日本政府はこれまで、「移民政策はとならい」という立場をとってきた。本当にそうなのだろうか。
国立社会保障・人口問題研究所の是川夕さんは「統計データから日本の実態が移民国家であることが分かる。それだけでなく、欧州や北米などと比較しても先進的な移民政策をとっている」という――。
※本稿は、是川夕『ニッポンの移民――増え続ける外国人とどう向き合うか』(筑摩書房)の一部を再編集したものです。
■一時滞在型なら移民受け入れ数、世界有数の日本
「一時滞在型移民」について見てみると、日本は研修生、企業内転勤、留学生の受け入れが特に大きい。研修生に該当するのは技能実習生である。OECDによれば研修生はほぼすべての先進国で見られる制度ではあるものの、日本は先進国全体で受け入れている研修生のおよそ7割(約29万人中の20万人)を受け入れている。
また、他の先進国の場合、この種の労働需要は季節労働者によって対応していることも多いが、その場合でも日本の技能実習生よりも規模が大きいのは米国の約45万人に限られる。このことは日本の技能実習制度が単独のプログラムとしていかに大きなものであるかを示すものといってよいだろう。
次に多いのが企業内転勤である。日本は米国(7万1102人)、英国(1万5524人)、カナダ(1万2240人)、そしてドイツ(1万人)に次いで先進国中、第5位の受け入れ規模を示しており、その数は2023年で年間8443人である。また、日本と比較されることの多い韓国の場合、その数は年間360人と比べるべくもない。企業内転勤者は高度人材の典型ともいうべき人たちであり、このことは日本がハイスキル外国人の受け入れにおいて国際的に見て高い水準にあることを示している。

■留学生の受け入れ数はフランス、スペインより多い
その結果、日本は一時滞在型移民(就労)の受け入れ規模で見て、先進国中、第6位の規模(約27万人)となっている。第1位が米国の約82万人、第2位がドイツの約50万人、第3位がフランスの約38万人、第4位がオーストラリアの約37万人、第5位がオーストリアの約33万人で、それらに続く規模であり、第1位の米国との差も永住型移民の場合の約1/9と比較して1/3の規模にまで迫っていることがわかる。
最後に日本が数多く受け入れているのが留学生である。日本の高等教育機関における留学生の受け入れ規模は2023年で約14万人であり、これはOECD全体の留学生受け入れ数の6.6%、英国(約46万人)、米国(約44万人)、カナダ(約35万人)、オーストラリア(約23万人)に次いで第5位となっている。これは非英語圏の先進国としては最大の受け入れ規模であり、日本の次にフランス(約10万人)、スペイン(約6万人)、ドイツ(約6万人)、韓国(約5万人)と続く。
■永住型の労働移民は世界3位
このように日本の移民受け入れの特徴は「永住型」「一時滞在型」を問わず、就労が軸となっていることが浮かび上がってくる。これを踏まえて、「就労」という観点からもう一度、日本の移民受け入れの特徴を整理してみたい。
日本は「永住型」「一時滞在型」併せて年間約36万人の労働移民を受け入れており、これは先進国中、第7位の規模となる(図表1)。第1位は米国であるものの、その数は年間約91万人であり、日本との差は永住型移民の時の約9~10倍から、3倍弱へと縮小する。つまり、日本と米国の移民受け入れ規模の差はさほどのものではなくなる。
また、受け入れ形態に着目すると、日本は労働移民のうち約25%を永住型で受け入れているが、これは上位11カ国中で見ると英国、カナダに次いで3番目に高い値であり、また日本に次いで永住型の占める割合の大きなオーストラリアと比較しても、約10%ポイントの差がついている。つまり、日本は労働移民を永住型で多く受け入れる傾向を示す。

こうした事実は、日本の移民受け入れが、技能実習生やアルバイト目的の留学生、そして日系ブラジル人といった本来、労働者の受け入れを目的としない制度によっていびつな形で行われてきたという「サイドドア/バックドア理論」(梶田1994)や、日本は外国人労働者を人としてではなく、単なる労働力として使い捨てにしてきたという指摘に反するものと言える。
■諸外国の移民政策の方が厳しい
一方、他の先進国では、外国人労働者は基本的に季節労働者など期限付き(使い捨て)労働力であり、また留学生も高い学費を徴収する「金づる」(Waters 2021)としての位置づけにとどまり、永住まで視野に入れた受け入れは例外的である。
では、「移民の定住化を阻止する日本」「移民政策をとらない日本」といったイメージはどこから生じているのであろうか。それは先ほど見たように、他の先進国における家族移民の多さに、反対に言えば日本におけるその少なさに起因していると考えられる。
このことが日本における「移民政策の不在」や、「外国人労働力を使い捨てにしている」といったイメージに対応する。つまり、日本以外の国では家族移民が多く、それが全体として永住型移民を多く見せている。一方、労働移民に限定した場合には、こうした特徴はなくなり、むしろ日本では永住型移民の占める割合が高くなるのである。
家族移民とは、国際結婚や両親や子どもの呼び寄せといった家族的つながりをベースとした移民のことである。よって、その受け入れは必然的に「永住型」になる。配偶者や子どもが期限付きでしか受け入れられないとしたら、それは基本的人権に反するからだ。
そのため、家族移民は労働移民のように国家が政策によって裁量的に受け入れの可否を決められない「非裁量的」なものとされる。したがって、家族移民の多寡をもって、ある国の移民政策が開放的かどうかを判断することはできない。

■欧米、移民政策崩壊の理由
ひるがえって労働移民の受け入れにおいて、その資格や技能を問わず、無条件に永住資格を認める国は存在していない。これは人権を基調とした受け入れをしてきた欧米諸国においても例外なく見られる特徴である。
日本の近年の移民政策がより選別主義的、業績主義的になってきていることを指摘する研究も多いが(Higuchi 2024, Takaya 2025)、これは労働移民政策が一般的に持つ特徴を挙げているだけであり、日本だけの特徴とは言えない。
むしろ、受け入れの際に求める要件が比較的少ない(OECD 2024b)ことに加え、永住型の占める割合が多いといった特徴を踏まえるならば、日本は国際的に見てリベラルで開放的な労働移民政策をとる国(Kalicki 2021)として位置づけられる。
その結果、日本は先進国ではほぼ唯一、労働ルートでの受入れが機能している国と言える。なぜなら、欧米諸国における移民受け入れは、最も需要の多い「労働ルート」での受け入れが非常に狭く、難民などの「人道ルート」、家族呼び寄せなどの「家族ルート」、観光などの短期滞在の後の「オーバーステイ」(超過滞在)といった他のルートにあふれ出しているためだ。これが欧米の移民政策が崩壊しているとされる所以である(Joppke 2025)。
■日本の移民政策、実は先進的
一方、本章で明らかにしたように、日本は広範なスキルレベルにわたって永住型の労働ルートでの受け入れが行われており、他のルートが濫用されるリスクは低い。例えば、現在、年間4000万人にも及ぶインバウンド(外国人観光客)を受け入れつつ、そこからのオーバーステイや不法就労がほとんど見られないのは、労働ルートがきちんとその役割を果たしているためと考えられる。これは国際的に見て、非常に大きなアドバンテージと言えるだろう。
こうした見方は、本書に固有のものではなく、国連やOECDなどの国際機関による評価にも見ることができる。まず、先述したSDG指標による日本の移民政策の評価を見てみたい(UN2021)。

それによると、日本は移民政策の6つの領域のうち、2つの領域において4段階評価の最上位である「完全に満たす」と評価され、残り4つの領域において80~100%の基準を満たした場合に得られる「満たす」と評価される。その結果、全体評価は「満たす」とされている。
評価対象となった先進国42カ国のうち、全体評価で「完全に満たす」とされたのは1カ国もなく、76%に当たる32カ国が「満たす」とされる中、日本は移民政策を持つ国として位置づけられ、かつその体制は十分なものと評価されているといってよいだろう。つまり、移民政策の不在論はこういった国際的な認識とは一致しない。
■日本は「移民国家」である
以上を踏まえ、現代日本の移民政策の特徴について整理してみたい。日本においてはしばしば「移民政策の不在」ということが指摘されてきた。これは制度レベルでの移民政策の不在というだけではなく、その前提となる集合意識など社会的なレベルでの移民政策の不在といってよい。
こうした問いかけに対して、本章では日本は既に国際的な基準では「移民」と呼ぶべき人々を受け入れていること、及びその規模は労働移民を中心として国際的に見てもかなりの規模であることを明らかにした。また、労働移民の受け入れに限ってみれば、他の先進国と比較しても永住型の受け入れが多く、むしろ、リベラルで開放的な労働移民政策をとっている。
もちろん、「リベラル」といった場合、単に永住型の受け入れが多いというだけではなく、社会保障の受給権など、社会統合政策がどの程度整っているかといった視点も重要となることは言うまでもない。しかしながら、この点について米国の政治学者であるエリン・エラン・チャンは、日本の移民政策が永住者を始めとした定住外国人の権利保障に関して、少なくとも制度上は、欧米の移民受け入れ先進国と比較しても遜色ないものであることを指摘している(Chung 2010=2012)。
さらに国連やOECDといった国際機関の用いる基準によっても、日本は移民政策をとらない特殊な国ではないことが示されている。
むしろ、国連の基準に基づけば移民政策の整備状況は進んでいるとさえ言える。
■日本が移民国家である自認がないワケ
また、日本の移民受け入れの実態について20年以上にわたり研究してきた社会学者のグラシア・リュー・ファーラーは、日本を「移民国家」と捉えることの重要性を指摘している。
ファーラーは日本が自らを「移民国家」と考えない理由として、制度としての国家と特定のエスニック集団を同一視するエスノナショナリズムが強いことに加え、移民国家をアメリカやオーストラリアのような伝統的な移民国家(入植型の移民国家)のイメージで理解しているからであるとする。
その上で、「移民国家」という用語を「外国人に複数の合法的な入国経路と永住のための法的経路と制度的枠組みを提供する国」と定義することを提案し、それに照らせば日本も移民国家と捉えることができるとしている(Liu-Farrer 2020)。
このリュー・ファーラーの指摘の持つ意味は大きい。なぜなら、日本が移民国家としての特徴を現実には備えていながら、社会の自己認識(アイデンティティ)のレベルで移民国家であるといった認識が存在しないと批判することは「啓蒙的」ではあるものの、その一方で公式の制度と社会の自己認識を同一視してしまうことで、むしろかえってエスノナショナリズムに与してしまう、つまり日本を移民国家として認めることを妨げてしまうからだ。
社会の自己認識のレベルでそういった認識がないとしても、制度として移民国家であることはあり得るし、それは移民社会のあり方として珍しいものではない。そのようなありようも含めて、私たちは日本を移民国家、そして移民社会として捉えていく必要があるだろう。
■さらなるリベラル化の可能性
リベラルな労働移民政策を中心とした日本の移民政策は、2019年の特定技能制度の施行、及び2024年に技能実習制度に代わる新たな制度「育成就労制度」が成立したことでより加速していくものと思われる。「特定技能制度」は、深刻化する人手不足への対応として、生産性の向上や国内人材の確保のための取り組みを行ってもなお、人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野に限り、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れることを目的として、2018年の臨時国会で成立、翌年4月から施行された。
この制度は特定技能1号と2号という2つの在留資格からなり、1号は日本語、及び技能試験に合格し、日本での雇用契約があれば最長で5年間まで働くことが可能である。2号は更に技能試験に合格した場合に認められるもので、在留期間の更新回数に上限がなく、1号では認められない家族帯同や永住資格の申請も可能となっている。

よって1号は一時滞在型による受け入れだが、2号は永住型である。今後、特定技能2号が増加していくに伴い、日本の労働移民における永住型移民の規模、割合は高まっていくことが予想される。
現在の潮流として、欧米の労働移民受け入れが永住にはつながらない一時滞在型にシフトしていることを考えると、技能実習生のような非熟練労働者を永住型につながるルートで大規模に受け入れることで、日本と欧米諸国の移民政策は対照的な道を辿ることになるだろう。

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是川 夕(これかわ・ゆう)

国立社会保障・人口問題研究所 国際関係部 部長

1978年青森県生まれ。東京大学文学部卒業。カリフォルニア大学アーバイン校修士課程修了。東京大学大学院人文社会系研究科修了。博士(社会学)。内閣府勤務を経て現職。OECD移民政策会合メンバー。OECD移民政策専門家会合(SOPEMI)メンバー。著作に『移民受け入れと社会的統合のリアリティ――現代日本における移民の階層的地位と社会学的課題』( 勁草書房)、『人口問題と移民――日本の人口・階層構造はどう変わるのか』(明石書店、編著)、『国際労働移動ネットワークの中の日本――誰が日本を目指すのか』(日本評論社、編著)、『Recruiting Immigrant Workers: Japan 2024』(OECDとの共著)他多数。

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(国立社会保障・人口問題研究所 国際関係部 部長 是川 夕)
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