■参院選前に母親からかかってきた衝撃の電話
「ついにうちの実家にも『波』が来てしまいました。最近どうも、親が変な動画ばっかり見ているようなんです……」
この一年、行く先々でこうした告白を耳にしてきた。しかも、「あまり他には言えないんですが、実はうちもついに……」と伏し目がちに打ち明ける人が少なくない。主に30代半ばから50代前半の人たちで、その親となれば60代から70代後半くらいだろう。
30代の男性は、2025年夏の参院選の前に母親からこんな電話がかかってきたという。
「あんた、次の選挙は参政党に入れてよ!」
これまでは支持政党を明らかにしたこともなかったのに、急に熱心な支持者になっていたのである。
「なんでまた参政党なの」と驚いた男性が聞くと、「いままでの古い党はダメダメ、ちゃんと日本のことを考えているのは参政党だけ。お母さんも最近は結構ちゃんと観てるのよ」。
「何を」「ほら、動画とか」
男性は悲しげに語る。
「アチャーッ、と思いました。
■「先生はすごい人なのよ!」
50代男性の例も興味深い。
「両親とも自民党嫌いで長年、ある『万年野党』の支持者だったのに、ここにきて急にれいわに鞍替えしたと宣言されました。以前から選挙の際には『共産党にお願いね』と言われてはきましたが、れいわ支持になってからはより強めの投票要請になっています。『れいわが勝てなければ日本はおしまいだ』と極端な物言いも増える一方。
一体どうしたのかと思ったら、やはり動画でした。繰り返し、山本太郎の『神演説動画』を見ているようです」
政策パンフレットを読んで、あるいは政策を深く理解して支持するようになったのではなく、「動画」がカギになっているのだ。
別の50代の男性はうなだれてこう話す。
「うちの母親が観ろと勧めてくるのが、保守派インフルエンサーの動画です。彼は『数カ国語を瞬時に話せるようになった』『毎日1時間しか寝ない』などというよくわからない自己礼賛エピソードや、事実関係が曖昧な国内外の情勢をそれらしく語っています。
実際、親が観ているYouTubeを開いたらそのインフルエンサーの動画の視聴履歴が並んでいました。
■世間話のように陰謀論がスラスラ…
40代女性はこう語る。
「実家のテレビがスマートテレビになってから、雲行きが怪しくなってきました。実家に帰った際にスマートテレビでYouTubeを起動させたら、いかにもなおどろおどろしいサムネイルが並んでいたのです。口にするのも嫌なくらいですが、外国人に対する差別的なものや、皇族方に関するデマ交じりの批判動画もありました。
『何、こんなの観てるの?』と言ったら、母が『何よあんた、こんなことも知らないの?』と。すっかり世界を知ったような振る舞いになっていたのです。父もはじめは懐疑的でしたが、だんだんと『お母さんもこう言ってた』などと信じるようになってきました」
過剰な演出が施された刺激的な動画や、情報の真偽の判断をしかねるような陰謀論まがいの動画を信じ込み、子供に報告してくる老親たち。
筆者が話を聞いたケースでは母親の場合が多いが、これは父親よりも子供と世間話をする機会が多いからかもしれない。何のためらいもなく、それこそ「テレビで見たんだけど」と世間話をするように「動画で見たんだけど」というのである。
■親だからこそ冷静な対処が取れない
ルポライターの鈴木大介氏が『ネット右翼になった父』(講談社現代新書)をものしたのは2023年のことだ。鈴木氏の父はもともと政治に強い関心があり、知的好奇心も旺盛だった。そんな父が、老いによって月刊誌や学術書を読めなくなり、右派的な著作の読み上げ動画を入り口にその手の動画にどっぷり漬かるうちに言動が人種差別まがいになっていったという経緯を綴っている。
こうした右傾化も問題だが、突如政治的な動画にハマって臆面もなく支持を口にするようになったり、よりディープな陰謀論に引っかかったりしてしまうのも厄介だ。親の老いを直視すること自体、心苦しいのに、そのうえ話の通じない強烈な政党のシンパや陰謀論者になっていたら……。顔を合わせることも、電話で話すことも嫌になってしまう。
頭では理解しようと思っても、相手が親であるからこそ、冷静な対処が取れなくなってしまう。話を聞いた人たちの多くは「変な動画ばっかり見てるんじゃない!」「それおかしいよ」「陰謀論だよ」と親に否定的な言葉を投げつけてしまったようだ。
だが、この対応は多くの場合、間違っている。現実として、どの親たちも、そう言われて目が覚めたという結果には至っていない。「わかってないのはお前の方だ」「人をボケ老人扱いして!」などとなって、親子関係まで悪化しかねないのである。
では、こうした状況になってしまった親たちに、一体どう対処すればいいのか。そのヒントを提示したい。
■「頭ごなしの否定」は逆効果
一つは、「頭ごなしに否定しない」ことである。
著述家の物江潤さんは、参政党支持者への対処法としてこう語っている。
〈トランプ支持者に対してもそうですが、「支持者であるというだけでおかしな人扱い」をするべきではありません。
日々、普通に生活をしていて何らかの不満や不安を抱いていながら、既存政党や政治家に対する信用を持てなかった人がいる。「何とか生活を安定させてほしい」という気持ちを託す先がどの党であったとしても、それだけをもって全人格を否定するようなことは言うべきではありません〉
〈新型コロナ禍の際、「本当にワクチンを打って大丈夫なのだろうか」という不安を抱えていた人が、それだけで周囲から「頭のおかしい人」扱いをされたことで、反ワクチン的なネット上のコミュニティに入り込んでしまうということがありました。こうなると身近な人間関係が絶たれてしまい、ますます特定のコミュニティに依存するようになってしまいます〉(プレジデントオンライン、2025年7月14日公開)
■別の楽しみに誘導する
認知戦研究の第一人者である長迫智子氏は陰謀論にハマる人たちの心理について、こう語る。
〈反ワクチンであれ、ディープステート論であれ、そうした情報に深入りしてしまう人は、社会に対する不満や不安を抱いています。そうした人に「あなたは間違っている」「正しい情報はこれだ」と押し付けてもあまり効果がなく、むしろ意固地になって余計に別の情報を受け入れなくなってしまうことさえあります〉(プレジデントオンライン、2025年11月21日公開)
つまり、「頭ごなしに否定しにかかると、状況はより悪化する」ことになりかねないのだ。
ではどうすればいいのか。
再び長迫氏の弁から引く。
〈そのような認識レベルが深刻である方々には、無理やり正しい情報を押し付けるのではなく、なるべく別の楽しみに誘導する、孤立している人であるならばコミュニティとして受け入れるなどの心理的、社会的なアプローチも必要になります〉(同)
頭ごなしに否定するのではなく、その状態を受け止めながらも陰謀論的、政治的な話題から距離を取り、関心の矛先をそらすとともに、コミュニティに受け入れる。つまり家族の場合、一緒に過ごすことの楽しさ、平穏を実感できるような状態を作り出すことが大事、ということになるだろう。
■効果的な「アルゴリズムの浄化」
より実践的な対処法もご紹介しよう。
特にスマートテレビの場合、親世代は自ら検索キーワードを打ち込んでその手の動画を選んでいるのではなく、アルゴリズムの中にふと入り込んだその手の動画をクリックしたことによって、次々に関連動画が表示される状況に至ったとみられる。
そうした場合には、「アルゴリズムを浄化する」のも一つの手だろう。再生履歴を削除したうえ、親世代が青春時代に流行った音楽や、親の趣味に合う動画を続けざまに検索、表示されるよう、履歴とアルゴリズムを再教育するのだ。それによって、関連動画から政治系・陰謀論系のものを排除するのである。
いずれまた元に戻りかねないが、できるだけ実家に足を運び、懐かしの歌の話でも聞きながら親との会話を楽しみつつ、地道にアルゴリズムを浄化する機会を持つほかない。
ちなみに、「陰謀論にハマっていない親」のケースも予防や脱却のヒントになる。それは何かといえば、「他に楽しみがある」場合だ。宝塚、氷川きよし、K-POPアイドルなど、政治や陰謀論よりも強い魅力とナラティブを持ったものに興味を惹かれ、時間やお金を費やしている限りは、そうした世界に取り込まれる余地も生まれづらいのだ。
要するに、動画視聴や政治以外のリアルな生活を充実させるほかない。
■「謎のデモ」に親を参加させないために
スマホやスマートテレビの普及で高齢者層でも動画との接点を持ちやすくなり、しかも2020年からしばらくはコロナ禍で人に会えず家に閉じこもらざるを得ない時期も続いた。
さらにはショート動画などで再生回数が上がれば収益が上がり、国内外の政治ネタが再生されやすい状況にもなり、その手の業者もこぞって動画をネットの海に放流している。
政治系動画の制作を依頼するクラウドワークスの案件が話題になったが、こうした業態が成り立つのも動画再生による収入が期待できるからで、そこには「一定の論調を世間に広めたい」といった政治的論理以上に経済的論理が働いている。
その際に重視されるのは、情報の正確性よりもいかに再生されうるかで、扇情的な演出も施されやすい。
近年では生成AIを用いた動画も増加している。わかっていてもうっかり信じそうになるところ、高齢者にフェイク動画を見分ける能力を養えというのはなかなか酷でもある。
時間を持て余すリテラシーの低い高齢者は格好の餌食なのである。
筆者が聞いた事例には「トカゲ人間が世界を牛耳っている」「地球は丸くなかった」などと言い出すものはなかったため、いずれも“軽度”と言えそうだが、陰謀論者予備軍のすそ野は確実に広がっている。
今はまだ取り込まれていなくとも、いつ親が怪しげな動画の餌食にならないとも限らない。財務省解体デモのために集まった人波に、自分の親を発見したらどう思うだろうか、想像してほしい。
年末年始の帰省時は絶好の機会である。ぜひ親のスマホやスマートテレビの動画再生歴をチェックしてもらいたい。そして「ついにここにも来たか」と感じたら、そっとアルゴリズムを浄化して、親との楽しい会話や食事に勤しんでほしい。親孝行、それこそが親を政治系動画や陰謀論から守る有効な手段なのである。
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梶原 麻衣子(かじわら・まいこ)
ライター・編集者
1980年埼玉県生まれ、中央大学卒業。IT企業勤務の後、月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経て現在はフリー。雑誌やウェブサイトへの寄稿のほか、書籍編集などを手掛ける。
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(ライター・編集者 梶原 麻衣子)

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