スーパーやコンビニのパンコーナーに並ぶ丸くて大きなうずまきパン、「ミニスナックゴールド」が売り上げを伸ばしている。その数、年間3700万個(2024年)。
コメ不足、物価高騰などを背景にパン人気が高まるなかさらなる加速は見込めるのか。パン界のトップメーカー山崎製パンきってのロングセラーの過去、現在、未来を追う――。
■発売以来、売り上げグラフは右肩上がりで半世紀
「ミニスナックゴールド」の歴史は古く、発売は1968年。スナックパン界の金メダル級ヒットの願いを込めて「スナックゴールド」と名付けられ、関東で販売された。その後、関西限定で「スナックゴールド」より小さい「ミニスナックゴールド」が登場。1970年に東西の規格を統一する動きがあり、「スナックゴールド」のサイズはそのままに「ミニスナックゴールド」の名だけが残ったという経緯がある。ファンの間では知られた話だ。
ヤマザキが1年間に作る新商品は、約800~1000種類に及ぶ。そのほとんどが2~3カ月で消えていく中、「ミニスナックゴールド」は、実に57年の長きにわたって残り続けていることになる。ヤマザキの中でも、屈指のロングセラー商品だ。
半世紀以上に及ぶこの間、売り上げに微妙な増減はありながらも、ずっと右肩に上がり続けているというのも驚きだ。2024年は3700万個を記録。
今年もほぼ同じ数が見込まれ、来年は3800万個を目標としている。同じくヤマザキで、38年間のロングセラーとなっている「まるごとソーセージ」も同様の成長曲線を描くが、そうでなければ超ロングセラー商品にはなりえないということだ。
■パンが一番売れる気温は20℃前後
また、ここ数年は、パンの売り上げを押し上げる別の要因もあった。山崎製パン営業統括本部マーケティング部の中山雄介さんは次のように語る。
「昨夏からの米の値上がりがあり、かつ、ここ5年ほどは全ての食品価格が値上げする中で、パンの値上げ幅はそれほど大きくありません。タイパとコスパが重視される中、おやつや食事の時短にもなるということで、パン市場全体が追い風を受け全体の売り上げが伸びているという状況です。それに加えて「ミニスナックゴールド」の魅力である“ボリューム感”が市場にマッチしたと言えます」
中山さんによれば、「ミニスナックゴールド」を購入する層の中でも特に目立つのは、40代から50代の主婦だそう。
「これは恐らくですが、中学校から高校、大学生のお子様がいる年代であると推測できるので、ボリュームがあっておやつにちょうどいいという層にはまっているのかと思われます」
ちなみに、年間を通じての売り上げの波は明らかにあるという。
「弊社の場合はやはり、“春のパンまつり”もあって2、3、4月が最大ボリュームになります。ただしそれだけではなく、春にかけて暖かくなると人はパンが食べたくなることも分かっています。私が新入社員の頃から習ってきた話ですが、気温が20℃前後になると、パンを食べる人が多くなります。かつては気温が1℃異なるだけで売り上げが大幅に変動すると言われていたため、“もう少し上がってほしい”とか、夏は逆に“下がって”と祈ることもありました」
■その味は常に、微妙に進化を遂げている
売れ続けている「ミニスナックゴールド」だが、57年間にわたってずっと同じものを作り続けているわけではなく、その味は常に、微妙に進化している。

2017年頃には日本人がより柔らかい食べ物を好むようになったことから配合を工夫し、引きの強い食感から歯切れのいい食感へ。2019年には、しっとり感が長続きし風味や香りがよいルヴァン発酵種の配合をスタート。2021年はバターの規格を上げて、よりコクと風味のある生地となった。2024年には生地に折り込むマーガリンにもバターを添加し、さらにバターの風味を向上させている。
「ミニスナックゴールド」にはコアなファンも多く、味を少し変えるだけで「変わりましたか」と問い合わせが来るそう。またパッケージデザインも少し変えただけで「分かりづらくなった」と言われることもあるため、包装に関してはここ30年ほど大きな変化はないそうだ。変化しているのは、味や食感の部分である。
■「ミニスナックゴールド」が守り続けた2つのもの
こうして、常に変わり続けてきた「ミニスナックゴールド」だが、変わらないものが2つある。ひとつは圧倒的なボリューム感。他のパンに比べカロリーも高いということ。現在は一個あたり546キロカロリー。これは白米に換算すると大盛りご飯(1合約340g)とほぼ同じであり、別名「カロリーモンスター」とも呼ばれる所以だ。
これまでも、この点に関してはヤマザキ社内で特に変えようという話になったことはないそう。
もうひとつ不変なのは、製造にあたりこれが手巻きであること。発売当初から変わることなく、現在も一つひとつ手で巻いているというのは驚くべきことだ。
「生地は発酵物なので、毎日完全に同じではなく微妙にコンディションが異なるのです」
そう語るのは生産統括本部パン第二本部の佐久間哲さん。
「季節や天候によって生地の伸び具合が異なるため、今日はちょっとゆるく巻こうとか、きつく巻こうとかさじ加減があります。微調整をしながら巻き、焼き上げた際に直径が18cmになるということなのですが、この加減が機械では実現できないのです」
生地を20回ねじり、内側からくるくると3回転半巻く。20回以上ねじってしまうと食感が固くなり、少なすぎるとボリュームがなくなるためだ。
■1時間に1000個を巻く職人技
「ミニスナックゴールド」が巻けるようになるまでには、約半年の修業が必要だそう。全国12の工場で製造されているが、生産工場では一番最初に「ミニスナックゴールド」を巻く工程を教わっていくという。マニュアルと、先輩からの直接指導によってはじめて一人前になれる、いわばペストリー製造の登竜門だ。
そうして、1人あたりが巻くパンの数は1時間に800個。熟練した職人ともなれば、1000個を成形するというから驚きである。

「現場の様子を初めて見た方は、“早いな”と思うはずです。“巻く”というよりも、細い生地を、上から落とすようなイメージですね。『ミニスナックゴールド』を製造するペストリー部門は、仕込、成形、焼成、包装の4つになりますが、この成形に携わる従業員は全員、巻くことができます。ジョブローテーションを実施しており、成形出身で今は包装担当者などもいるので、明確な数字はありませんが実際に巻ける人材は相当な数になると思います」
そのため、成形部門の誰かが休んでも製造に穴が開くことはないそう。そうして一つひとつ、2024年は3700万個を手で巻いたということだ。
■「ミニスナックゴールド」がつなぐビッグなバトン
「ミニスナックゴールド」には、発売時期やエリアを限定した、特別なフレーバーも存在。ブラックは関西だけで発売され、レモンやマロン、ストロベリーは九州での限定発売であった。
「こうした主力品のバラエティー味は禁じ手と言いますか、それを出すことで主力の売り上げが落ちるのではないかと考えたこともありました。しかし2~3年前から、一緒に売って盛り上げた方が逆によく売れるという方向となり、年に2回程度、バリエーションを発売しています」(中山さん)
また、「ミニスナックゴールド」が直径18cmであるのに対し、直径12cmの「ミニスナックゴールドmini」(3個入)は、バリエーションのひとつとして定番ラインナップとなっている。
そんな「ミニスナックゴールド」はヤマザキを支える主軸商品のひとつだが、当時の記録が残っていないため、今となっては誰が考案したのか不明とのこと。佐久間さんは「先輩たちがずっと作り続けてきた製品を途切れさせるわけにはいかないという思いで、ずっと繋いでいます」と語る。それ故に「もしも売り上げが下がったとしたら、何かをきっかけにして取り戻さなくてはなりません。
まずは毎月品質確認をし、絶対に劣ってはいけないということを根底に、最新の技術を取り入れながら底上げを図る取り組みは、常に考えています」
一方の中山さんも、次のように語る。
「50年以上の長きにわたって、波打ちながら少しずつ売り上げを伸ばしています。その間ずっと、あの手この手を使ったりプロモーションしたりしながら、全社一丸となって大事なものを守り続けている商品という位置づけになると思います」
老若男女問わず、誰からも愛される「ミニスナックゴールド」。実は、リベイクするのもおすすめだ。
「購入から2~3日経ってもトースターで1分程度リベイクしていただければ、サクサクした食感がよみがえりますのでおすすめです」(中山さん)
学生の頃に食べて以来……という方は、現在の「ミニスナックゴールド」がどのような進化を遂げているのか、ぜひご自身でお確かめいただきたい。

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小林 良介(こばやし・りょうすけ)

ライター・エディター

ライター・エディター。大手出版社に5年勤務後独立。その後、取材&ライティング、台割の作成からレイアウト、簡単な撮影までを手がけ、今日に至る。雑誌や書籍などの紙媒体をメインに取材・執筆活動を続ける一方、Web媒体の仕事も数多く手掛ける。モノ系雑誌や昭和カルチャー系雑誌をメインに、小中学生向けの学習用図書館本なども執筆。芸能人やスポーツ選手、企業トップなどのインタビューも多く、これまでに行ったインタビューは2000人以上。主夫歴も15年以上と長く、「主夫コラムニスト」としての活動も行っている。


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(ライター・エディター 小林 良介)
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