■腸のコンディションが成績に影響する
「塾にも通い、勉強時間も確保しているのに、模試の偏差値が伸びない」
受験期のお子さんをもつご家庭でよく聞く悩みです。その理由の多くは、勉強の量でも質でもやり方でもなく、実は、腸のコンディションがとても関係しているのです。
脳は「腸」とは強いネットワークでつながっているので、お腹の痛みや下痢・便秘といった不調だけではなく、記憶力の低下や集中力の低下、イライラ、睡眠の質低下に大きく影響を及ぼすことが研究で示されています(※)。
※ Silva YP, et al. The Role of Short-Chain Fatty Acids From Gut Microbiota in the Regulation of Neuro-immunoendocrine Function. Front Endocrinol (2020).
逆に腸のコンディションが整うと、「集中力・記憶力・回復力(睡眠)」の三拍子がそろい、同じ勉強時間でも学習の効率が上がり、成果につながるのです。
■間食にスイーツ、夜食にカップ麺はNG
腸は食べ物を消化吸収する器官にとどまりません。腸内細菌が作る短鎖脂肪酸(酪酸など)は、腸のバリア機能を守り、全身の炎症を抑えます。ところが、腸で炎症が起きるとその影響は脳にも影響し、情報処理をする際にノイズが増えるような状態となって、ぼんやり感や眠気、集中の低下が起きやすくなります。
例えば、食事の乱れ、特に甘いお菓子の間食や夜食としてのカップ麺などは、砂糖や食品添加物によって腸内細菌叢のバランスが乱れ、便秘・下痢・お腹の張りといった直接的な不調に加えて、朝のだるさ、午後の眠気、イライラの原因となって、結果的に「勉強しているのに頭に残らない」状態になってしまうのです。
さらに、中学生・高校生では、脳と体の成長に伴って、鉄・亜鉛・ビタミンD・B群の不足が起こってきます。これらのミネラルやビタミンの吸収効率は腸粘膜の状態に左右されます。特にビタミンDが不足することで、睡眠の質が悪くなることが知られています(※)。
※ Romano F, et al. Role of Vitamin D in Sleep Disorders of Children and Adolescents: Systematic Review. Int J Mol Sci (2022).
つまり腸が荒れる=必要な栄養が届きにくい、といった状態になりますので、机に向かう前に、まず栄養の入口である「腸」を整えるという考え方が重要です。
■受験生がイライラする性格以外の理由
脳と腸は自律神経系、免疫系、ホルモン、そして腸内細菌が産生するさまざまな代謝物質で常に双方向で連絡を取り合っています。
代表例としては、セロトニンやその前駆体であるトリプトファンは、腸内細菌の働き次第で気分の安定や睡眠の質に影響を及ぼします。また、腸内細菌が作る短鎖脂肪酸は脳のグリア細胞に作用し、神経の配線が強化される力をサポートしています(※)。
※ Makki K, et al. Dietary fibers as beneficial microbiota modulators: focus on SCFA. Nutr Res Rev (2021).
一方、腹部膨満や便秘があると交感神経が優位になり、「カリカリ・そわそわ」緊張モードになりがちで、落ち着いて問題文を読んだり、集中して計算をするベースが崩れるのです。
受験期のイライラや不安感も、単なる性格だけの問題ではありません。「腸→脳」の一方向だけでなく、「脳→腸」へもストレスが波及し、腸管の運動や消化吸収の機能を鈍らせます。
だからこそ、勉強法の工夫だけでなく、腸のコンディションを整えることを戦略に組み込むことには価値があるのです。
■ウイルスから身体を守る「最大の砦」
本番直前に風邪やインフルエンザにかかって体調を崩すのは、今までの努力が報われない最悪のシナリオです。
実は、免疫細胞の約70%は腸管粘膜にあることがわかっています。つまり、腸の粘膜は最前線で腸内細菌と協力して外敵と戦っているのです。しかし、そのバリア機能が弱るとウイルスや細菌に対して弱くなるだけでなく、アレルギー症状の悪化や慢性炎症を招くことになり、集中力や持久力が弱くなります。
ですから、腸を整えることは、感染症のシーズンを乗り切る体づくりそのものなのです。そのためには、十分なたんぱく質、鉄・亜鉛・ビタミンD、そして発酵食品や食物繊維で腸内細菌にエサを与えるといった、地味な積み上げが、試験当日、最高のパフォーマンスを発揮できるようになるのです。
■「受験脳」を支える「腸育ごはん&習慣」のテンプレート
勉強時間を削らずに、親御さんの協力で簡単に実行できるメニューをご紹介します。
合言葉は【発酵食品+食物繊維+たんぱく質】です。
【朝ごはん】15分で完了! 脳の燃料を時短チャージ
構成:たんぱく質+発酵食品+食物繊維
・主役:卵/魚/納豆+豆腐(たんぱく質を2品摂る)
・脇役:豆乳ヨーグルト or 味噌汁(発酵食品)
・底上げ:食物繊維(オートミール・もち麦・バナナ・りんご)
メニュー例:
・たまご納豆ご飯+わかめの味噌汁+りんご
・鮭おにぎり(もち麦入り)+豆乳ヨーグルト+バナナ
朝にプロテイン+植物性乳酸菌食品を入れると、午前中の集中持久力が段違いになります。
注意点:甘い菓子パンや加糖飲料は血糖の乱高下を招き、午前の集中持続力が低下。
【昼ごはん】コンビニでも“腸ファースト”
構成:たんぱく質+海藻・食物繊維+発酵食品(※あればどれか一つ以上)
・基本形:サラダチキン or 焼き魚+海藻サラダ+豆乳ヨーグルト or 納豆巻き
・プラスα:ナッツ小袋
メニュー例:
・サラダチキン+海藻サラダ(ドレッシングはオイル系をチョイス)+納豆巻き+豆乳ヨーグルト
・焼き魚+惣菜(切り干し大根orひじき)+もち麦おにぎり+豆乳ヨーグルト
ナッツは菓子類と異なり血糖が安定するため、午後のおやつに最適です。
注意点:菓子パン+加糖飲料は午後の眠気を加速。
■夜食にチョコ・お菓子は眠くなるだけ
【夜ごはん】腸を“リセット”する温スープ
構成:たんぱく質+食物繊維+発酵食品
基本形:具だくさん味噌汁+青魚 or 赤身肉+もち麦ご飯
食材:大根・にんじん・ごぼう・豆類・きのこ
主菜:青魚⇄赤身肉を交互に(鉄・亜鉛・DHA/EPA)
メニュー例:
・根菜や豆の具だくさん味噌汁+焼き魚(塩サバ)+もち麦ごはん
・きのこ盛りだくさん味噌汁+赤身肉のソテー+青菜のおひたし+もち麦ごはん
注意点:
・炭水化物のとりすぎは血糖の乱高下を招き睡眠を妨げるため、お米は白米:もち麦=1:1が理想。
・主菜は青魚と赤身肉を交互に摂ると鉄・亜鉛・DHA/EPAがバランスよく摂取できます。
夜食:脳に“静かな燃料”を入れる
構成:ゆっくり吸収される糖質+発酵食品 or たんぱく質
メニュー例:
・プロテイン+豆乳ヨーグルト+バナナ
・おにぎり(小)+味噌汁
注意点:チョコや菓子は血糖の急上昇から低血糖を引き起こし、眠気を招き、学習効率を落とします。
■眠気覚ましのカフェインは睡眠の質を下げる
食生活だけでなく、生活習慣から腸を整えることも重要です。
入浴は就寝の90分前がお勧めです。深部体温がゆるやかに下がるタイミングで眠気が訪れるためです(※)。また、湯たんぽや腹巻きでお腹を温めると、副交感神経が優位になり、脳の興奮が静まりやすくなります。
※ Haghayegh S, et al. Before-bedtime passive body heating by warm shower/bath: systematic review & meta-analysis. Sleep Med Rev (2019).
就寝前は、スマートフォンやパソコンなどブルーライトを発する画面はオフにし、部屋の照明も暖色に。明日の持ち物を整えてから「寝る前の儀式」に入ると、体も心も眠りに向かいやすくなります。
カフェインは交感神経を刺激し、脳を“常にアイドリング状態”にします。そのため休息がとれず、眠気覚ましのつもりでコーヒーやエナジードリンクを飲んでも、かえって睡眠の質を下げてしまいます。眠気の原因は、糖質に偏った食生活による血糖の乱れが原因です。食事を整えれば、カフェインに頼らない生活へ自然と移行できます。
■新常識は「腸管の吸収力×体の回復力」
学習した知識の蓄積は、腸管からの栄養素の吸収力と栄養の力による回復力、つまり、睡眠の質と量で決まります。もちろん、腸の不調には病気が隠れていることもあります。体重減少や血便、発熱を伴う腹痛、夜間痛などの「赤信号」がある場合は、自己判断を避け、早めに医療機関を受診してください。
しかし、生理痛や頭痛、肌荒れ、情緒の波など、思春期特有の症状が強いときは、一度、お腹の調子と栄養状態の点検が必要と考えています。そして、栄養と生活習慣を見直す取り組みが、家庭と医療の双方から継続的に支えられたとき、受験生の「当たり前の一日」は静かに強くなっていきます。
勉強の質と量はもちろん重要です。しかし同じ1時間でも、腸と脳のコンディションで記憶の定着率や脳の回転率は変わります。ぜひ、これらの食習慣から始めてみましょう。必要なら血液検査で栄養素の不足を見える化し、サプリメントで底上げするのもひとつです。
これが、親御さんにできる最良のサポートとして受験期を最後まで走り切るためのマスターキーです。まずは、今日から、小さく確実に始めていきましょう。
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梶 尚志(かじ・たかし)
梶の木内科医院院長
1964年生まれ、富山県出身。富山医科薬科大学(現富山大学)医学部医学科卒業。医学博士。総合内科専門医、腎臓専門医として患者を診察する中で、通常の診察では解決できない「体の不調」に栄養学的なアプローチから治療と生活指導を行う。
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(梶の木内科医院院長 梶 尚志)

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