※本稿は、是川夕『ニッポンの移民――増え続ける外国人とどう向き合うか』(筑摩書房)の一部を再編集したものです。
■途上国から先進国への移住は今後も増える
国際移住の今後の動向について、最も包括的な推計は国際通貨基金(IMF)によるものである。2020年春に刊行された報告書では、2050年までの国際移住の動向について推計を行っている。
その結果、途上国、新興国と先進国の経済格差が、今後より一層縮小すると見込まれると仮定したとしても、途上国、新興国から先進国への国際移住は今後もほぼ一直線に増加し続けると結論づけている。
しかし、IMFは日本に関する個別の分析及び推計は行っていないため、この結果は日本の将来の見通しを与えるものではない。そういった問題意識に基づいて行われたのが、国際協力機構(JICA)緒方貞子平和開発研究所による「2030/40年の外国人との共生社会の実現に向けた取り組み調査・研究」(国際協力機構2022、24、以下「JICA推計」)である。同推計の実施にあたっては筆者も有識者として参加し、具体的な推計方法について助言した。
■2040年、移民の約9割はベトナムから
JICA推計では、今後、来日する外国人労働者数について日本側の地域、産業別労働力需要、及び送り出し国側の送り出し圧力の双方から分析を行い、2040年までの日本における外国人労働者数の推計を行っている。
外国人に限らない一般的な労働力需給推計としては、厚生労働省所管の独立行政法人日本労働政策研究・研修機構(JILPT)が実施する「労働力需給推計」を始め、大学や民間シンクタンクが実施するものなど様々なものがあるが、外国人に関して詳細な推計を行ったものはこれが初めてである。
JICA推計では日本に労働者を送り出しているアジア諸国について、それぞれの人口構造や今後の経済成長を見込んだうえで、日本に対してどの程度の労働者を送り出すかを推計した。
まず、「出移民率」の将来推計結果を見ると、アジア全体を対象としたモデルによる推計では、1人当たりGDP3500ドルまでは、経済水準の上昇とともに出移民率(送り出し圧力)が上昇、それを超えると出移民率が低下するとの結果が得られた。
次にJICA推計では、移民送り出し圧力全般に加え、その内、日本への移住を選択する割合についても推計を行っている。この「日本向けの割合」の分析結果を見ると、1人当たりGDP7000ドルまでは、経済水準の上昇とともに日本向けの割合が上昇し、それを超えると日本向けの割合が低下する。
なお、ベトナムの「日本向けの割合」は、近年国策として送り出しを強化していることを背景に大きく上昇しており、本推計では2040年に日本向けの移民が同国からの出移民に占めるシェアは90%近くまで上昇すると見込まれる。
■日本への移民はますます増える
こうした結果を踏まえ、来日する外国人労働者数の推計を行ったところ、新型コロナ禍前の2019年に42万人/年であった外国人労働者の年間受け入れ数は、今後、堅調に増加し続け、2040年には93万人/年にまで増加するとの結果が得られた。
また、この値は総受け入れ数であるため、そこから毎年の帰国者を除くと29万人/年の受け入れ数となる。なお、帰国者数は日本での滞在パターン、つまり定住化の傾向によっても変化することから、JICA推計では一人一人の滞在期間が推計時点での実績値よりも長期化した場合についても、別にシナリオを設定して推計したところ、42万人/年との結果であった。
さらにJICA同推計では、年間の流入数の推計をもとに「日本の将来推計人口」(国立社会保障・人口問題研究所2017)に沿った形で、将来の外国人労働者のストック人口の推計を行っている。その結果、2020年時点で205万人であった外国人労働者数は2030年に342万人、2040年に591万人になるとの結果を得た。さらに滞在期間が長期化した場合、2030年には387万人、2040年には748万人に達する。
このようにIMFのモデルを参考にして、アジアから日本への労働移住についてより具体的な分析を行ったJICA推計においても、世界全体に対して分析を行ったIMFと同様の傾向が得られた。つまり、日本がもはや「選ばれない国」であり、今後、外国人労働者が来なくなるといった主張は単なる印象論に過ぎないことを示しているのである。
■経済格差の縮小が与える影響
上記の通り、JICA推計はIMFのモデルを日本と日本に多くの労働者を送り出すアジア諸国を対象に精緻化したものであるが、日本経済の今後については極めてシンプルな仮定しかしていない。
「意欲-潜在能力モデル」においても、送り出し国と目的国の経済格差の縮小は移住圧力の低下に結びつくものではないことを前提とするものの、あくまでも受け入れ国の経済的優位性が保たれることを仮定した結論であった。そのため、これらの推計やモデルが日本に本当に妥当するかを検証するためには、急激な人口減少に見舞われる日本経済がどうなるのかを問う必要がある。
日本と世界経済の将来について見通したのが、日本経済研究センターが2025年3月に公表した「日本経済、及び世界経済に関する長期予測」である。日本経済研究センターは、学界、官界、産業界から幅広く出向者を受け入れ、内外の財政・金融・経済・産業・経営などの諸問題について調査・研究をしている。1970年代以降、数年おきに長期経済予測を実施しており、独自のマクロ計量モデルに基づいて日本と世界の50年後の経済を予測している。
2025年3月公表版では、日本を含む世界83カ国・地域を対象としており、GDPと人口を同時に予測している。とりわけ、この予測では経済に影響を与える要素として、出生率と移民の予測モデルを構築している他、現行技術の延長線上にある生成AIの普及が経済に与える影響も考慮している点が新しい。
■経済規模が凋落しても、移民は増える
移民の動向については、先述したIMFの推計と同様に、国際連合による世界各国の二国間の移住データをもとに、二国間の経済格差、総人口、二国間の距離、国境の隣接の有無、言語の共通性、旧宗主国・植民地関係の有無を説明変数とするモデルを構築している。
その結果、移民の送り出し圧力全般は、一人当たりGDPが約2000米ドルになるまで上昇するものの、その後、低下する。
日本に関する結果を見ると、日本は急激な人口減少を経験するにもかかわらず、AIによる生産性の上昇と移民流入が続き、低水準ながらも経済成長を続けるとの結果を得ている。経済規模では、2000年には米国に次ぐ世界第2位の経済規模であったものの、2024年には米国、中国、ドイツについて4位となり、2050年には米国、中国、インド、ドイツ、英国に次いで第6位、そして2075年にはインドネシア(5位)、メキシコ(7位)、及びブラジル(8位)などにも抜かれ、第11位となると予測されている。一人当たりGDPではさらにその相対的な地位の低下は著しく、2000年に米国に次ぐ世界第2位であった順位が2075年には45位まで低下する。
しかしながら、日本の移民の動向については、これだけの経済的地位の低下とは裏腹に、日本は今後も24万人/年程度、世界で見ると第5位の規模の移民(外国人)の純流入が続くとされる。
■外国人人口が2割弱になる未来も
その結果、在留外国人人口は2050年にはほぼ1000万人に達し、2075年には約1600万人に達する。日本の総人口は2060年代には1億人を割り込むと予測されているため、外国人人口割合で見ると2050年には10%を超え、2075年には約16%程度にまで達すると見込まれているのである。
このように、日本経済の先行きが急激な人口減少によって厳しいものになると予測される一方で、移民の流入はむしろ拡大することが見込まれるというのは非常に興味深い結果である。また、それにより経済成長が下支えされ、日本経済の縮小が避けられる効果もある。この24万人/年という結果は、JICA推計によって示された29万人/年とも極めて近いことも指摘しておきたい。
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是川 夕(これかわ・ゆう)
国立社会保障・人口問題研究所 国際関係部 部長
1978年青森県生まれ。東京大学文学部卒業。カリフォルニア大学アーバイン校修士課程修了。東京大学大学院人文社会系研究科修了。博士(社会学)。内閣府勤務を経て現職。OECD移民政策会合メンバー。OECD移民政策専門家会合(SOPEMI)メンバー。著作に『移民受け入れと社会的統合のリアリティ――現代日本における移民の階層的地位と社会学的課題』( 勁草書房)、『人口問題と移民――日本の人口・階層構造はどう変わるのか』(明石書店、編著)、『国際労働移動ネットワークの中の日本――誰が日本を目指すのか』(日本評論社、編著)、『Recruiting Immigrant Workers: Japan 2024』(OECDとの共著)他多数。
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(国立社会保障・人口問題研究所 国際関係部 部長 是川 夕)

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