良質な睡眠をとるためにはどうすればいいのか。漢方薬剤師の堀江昭佳さんは「前日の夜にゆっくり入浴したり、寝具を変えてみたりするのもよいが、その日の睡眠の質は朝に決まる。
現代医学も勧めている、0円で手軽にできるルーティンがある」という――。
※本稿は、堀江昭佳『生命力を高めなさい』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■その日の睡眠の質は朝に決まる
眠りは、夜になれば自然に訪れるもの、ではありません。
不眠改善の大きな誤解はここにあります。
夜、部屋を暗くしたり、ゆっくり入浴したり、寝具を変えてみる、そういったことはもちろん良い眠りのために大切です。しかし、夜の準備だけにフォーカスしても眠りの質はよくならず、いつまでも不眠や浅い眠りに悩まされてしまいます。
良質な睡眠のためには、朝から夜までの1日の流れ全体を整える必要があるのです。
そして睡眠の質は朝に決まると言っても過言ではありません。
ひとが自然と眠くなるためには、夜に眠くなる必要があります。
あたりまえのことのように聞こえますが、そのために人間には精巧なシステムが備わっています。中でも特に大切な役割を果たしているのがメラトニンです。
メラトニンは脳の松果体から分泌されるホルモンで、睡眠ホルモンとも呼ばれています。
「今は夜で、眠る時間だよ」と体に知らせて、ぐっすりと眠れるように準備をしてくれるのです。
■朝日を浴びると14~16時間後に自然と眠くなる
夜にメラトニンが分泌され眠くなるためには、朝日を浴びることが欠かせません。
朝日を浴びると、脳の視交叉上核という体内時計の中枢が反応し、14~16時間後にメラトニンが出るように睡眠タイマーをセットします。
例えば、朝7時に朝日を浴びれば、その日の夜21~23時頃にメラトニンが分泌されて、自然な眠気が訪れます。
そのためには朝日をしっかり浴びる必要があるのです。
明るさの指標であるルクスでいうと、2500ルクス以上の光を20分程度浴びることが必要です。
家の外に出れば晴れの日で1万ルクス、たとえ曇っていたとしても5000ルクスくらいあります。しかし、室内の蛍光灯では500ルクス程度しかないため、睡眠タイマーがセットされず、眠りの準備には不十分なのです。
■太陽の光を浴びないと「夜型化」が進む
この睡眠タイマーのセットと同時に、もうひとつ重要なことが行われます。
それは、体内時計のリセットです。
人間の体内時計は平均24.2時間。
1日の長さ24時間と微妙にズレているため、このズレを朝日でリセットして正確なリズムに補正しています。
朝日を浴びないでいると体内時計はどんどん後ろ倒しになるので、人間は夜型になりやすい性質があります。
夜ふかしは簡単なのに、早寝が難しいのは、この体内時計のズレが原因です。
そのため、なにかの拍子で朝起きるのが遅くなり、太陽の光を浴びずにいると、ますます夜型化が進んでいきます。そして、睡眠リズムの乱れが悪化してしまうのです。
また、メラトニンの分泌は年齢とともに低下します。
幼児期にピークになり、40代以降では減少に拍車がかかり、70代以降では20代に比べて8割近くも減ってしまうケースも。年齢を重ねるにしたがって睡眠の質が悪化したり、睡眠障害になるのは、このメラトニンの減少が関係していることもわかってきました。
夜のメラトニン分泌が減ると眠りにつきにくくなるだけでなく、夜中に何度も目が覚める中途覚醒が増えます。同時に、体内時計の調整がスムーズにいかなくなるため、日中の眠気も悪化してしまうのです。
■2000年以上前から「朝日を浴びろ」と言われてきた
しかも、メラトニンの働きは眠りに関わることだけではありません。
細胞の老化を防ぐ抗酸化作用や、老化や病気の原因となる慢性炎症を抑え、免疫のバランスを保ち、生命エネルギーの代謝を高めるといった重要なアンチエイジング効果が明らかになっています。
メラトニンをしっかりと分泌することは、夜の眠りを深めるだけでなく、若返りや生命力そのものを高める効果が期待できるのです。

漢方では、「朝日を浴びなさい」ということが2000年以上も前から説かれてきました。それは、古代のひとが経験的に朝日を浴びて1日をスタートすると、良い眠りが手に入り、いつまでも元気に若々しくいられることに気づいていたからなのでしょう。
現代医学と伝統医学のどちらもが、朝日を浴びることをすすめてくれています。この習慣はお金もかからず、誰でも今日からはじめられる最良の睡眠薬です。
1日の始まりのルーティンとして、ぜひ取り入れていきましょう。
■セロトニンが足りないと寝つきが悪く眠りが浅くなる
朝日で活性化するのは、メラトニンだけではありません。
体を覚醒させ代謝を上げるコルチゾールや、やる気、集中力を高めるドーパミン、さらには、幸福ホルモンと呼ばれるセロトニンなど、覚醒と活性化のホルモンが一気に分泌されます。
これらのホルモンはそれぞれ役割が異なりますが、朝日はオーケストラの指揮者のように調和させ、見事なハーモニーを奏でさせます。そして、体を1日のはじまりにふさわしい状態に導くのです。
ここでクローズアップしたいのは、セロトニンです。
日光を浴びることで脳にセロトニンが分泌され、気持ちが明るく、爽やかになります。そして、脳が安定・活性化することで前向きな気持ちが生み出される。
セロトニンは心を安定させる作用を持ち、不足すると不安や抑うつ状態につながります。実際、セロトニンの低下がうつ病の原因のひとつだとご存じの方も多いでしょう。
実は、セロトニンは睡眠にも大きく関係しています。
なぜなら睡眠ホルモンであるメラトニンは、幸せホルモンであるセロトニンから作られるからです。セロトニンが足りなければメラトニンが十分に作られず、寝付きが悪くなったり、眠りが浅くなったりします。
■「不眠スパイラル」に陥らないために
うつっぽくなったり、落ち込んだりしていると、眠りにくくなる経験をしたことはありませんか?
これは、安心、安定、幸福といった感情を支えているセロトニンが、抑うつ状態のときに不足していることが原因です。十分なセロトニンがないために、ネガティブな感情が強まるだけでなく、メラトニンを増やせないため眠りにくくなるのです。
さらに悪いことに、セロトニン不足→メラトニン不足の流れは、恐怖の不眠スパイラルを引き起こします。
睡眠不足は日中のセロトニン分泌を減らすので、睡眠不足の翌日は気持ちが高まらずひきこもりがちに。さらなる日照不足→セロトニン不足→メラトニン不足→不眠という悪循環が強化されることになります。
さらに睡眠不足や過労が続くことで感情のコントロールが奪われます。
これは睡眠不足になるとすぐに脳で現れる反応。
セロトニンなどの心のホルモンへの反応が過敏になってしまうためです。その結果、イライラ、怒りっぽいといった感情の不安定化、不安感の悪化といった精神的な不調を引き起こします。
不眠が不眠を呼ぶ、恐怖の不眠スパイラルの誕生です。
■起床後1時間以内に朝日を浴びる
このダメージは計り知れません。
自分の心の状態が悪くなるために、いつもなら軽く流せることに過剰反応してしまったり、余計な一言を言ってしまったりすることで、パートナーシップや家族関係、友人や職場といった人間関係にひびを入れてしまうこともあります。
一方で、気持ちよく目覚めた朝は、すでにその時から明るい気持ちですよね。
ここで日光を浴びれば効果倍増!
幸せホルモンのセロトニンがたっぷり増えるので、夜にメラトニンも増え、自然に眠くなり、ぐっすりと熟睡を得ることにつながります。1日の流れも良くなりますし、自分にもほかのひとにもやさしくなれます。
朝の日差しを浴びて気持ちよく明るく過ごす、ただそれだけのことで夜の睡眠を深くして、幸せの好循環への切符を手にできるようになるのです。
起床後1時間以内に朝日を浴びることがセロトニンを増やすためにも、メラトニンを増やすためにも効果的だとされています。
忙しい朝でも、窓を開けて日光を浴びるだけで違います。早速、明日から目覚めの朝日浴をはじめていきましょう。

■太陽に向かって口を開いて呼吸して歩くとなお良い
朝に日光を浴びる朝日浴を、さらにパワーアップする方法があります。
これは、もう20年以上も前に漢方の大家の先生に「うつっぽい気持ちを劇的に良くするから、わしは不安やうつの治療にすすめとる」と教えていただいた方法です。やり方は、とってもシンプル。
朝、太陽に向かって口を開けて呼吸し歩く、というものです。実はこの方法は古くから仙人の健康法として伝わる仙道や道教の修練法のひとつです。呼吸によって生命力を高める方法を吐納術といい、体内のよどんだ濁気を吐き出し、新鮮な清気を吸って体内に納めることに由来します。
一日の中で最も日光のエネルギーが純粋だとされる朝の時間帯に、太陽に向かって口を開けて呼吸することで、体内の生命エネルギーを清め満たすとされました。朝日の力をより強く自分の中に取り入れることを目指したのです。
この呼吸法は、体と自然とを調和させる修練ともいえます。呼吸が深まることで全身のめぐりが良くなり、うつが解消し精神が晴れやかに。現代的に言えば、セロトニンやメラトニンなどの脳内ホルモン分泌が改善し、気分の安定や深い眠りにもつながっていくのだと考えられます。
【朝日の呼吸法】

①姿勢を整える

②足を肩幅に開いて立ち、肩の力を抜いて背筋を伸ばす

 太陽に意識を向ける

 目を閉じて太陽の位置を感じる

 太陽を命の源、生命のエネルギーとしてイメージする

③歩きながら呼吸を行う

 口を開いてゆっくり息を吐き(悪いものが出ていくイメージで)

 鼻からゆっくり吸う(太陽の光が胸からおヘソの下に満ちるイメージで)

 長さは吐くを2、吸うを1の割合で、自分に合うペースで行う

 3回程度からはじめ、徐々に心地の良い長さで15分程度まで延ばす
口を開けて歩くとか恥ずかしくてできない! という声も聞こえて来そうですね。
そんな場合は、朝、窓を開けて太陽に向かって口を開け、数回呼吸するだけでも構いません。大切なのは、朝日のエネルギーを体に迎え入れるという意識です。朝日の呼吸法で生命力アップにトライしていきましょう。

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堀江 昭佳(ほりえ・あきよし)

漢方薬剤師

島根県出雲市出身。出雲大社参道で100年続く老舗漢方薬局・堀江薬局の4代目漢方薬剤師、一般社団法人日本漢方薬膳協会代表理事。薬学部を卒業後、薬剤師となったのち方向転換し、本場中国の漢方医から学ぶ中、不妊に悩む友人の相談を受けたところ、漢方で妊娠したことに感動し、婦人科系の分野、なかでも不妊症を専門とするようになる。体の不調の解消だけではなく、本人の抱えている常識や執着といった束縛からの「心の解放」を終着点としている漢方薬剤師。著書にシリーズ60万部を突破した『血流がすべて解決する』(サンマーク出版)がある。

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(漢方薬剤師 堀江 昭佳)
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