麗に並んでいても、そこに人となり、その人らしさがなければ、選ばれにくいのです。採用面接官が知りたいのは「どれだけ上手く話せるか」ではなく、「どんな経験をして、どう考え、どう成長してきた人なのか」というその人の歩みなのです。
では、AI時代の面接で本当に評価されるのは、どんな話し方なのでしょうか?
ポイントは、驚くほどシンプルです。
① 抽象語を封印して、行動レベルで語る
まずは「価値提供」「多角的」「本質的」などの概念語を使わないことです。

これらは便利ですが、具体的に何をした人なのかが伝わらなくなるという欠点があります。
代わりに、実際の行動に置き換えることです。たとえばSNSの運用業務をしていた人であれば、
「多角的に発信した」

 → 「InstagramとYouTubeに週3本投稿した」

「価値向上に寄与した」

 → 「フォロワーからお礼のDMが10件届いた」
のように抽象的な表現を使わなくても、行動を言えば伝わります。なにを努力し、どんな人なのかを伝えようとするなら、具体的な行動は絶対に盛り込んでください。
■「自分しか言えない言葉」を探すべき
② 感情を一つだけ必ず入れる
AI文章に決定的に欠けているもの──それが感情です。
人は行動の理由より、そこに乗った感情に心を動かされます。
・「嬉しかった」

・「悔しかった」

・「怖かった」
こうした短い一言があるだけで、一気に自分らしさが伝わる話になります。
感情を盛る必要はありません。たった一つの感情が、面接官との距離を一気に縮めます。
③ 過去→現在→未来の順で語る
これは私が提唱している共感ストーリー(自分の経験と熱い思いを語ることで選ばれるというプレゼン手法)の基本構成でもあります。
・なぜその取り組みを始めたのか(過去)

・どう工夫し、何を学んだのか(現在)

・この会社でどう活かすのか(未来)
この流れさえ押さえれば、難しい言葉は一切必要ありません。むしろ、難しい言葉は邪魔になります。

面接官が知りたいのは、完璧に整った文章ではなく、自分の言葉で話そうとしている「その人自身のこと」です。たった一つの体験から出てきた素直なひと言は、どれだけ立派な表現を並べるより、ずっと心に届きます。
AIが活躍する今の時代だからこそ、最後に評価されるのは、「その人にしか言えない言葉」を持っている人なのです。

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松下 公子(まつした・きみこ)

元アナウンサー、アナウンススクール代表

STORYアナウンススクール代表/STORY代表。1973年茨城県鹿嶋市生まれ。25歳フリーターでアナウンサーに内定。テレビラジオ4局のステップアップを果たす。その後、共感で選ばれるプレゼン手法「共感ストーリー」としてメソッド化。STORYアナウンススクールでは、志望動機、自己PRの作成を指導。面接における伝え方の指導も行い、NHKキャスターや地方民放局アナウンサーの内定に導いている。現在は、一般企業の転職など、選ばれる人になるサポートや講演活動を行っている。著書に『「たった1人」に選ばれる話し方』、『転職は話し方が9割』(ともにstandards)、『逆転転職 未経験・異業種からでも選ばれる! 共感ストーリー戦略』(WAVE出版)などがある。

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(元アナウンサー、アナウンススクール代表 松下 公子)
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