自民党と国民民主党は18日、所得税が課税される年収(年収の壁)を2026年から178万円に引き上げることで合意した。6人の子供を持つFP・橋本絵美さんは「今年は現行のままなので注意してほしい」という。
年収がいくらまでだと「手取り」が減らずに済むのか。2025年版の「超えると損する年収ライン」を主婦、高校生、大学生別に解説する――。
■押えておくべき3種類+2=5つの壁
私ごとですが、長男が高校生になりました。アルバイトをしてこづかい稼ぎをしたいそうです。それは助かる! といったところですが、年収の壁には注意してもらわないといけません。うっかり壁を越えると大損してしまうからです。
2025年から様々に改正された年収の壁……これでたくさん稼げると思ったら要注意です。壁となる金額が変わり、より複雑になりました。今回はややこしくなってしまった年収の壁を整理して、主婦、高校生、大学生がいくらまで稼ぐのが得策かを考えてみたいと思います。
パートやアルバイトは、主婦や学生にとっては他の時間も確保しながら使えるお金を増やしたいというニーズにぴったりな働き方。家計の支えになったり、自由に使えるお金を増やしたりする大切な手段です。働き損にならないために、効率的に手取りが増える働き方を探しましょう。

まず、壁には3種類あるということを抑えておきましょう。
・パートやアルバイトをしている本人への課税の壁

・扶養されている配偶者や親への税法上の扶養の壁

・社会保険上の壁
全ての壁を越えてはいけない、と言うわけではなく、越えてもあまり気にしなくてもいい壁もあります。この3つに加えて、該当する場合には気を付けてほしい2つの壁もあります。
・会社の家族手当の壁

・奨学金や学費助成等の壁
では、主婦、高校生、大学生それぞれの立場でどこが本当の壁になるのかを確認していきましょう。
■主婦パートに立ちはだかる社会保険の厚い壁
結論から申し上げると、パート主婦の越えてはいけない壁は、“社会保険加入の壁”である106万円または130万円です。
本人に所得税がかかる壁は103万円から160万円に大幅に上がり、住民税がかかる壁も100万円から110万円に上がりました。所得税、住民税の扶養の壁は103万円から123万円に引き上げられ、所得税では123万円を越えても160万円までは配偶者特別控除を満額受け取ることができます。
これで稼げる! と思いきや、123万円よりも160万円よりも先にやってくるのは社会保険の壁。106万円または130万円のままでした。
従業員51人以上の事業所に勤務している等所定の要件を満たした場合、年収106万円を超えると勤務先での社会保険加入が義務化されます。従業員50人以下の企業に勤務している場合であっても、年収130万円を超える見込みになると夫の扶養から外れてしまい、自身で国民健康保険・国民年金への加入が必要になります。
ご自身で国民健康保険と国民年金に加入するとなると、今までかからなかった社会保険料が一気に年間30万円以上負担が増えることになります。
最近では時給が上がり、うっかりすると106万円を超えてしまうことがあります。お勤め先によっては106万円で扶養を外れてしまうことになりますので、しっかり確認しておきましょう。
■時給アップより税法上の扶養の壁を死守すべし
高校生の場合はどうでしょうか。所得税・住民税の扶養の壁が103万円から123万円に引き上げられたので、高校生の壁は123万円となります。
ただし、この123万円を1円でも超えてしまうと親の扶養控除が一気になくなり、親の税率によりますが、仮に税率20%だとすると8万円程度の負担増になります。これはなかなか大きいですね。小遣い欲しさに稼いだばっかりに、逆に損をしてしまうということがないように123万円のラインは絶対に超えないようにしてください。給料をもらったあとで、「やっぱり返します」ということはできないので、お子さんにもちゃんと共有しておいてください。
ちなみに、160万円までであれば高校生自身の所得税はかかりません。また、住民税についても未成年の場合は204万3999円以下であれば非課税です。18歳以上の場合も、勤労学生控除を申告すれば134万円までは控除を受けることができます。社会保険の106万円については、学生でないことが要件となっているため、気にしなくて大丈夫。
ただし、130万円を超えると自身で国民健康保険料を負担しなければいけなくなるため要注意です。
とにかく、その前にやってくる高校生の壁は123万円と覚えておきましょう。
■大学生は大幅アップ! 150万円までは稼いでOK!
こづかいや生活費、中には学費を稼いでいるという人もいるかもしれません。今回の改正で大学生の壁は大幅に改善されました。
今までは103万円が扶養の壁としてたちはだかっていましたが、大学生の壁は150万円となります。
住民税については123万円を超えると親の扶養を外れますが、150万円までは特定親族特別控除を満額の45万円受けることができます。150万円を超えてからも188万円までは段階的に減っていく形で控除を受けることができるので、以前のように103万円を超えると控除がまったくなくなるということはなくなりました。本人の住民税の課税についても110万円までは非課税ラインですが、134万円までは勤労後学生控除の申告をすれば税額控除26万円を受けることができます。
所得税についても住民税と同様に、123万円を超えると親の扶養を外れることになりますが、150万円までは特定親族特別控除を満額の63万円受けることができ、188万円までは段階的に控除を受けることができます。さらに本人の所得税の課税は160万円までは非課税です。
そして気になるのが社会保険の壁ですね。まず、106万円の壁は学生なのでクリアできます。
扶養から外れてしまう130万円の壁も2025年10月1日から変更になり、12月31日時点の年齢が19歳以上23歳未満の場合は150万円に緩和されることが決定しました!
大学生(19歳~23歳未満)の場合は150万円が壁と思っていいでしょう。
■ちょっと待って! 奨学金・学費支援制度も要チェック
ただし、奨学金や学費支援を受けている人は注意してください。
例えば、多子世帯の大学無償化は、扶養する子どもが3人以上の世帯が対象です。扶養から外れた子どもは、カウントの対象外となります。扶養であるということは、年収150万円ではなく、123万円となります。123万円を越えても控除があって税金は増えませんが、扶養からは外れます。
他にも奨学金や学費の支援制度の中には、世帯の所得が一定額を超えると対象外になるケースがあります。世帯なので、子どもの所得も含まれます。働きすぎて学費が高くなり、逆に損になるという逆転現象も起こりえますので、制度の要件はしっかり確認しておきましょう。
■念のため知っておこう 超えるとどうなる? 社会保険の壁
勤務先の社会保険の加入対象となる106万円の壁は、学生ではないことが要件となっています。ただし、学生であっても夜間・通信制・定時制の場合は対象となることは知っておきましょう。
ちなみに、国民年金はそもそも20歳になると加入義務がありますが、学生納付特例制度を利用すれば在学中の支払いを猶予できます。
未納にはならず、障害年金・遺族年金の資格は確保されます。ただし、将来の老齢年金額には反映されません。卒業後に追納(10年以内)すれば将来の年金に加算されますよ。
150万円を超えて社会保険の扶養を外れてしまった場合、国民健康保険に加入することになります。国民健康保険には国民年金のような学生の特例はありません。年間(?)9万円程度負担が増えることになりますので、越えないように注意してください。
会社によっては、子どもや配偶者がいる場合に会社独自の手当が出ることがあります。手当がもらえる要件を、税法上の扶養としているところが多いです。税法上の扶養となると妻も高校生も大学生も123万円が壁となります。要件は各会社で異なりますので、必ず会社に確認してください。
まとめ
2025年度から税法上の壁は引き上げられましたが、社会保険の106万円・130万円の壁は依然としてすぐそこにある厚い壁として存在します。
106万円の要件は今後厳しくなることが予定されています。
主婦パートは全員社保強制加入となる未来はそう遠くないかもしれません。そう考えると、可能であれば今のうちから扶養を外れて働き、キャリアアップ、収入UPを目指してもいいのかもしれません。
子どもについては社会保険の壁は緩和されていますが、子どもの収入増が親の税負担や奨学金に影響することもあります。今は壁を越えずに学業に専念し、将来稼げるようになるための準備をしておいた方がいいかもしれません。
4種類の壁をしっかりチェックして、うっかり壁をこえないように注意してくださいね。家族全体でのトータルの手取りがどうなるかを考えて働き方を調整しましょう。
通帳やクレジットカード、QRコード決済、スマホの決済サービスの明細を丁寧に洗い出してみてください。使っていないのに払い続けている支出がいくつも見つかるはずです。固定費を見直せば、月に1万円、年間12万円の余裕が生まれます。「面倒くさい」に打ち勝つことが、令和時代の最強の家計防衛術かもしれません。

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橋本 絵美(はしもと・えみ)

はしもとFPコンサルティングオフィス 代表

6人の子どもを持つママFP&お片づけプランナー。福岡県出身。小さな頃から「大家族のママになりたい!」という夢を持ち、慶應義塾大学商学部卒業後、学生時代から交際していた夫と結婚。現在、中学2年生から3歳まで2男4女の子育て中。

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(はしもとFPコンサルティングオフィス 代表 橋本 絵美)
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