※本稿は、岩城一郎『日本のインフラ危機』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。
■日本列島に張り巡らされた高速道路
日本での高速道路整備は、1956年に日本道路公団が設立、1963年に名神高速道路(栗東―尼崎間71.7キロメートル)が開通したのに端を発します。一方、首都高速道路は1962年に京橋―芝浦間4.5キロメートルが、阪神高速道路は1964年に土佐堀―湊町間2.3キロメートルが初めて開通しました。
さらに本州四国連絡橋は1988年に児島―坂出ルート(瀬戸大橋)、1998年に神戸―鳴門ルート(明石海峡大橋)、1999年に尾道―今治ルート(瀬戸内しまなみ海道)がそれぞれ全線開通し、3ルートが揃いました。
2005年には日本道路公団が民営化され、NEXCO東日本、中日本、西日本の3社が設立されました。同年、首都高速道路株式会社、阪神高速道路株式会社、本州四国連絡高速道路株式会社にそれぞれ民営化されました。現在、日本の高速道路網は総延長約1万4000キロメートルに達し、全国の物流と人の移動を支える重要なインフラとなっています。
■大規模な更新・修繕費を利用者が負担
一方、高速道路は交通量が多く、大型車の混入率も高いため、一般道に比べ過酷な環境で長年にわたり使用され続けてきました。高速で走行する上、最重要路線として容易に通行止めが許されないこともあり、寒冷地においては降雪時に凍結防止剤として路面に塩が大量に散布されてきました。
このような影響により、近年では高速道路構造物の劣化が顕在化し、大規模な更新や修繕を余儀なくされる状況になってきています。
そこで2014年6月に道路法などの一部改正を受け、更新需要に対応するため、高速道路の料金徴収期間を15年延長することとし、これを財源に同年度より大規模更新・修繕事業がスタートしました。
■全国各地で「リニューアル工事」を実施
NEXCO3社で管理している高速道路構造物のうち最も劣化が深刻化している部材は床版です。特に年数が古く、交通量の多い、東名高速道路、名神高速道路、中央自動車道などは床版の劣化が著しく、その更新工事に追われています。
さらに、東北自動車道など寒冷地に建設されている高速道路においては交通作用の繰り返しに加え、凍結防止剤散布による影響も加わり、床版の早期劣化が顕在化し、いたるところでリニューアル工事と称した床版の大規模更新工事がおこなわれています。
2023年1月に公表されたNEXCO3社の更新計画によると、定期点検および変状箇所における点検技術の高度化を踏まえた詳細調査の結果、著しい変状が確認され新たに更新が必要な箇所が約500キロメートルあると判明し、対策として約1兆円の更新事業が必要とされています。
このうち約半数の4500億円が床版の取替工事に必要と試算されており、いかにこの問題が深刻化しているかがうかがえます。
■年間15億台が通りすぎる「負荷」
一方、首都高速道路株式会社や阪神高速道路株式会社では、主に重交通下における構造物の劣化が懸念されています。たとえば1日10万台の交通量がある路線では、年間で約3000万台、供用から50年経っていると合計15億台もの交通荷重が作用していることになります。
また、首都高速道路では大型車の交通量が東京23区内の一般道路の約5倍となっており、大型車によるダメージが蓄積している状況です。
こうした都市内高速道路ではコンクリートよりも鋼で造られた橋が多く、交通作用の繰り返しによる疲労によって、鋼部材に亀裂が入るなどの損傷が顕在化しています。
海水が作用する運河などに建設された高速道路では、塩害による劣化も顕在化しており、現行の高速道路を切り回し、渋滞を極力抑えながら新たな構造物を構築し、完成後、切り替えるなどの大規模な更新工事が進められています。
■日本橋を60年前の姿に戻す大工事
首都高速道路で近年話題になっているのが、日本橋付近の地下化工事です。
日本橋川と日本橋の上空を通る首都高速道路は1963年に開通しました。当時すでに建物が密集していた東京都心部においては、急速に高速道路整備を進めるため、川や道路などの公用地の上空を使用して建設が進められていました。その結果、日本橋の上を高速道路がまたぐことになったのです。
しかしながらこの構造物も60年が経ち、損傷が顕在化し始め、抜本的な対策が必要となってきました。一方、このエリアは歴史上・景観上、重要な立地のため、これまでにも日本橋周辺のあり方について議論が続けられてきました。
このような経緯から、2014年にこの区間も含めた首都高の大規模更新計画が策定されるとともに、2016年には日本橋周辺のまちづくりに関する取り組みが、国家戦略特区の都市再生プロジェクトに追加されました。
■10年後に地下化、15年後に高架橋を撤去
このことをきっかけに、日本橋周辺のまちづくりと連携し、首都高の地下化に向けた検討がおこなわれ、2019年に神田橋JCT―江戸橋JCT間を地下ルートで整備することが決定しました。今後は、2035年頃に地下化工事が完成し、2040年頃に高架橋の撤去工事が完了する予定です。
撤去が完了すれば、歴史ある日本橋の上空を覆う構造物がなくなり、日本橋の景観が新しくなります。その結果、日本橋川周辺の景観や環境の改善が図られ、新しい日本橋の「まち」へ生まれ変わり、地域の魅力が増すことが期待されます。
■再劣化と再補修を繰り返す“もぐらたたき”
国や都道府県で管理する直轄国道、一般国道、都道府県道では、一般に高速道路ほど交通量、大型車混入量、凍結防止剤散布量が多くないため、そこまで劣化が進行していません。
しかし、国道や都道府県道では、高速道路に適用されている大規模更新事業のような予算上の仕組みがないため、通常の維持修繕費でメンテナンスを続けている現状にあります。
その結果、再劣化と再補修を繰り返す、いわゆる“もぐらたたき”が続いている路線も見受けられ、大きな課題となっています。今後こうした問題を改善するための予算を生み出す方法について、民間資本によるメンテナンスの事業化なども視野に入れた抜本的な対策を検討する必要があるように思います。
さらに市区町村、特に人口が3万人を下回るような小規模自治体では、道路や橋梁のストックは多い一方で、予算不足やメンテナンスに携わる人材不足が相まって、今後大きな問題を引き起こす可能性があります。
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岩城 一郎(いわき・いちろう)
日本大学工学部工学研究所長・土木工学科教授
1963年生まれ。博士(工学)。東北大学大学院修士課程修了後、首都高速道路公団、東北大学を経て現職。コンクリート構造物の高耐久化やインフラのメンテナンスを専門とし、地域住民との協働による「橋の歯磨きプロジェクト」に取り組む。元土木学会誌編集委員会委員長。土木学会論文賞・技術賞、インフラメンテナンス大賞国土交通大臣賞など受賞。編著に『新設コンクリート革命』『インフラメンテナンス大変革』(ともに日経BP)など多数。
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(日本大学工学部工学研究所長・土木工学科教授 岩城 一郎)

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