※本稿は、牧田善二『すごく使える栄養学テクニック』(日本実業出版)の一部を再編集したものです。
■私たちが食べすぎてしまう科学的な理由
食べても食べてもまた食べたくなる、「過度な食欲」に振り回されることはありますか。
私たちは、空腹と満腹を繰り返し感じながら生きています。じつは、空腹感と満腹感は、心身の健康度合いを把握する重要な指針なのです。
食欲を調整しているのは、脳の視床下部にある摂食中枢と満腹中枢です。ここが正しく働いていれば、食べるべきタイミングで「お腹が減ったな」と感じ、適量を食べれば「お腹がいっぱいだ」と感じ取れます。
しかし、普段からドカ食いがクセになっていれば、そもそも食事摂取量の基準が上がってしまい、適正量では満足感が得られません。
それに加え、一気に食べることで血糖値スパイクを起こします。急激に血糖値が上がり、その反動で急激に低血糖に陥ることで、さらに「糖質がほしい」欲求に駆られます。また、ストレスによって食欲が増すケースも多く見られます。
ストレスがかかると、それと戦うためにコルチゾールというホルモンが分泌されます。
つまり、ストレスがかかると、血糖値を上昇させる「材料」を体が必要とするために、過度な食欲が生じるわけです。
■「いつも満腹」だと長生きできない
そのほかには、睡眠不足も食べすぎにつながることがわかっています。
2004年にアメリカのスタンフォード大学が行なった研究で、5時間しか寝ていない人は、8時間寝ている人と比較して、食欲を増進するホルモンであるグレリンの量が約15%多く、食欲を抑えるホルモンであるレプチンの量は約15%少ないことが突き止められています。
正しい空腹感と満腹感を得たいなら、まずは睡眠時間をキープしましょう。そうしたゆとりがストレスを緩和してくれたら、ドカ食い欲求も遠ざけることができるでしょう。
ちなみに、空腹状態でドカ食いするのは最悪ですが、「いつも満腹」だと長生きできないことが、アカゲザルを観察した研究で明らかになっています。
腹七分目くらいで食事を終えれば、血糖値が上がりすぎることなく安定し、それに伴ってドカ食いしたい欲求も生じにくくなります。これが、理想的な満腹感と空腹感の感じ方なのです。
■数日間にわたるファスティングは危険
近年、「ファスティング(断食)」の用語は一般的に耳にすることも増えてきました。そこでは、半日から数日の一定期間、水以外は口にしない方法を取る人が多いようです。
半日程度のプチ断食は、胃腸が疲れているときには効果的です。
たしかに、水だけで1日過ごせば、翌朝の体重は落ちているかもしれません。しかし、それは一時的なものです。むしろ、その後にリバウンドしやすくなります。というのも、私たちの体がそのようにできているからです。
人間に限らず、あらゆる生命体にとって「生き延びる」ことは最優先課題です。もし、食べ物が入ってこなければ、生き延びるためにできるだけエネルギーを消費しないように「節約モード」に入ります。節約モードに入れば、体に溜め込んだ脂肪はなかなか燃えません。
また、新しく入ってきたエネルギー源も極力、溜めておこうとします。つまり、ファスティング終了後の食事が、脂肪となりやすいのです。
■断食より「糖質断食」を
今、イスラム教の国で糖尿病や肥満が増えています。イスラム教にはラマダンという習慣があります。
この1カ月間は、半日のファスティングを毎日行なっているようなものです。日没後、空きっ腹に食べ物を入れる日々が続き、そのたびに血糖値の急上昇が起きているはずです。
また、ラマダンが明けたとき、人々はイードという祭りを行なって、ご馳走を楽しみます。
基本的にイスラム教徒はお酒を飲まない代わりに、甘いものを好んで食べます。ここでも、血糖値の急上昇が起きていると思われます。
とはいえ、ラマダンは彼らにとって宗教上の大切な決まりであり、私が口を挟む問題ではありません。それに、子どもの頃からの習慣となっていれば、体も慣れているでしょう。
しかし、日本人はそうではありません。デトックスやダイエットを理由に、安易にファスティングに手を出すのは危険です。
あらゆる食べ物を断つファスティングをするよりも、「糖質だけを断食」するのはいかがでしょうか。健康を損ねずにダイエットをする良い方法だと思います。
■夕食での食べすぎは避ける
「腹が減っては戦はできぬ」というように、空腹では力を発揮するのは難しいものです。「力を発揮するために、腹ごしらえをしておきたい」と思う人も多いのではないでしょうか。
「腹が減っては戦はできぬ」は、医者からしても理にかなっている言葉です。なぜなら、1日の食事量は、活動の要となる朝と昼を多めに、夜を少なめにするバランスが理想だからです。
夜勤のある仕事に就いている人などは例外として、私たちの活動量は、朝から夕方にかけて多くなります。そのため、朝食や昼食で摂ったエネルギーは日中の活動によってたいてい使われます。一方で、夕食後はほぼ寝るだけなので、夕食での食べすぎは避けたほうが良いのです。
しかしながら、多くの人にとって、3食のうち一番時間を費やせるのが夕食ではないでしょうか。その日の仕事から解放された夕食の時間には、つい気が緩んでたくさん食べてしまいがちですが、おいしいものをほどほどの量、ゆっくりと味わうのが正解です。
夕食にドカ食いすると、翌朝は胃がもたれ、朝食をあまり食べられません。そうして朝食を食べないと、お昼には空腹感が強くドカ食いすることになります。お昼にドカ食いすると、そのぶん夕食も遅くなり、また翌朝は胃がもたれます。
つまり、夜のドカ食いによって、活動量の減ってくる時間帯にたくさん食べる食習慣ができ上がってしまうのです。こうした食べ方をすれば、当然太りやすくなり、さまざまな生活習慣病のリスクが上がります。
■朝は王様、昼は貴族、夜は貧者のように食べる
西洋には「朝は王様のように、昼は貴族のように、夜は貧者のように食べなさい」といういい伝えがあります。
この言葉通り、本当は朝食に最もウエイトを置くのが良いのですが、忙しい朝にはどうしても時間はかけられません。でも、昼食や夕食には、朝食よりも多くの時間を確保できるでしょう。
そこで私は、朝食・昼食・夕食の割合を、3:5:2とすることをすすめています。かつ、糖質摂取量については、5:5:0となるくらいが理想です。
つまり、夕食は炭水化物抜きのおかず中心で、ワインでも飲みながら時間をかけて楽しむのが良いでしょう。
夕食をたくさん食べる習慣がある人は、最初は物足りなく感じるかもしれません。しかし、腹八分目くらいで夕食を済ませると、夜中に胃のあたりの不快感で目覚めることも減りますから、睡眠の質が上がったことを実感するでしょう。
そして、目が覚めたときから空腹になれば、朝食もしっかり食べられます。こうして、活動量の多い時間帯に食事の大半を摂る、良いサイクルを回せるようになるのです。
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牧田 善二(まきた・ぜんじ)
AGE牧田クリニック院長
1979年、北海道大学医学部卒業。地域医療に従事した後、ニューヨークのロックフェラー大学医生化学講座などで、糖尿病合併症の原因として注目されているAGEの研究を約5年間行う。この間、血中AGEの測定法を世界で初めて開発し、「The New England Journal of Medicine」「Science」「THE LANCET」等のトップジャーナルにAGEに関する論文を筆頭著者として発表。1996年より北海道大学医学部講師、2000年より久留米大学医学部教授を歴任。
2003年より、糖尿病をはじめとする生活習慣病、肥満治療のための「AGE牧田クリニック」を東京・銀座で開業。世界アンチエイジング学会に所属し、エイジングケアやダイエットの分野でも活躍、これまでに延べ20万人以上の患者を診ている。
著書に『医者が教える食事術 最強の教科書』(ダイヤモンド社)、『糖質オフのやせる作おき』(新星出版社)、『糖尿病専門医にまかせなさい』(文春文庫)、『日本人の9割が誤解している糖質制限』(ベスト新書)、『人間ドックの9割は間違い』(幻冬舎新書)他、多数。 雑誌、テレビにも出演多数。
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(AGE牧田クリニック院長 牧田 善二)

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