1995年に誕生し、一大ブームを起こした「プリントシール機」。フリューは1997年に参入し、現在はシェア90%を占める。
スマホや自撮りアプリの登場といった苦境をどうやって乗り越えてきたのか。同社の榎本雅仁社長に取材した――。(第2回/全2回)
■スマホで自撮りする時代が到来
プリントシール機の軌跡に欠かせない出来事がある。それは、スマホの登場だ。2008年にiPhoneが日本で発売したとき、プリントシール機は赤外線ポートからケータイに転送する機能などを充実させていた。やがて、Twitter(現X)やInstagramなどが人気になっていく。
2017年ごろから、自撮りに加工を施せる「SNOW」(SNOW)や「BeautyPlus」(Meitu)などのアプリが人気となった。肌をきれいに、目を大きくといった加工もスマホだけで完結するようになる。顔に動物の耳や鼻を施せる加工も人気となり、動画を撮影してSNSに投稿する人も増えてきた。
■無料の自撮りアプリに勝てるのか
自撮りアプリがほぼ無料で遊べる一方、プリントシール機は1回撮影ごとに500円(※店舗によって異なる)、さらにプリの画像データ取得のためのサブスクリプション費がかかることもある。
日本アミューズメント産業協会」によると、プリントシール機の売り上げは登場した2年後の1997年に1000億円を超えたが、スマホの普及が始まった2008年頃から250億円弱で推移している。しかし、スマホの登場により下降の一途を遂げているとはいえず、コロナ禍までは大きな変化がない。

榎本氏は「プリントシール機とスマホで撮影する写真は棲み分けができている」と語る。
■プリの順番待ちをしながらスマホで自撮り
「プリの順番待ちをしながらスマホで自撮りしているユーザーもいる。プリントシール機の中にスマホスタンドを設置し、撮影中の様子を動画で撮影できるなどの仕掛けも用意している。また、プリは一緒に撮影する『体験』が重要なポイントだ」(榎本氏)
プリントシール機は、友達とどのプリントシール機で撮影するかを決め、一緒にポーズを取り、加工や落書きを行う。その体験はスマホでは得られない。
また、スマホ登場の頃から「コーデ撮影」(コーディネートの撮影)が主流となってきた。スマホで全身を撮るには、第三者に撮影してもらうか、自撮り用スタンドが必要になる。しかし、プリントシール機ならライティングされた状態で全身の撮影ができ、撮影角度の変更や雑誌のような質感へ調整もできる。SNSに自分のファッションセンスをアピールしたいとき、プリントシール機を選ぶ。
■月額550円のサブスクが中学生は無料に
プリントシールをSNSへ投稿するには、画像データが必要だ。フリューは2003年、プリントシール機で撮影した画像をダウンロードできるプリ画取得・閲覧サービス「ピクトリンク」(当時のサービス名は「楽プリショット」)を開始した。
ピクトリンクは無料会員なら撮影1回につき自分と友達が1枚ずつ、プレミアム会員ならすべてダウンロードして保存できる。
プレミアム会員の月額料金は月額550円(税込み)だが、中学生は最大3年間無料だ。
「ピクトリンクも私自身が携わっていたサービスで、最初は無料で1枚画像を渡す仕様だったが、プリは2人以上で撮るものなので2枚まで無料に変更した。ユーザー目線での決定だったが、結果的に会員数が一気に伸びた。開始当時はガラケーだったが、きれいな画像が転送できたのでニーズがあると考え、その後プリ画の調整機能なども用意した。現在はスマホアプリを提供し、ピクトリンクのアプリ上での落書きも可能だ」(榎本氏)
■「将来の有料会員」を獲得するため
ピクトリンクの会員数は、現在総数が2500万人(2025年3月末時点)でそのうち有料会員が126万人いる(出所=2026年3月期第2四半期決算説明資料)。特にピクトリンクについて大きな宣伝などは行っていないが、口コミで会員数が増えているという。
「コロナ禍でユーザーの撮影頻度が少し落ちる現象が起きた。1人3回撮っていた人が2回に減った程度だが、高校生の時にコロナで外出制限を経験した現在の大学生は『一緒にプリを撮ろう』と誘う文化を持たない。本来、大学生は課金率が上がる世代なのだが、今の大学生はこうした理由であまり課金していない。ただ、中学生には無料で画像取り放題を提供しているため、会員数はおおよそ30万人ほどと前年より大きく伸びている。将来的にこの世代が成長し、有料会員数も増えるとみている」(榎本氏)
ピクトリンクはフリューにとって大事な収益だ。売り上げとしてはピクトリンクよりもプリントシール機のほうが高いが、利益率でいえばピクトリンクのほうが高い。
プリを撮影しない月があっても会員登録は続けるため、安定した収入源を確保できている。
プリントシール機はアミューズメント施設などが筐体を購入し、フリューからシール紙(消耗品)を購入する。インクを売るために安価に本体を売る家庭用プリンターのビジネスモデルを彷彿させる。
ティーンのトレンドの移り変わりの早さに対応するため、新機種の発売に加え、ソフトの更新や見た目を一新するバージョンアップを年3回程度提供し、1台を5年間しっかり稼働させる工夫をしている。このシール紙の売り上げとピクトリンクのサブスクリプションが収益の柱となっている。
■「顔が盛れるだけの機械」にしたくない
今後のプリントシール機事業について、榎本氏は「プリントシール機には顔が盛れるだけの機械という印象が付きすぎている」と懸念する。
「顔が盛れるだけの機械というよりも、“身近なエンタメ空間”として愛され続けられるように、国内外でさまざまな施策に取り組む。中国やタイ・バンコクへのプリントシール機輸出もすでに行っている」(榎本氏)
■「かわいい」の総合プロデューサー
フリューはプリントシール機を取り扱う「ガールズトレンドビジネス」以外に、キャラクター、ゲーム、アニメ等の世界観を生かした「世界観ビジネス」も展開しており、2本柱で事業を行っている。さらに、「フリューニュービジネス」では新たなビジネスの発掘を目指している。
世界観ビジネスではクレーンゲーム景品や海外物販などを行い、営業利益は前年比181.7%(出所=2026年3月期第二四半期決算説明資料)と好調だ。IPビジネスとプリントシール機のかけ合わせも今後進めていく。
榎本氏は「フリューの強みは、ガールズトレンドビジネス、世界観ビジネスで培った『かわいいの企画・プロデュース力』だ。
今後は『プリのフリュー』ではなく、『かわいいのプロデュースのフリュー』としての認知を高めていく」と熱く語る。日本のIPビジネスが世界的に注目されるなか、フリューの展開にも目が離せない。

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鈴木 朋子(すずき・ともこ)

ITライター・スマホ安全アドバイザー

メーカー系SIerのSEを経て、フリーランスに。SNSなどスマートフォンを主軸にしたIT関連記事を多く手がける。10代の生み出すデジタルカルチャーを追い続けており、子どもの安全なIT活用をサポートする「スマホ安全アドバイザー」としても活動中。著作は『親が知らない子どものスマホ』(日経BP)、『親子で学ぶ スマホとネットを安心に使う本』(技術評論社)など多数。

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(ITライター・スマホ安全アドバイザー 鈴木 朋子)
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