日に日に寒さが増し、風邪やインフルエンザなどで体調を崩す子どもが増えている。小児科医の森戸やすみさんは「これからの年末年始は医療機関が休みになるので、子どものさまざまな急病にどう対処したらいいかを保護者の方に知っておいてほしい」という――。

■持病がある場合は薬があるかどうか確認
毎日、寒いですね。この季節にはインフルエンザウイルス、新型コロナウイルス、RSウイルス、ノロウイルス、ロタウイルスなどの感染症が流行します。最近は感染症の季節性が薄れてきているので、本来は夏に流行する溶連菌やマイコプラズマが流行することも。
お子さんがこれらの感染症にかかった場合、通常ならかかりつけの小児科を受診するのが一番です。でも、これからの年末年始は医療機関が一斉に休みになるので、体調を崩すと困りますね。どのように備えておくといいかを一緒に確認しましょう。
まず、持病の薬が必要な場合、年明けまで足りるかどうかを確認してください。年末年始をまたぐ場合、手持ちの薬が残っていても早めに処方してくれたり、いつもより長く処方してくれたりします。旅行したり帰省したりする予定のある人は特に、それも伝えて薬をもらっておきましょう。
ただし、たまに診察室で「子どもが風邪をひいたときのために薬をください」と言われることがありますが、保険診療の処方薬はあらかじめ出すことはできません。風邪にそなえて薬を持っておきたい場合には、市販のOTC医薬品を買いましょう。
■年末年始でも受診できる医療機関はどこか
では、年末年始に受診が必要になったらどうしたらいいでしょうか。
日中は地域ごとに「当番医」といって休日診療を行うクリニックや病院が決まっているので、市区町村のWEBサイトなどで調べて行きましょう。
そうした医療機関がやっていない夜間や早朝は、小児科のある中核病院や大学病院が受けてくれることが多いでしょう。ただ、あまり緊急性がないときは、当番医などの医療機関が開くまで自宅で様子をみたほうがいいかもしれません。救急外来は緊急性の高い患者さんが多いので待ち時間が長く、人員が限られるので専門医がいないかもしれず、検査ができない場合もあり、薬も最低限しかもらえないためです。
それでも、生後6カ月以下の子が発熱したり、ミルクや母乳が飲めない状況になった場合、それ以上の年齢でも親御さんが「いつもと違う」と思うほど様子がおかしい場合などは必ず受診しましょう。受診したほうがいいかどうかわからない場合、どう対処すればいいかわからない場合は、子ども医療電話相談の「#8000」に相談しましょう。
救急車を呼んだほうがいいのは、意識がない、呼びかけに答えない、息をしていない、顔色が悪くなっていく、けいれんが5分以上続く場合などです。もちろん、出血や火傷などがひどい場合も救急車を呼びましょう。救急車を呼ぶべきかどうかわからない場合は「#7119」に電話して相談してください。
■子どもが高熱を出したときにできること
実際に子どもが体調を崩したら、家ではどう対処したらいいでしょうか。まずは子どもが高熱を出した場合から。生後6カ月以上の子どもの場合、熱があるだけ、熱があっても元気な場合は、自宅で様子をみても構いません。
つらそうな場合だけ、日中に当番医などを受診してください。
お子さんが寒がっていたら室温を上げたり厚着をさせたりして温め、暑がっていれば少し室温を下げたり薄着にさせたりしましょう。汗をかけば熱が下がるわけではなく、病気が治ると汗が出て熱が下がります。子どもが寝ない場合は、いつでも横になれるよう部屋で静かに遊ばせてください。お風呂は入っても構いませんが、疲れるので無理をしないようにしましょう。
お子さんがつらそうなときは、以前処方された解熱鎮痛薬、OTCの解熱鎮痛薬などを使っても構いません。内服薬でも坐薬でも大丈夫ですが、子どもにはアセトアミノフェンが安心です。使用の目安は、38.5℃以上の熱がある場合、あるいは頭痛や関節痛などのつらさがある場合です。
解熱鎮痛薬は、高熱があっても元気なら使う必要はありません。昔は高熱が続くと耳が聞こえなくなったり脳症になったり重症化すると考えられていましたが、今では最初から違う病態だとわかっています。
■インフルエンザで最も心配なのは異常行動
インフルエンザを疑う場合も、お子さんがつらそうであれば、日中に当番医にかかりましょう。熱が出てから6時間経っていないとインフルエンザ迅速検査で正確な結果が出ないことがありますが、つらそうであればすぐ受診して構いません。
周囲でインフルエンザが流行していたり、家族内にインフルエンザの人がいたり、本人の症状が明らかにインフルエンザである場合、検査をせずに臨床診断される場合もあります。
発熱から48時間以内であれば、タミフル、イナビル、リレンザ、ゾフルーザなどの抗インフルエンザ薬を処方してもらうことができます。必要に応じて、吐き気や鼻水などさまざまな症状に合わせた薬が出ることもあるでしょう。
以前、インフルエンザにかかった10代の子が突然立ち上がって走り出す、窓を開けて飛び降りようとするなどの異常行動を取り、タミフルに関連があるといわれましたが、その後に否定されました。こうした異常行動は、インフルエンザにかかった初めの2日間にどの年齢の子でも起こりうるので、なるべく目を離さないようにしてください。子どもに多いインフルエンザ脳症も、インフルエンザの発症から数時間~1日の間に意識障害やけいれんが起こって気づかれることが多いので要注意です。
海外ではインフルエンザにかかっても受診しない国も多いですが、それは医療機関へのアクセスが悪い国が多いため。インフルエンザが軽い疾患だからではありません。
■嘔吐下痢の場合は水分補給が何より大事
では、子どもが嘔吐や下痢をしたり、腹痛を訴える場合はどうしたらいいでしょう。乳幼児の場合は、血便が出た、泣いたり泣き止んだりしながらだんだん元気がなくなってきた、繰り返し吐く、顔色が悪くぐったりしてきたというときには、腸管の一部が後の腸管と重なる「腸重積」かもしれません。すぐ救急にかかりましょう。
子どもには少ないものの急性虫垂炎になると、おなかの動きが悪くなって吐き、発熱し、おなかが痛くなります。
大人の場合は時間が経つと右下腹部が痛くなるものですが、子どもは全体的に痛いということが多いので、これも医療機関へすぐ行きます。
そこまでひどい症状ではないものの、嘔吐や下痢をしているときは、5mlの経口補水液を5分おきに飲ませます。小さじ1杯、ペットボトルの蓋に入るくらいが5mlです。嘔吐がおさまってきたら、経口補水液を飲ませる間隔を縮めていきます。そのときも一度にたくさんではなく、一口ずつ5分ごとを3分に1回、1分1回にといったように頻回にしていきます。1日に飲ませる量の目安は、1歳未満の乳児では体重1kgあたり30~50ml、幼児では300~500ml、学童以上の人は500~1000mlほどです。
通常、嘔吐は1日経つとおさまるので、食事ができるようになったら食べさせます。お粥が好きだったらそれでもいいのですが、食べ慣れた料理で構いません。ウイルス性胃腸炎の場合、吐瀉物や排泄物から他の人が感染するので、汚れたものは捨ててしまうか、家庭用漂白剤で拭くか浸け置きしてから洗濯するなどします。
■咳や鼻水、喘息、アレルギーが起きたら
子どもの咳や鼻水がひどい場合はどうしたらいいでしょうか。気管支喘息のある子が発作を起こした場合、吸入をしたり、すぐ救急外来にかかったりしましょう。その他の場合は鼻水をとってあげたり、部屋を暖かくして加湿したりしてもつらそうだったら、日中に当番医などにかかりましょう。
つらそうというのは、夜中に何度も起きるとか、食事量が普段の半分以下、といったことを目安にするといいと思います。
また、アレルギーがある子は、旅先や実家でいつもと違う食事を食べたりしたときに思わぬ症状が出るかもしれません。重いアレルギーである「アナフィラキシー」は食物によるものが多く、以下の症状が出ることを知っておいてください。皮膚の症状(かゆみ、赤み、むくみ、蕁麻疹)、呼吸器の症状(鼻水、呼吸が苦しい、咳き込む)、消化器の症状(腹痛、嘔吐、下痢、血便)、粘膜の症状(口の中がイガイガする、まぶたや口唇が腫れる、かすれ声になる)です。
原因と疑われるものを食べて数時間以内にこういった症状が2つ以上出るようなら、アナフィラキシーかもしれません。すぐに医療機関に行きましょう。アナフィラキシーで血圧が低下すると、倒れたり意識がなくなったりしますから、そういった際には迷わず救急車を呼びます。
■帰省や旅行をする際に気をつけたいこと
最後に、年末年始は帰省や旅行をする人も多いでしょう。体調の悪い子どもを連れて移動するのは親も大変ですし、子ども自身にも負担になりますから、少し前からよく食べさせて寝かせるなどして、体調を整えましょう。
休暇前、診察室で親御さんに「移動中に子どもを眠らせるための薬をください」と言われることがあります。しかし、子どもに静かにしていてほしいという理由で薬を処方することはできません。まれに子どもが眠くなるように風邪薬などを飲ませる人がいるようですが、眠いのに眠れないという状態になったり、意識の抑制がとれたりして、むしろ激しく泣き続けるかもしれません。
自己判断での投薬はやめましょう。
そして、旅先・帰省先には、必ず常備薬、携帯用の鼻水を吸いだす器具などを持っていくことをおすすめします。国内の場合は、マイナ保険証あるいは資格確認書も必ず持っていってください。2026年3月までは暫定措置がとられていますが、原則として従来の健康保険証は使えません。受診の際には、母子手帳やお薬手帳もあったほうがいいでしょう。乳幼児医療証などは、住んでいる都道府県、市町村でしか使えないので、行先によっては必要ありません。できたら滞在先の近くの当番医、救急病院を調べておくと安心ですね。

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森戸 やすみ(もりと・やすみ)

小児科専門医

1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。

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(小児科専門医 森戸 やすみ)
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