なぜインターネット上には偽情報や誤情報が多く飛び交うのか。中央大学教授の岡嶋裕史さんは「人々にとって情報が真実である必要はなく、自分の欲望に合ったものを好む。
刺激的な内容であるほどリポスト数・いいね数を稼ぐことができる。問題なのは、炎上を“延焼”させる共犯者が存在することだ」という――。(第3回)
※本稿は、岡嶋裕史『子どものSNS禁止より、大人のX規制が必要な理由』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
■「いいね」数を稼ぐのに真実である必要ない
Xでの拡散に真実は必要ありません。利用者は自分の欲望に合致した情報のみを摂取します。火種がなければ、あるように見せかける非実在的炎上を演出してもいいかもしれません。コミュニケーションの内容は現状においてどうでもよく、コミュニケーションをした事実に人は依存しています。
このゲームに熱狂する人は多いので、タイムラインは驚くべき速さで流れていきます。ポストの全文を読む人は多くはありません。そもそもヘッドラインさえも読んでいないかもしれません。この状況で真実はいらないのです。
ニュースサイトが本文とは逆の結論に読み取れる釣り見出し(クリックベイト)をつけてページビューを稼ぐように(「旧ジャニーズ、女性アイドルに手を出していた」→女性タレントが所属していたこともあった、が記事の内容)、間違いを助長するような刺激的な書き出しや、場合によっては純度100%の捏造でも、ページビュー、「いいね」、リポスト数を稼げます。

「社会に爪痕を残す」というやつです。アテンションエコノミー*のもとでは悪名でも価値がありますし、多様化した社会では、どんなことをしても一定数の擁護者を得ることができるでしょう。

※アテンションエコノミー:情報過多の状況において、人に注意を向けてもらうことの稀少性を表現した言葉
■攻撃的な言葉であればあるほど良い
虚偽や誇張がばれても謝らずに(むしろ謝るとデジタルタトゥー*になって残ります)しばらくおとなしくしていれば、情報の洪水の中で多くの人にとっては忘却の彼方の出来事になります。これを許している状況をメディアリテラシーの低さと捉えることは簡単ですが、大衆が過去に従来型メディアの振る舞いを見てXで模倣した結果と考えることもできます。

※デジタルタトゥー:ネットに公開した書き込みや画像などが、スクショなどでタトゥーのように半永久的に残り、完全に削除するのが困難な状態
これらを発信・拡散する言葉は攻撃的であればあるほどよいでしょう。強い言葉、端的に言えば人を怒らせるような言葉ほどアテンションを得られます。無難な発言は「いいね」を呼びません。
ですから発信者にとって炎上を回避することは、原理的に不可能です。どんな事物も可燃物になり得ますし、一度着火すれば正義を燃料としてしばらく延焼し続けます。もちろん、利用者のほうも見ているだけでは溜飲が下がりません。そう、何かをしないと承認の実感は得られないのです。
■“正しい情報”はつまらない
街中で声を荒らげている人に立ち向かったり、警察を呼んだりするのは勇気がいりますし、それを隠し撮りしてSNSに上げて発信者になるのもちょっと怖いです。

でも、それをリポストするだけであれば見かけ上のリスクはとても小さくなります。炎上コンテンツの完成です。
たとえばそれが誤情報であったときに、正しい情報をぶつけて真実を再拡散しようといった試みは、たいてい成功しません。真実のほうがつまらないからです。
エコーチェンバーと思い込みは強固で、論争の相手やそのフォロワーに真実の矢を放っても、エコーチェンバーの厚い殻を突き抜くことは叶わず、思い込みも修正されません。耳を塞いで発言をしているようなもので、訂正可能性は予め奪われています。
このリスクは生成AIの普及にともなって増大しています。
MITテクノロジーレビューは、AIが特定条件下において人間よりも他者を説得する確率が高いことを報じています*。誤情報とAIの組み合わせは、人を偏った考えへと誘導します。

https://www.technologyreview.jp/s/362300/ai-can-do-a-better-job-of-persuading-people-than-we-do/
また、人間を不快にさせないようにAIが調整された結果、シカファンシー(おべんちゃら)を示すことが課題になっています。それを計測する専用のベンチマークがあるほどです。これは利用者の思い込みをより強固にする方向へ作用するでしょう。

今のAIは選択的接触と確証バイアスを、SNS以上に容易に引き起こします。
■人が叩かれるのは極上のエンタメ
敢えて極端な、もっと身も蓋もない言い方をするならば、誹謗中傷のないXなんて誰も好きではありません。嘘のない2chを誰も好まなかったように、です。自分以外の誰かが叩かれるのは極上のエンタテインメントになり得ます。そこに「いいね」でのっかって、自分が承認され、居場所を得た気分になれるのであれば、さらにいいです。
お前はこの状態が好きなのかと問われれば好きではありません。でも、それは自分が教員で、攻撃する側よりはされる側になる可能性が高い職業だからです。
自分が10代のまだ何者でもない、アイデンティティの確立に苦しむ学生だったら、あるいは大人の無敵の人だったら、殴り返される心配のない高みからほしいままに他人を踏みにじり、そうすることで名も知れぬ世界の人々と連帯を図れる娯楽なんて、最高だと思うかもしれません。
これはプラットフォーム事業者と利用者の共犯関係によって成立している事態だと考えられます。
さらにオールドファッションなメディアもここに関わってきます。
■オールドメディアも炎上の共犯者
知名度のあるマスメディアやポータルサイトは、あまり悪質な飛ばし記事を書いてきませんでした(メディアの種類にもよりますが)。もちろん、そのメディアの信用に関わってくるからです。
下手を打てば部数減や広告減に結びつくかもしれません。
しかし、「ネットでこう言っています」と掲げる記事なら、出所が怪しかったり、中身が扇情的だったりする後ろめたさをネットのせいにしつつ、大衆を煽るコンテンツに仕上げられます。
度重なる炎上事件やその二次被害を受けて、ポータルサイトの出稿ガイドラインなどはたびたび更新されていますが、それでもいくつか観察するだけで、出所がネットの個人の投稿だけであるもの(噂話の域を出ないもの)や、見出しと記事内容がまったく異なる、アテンションを獲得するための強い恣意性を持つものを見つけることができるでしょう。
激しくなる競争環境の中で、従来型メディアもなりふり構わずページビューを稼ぎにいかないと存続が危ういのです。その状況には哀惜すら覚えますが、プラットフォーム事業者、利用者、ハクティビストに加えて、第四のプレイヤとして、炎上を延焼させる位置にいるのは間違いありません。
■質の悪いメディアは淘汰されるべき
多くのファクトチェック組織が、マスコミが報じる内容をファクトチェックの対象から外している、もしくは優先度を下げていますが、私はむしろ実施したほうがよいと考えています。質の低いメディアがあるのはもちろん、良質な情報を展開しているメディアを守ることにもつながるからです。凡庸な真実が、楽しい偽情報に対してアテンションが弱いのはともかくとして、やらないよりはずっとマシです。
情報技術による社会の可視化は、これまでその任を担ってきたマスメディアをも巻き込みました。権力の監視を大きな存在意義としたマスメディア自身が第四の権力になり、必ずしも大衆の味方ではないと大衆自身に認知されるようになりました。大衆がマスメディアを監視するようになったのです。
これはそうならざるを得なかったと言えます。
たとえば「主語が大きい」ことが糾弾の対象になるのであれば、マスコミこそ主語が大きいのです。市民の代弁者であったはずが、多様化が進んで市民が分散した結果、「マスコミの言うことは自分の意見をまったく反映していない」と感じる人が増えるのは自明です。
■マスコミの報道内容の真正性を証明すべき
マスコミ自身がエコーチェンバーにくるまれている側面もあるでしょう。
また、過去に社会で主役であった人たちや、頑張っているいい人たち(ゆえに弱者救済の対象にならず、放っておかれた感のある人。いい子は放っておかれるのは大人でも子どもでもいっしょです)の怨嗟(えんさ)は高まっています。そういう人たちに対して、「私はあなたたちを忘れていない」とぶち上げて一大勢力を築き上げたのがトランプですが、日本でもこの現象は早晩発生するでしょう。
であれば、マスメディアも当然、権力を糾弾して溜飲を下げる娯楽の攻撃対象になります。今まで攻撃する側だったマスメディアが、同じ戦いに防御側として参加しなければなりません。
マスメディア側に多くの問題があることは否定しませんし、是正されるべきですが、過剰な攻撃による誤情報、偽情報、悪意ある情報の拡散や、報道の萎縮などから大衆自身を守るために、マスメディアもまたファクトチェックの対象にして、その報道内容の真正性を証明すべきと考えます。

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岡嶋 裕史(おかじま・ゆうし)

中央大学教授

1972年東京都生まれ。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了。博士(総合政策)。
富士総合研究所勤務、関東学院大学経済学部准教授・情報科学センター所長を経て、現在、中央大学国際情報学部教授、中央大学政策文化総合研究所所長。『プログラミング教育はいらない』『大学教授、発達障害の子を育てる』『メタバースとは何か』『Web3とは何か』『ChatGPTの全貌』『ハンディ版 70歳から愉しむスマホとLINE』(以上、光文社新書)など著書多数。

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(中央大学教授 岡嶋 裕史)
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