転職活動で失敗する人、うまくいく人は何が違うのか。3人の20~30代の男女に転職体験を聞くと、2人は今、前職に戻って働いていることがわかった。
転職前・中・後にどんなことを感じたのだろうか――。
※本稿は、佐野創太『転職・退職を考えたら知りたいことが全部のってる本』(主婦の友社)の一部を再編集したものです。
■私が会社を辞めた理由 転職体験者インタビューその1
Y・Hさん(35歳・女性)

○ 既婚、子どもなし

○ 転職経験3回

〈今の職場はリファラル転職。いくつかの会社を経験することで自分の「軸」が定まりました。転職は3回しています。回数としてはやや多めかもしれません〉
老舗企業、スタートアップ企業、さまざまな業界を経験する
最初に入ったのは歴史のある老舗企業で社風は保守的。年功序列がしっかり残っていました。2年ほど勤めましたが、成長している実感がなくて転職を決意。2社目は全国に系列施設を持つ大手観光会社でした。ここには10年近く勤めました。
仕事は面白く、大きな不満もありませんでしたが、慣れてくるとだんだん物足りなくなってしまうんです。性格的に、「繰り返す」ということが苦手みたい。
また、それまでの勤務先は評価の定まった企業でしたが、短期間で飛躍的な成長を目指すスタートアップ企業で働いてみたいと思っていました。
それで思い切ってスタートアップ企業に転職。ここではフルリモートワークなど、新しい体験もさせてもらいました。それまでの勤務先とは企業風土が違い、刺激的でしたね。転職の予定はなかったのですが、以前の勤務先だった観光会社から「戻ってきませんか?」とお誘いを受けたんです。元上司が会社に話を通してくれた、いわゆるリファラル転職(推薦や紹介による転職)です。
■以前の会社に戻るメリットは?
リファラル転職の選考過程は企業によって違うようです。私の場合は、直属の上司になる方などとの面接、人事と本部長との面接と、2回の面接がありました。以前の仕事ぶりは評価していただいていましたし、面接官には面識のある方もいらしたので、あまり緊張はしませんでした。
在籍したことのある会社に戻るメリットは、自分の性格と社風との相性がいいとわかっていることです。嫌いになって辞めた会社ではないので、不安はありませんでした。今回は、お客様に提案する新しいサービスの管理運営チームを任せていただけるということでした。
いくつかの会社を経験して、ここは自分のやりたいことに合っているなとあらためて感じています。
■転職エージェントの思惑に振り回されたことも
リファラル転職以外の2回は、転職エージェントを利用しました。けれど初めのうちは、エージェントをあまりうまく活用できていなかったと思います。
転職エージェントというのは、利用者が紹介企業に入社することで成功報酬を得るビジネスです。ですから第一の目的は「転職させること」なんですよね。考えてみれば当たり前なのですが、そこがよくわかっていなかった。なんとなくしっくりこない会社なのに、エージェントが追い立ててくるのでいらだつこともありました。スムーズに転職を重ねたわけではなくて、面接はけっこう落ちまくっています(笑)。
結果的に私は3回転職したわけですが、転職を重ねるのが無条件にいいことだとは思いません。どんな職場にも不満の種はありますから、軸が定まっていないと退職を繰り返すだけになってしまいます。
いくつかの会社に籍を置きながら私が確信したのは、「自分にはBtoB(企業対企業)よりBtoC(企業対消費者)のほうが向いている」ということと、「自分が一生懸命に取り組めること以外に時間を使うのはイヤだ」ということです。
その点で今の職場には満足していますが、先のことはあまり考えず、目の前の仕事に集中しようと思っています。
いずれは子どももほしいと思っているので、ライフステージが変わればまた転職を考えるかもしれませんね。
▼ Y・Hさん転職ヒストリー

22歳 大学卒業後、BtoB分野のメーカーに就職

24歳 大手観光会社の管理部門に転職

33歳 スタートアップ企業に転職

35歳 以前勤めていた大手観光会社にリファラル転職

■私が会社を辞めた理由 転職体験者インタビューその2
K・Kさん(27歳・男性)

○ 未婚

○ 転職経験1回

〈大成功だったはずの転職がたった半年でギブアップ。企業研究の大切さを痛感しています〉
転職したのは、当時つきあっていた彼女との遠距離恋愛を解消して近くで働きたかったからです。理由としては軽いかな(笑)。今思えば、転職の経緯も浮ついたところがあったと思います。あまり深く考えずに動いてしまいました。
活動期間は2カ月ほどでスムーズでした。転職サイトとエージェントを併用して、転勤がない総務・企画系の職種で探しました。あまり苦労せず、大手系列のIT企業に決まったんです。給料はいいし福利厚生が充実していて有給消化率も高い。大きい会社のバックもある。大成功だと思っていました。
まさか半年でその会社を辞めることになるとは、夢にも思いませんでした。
■企業風土に合わなすぎて心が折れてしまった
初日に上司に連れられて他部署にあいさつ回りをしましたが、みんな態度がクールなんです。中には返事をしてくれない人もいて、どこかよそよそしい。IT企業にはそういう風土のところがあるようですが、転職した会社がまさにそうでした。
そもそも、私にはITの基礎知識がありません。けれど、会社には教えるノウハウがないようでした。すべてのIT企業がそうだとは思いませんが、社内で武器になるのは知識と技術だけ。とても個人主義的な集団でした。
仕事はバンバン降ってくるのに、やり方がよくわからない。上司に相談してもきちんと説明してくれません。めんどくさい仕事はこいつに押しつけとけと思っているんじゃないかと周りが敵に見えてきて、心が折れてしまいました。
入社してからわかったことですが、私のポジションは、前任者2人が立て続けに早期退職していました。
こういうことは転職前にはなかなかわかりません。でも、もう少し慎重に企業研究をすれば、違和感を持てたかもしれなかったのです。今は新規まき直しで再び転職活動中です。
▼ K・Kさん転職ヒストリー

22歳 大学卒業後、BtoB分野のメーカーに就職

27歳 IT系の企業に転職。半年で退職

■私が会社を辞めた理由 転職体験者インタビューその3
M・Sさん(30歳)

○ 既婚、子どもなし

○ 転職経験2回

〈回り道をして見つけた天職。自分の希望ははっきり伝えなければいけないと身をもって知りました〉
大学を卒業して、公立小学校の先生になりました。先生は大変だ、ブラックだと言われるけれど、あこがれの仕事だったので合格したときはうれしかったですね。初任校では3年生の担任になり、はりきって社会人としてのスタートを切りました。
■先生の仕事は想像以上に大変だった
でも、仕事は想像以上に大変でした。赴任した小学校は部活動が盛んで、私は若いからという理由で経験のないミニバスケット部の顧問に抜擢されました。本当は自分のクラスのことをやりたいのに、部活動に時間がとられてままなりません。それでもなんとかがんばるのですが、やればやるほど負担が増えるのです。

朝6時に家を出て遅くまで職場に残り、帰宅後はお風呂に入って寝るだけの生活。結婚の予定がありましたが、こんな暮らしでは子どもを持つこともできないと思っていました。
5年ほどそういう生活が続く中で、発作的に「辞めたい!」と思うたびに転職サイトを見ていました。そしてあるとき、未経験OKのIT企業の正社員の募集を見つけたのです。
■好条件で未経験職種に転職したけれど……
転職するなら、本当は子どもにかかわる仕事をしたかった。けれど私が目にする求人は給料が安くて、踏み切れずにいました。たまたま見つけたその企業は、希望どおりの給料です。2カ月かけて研修で基礎を学び、3カ月目からSEとして働くという流れもきちんと説明してくれました。しかも基本は在宅ワーク。これはもう、やるしかない! と。
今どきは転職なんて珍しくありませんが、私にとっては一大決心でした。採用されたからには自分なりに努力して、いい仕事をしたいと思ったものです。会社はきちんと労働条件を守ってくれましたし、指導も丁寧でした。文句を言うようなことは何もありません。
それでも仕事をしながら、「この仕事は自分には向いていない」「やっぱり先生をやりたい」という気持ちがわいてくるのでした。結局1年ほどで退職し、もう一度試験を受けて小学校の先生に戻りました。担任を持たず、特別支援学級の担当でと条件を出して、それを認めてもらったのです。
■条件だけで転職を決めると判断を誤ることもある
先生は私の天職なんだと思います。そのことは、一度現場を離れなければわかりませんでした。誠実に処遇してくれた転職先には申し訳なかったけれど、いい経験だったと思います。以前の私はつくづく八方美人だったと反省しています。仕事と家庭を両立したいなら、ちゃんと自分の意見を言わなきゃいけないんですよね。希望どおりの条件で天職に戻れて、今はとても充実しています。
転職に関して言えば、もう少し人の話を聞いてじっくり考えればよかった。転職サイトで条件だけを見て応募しましたが、自分一人の判断では間違えることがあると思います。だれにも相談しないで畑違いの職種に転職してしまい、結果的に会社にも迷惑をかけることになりました。「やりたいことが見つかったなら、それが一番だよ」と気持ちよく送り出してくれた前職のIT企業には、感謝しかありません。
▼ M・Sさん転職ヒストリー

22歳 大学卒業後、関東地方の公立小学校教員となる

28歳 IT系の企業に転職。フルリモートワーク

29歳 都内で再び公立小学校教員となる

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佐野 創太(さの・そうた)

企業顧問、「退職学」の研究家

1988年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、2012年パソナグループに入社し、転職エージェントとして従事する。法人向けの研修会社に転職するも1カ月で早期退職し、無職となる。パソナグループに出戻り後、新規事業の責任者として求人サイトを立ち上げる。介護離職を機に2017年に独立。新規事業のマーケティング、コンテンツ、成長企業の人材育成の顧問として活動しつつ、退職学の研究家として20代から50代まで1200人以上のキャリアアップを実現させる。著書に『「会社辞めたい」ループから抜け出そう!転職後も武器になる思考法』(サンマーク出版)、『ゼロストレス転職 99%がやらない「内定の近道」』(PHP研究所)がある。

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(企業顧問、「退職学」の研究家 佐野 創太)
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