家を購入するなら、マンションと戸建てのどちらがいいのか。長年「住みここちランキング」に携わってきた麗澤大学教授の宗健さんは「マンションか戸建てかの結論は、最終的には自分が望む暮らし方と好き嫌いで決まる。
それぞれのメリット・デメリットを紹介しよう」という――。
■「マンションvs.戸建て」の結論は出せない
持ち家vs.賃貸論争のように、マンションか戸建てかにも賛否両論がある。
都心マンションの資産価値の高さからマンションを推す人もいれば、区分所有の合意形成の難易度が高いことが将来のリスクになるという点を強調して戸建てを推す人もいるが、そんなに簡単に優劣が決められるものではない。
持ち家か賃貸かについては、買えるのなら持ち家のほうがメリットが大きいというのが筆者の一つの結論だが、マンションか戸建てかには、どちらがいいという汎用的な結論はない。それは、主に以下の理由による。
① そもそも場所によってはマンションがない。戸建ての場合は東京都千代田区でも中央区でも港区でもあるにはあるが、例えば、北海道旭川市に近く、いい部屋ネット街の住みここちランキングで上位にランクインしている東川町や東神楽町には、都会に住んでいる人がイメージするようなエレベーターが付いている5~6階建てのマンションはない。ないものは選べないから、戸建てとの比較が成り立たない。
② 逆に家族で住めるような比較的広い戸建てに住もうと思ったら買うという選択肢しかない場合が多い。ファミリー向けの賃貸マンションはどこにでもそれなりにあるが、戸建てのファミリー向け賃貸物件は非常に少ないからだ。このため、戸建てとマンションの比較は持ち家が前提になり、賃貸では比較そのものが成り立ちにくい。
③ 持ち家であれば、マンションも戸建ても両方が選べる地域もあるが、持ち家vs賃貸と違って、経済合理性での比較よりも、その人の暮らし方による好みの差が大きく、優劣よりも好き嫌いによる面が強い。

それでも、実際に暮らしてみるとマンションと戸建てには様々な違いがある。考えられる全ての項目を網羅しているわけではないが、主な違いを順番に解説していこう。
■建物の構造による住み心地の違い
マンションは共同住宅だから共有の設備がある。戸建ては基本的には単独家族が暮らす建物だから専有部しかない。
そのため、建物の構造の違いによる住み心地は随分違う。
マンションは上下左右に区分所有の他の部屋があり、それが断熱効果を生み暖かい(角部屋や1階、最上階もあるが戸建てよりも暖かい)。一方、戸建ては断熱性能が上がってきたとはいえマンションよりも寒く感じることが多い(古い戸建てはなおさら寒い)。
戸建てはリフォーム、リノベーションしようと思ったら、サッシもドアも外壁も全て所有者の意思で実行できる。一方、マンションの場合は、室内は自由に手を入れられるが、窓・ドアは共用部なので断熱性能を上げようと思っても自由に交換することができない。そのためリノベーションマンションでは2重サッシになっていることも多い。
■駅からの距離、共用部、ゴミ出し、ペット…
マンションは、用途地域の制限等もあり都市部では駅近くに立地していることが多いが、戸建ての場合は駅からやや距離がある場合も多い。
戸建ては玄関を出ればそのまま外だが、マンションは構造上、外に出るまでに少し時間がかかる。
タワーマンションの上層階では、エレベーターの待ち時間を含めると敷地の外に出るまでに10分くらいかかる場合もある。
一部のマンションでは、来客用駐車場やパーティルーム、ソファのあるロビーなど共用部が充実しているが、戸建てにはそういった共用部はない。
戸建てには共有設備のための費用はかからないが、マンションの場合には使う頻度にかかわらず共用部の費用負担がある。
24時間いつでもゴミを捨てられるマンションもあるが、戸建てではゴミ出しの曜日が決まっている場合が多い。
戸建ては、ゴミ出しのための費用はかからないが(共同のゴミ捨て場の掃除当番がある場合はある)、マンションの場合にはゴミ置場の管理費用負担がある。
マンションは構造上エレベーター利用が前提であることから、ペットについては一定の規則があり大型犬はほぼ飼えないが、戸建てなら飼える。
タワーマンションは特にそうだが、マンションは眺望が良いことが多い。戸建てだと眺望や日当たりの条件が良くないことも多い。
マンションと戸建てはその立地と建物構造の違いによって、個々人の評価が分かれるため、どちらがいいとは一概には言えない。
■隣近所との関係性もだいぶ違う
マンションは同じ建物に、複数の住民が住んでいるため、建物が独立している戸建てとは隣近所との関係性も随分違う。
マンションには、管理組合があり理事が輪番制となっていたりするため関与が避けられないが、戸建てに管理組合はない(その代わり、ゴミ当番があることもある。町内会は最近ではほぼ任意加入になっている)。

戸建ての場合には、隣近所の人とは会釈する程度で済むことも多いが、マンションは、隣との物理的距離が近いため(玄関が2~3mの距離にあったりする)、外出のときなどに顔を会わせたり、エレベーターで一緒になったりすることもある。
戸建ては建物が独立しているため、隣近所とはお互いに音にそこまで敏感になる必要はないが、マンションはその構造上、上下左右の他の部屋と接しているため、遮音材等が入っていたとしても音についてはある程度の配慮が必要になる。
■コミュニティの形成しやすさも違う
マンションの場合には生活マナーが悪い住民がいた場合、管理組合が注意することもあるが、戸建ての場合は隣近所にマナーが悪い住民がいても、誰かが何かをしてくれるわけではない。
戸建ての場合は、玄関前や目の前の道路を掃除することがマナーになっていてそれが一定の負担だが、マンションの場合には管理組合が掃除するため住民負担はない。そのかわりマンションでは相応の管理費負担がある。
新築マンションの場合は、全ての住民が新しく引っ越してきた人たちなので、適度な距離感のある人間関係になりやすい。また、昔からずっと地元に住んでいる人が入居するケースは多くないため、昔からの慣習などに縛られるようなことはあまりない。
戸建ての場合は、新しく開発されたいわゆるニュータウンの新築の場合はマンションと同じだが、数戸の分譲などの場合は、周りは全てずっと昔から住んでいる人たちということもある。
近隣との人間関係は、例えば子どもが小さい時には、マンションのほうがコミュティを形成しやすいかもしれないし、逆に近隣との人間関係を避けたいのであれば戸建てのほうがいいかもしれない。ここも個々人の評価が分かれるからどちらがいいとは一概には言えない。
■管理費・修繕積立金の負担は大きい
家を買うときには物件の価格や住宅ローン金利が気になるが、マンションの場合は管理費や修繕積立金、駐車場料金にも目を配る必要がある。
マンションの管理費、修繕積立金の負担はかなり大きい。
戸建てでも修繕費用はかかるが、マンションよりも割安で、やるやらないも自分で決められる(マンションではエレベーターの保守費、修繕費が意外と大きく、大規模一括修繕も最適化されているとは言えない)。
クルマを持っている場合、マンションだと駐車場代が毎月かかるが(駐車場所有権がついているマンションもある)、戸建ての場合には駐車場を作っておけば駐車場代はかからない。夫婦だけの時はクルマはいらないと思っていても、子どもが生まれると意外とクルマが必要になることも多いから注意が必要だ。
地方や郊外で2台クルマが必要な場合は、駐車場負担の差はさらに広がる。
例えば、マンションと戸建ての管理費、修繕積立金、駐車場代の差額が月5万だとする。月あたりの支払額から計算すると、35年ローン・金利1.25%の場合の借り入れ額では約1700万円に相当する。簡単に言えば、同じような物件なら、マンションよりも1700万円高い戸建てを買っても毎月の負担はあまり変わらない、ということになる。なお、固定資産税は同じような広さだとマンションのほうが戸建てよりも年間数万円から10万円程度安い。
マンションの管理費は、その人の価値観によって評価が変わる。ゴミ出しや掃除の手間が少なく、オートロックがあって玄関のカギをかければ出かけられるマンションの気楽さをどのように評価するかという点だ。そういった手間をいとわない人には、戸建てのほうが管理費のかからないことの評価が高いかもしれない。
■都市部と地方では資産価値をめぐる状況が異なる
近年の都心部のマンションは高騰しているが、戸建ても地域によっては高騰している。
しかし、都市部と地方では状況がだいぶ違う。
新築マンションの高騰が続いており、東京カンテイの調査結果によれば、24都道府県で2024年新築マンションの価格が年収の10倍を超えている。首都圏では東京都が17倍、神奈川県が14.04倍、さいたま県が12.51倍、千葉県が10.70倍となっている。
国土交通省の不動産価格指数を見ると、2020年8月に対して、5年後の2025年8月の価格は、全国でマンションが1.42倍(152.9→218.6)、戸建てが1.17倍(101.4→118.5)となっており、マンションの高騰が目立っている。関東では、同様にマンションが1.47倍(145.6→213.6)、戸建てが1.23倍(98.9→122.4)となっている。
一方、SUUMOなどの不動産ポータルサイトを検索するとわかるが、地方や郊外では、200~300万円くらいの中古マンションや中古戸建てが多数掲載されている。この価格になると資産価値がどうかを考える余地はあまりない。数百万円払えば、その後は家賃がいらない、というように考えるべきだろう。
■どこまで資産価値を考慮するか
未来は予測できないが、高騰の目立つマンションは資産価値が高いといっても、買える層が限定されてきており、現実的には戸建てのほうが入手しやすい、と言えるだろう。
ただし、価格が上昇しているといってもそれはあくまで含み益であり、売却しなければその利益は現実のものにはならない。そして、買い換えようと思っても買い換え対象の物件価格も上昇しているわけで、売却益を手元に残そうと思えば、狭い物件にするか物件価格の安い地域を選ぶしかない。
そして、日本では一生の引っ越し回数が平均3.24回であることを考えれば、住んでいるマンションや戸建ての価格上昇があったとしても、それを現実の利益にする人はあまり多くない、ということになる(これは逆もそうで、住宅価格が下落したからといって、その下落分の現金が流出していくわけでない)。

また、マンションは、区分所有であり建替えには原則として区分所有者の5分の4以上の賛成が必要であることから、将来は廃墟化するリスクがあるとして、マンションを強く否定する人もいるようだ。しかし、国土交通省の資料にあるように、2023年時点で137万戸もある築40年以上のマンションで実際に廃墟化したマンションがほぼないこと、政府としても制度整備を進めようとしていることを考えれば、そこまで大きなリスクにはならない可能性が高い。
このように考えれば、資産価値についてはことさら気にする必要はないかもしれない。
■結局は好き嫌いで決まる
まとめると、金銭的な面では、都市中心部ではマンションのほうが資産価値の上昇が大きいこと、戸建てのほうが管理費、修繕積立金、駐車場料金の負担がないことという2点が大きな違いで、暮らし方そのものは共同住宅と戸建て住宅という構造の違いによるところが大きい。
また、マンションしか選べない地域、戸建てしか選べない地域、両方選べる地域があり、駅からの距離も傾向が違う。そして、地域によって雰囲気や教育環境も随分違う。
隣近所との関係も微妙に違うし、大型犬は戸建てでしか飼えないことが多い。
本稿は、マンションと戸建ての良いところ、良くないところを箇条書きにしてあるような構成になっているので、一読してみてどちらが自分の暮らし方に合いそうか、チェックリストとしても使える。
結局、マンションか戸建てはあなたの暮らしかたと好き嫌いで決まることなのだ。

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宗 健(そう・たけし)

麗澤大学工学部教授

博士(社会工学・筑波大学)・ITストラテジスト。1965年北九州市生まれ。九州工業大学機械工学科卒業後、リクルート入社。通信事業のエンジニア・マネジャ、ISIZE住宅情報・FoRent.jp編集長等を経て、リクルートフォレントインシュアを設立し代表取締役社長に就任。リクルート住まい研究所長、大東建託賃貸未来研究所長・AI-DXラボ所長を経て、23年4月より麗澤大学教授、AI・ビジネス研究センター長。専門分野は都市計画・組織マネジメント・システム開発。

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(麗澤大学工学部教授 宗 健)
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