■注目が高まっている「散骨」
近年、遺骨を粉末状(遺灰)にして自然にまく「散骨」にも注目が集まっています。その背景には、お墓を継ぐ人がいないという事情や、お墓の維持にかかる経済的負担を抑えたいというニーズがあります。
ただし、ひとたび散骨を行うと遺骨を回収することはできません。墓標のように手を合わせる場所が存在しないため、遺族が寂しさや喪失感を抱くこともあり、事前によく話し合っておくことが大切です。
実は日本の法律には散骨に関する明確な規定がなく、また、遺体や遺骨を墓地以外の場所に埋めることを禁じる法律があるため、かつては散骨自体がグレーゾーンとされてきました。しかし、1991年に「節度をもって行われるならば違法とはいえない」という当時の法務省関係者による非公式見解がクローズアップされたこともあり、自然葬への関心が高まりました。
とはいえ、散骨を行える場所には多くの制約があり、どこでも自由に実施できるわけではありません。実際にはさまざまな種類の散骨がありますが、費用面や実施のしやすさを考えると、現実的な選択肢は「海洋散骨」に限られます。
「海洋散骨」は遺骨を海へ還すという、最も広く知られている散骨方法のひとつです。遺骨を粉末にし、船で沖合まで出てから散骨を行います。
■「海洋散骨」にはルールがたくさん
海洋散骨は個人で行うことも可能ですが、各自治体のガイドラインや厚生労働省が業者に向けて作成した「散骨に関するガイドライン」を正しく理解して対応する必要があるため、専門の業者に依頼するケースがほとんどです。
ガイドラインのなかには、遺骨は1~2ミリの遺灰(粉骨(ふんこつ))にすること、自然に還らないものは海にまかないこと、明らかに散骨をしているとわかる服装を避けることなど、細かなルールが設定されています。
また、自治体によって海洋散骨のガイドラインでは、沿岸部や漁業水域から離れた海域で実施することが求められています。こうした多くのルールや準備が必要となるため、粉骨や船の手配などは専門業者に任せるのが安心です。
海洋散骨に限らず、散骨をする際は、遺骨を粉骨する必要があります。個人で粉骨化するのは難しく、大抵の場合は業者に粉骨を依頼します。粉骨を単独で依頼する場合は、2万~3万円程度がかかりますが、海洋散骨を依頼すると、粉骨がプランのなかに含まれていることもあります。
また、海洋散骨には、希望や状況に応じて選べる3つの形式があります。改葬に比べて、海洋散骨は比較的費用を抑えられる傾向があり、選ぶ形式によっては、10万円以下で実施することも可能です。
費用については、個人または家族単位で船をチャーターするのか、ほかの家族と同乗するのか、それとも専門業者に代行を依頼するのかによって、費用の相場が大きく変わります。
■散骨方法で費用は大きく変わる
個人散骨
「個人散骨」は、個人や家族、親戚、友人などで船を一隻貸し切って行うスタイルの散骨です。「貸し切り散骨」「ファミリー散骨」とも呼ばれ、希望する日時に合わせて出航することができます。業者や船によっては、ペットの同伴が可能な場合もあります。
セレモニーの内容も比較的自由度が高く、お別れの言葉を交わしたり、音楽や献花を取り入れたりと、ゆったりした時間のなかで故人に想いを届けることができます。
多くの場合1~8名まで乗船でき、費用の目安は20万~40万円とされています。
合同散骨
「合同散骨」は、複数の家族が一隻の船に乗り合わせ、それぞれの故人を見送るスタイルです。出航日時は、業者が設定したスケジュールに合わせる必要がありますが、同乗者がいない場合でも出航してくれる業者もあります。プライベート感は控えめですが、儀式的な雰囲気を保ちながら費用を抑えたい方に適しています。
各家族1~2名程度の乗船が可能で、費用の目安は10万~20万円程度です。
代行散骨
「代行散骨」は、散骨の専門業者に一任し、家族が同行しない海洋散骨です。体調の不安や遠方に住んでいるなど、さまざまな事情で現地に行けない場合に利用されています。散骨の様子をインターネット中継で配信したり、後日、写真や動画で報告してくれたりするプランもあります。
費用の目安は5万~10万円とされています。
■食い違いで手続きが進まないことも
墓地・埋葬等に関する法律で、「改葬」とは、埋葬した死体を他の墳墓に移し、又は埋蔵し、若しくは収蔵した焼骨を、他の墳墓(ふんぼ)又は納骨堂に移すことをいいます。
つまり散骨は「改葬」にはあたらないため、基本的には「改葬許可証」の取得は不要です。
このような場合は、役所に事情を説明して改葬許可証を特例的に発行してもらうか、あるいは墓地管理者に対して、代替書類で対応できないか、理解を得る必要があります。
なお、厚生労働省が制定した「散骨に関するガイドライン(散骨事業者向け)」には、「散骨事業者は、散骨を行った後、散骨を行ったことを証する散骨証明書を作成し、利用者に交付すること。」という一文が記されています。散骨終了後は、散骨業者が書類を作成し、依頼者に渡すことが推奨されています。
■アメリカで始まった「ロケットで宇宙に」
「宇宙葬」は、1997年にアメリカで始まった比較的新しい散骨方法です。粉骨した遺骨の一部(数グラム)をカプセルに入れ、ロケットで宇宙へ打ち上げて散骨します。
プランには、地上から100キロ以上の宇宙空間を約200年以上にわたって周回するもの、宇宙の果てを目指して永遠に漂うもの、NASAの協力で月面に送るものなどがあります。さらに、打ち上げの様子をライブ配信するサービスや、ロケットが発射するところを現地で見られるオプションも用意されています。
注意点としては、散骨までに時間がかかること、プランによっては300万円近い費用になることです。ロケット打ち上げには莫大な費用がかかるため、宇宙葬は複数の遺骨をまとめて行うのが一般的です。ある程度の人数が集まらないと打ち上げが行われず、年単位で待たされることもあります。
また、実施できる企業が限られているため、費用やサービス内容を比較するのが難しいほか、打ち上げ前に運営会社が倒産してしまうリスクも否定できません。
さらに、打ち上げられるのはごく一部の遺骨のみで、残りは別の場所に納骨する必要があります。そのため、宇宙葬だけで改葬が完結するわけではなく、通常の納骨も併せて行うことになります。結果として、費用も手間もかかるため、お墓の代わりになる葬送方法として気軽に選択できるものではありません。
■「山・森」は非常にハードルが高い
散骨のなかには、「山林散骨」「森林散骨」もあります。ただし、遺骨を墓地以外の土中に埋めてはいけない、公有地を含む他者が保有する土地には散骨できない、粉骨してまくことが必須など、法律やガイドラインによるさまざまな制約があります。さらに、自治体によっては条例で散骨が認められていない地域も多く、実施のハードルは非常に高いのが現状です。
一部には、自社所有の里山や寺院の一角などに散骨を行う専門業者も存在しますが、その数はごくわずかであり、選べる場所も限られています。また墓地として許可を得ている場所ではないため、その土地が将来どうなるのか永続性の保証はありません。このように、山林・森林散骨は実現にあたって多くの制約が伴うため、墓じまいの選択肢としては、現実的ではないケースがほとんどと言えるでしょう。
改葬先の準備が整うまでに時間がかかる場合、一時的に遺骨を自宅で安置することがあります。これを「手元供養」あるいは「自宅供養」と呼びます。
自宅で遺骨を保管すること自体には、法的な問題はありません。墓埋法では、墓地以外の場所に遺骨を埋蔵・収蔵することを禁じていますが、自宅での保管はこれに該当せず、規制の対象外です。
■自宅供養の骨壷をおしゃれにカスタマイズ
期限の決まりはありませんが、自宅供養はあくまで一時的な措置として考えましょう。改葬の代わりに恒久的に保管することを目的とするものではありません。
骨壺を自宅で保管する際は、置き場所にも配慮が必要です。高温多湿の場所や水回りの近くは避け、直射日光の当たらない、風通しの良い場所を選びましょう。湿気が多い場所に長く置いておくと、骨壺の中にカビや水分が発生する恐れがあります。仏壇があれば仏壇の近くに、ない場合はリビングや寝室など、お参りしやすい場所がよいでしょう。
遺骨を手元に置いておくだけなら「改葬許可証」は必要ありませんが、いずれどこかの墓所に納めることを想定し、必ず「改葬許可証」、一部のみ手元に置いておくなら「分骨証明書」を取得しておくようにしましょう。
「小型骨壺」は、分骨した遺骨を自宅供養するためのものです。最近では、陶器やガラス、木製など、インテリア性の高いデザインも多く、インターネットでも購入できます。骨壺に故人の名前や命日を刻印したり、家族写真とともに飾ったりと、自分の好みに合わせてカスタマイズができます。
■「遺骨を身につける」という選択も
手元供養には、自宅で遺骨を安置する方法のほかに、遺骨の一部をアクセサリーにし、身につけるといったかたちも含まれます。これらは改葬の代わりではなく、あくまでも遺骨の一部を手元に置いて弔う方法です。
遺骨ペンダント
「遺骨ペンダント」とは、ごく少量の遺骨をペンダントトップのなかに納めるアクセサリーです。「メモリアルペンダント」「納骨ペンダント」など、さまざまな呼び方があります。ペンダントトップは、長さ約1センチメートル、直径数ミリメートルの筒状のデザインや、ハート型、ティアドロップ(しずく)型、花型など、バリエーションが豊富です。安いものでは2000円代から、素材によっては数万円かかるものもあります。
遺骨ダイヤモンド
遺骨を炭素化し、人工ダイヤモンドに加工することも可能です。希望する大きさによって必要な遺骨の量は異なりますが、おおよそ全体の4分の1以上を使用します。作成には半年ほどかかることもあります。
費用はサイズによって大きく異なり、例えば0.2カラットで約40万円、1カラットになると200万円を超えることもあります。
このように、改葬や納骨にはさまざまな選択肢があり、決定までに時間がかかることもあります。調べれば調べるほど情報が出てきて迷ってしまうこともあるでしょう。そんなときは、この章で見てきたように、納骨方法(個別か合葬か)、お墓の形(樹木、石塔、納骨堂など)、墓地の種類(公営墓地、寺院墓地、民間墓地)といった要素に分けて、整理しながら考えると選びやすくなります。
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吉川 美津子(きっかわ・みつこ)
葬儀・お墓コンサルタント
葬儀業界向けのコンサルティングを手がける葬儀ビジネス研究所代表。著書に『葬儀業界の動向とカラクリがよ~くわかる本』。
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(葬儀・お墓コンサルタント 吉川 美津子)

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