■このままでは生活が破綻してしまう
国民健康保険料(以下、国保料)が高すぎる。
私の居住地(東京都内)では、40代大人1人と子ども1人の2人世帯で所得600万円(給与収入に換算すると約800万円相当)の場合、なんと「年間約99万円」の国保料だ。
3年前の令和4年では同所得で年間約88万円の国保料だった。それでも十分に高いが、3年で11万円も上がっている。
日本で約2500万人が加入している国民健康保険は、誰しも一生に一度はお世話になる可能性が高い。しかも定年退職後に国保に加入する人が多いが、それは人生で最も収入が低い時期にあたる。その保険料が、他の公的健康保険と比べて驚くほど高いのだ。
国民健康保険には、都道府県と市町村が共同で運営する国保(以下、市町村国保)と、職業ごとに組織される国保(以下、職業国保)の2種類がある。私は3年前まで、市町村国保に加入していた。だが、所得600万円(売上から経費を引いた額)に対して年88万円の国保料を請求され、このままでは生活が破綻すると考え、職業国保(文芸美術国民健康保険組合)に移行した。
■所得400万円では約71万円の国保料
この保険料は収入にかかわらず均等で、加入当初は月額4万円未満(年齢等によって異なる)。年にして44万円の支払いであり、市町村国保と比べておよそ半額であった。ところがここも、3年前と比べて13万円も値上がり、現在年間57万円の国保料を支払っている。
今年は来年出版する本が3冊あり、そのために時間を費やしている関係で、おそらく今年の所得は400万円台(給与収入に換算すると約550万円)だろう。
その中で年間57万円の国保料の支払いは、とても重い。けれども市町村国保の場合でシミュレーションすると、所得400万円で約71万円の国保料だ。一層高くなってしまう。だから職業国保のままでいる。
それにしても所得400万円で国保料71万円とは……異様な高さではないか。
■「4年間で7万円の値上げがあった」
東京都に限った話ではない。大阪府では4人家族で世帯所得200万円に対し年間45万6123円の国保料と試算されている(大阪社会保障推進協議会より)。名古屋では所得276万円(給与収入400万円)の30代夫婦と小学生2人で4人世帯の場合、年間41万円の国保料だ。
愛知県社会保障推進協議会の澤田和男氏によると「4年間で7万円の値上げがあった」という。澤田氏から提供された下記の資料をみると、近年の国保料の上昇や、中小企業で働いている人が加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)との差が一目瞭然だ。
また、これは30代夫婦の事例のため、介護分がプラスされる40代以上の国保料は同じ所得でもさらに高くなる。約6万2000円プラスされ、年収400万円で国保料は約47万6000円だ。
しかも名古屋市は独自控除があるため、これでも保険料は低い。東京都在住で40代夫婦、小学生の子ども2人の4人世帯の場合、世帯年収400万円で国保料が年間約55万円にもなるのだ。
低所得者だけでなく中所得者も、国保料の負担がこれまでになく増しているのが現状だ。
■「国保は、所得の低い人の集まりなのです」
なぜ国保料が高くなってしまうのか? といえば、加入者の年齢層が高く、医療費が高くなりやすいからである。加入者の平均年齢が「協会けんぽ」は38歳、大手企業が運営する「組合健保」35歳、公務員と学校職員が加入する「共済組合」33歳という中で「市町村国保」は54歳。定年後に国保に加入する人が多いと述べたが、加入者の中で65~74歳の割合が44.8%。この層は病気を抱えやすく、医療費がかかりやすい。実際に加入者ひとりあたりの年間にかかる医療費が、国保は先に述べた3つの公的医療保険の倍である(協会けんぽ20万円、組合健保と共済組合は18万円に対し、市町村国保は40万円)。
地域に医療費が多く発生すれば、それだけ保険給付費(自己負担額以外の費用)も上昇し、それに応じて国保料が高くなる。
「そのうえ国保は、所得の低い人の集まりなのです」
と、佛教大学社会福祉学部准教授で、社会保障関連の著書を多数もつ長友薫輝氏が指摘する。
「国保加入者では無職の人が45%と、最も多い。また仕事をもつ人もかつてのような自営業者の割合は低いのです。
零細企業に勤めていて協会けんぽなどの社会保険に加入できなかったり、また勤労日数が少ない非正規職員のため社会保険の加入対象にならなかったりということで、国保加入者の平均月額所得は8万円、年にして96万円です。協会けんぽ加入者の平均所得は175万円、組合健保は245万円ですから、国保が圧倒的に低所得であることがわかります」
■全体で集めなければならない「総額目標」がある
ほかの公的医療保険よりも医療費はかかる。それを所得の少ない人で支えるのだから、当然国保料は高くなる。特に、国保加入者の中では所得が高いほうである所得200万円以上から、800万円以下の中所得者の負担感もすさまじい。
その理由のひとつが、上限額の引き上げだ。国保料の上限額は2022年度は+3万円、23年度は+2万円、24年度は+2万円、25年度は+3万円と、4年連続で引き上げられ、現在は109万円。先日、2026年度も1万円引き上げられることが決定し、来年度は上限額が110万円に。
上限額が上がるのは高額所得者がより多く負担するのだからいいじゃないか、と思ったら大間違いだ。
「限度額を引き上げると、その負担は加入者全員に及んでしまいます。他の被用者保険の保険料は『標準報酬月額』をもとに保険料が決まります。しかし、国保料の場合は全体で集めなければならない総額目標があり、上限を上げると連動してベースの保険料率が上がって、結果的に保険料が高くなってしまうのです。国保には収入や資産に応じて課す『応能割』と、収入などに関係なく一律に課す『応益割』があるからです」
■国の標準割合は「応能割50:応益割50」
さらに、専業主婦(夫)や子どもなどの無収入者にも、頭数だけで応益割がかかる。

「国の標準割合は『応能割50:応益割50』に設定されているため、例えば限度額1万円を引き上げると、応益割で5000円分、応能割で5000円分を引き上げることになります。限度額が上がるということは、低所得者を含む保険料も上がるのです」
今後も、国保料はさらに上昇する流れだ。
「生活保護受給者の医療費は、全額医療扶助で負担していますが、これを国保料に移行させるという案が毎年『骨太の方針』の脚注に記載されています」
生活保護費の半分を占める医療扶助を国保で面倒みよ、ということだ。
また国の方針で「都道府県で保険料水準の統一」が掲げられ、統一されれば現行より保険料が高くなる可能性が高い。
■保険料を無理なく支払える額にしてほしい
さらにこれは国保だけに限らないが、来年から始まる「子ども・子育て支援金制度」は、公的医療保険に上乗せされる形で徴収される予定である。
国保は、他の公的医療保険にはない応益割があり、子どもの数が多いほど負担が増す仕組み。つまりもともと「子ども分の保険料」を徴収している上、追加で「子ども・子育て支援金」も徴収するという、二重取り、三重取りも甚だしい。
もう成人したが、私も子ども2人を育ててきたし、子育て支援策は反対ではない。しかし、それを保険料に上乗せして徴収するのはどうかと思うのだ。しかも国保料に対する国庫負担金はかつてより大きく減っている。
「私は国庫負担金を引き上げ、支払える額にするべきだと思います。このままでは国保は保険料が高い、けれども“劣等処遇”の社会保障になってしまいます」
私もそう思う。
保険料を無理なく支払える額にしてほしい。
■「所得600万円で100万円? たまらないね」
そう言うと「大病をしたら、健康保険のありがたみがわかる」と指摘されることがある。だが毎月の国保料を支払う上に、高額療養費の自己負担限度額を支払うとなると、いくらになるかご存知だろうか。所得600万円の場合、毎月16万円である(年99万円→毎月約8万円の国保料+高額療養費の自己負担限度額8万円)。毎月16万円以上を超えた額が手元に戻るといわれても、毎月16万円以上払い続けられる財力がない。命と天秤にかけてもだ。それはきっと私だけではないだろう。そうなるともはやセーフティネットとは言い難い。
さて今月8日に衆議院第二議員会館にて、「国民健康保険をめぐる国会議員懇談会」が開かれた。
「東京で所得600万円になると、年間約99万円の国保料になる。高すぎる」ことを私が訴えると、話を聞いていた参議院議員の上田清司氏(国民民主党)は「所得600万円で100万円? たまらないね」と驚く。
「所得200万円台で40万円の国保料も高いでしょう。
だいたい病気そのものの治療費は0歳から4歳まで23万円、それから20歳くらいまでは年間10万円くらい、20歳から少しずつ増えて55歳くらいで年間23万円くらい、70歳から年齢プラスの10万円といわれる。70歳だと80万円、80歳だと90万円の医療費がかかるということ。つまり、70歳未満は基本的にそれほど医療費はかからない。いやぁ、(その現役世代から集めた国保料は)どこに消えているのか……」
■協会けんぽなみに引き下げるのに必要な公費は5519億円
参議院議員の小池晃氏(日本共産党書記局長)はこう話す。
「国保料が高すぎるのはまさに間違いがありません。もともとは国保加入者のうち農林水産業4割・自営業者4割だったけれども、今は年金生活者が4割、非正規雇用者が3割です。いってみれば“貧困者の保険”になっている。構造的な問題に加えて、都道府県ごとの保険料水準の統一で、値上げの圧力もかかり、今後は子育て支援金の負担も入ってくるのでさらに引き上がるでしょう。事態が悪化する恐れもあります。一方で、私が10年前から訴えていた、子どもの保険料に対する軽減措置は前進しています。日本共産党としては国保に対して公費1兆円の投入を政策に掲げていますので、今後それが前に進むようにがんばっていきます」
「最低、5500億円(公費投入)ね。国保を協会けんぽなみにするのに」と、上田氏も再び口を開く。政府は今年、市町村国保の保険料負担率を協会けんぽなみに引き下げるのに必要な公費は5519億円と試算している。
「がんばっていきましょう」と上田氏は言った。「党派をこえて」と、小池氏も応じる。
だがこの懇談会に自民党議員や、社会保障改革を訴える日本維新の会の国会議員は、ひとりも参加しなかった。どうも「社会保障」という枠組みに「国保」が頭にないような気がしている。残念でならない。
■国民が一生に一度はお世話になる可能性が高い
最後に、本稿を執筆するのに私はずいぶん悩んだ。高い、高いとわめき、結局は「国庫負担金を上げてくれ」では、記事を出す意味がないような気がしたからだ。それを相談すると、『プレジデント』誌の星野貴彦編集長がこのように述べた。
「国保料が高すぎる、というのはおかしいと思います。例えば『最低賃金の月額相当の何割分を国保料率とする』などの基準が必要ではないでしょうか。健康保険のために、健康で文化的な生活が営めないというのでは本末転倒です」
確かにその通りだ。自分だけでなく、周囲の国保料の負担に苦しむ働き世代をみても思う。また先に述べたように国民が一生に一度はお世話になる可能性が高い健康保険のことだ。だからやっぱり何度でも言うしかない。国民健康保険料が、高すぎる。

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笹井 恵里子(ささい・えりこ)

ノンフィクション作家、ジャーナリスト

1978年生まれ。本名・梨本恵里子「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、プレジデントオンラインでの人気連載「こんな家に住んでいると人は死にます」に加筆した『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)、『老けない最強食』(文春新書)など。新著に『国民健康保険料が高すぎる! 保険料を下げる10のこと』(中公新書ラクレ)がある。

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(ノンフィクション作家、ジャーナリスト 笹井 恵里子)
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