北海道の電気料金が日本一高い水準となっている。一体なぜなのか。
経済ジャーナリストの櫛田泉さんは「原発が長年停止し、火力発電に依存しているため燃料費高騰の影響をもろに受けている。小泉進次郎元環境相と知事がタッグを組んで推進したメガソーラーも相次いで問題が発覚するなど、北海道のエネルギー施策は迷走している」という――。
■メガソーラーを推進し、原発再稼働も容認する北海道
日本最大の湿原で、固有の動植物が数多く生息していることでも知られる北海道の釧路湿原がいま、メガソーラーの建設を巡って大きく揺れている。開発業者による森林法違反、盛土規制法違反に加え、天然記念物の生息調査が十分に行われていないことなどが明らかになり、メガソーラーを推進した鈴木直道・北海道知事に対するリコールデモにまで発展した。
自然エネルギーを推進する一方、鈴木知事は12月10日、13年にわたり停止している北海道電力泊原発の再稼働容認を表明。これにより、日本一高いと言われている北海道の電気料金が下がる見通しになったが、北海道庁の東西を挟む形で原発反対デモとメガソーラー反対デモが同時に行われるなど、北海道のエネルギー問題を巡って、北海道民は不信感を募らせている。
この問題の本質は、小泉進次郎元環境大臣が特に北海道で力を入れて推進してきたカーボンニュートラル政策にあった。
■小泉環境相と鈴木知事が力を入れた「ゼロカーボン」
「(鈴木)知事と取り組んできたカーボンニュートラルは、北海道は国よりも先に一歩前に進めた」――。
2023年2月12日、北海道上川町で開催された「G7ゼロカーボンミーティングin層雲峡」のイベント後、小泉氏は鈴木知事とともに力強く語っている。
鈴木知事は2020年3月、気候変動問題に対して長期的な視点で取り組むために、「2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロをめざす」ことを表明。2021年3月に「北海道地球温暖化対策推進計画(第3次)」を策定した。
この計画では、太陽光発電や再生可能エネルギーの推進と森林による二酸化炭素の吸収など、北海道の強みを最大限に活用し、脱炭素化や持続可能な地域づくりを同時に進めるとした。
そして、2050年までに、環境と経済・社会が調和しながら成長を続ける北の大地「ゼロカーボン北海道」の実現を目指すことが目標に定められている。
■メガソーラー開発に法律違反が次々と発覚
こうした目標を受けて、北海道の14の地域では、北海道庁の出先機関となる振興局が地域ごとの取り組み内容を策定している。このうち、オホーツク総合振興局が管轄するオホーツク連携地域と、釧路総合振興局と根室振興局が管轄する釧路・根室連携地域では、取り組みの内容に「太陽光など地域資源を活かした再生可能エネルギーの導入促進」と明記されていた。
これに伴って、北海道各地では大規模なメガソーラープロジェクトが次々と進展した。だが、釧路・根室連携地域では、釧路湿原の周辺で進むメガソーラー開発について、9月以降、開発する森林の面積を過少申告する森林法違反や盛土規制法違反などの問題が相次いで明らかになり、大きな騒動となっている。
■太陽光発電設備を規制する自治体は増えている
北海道釧路市では早くから課題を認識しており、2023年7月に「太陽光発電施設の設置に関するガイドライン」を施行。今年5月30日の定例市長・市政記者懇談会では、鶴間秀典市長が「ノーモアメガソーラー宣言」を掲げ、9月には釧路市議会で太陽光発電施設の建設を許可制とする新たな条例案が可決された。
こうした太陽光発電設備の設置を規制する条例を制定する動きは各地に広がっている。全国では300を超える市町村がこうした条例を制定しているほか、都道府県単位でも青森県をはじめとした9つの県で条例の制定が行われている。
しかし、鈴木知事は2025年8月29日に行われた定例記者会見で、環境と経済の好循環を目指す取り組みとしてのゼロカーボン北海道の実現に向けて「道として一律に条例制定するということを、直ちに今考えている状況ではない」という意向を示した。これに一部の市民が反発し、9月から現在に至るまでリコールデモは拡大を続けている。
■鈴木知事の一貫性のない行動には批判も
鈴木知事はこうした状況を受けて、12月1日に環境省を訪問し法整備を要請。
翌日、自身のXにおいて、以下のように述べた。
「釧路市のメガソーラーについて、石原(宏高)環境大臣から『地域と共生しない開発は断固阻止していく』という心強いご発言をいただきました。私としてはメガソーラー(太陽光発電事業)に関して、法令違反が発覚し、中止勧告やそれに従わない場合は中止命令を発出するといった厳しい措置をとっていく考えです」
しかし、こうした知事の考えに対して、「行政指導に従わない事業者に対してなぜ『中止勧告』をしないのか」「自分で強力に推進しておきながら、世論の反発を受けて焦ったのか、急に仕事をしているフリですか?」など、厳しい声が相次ぎさらなる批判を招いている。
こうした状況の中で、12月4日に鈴木知事は泊原発の3号機を視察。そのわずか1週間後の10日には泊原発の再稼働への同意を表明した。これに対しても元道議から「こんな大問題なのに今まで泊原発に視察に行っていなかったのが異常。自民党本部と道議会の圧力で原発を動かさざるを得なくなり、慌てて行き、『視察の結果、再稼働は問題ない』と批判を避ける為の必死の言い訳を! 最近まで反対派だった知事だが、ここまでブレブレの知事も珍しい」と批判の声が上がっている。
■不十分な調査で北海道の自然環境が破壊されている
釧路湿原メガソーラー問題が社会に広く知れ渡るきっかけを作った猛禽類医学研究所(釧路市)代表で獣医師の齊藤慶輔さんは、メガソーラー問題の本質を以下のように話す。
「十分な調査をせずに事実と異なる説明をし、工事を進めようとしたことが問題です。当初、事業者である日本エコロジーは、昭和地区の住民説明会で『建設予定地にオジロワシの巣はない』と説明していましたが、私は事業地とされている場所で10年以上営巣を確認していたため違和感を覚えました。巣の中のヒナに足環と衛星送信機を装着した追跡調査も行っています。風力・太陽光発電は否定しませんが、自然環境に配慮しない開発により破壊された自然は二度と取り戻すことができません」
その後、改めて巣があることが確認されたため昭和地区のメガソーラー建設工事は一部が中止となったが、今度は突如として、北斗地区での建設工事が始まった。
場所は、猛禽類医学研究所のある環境省釧路湿原野生生物保護センターの200m南側だ。齊藤代表は、希少生物が置かれた現状を伝えるため、2025年8月に工事の様子をドローン撮影した動画をXに投稿すると、動画は1600万回以上再生され、大きな反響を呼んだ。その後、9月に北海道の調査で森林法違反が発覚した。
こうした状況があるにもかかわらず、ある関係者は「鈴木知事はこの問題には無関心だった」と呆れ気味に話す。「あらゆるセクションに働きかけを行うなどかなりの労力をかけて、知事はようやく定例記者会見で遺憾の意を表明し、中止命令にも踏み込んだ発言をした」という。
■再エネ推進・原発非推進で「電気代は日本一高い」
北海道では、小泉進次郎氏とともにメガソーラーに代表される再生可能エネルギーに力を入れてきた鈴木知事であるが、これまで原発の再稼働については積極的な姿勢を示しておらず、北海道内の電気料金の高騰を黙認してきた。北海道で唯一の原子力発電所となる泊原発は、東日本大震災の発生後となる2012年5月に3号機が定期検査のため稼働を止めて以降、1~3号機の全てにおいて13年以上にわたって稼働を止めている。
原発停止以降、北海道電力は3回の大幅値上げを実施してきた。特に2022年2月のロシアによるウクライナへの軍事侵攻以降は、原油や海外炭の価格高騰や円安の影響もあり、電気料金の更なる高騰を招いている。直近の家庭向け料金は9351円で、最安の九州電力(7454円)より1900円近く高い。
さらに、電気料金には再エネ賦課金(電力会社が再生可能エネルギーで発電された電気を固定価格で買い取る際の費用を、その利用者が負担する制度)が上乗せされ、北海道の電気料金は日本で最も高い水準となってしまった。特に寒さが厳しい冬季の北海道は、電気の使用量の増加に加えて灯油も多く消費することから、電気料金、灯油代、再エネ賦課金のトリプルパンチで家計を圧迫している。

泊原発停止中の2018年9月に発生した北海道胆振東部地震では、日本初となるブラックアウト(全戸停電)が発生し、道内の電力供給の過半を苫東厚真(とまとうあつま)火力発電所に頼ることのリスクも浮き彫りになった。
■「セクシー政策」に乗っかってしまったツケ
小泉進次郎氏は環境大臣時代に、自身の政策方針について「気候変動のような大きな問題への取り組みは、楽しく、かっこよく、そしてセクシーでもあるべきだ」とし、具体的な目標については、2030年度の温室効果ガス排出量を2013年度比で46%削減すると発表した。その根拠について小泉氏は次のように発言している。
「おぼろげながら浮かんできたんです。『46』という数字が。シルエットが浮かんできたんです」
小泉氏がおぼろげながらに浮かんできた数字を根拠としてセクシーに取り組んできたカーボンニュートラル政策について、北海道の鈴木知事がそのまま乗っかってしまったことが今回の騒動の本質と見ることができるが、メガソーラー開発についてはいったん立ち止まる必要があるのではないだろうか。

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櫛田 泉(くしだ・せん)

経済ジャーナリスト

1981年北海道生まれ。札幌光星高等学校、小樽商科大学商学部卒、同大学院商学研究科経営管理修士(MBA)コース修了。大手IT会社の新規事業開発部を経て、北海道岩内町のブランド茶漬け「伝統の漁師めし・岩内鰊和次郎」をプロデュース。現在、合同会社いわない前浜市場CEOを務める。BSフジサンデードキュメンタリー「今こそ鉄路を活かせ!地方創生への再出発」番組監修。

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(経済ジャーナリスト 櫛田 泉)
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