※本稿は、藤田太郎『イントロの教科書』(DU BOOKS)の一部を再編集したものです。
■「何度でも聴きたい」最強イントロの3条件
25年以上、イントロについて研究してきた私の視点で、こういうイントロは、何度も聴きたくなる、人に伝えたくなると思う3つの条件を紹介します。1つ目は、最初の数秒だけで『心を掴む』強いインパクト。2つ目は、映像が浮かんでくる物語性。
3つ目の条件は、サビや、Aメロ、Bメロといった、歌が入るパートには登場しないメロディが、イントロに登場し、そのメロディが独創的で、耳に残りやすいかです。いわば、本編とのつながりを考えながら、イントロを作曲するということ。
最強イントロの3条件の中で、最も編曲家の職人魂と“粋”を感じられるのはこの条件です。この条件に注目してイントロを聴くと、編曲家それぞれの特色がわかるようになります。
■イントロを手掛けるのは編曲家
「あの曲とこの曲、雰囲気似てるなあ」と感じて制作者クレジットをみると、同じ編曲家が手掛けていた曲だったという、うれしい驚きと発見に出会うことが増えていくでしょう。
もう一つ、この条件で私が最強イントロかどうかを判断する基準は、鼻歌でその曲を歌うとき、サビだけではなく、無意識にイントロも歌ってしまうかどうかです。
ギターが印象的なイントロの場合はエアギター、ドラムの場合はエアドラムしたくなる曲も同様で、超絶テクニックの楽器演奏を響かせるイントロもこの条件に該当します。この条件に合致する曲を、紹介していきます。
■日本で一番歌われている演歌「天城越え」
石川さゆりは1973年、15歳の時に「かくれんぼ」でアイドル歌手としてデビューした後、元々、強い憧れがあった演歌歌手への転身を決意。「岸壁の母」などのヒットで知られる二葉百合子に弟子入りします。
1977年にリリースした15枚目のシングル「津軽海峡・冬景色」がヒットし、演歌歌手としての地位を確立。そこから9年後の1986年、演歌歌手として人気、実力ともに脂の乗り切った時期に、45枚目のシングルとして「天城越え」をリリースし、第28回日本レコード大賞で金賞を受賞。
第一興商の通信カラオケサービス『DAM』が2018年に発表した、平成の時代に最も歌われたカラオケ楽曲ランキングで、「天城越え」は全楽曲の中で4位、演歌部門で1位という、日本で一番歌われている演歌として親しまれ続けています。
■開始17秒で入ってくる楽器の音がエモい
「天城越え」は、なぜ長い間、人気をキープし続けられているのか。その理由は、32秒イントロの途中から入ってくる、エレキギターの響きにあると私は考えます。
イントロのスタートは、三味線の音からはじまるので、最初は和の心、これぞ演歌! をイメージしますが、途中の17秒から入ってくるエレキギターでロックサウンドに変身。愛憎入り混じった感情、葛藤や業を、泣きのギターサウンドが濃密に描き出し、聴き手の心を艶やかに揺さぶるのです。
演歌の情念をエレキギターで響かせる編曲で、演歌ファンの枠に留まらず、リリース当時、シングルチャートの上位を賑わせていた、アリスやオフコースに代表される、ニューミュージックと呼ばれていたジャンルのファンや、ロックファンにも一目置かれる曲としてアプローチできたことが、「天城越え」を多くの人に知ってもらえるにきっかけになっていったのです。
■紅白で共演した布袋寅泰のアツい言葉
2018年大晦日放送の『第69回NHK紅白歌合戦』に出場が決まった石川さゆりは、「天城越え」を布袋寅泰との共演で披露することを発表しました。この共演が決まった時、布袋寅泰はインタビューでこう話してます。
「ジャンルなんて関係ない。魂のボーカリストとの共演は『ギタリスト冥利に尽きる』の一言です。僕も魂を込めて弾かせていただきます。世界に届け! 日本の心。」
「天城越え」は、世界で活躍するロックミュージシャンも認める、演歌というジャンルを超越した、最強イントロが響く曲なのです。
■「春よ、来い」を作った編曲家・松任谷正隆
松任谷由実「春よ、来い」のイントロは、J-POP屈指のピアノイントロです。日本の四季が、冬から春へと変化していく風景を、鮮明ではなくあえて柔和な、淡い雰囲気で表現し、別れを思わせる切なさを感じさせながら、暖かくなった季節の木々になびく桜を繊細に想像させる。
“清らか”という言葉がピッタリのピアノイントロですが、松任谷由実から最初にメロディを聴かせてもらった時のことを、編曲を手掛けた松任谷正隆は、著書『僕の音楽キャリア全部話します』の中で、こう書いています。
「由実さんは、パット・メセニーがプロデュースした、イスラエル出身の女性シンガー、ノアをイメージしたエキゾチックなサウンドでこの曲を作っていました。でもメロディを聴いた瞬間、頭の中に和の風景が広がって、5分か10分でイントロを作りました。それは最初否定されたんですが。あの時の僕にはこれでいけるという、確信がありましたね。」
■雪がひらひらと舞うような「なごり雪」
導かれるように、「春よ、来い」を、和の風景を感じるピアノイントロとして完成させた松任谷正隆ですが、「春よ、来い」以前にも、冬から春へと変化していく風景を彩ってきたピアノイントロではじまる曲の編曲を手掛けています。
それは、イルカが1975年にリリースしたシングル「なごり雪」です。
「当時の僕としては、かなり満足のいく編曲に仕上がったと思ってます。そしてこの編曲が、7年後の1982年リリースの松田聖子「赤いスイートピー」のアプローチとダイレクトにつながっています。」
■可憐さと初々しさの「赤いスイートピー」
松田聖子「赤いスイートピー」の、可憐さと初々しさを感じるピアノイントロの編曲を手掛けたのも松任谷正隆です。「なごり雪」、「赤いスイートピー」と、春色な3月、4月を彩る曲を手掛けていたからこそ、「春よ、来い」のメロディを聴いてすぐに、和の風景を想像できたのではないでしょうか。
そして松任谷正隆は「春よ、来い」のリリースから10年後の2004年に、ゆず「栄光の架橋」の編曲を手掛けます。「栄光の架橋」のイントロも、己の記録を伸ばすために挑み続けるアスリートの気持ちを癒すように、ピアノが響き渡ります。
松任谷正隆が紡ぎ出す、あの唯一無二のピアノイントロ。それはこれからも、私たちの心に春の訪れを告げ、日々に彩りを与えてくれることでしょう。
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藤田 太郎(ふじた・たろう)
イントロマエストロ、ラジオDJ
イントロをメインに曲を紹介する音楽評論家。大学時代にイントロクイズの全国大会で優勝。3万曲のイントロを最短0.1秒で答える男として『マツコの知らない世界』や『ヒルナンデス!』など、数多くのテレビ番組に出演。そのパフォーマンスをメディアで披露しながら、BAYFM『9の音粋(おんいき)』ではラジオDJ、TOKYO FM『ももいろクローバーZのハッピー・クローバー!TOP10』では構成作家、日本初のクイズ専門店『ソーダライト』ではイントロクイズプレゼンター(出題者)として活動中。
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(イントロマエストロ、ラジオDJ 藤田 太郎)

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