※本稿は、中村淳彦『プロが教える 億を稼ぐ文章術』(夜間飛行)の一部を再編集したものです。
■「書いて稼ぐ」のは簡単なこと
結論からいうと、書いて稼ぐことは簡単にできます。
さらに、ライターは著作権を所持しているので、粘り強く書き続け、運がよければ「文章の複利現象」が起こって大きく稼げるでしょう。
文章の複利現象とは、自分が書いた文章が媒体から媒体にどんどんと転がって膨れあがる現象です。原稿料は最初に依頼されて書いた文章の対価だけでなく、形を変えて化けていくことが特徴です。
パソコンに打ち込んだ文字データがどんどんお金に変わる「文章の複利現象」は、ライターにとって大切なことなので具体的にお伝えします。
誰に依頼されて書いた文章でも、基本的にその文章の著作権は書いたライターにあります。
媒体に掲載されて原稿料をもらっても、書籍として出版しても、それは書き手の著作物を媒体や出版社が利用した対価という考え方です。誰かの著作物を勝手に利用することは認められないので、記事や文章を再利用するときは必ず書き手に許諾の可否の問い合わせがあります。人の文章を勝手に使用することは法律で禁止されているのです。
ライターのみなさんは“書いた文章は著作権が強く認められている”ことは知っておいてください。
■AIに勝つ文章、負ける文章
これからのライターに必要なのは、「書き手に明確な意思のある専門性」です。
そして、専門分野の著作物を「貯蓄していく」という考え方で文章を書いていきます。お金に化ける可能性がある著作物は「資産」と思っていいでしょう。
自分がこれからライターとして書いていく文章が資産だとすると、どんなジャンルをどんな切り口で書いていくかが、どれだけ大切かわかるでしょう。だから、著作物の資産化のスタート地点に立つには、「この分野をやる」という書き手の強い意思が必要なのです。
逆に、頼まれればなんでも書く、薄く広く「なんでも書けます」といったスタンスの書き手の文章は、この本が発売される頃にはすでに機械に置き換わっているかもしれません。
■「AV女優インタビュー」から始めた
強い意思を持って自分の専門にしている分野の取材、執筆を続けると、その分野に嫌でも詳しくなります。必然的に人脈も広がります。専門分野のキーパーソンたちと会話をすると、思わぬ最先端情報も入ってきます。日々、専門的な知識が増えていくわけです。
それを執筆するにつれ、文章のスキルは上がってコンテンツは良質になります。
そして、続けていくほど、自分の著作物は増えていきます。
人から聞いたことを文章にしたコンテンツが、最初は媒体からの単利な報酬だけでも、継続していくうちに資産となり、なにかがきっかけとなって複利現象が起こります。
筆者は自他ともに認める最底辺の、男性娯楽誌のAV女優インタビューから人物取材を始めています。報酬は長年、掲載雑誌からの原稿料だけでした。その後、雑誌が廃刊しても「カラダを売る女性の社会病理」を専門にして取材して書き続けました。
そうするうちに、AV女優から風俗嬢、売春婦、パパ活女子、貧困女子、毒親被害者、虐待被害者と、取材対象を広げることになったのです。
メディアの原稿依頼は、ライターの専門性を軸にして、その書き手がその分野で有名か、無名かといった判断があってオファーが行われます。書き手を決める編集者がその人の専門性や有名無名を判断基準にするのは、実績を見れば出来上がりが想像できるのと、上司の編集長に“依頼の根拠”を問われたときに返答できるからでしょう。
■だから筆者だけが「生き残った」
よって、女性の社会病理を専門とする筆者に、たとえば音楽やスポーツの執筆依頼がくることはありません。仮に専門外の音楽やスポーツをやったとしても、その文章は資産の貯蓄外となってしまいます。
すべての男性娯楽誌が廃刊しても筆者がライターを継続できたのは、「女性が裸になる理由は、常に社会と繋がっている」というテーマを掲げて執筆していたからです。取材する女性の知名度や裸に頼らなかったので、廃刊によって媒体がなくなっても、一般誌で風俗嬢、貧困女子と対象を広げていくことができました。
かつて男性娯楽誌でAV女優のインタビューをしていたライターは、ほぼほぼ仕事をやめてしまいました。でも、筆者はまだ生き残っている一般誌に移動して継続することができたのです。
女性がカラダを売るのは社会的には望ましいことではありません。(彼女らにお世話になっている)エロ本読者にとっては正義でも、マクロな視点で眺めれば、社会におけるその事象や現象は病理です。
筆者は18禁の男性娯楽誌のライターもやりますが、一方で「女性の売春から見える社会病理」というテーマを掲げて一般誌にも進出できました。そうすると、男性娯楽誌のAV女優インタビューも、社会問題としての毒親被害者も、すべての文章が線で繋がってきます。
テーマを持って文章に一貫性を持たせることで、文章は資産となるのです。
■1本のWeb記事が「とんでもない形」に
文章の複利現象とはなにかを、具体的にお伝えします。専門分野を書いてそれを続けていれば蓄積になるので、小さな複利現象は誰でも起こります。
最近、筆者の文章でもっとも大きく膨れあがったのは、あるWeb媒体に掲載された「国立医大生の貧困」という記事でした。貧困女性をテーマにしたビジネスサイトの連載の取材に、たまたま21歳の医大生がやってきました。
人が少ないだろうシティホテルのカフェラウンジに入った。
猜疑心と人見知りからか、広田さんは黙ってうつむいていた。おそらく、なんとなく取材を受けてしまったが、よくよく考えるとリスクがあるのではないか、という心境だろうか。なんとか緊張を解き、話を聞く。
掲示板に書いてあったとおり、本当に国立大学の現役学生で、しかも医学部だった。入学試験偏差値は70を超える最難関大学である。本人の顔写真入りの学生証も確認した。外見スペックが極めて高いだけでなく、加えて最高偏差値に近い大学の学生だった。そんな女子大生が貧困取材という場に現れたことに驚いた。
「掲示板のパパ活は、やっぱり売春ですよね。(※筆者注:一言目の言葉と表情から、望まない売春であることを察する)いま連絡をとる人は2人います。
40代の方々で、詳しいことは知らないです。その人たちのことは、別に好きではないし、ただ食事とかエッチして、お金をもらうみたいな。
でも、全然慣れない……。特定の人と何回も会うのは怖いし、やっぱり私が会いたいって思わないし(※筆者注:売春に対する意識がネガであることが確定)」
掲示板を使ってパパ活をはじめたのは、半年前。何度かメッセージのやり取りをして、2人の中年男性と知り合った。広田さんが忙しく、彼らと実際に会うのは月1ペースだ。会うたびに1万円から3万円程度のお金をもらっている。恋愛ではなく、割り切った売春に近い形でパパと交際していた。
――『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)より
■なぜ「21歳医大生」が風俗で働くのか
この取材は、2017年でした。
若い女性たちのパパ活や大学生の深刻な貧困については、当事者と、彼女たちを利用して儲けることを狙う性風俗事業者くらいしか理解していない段階でした。
筆者は専門分野での事象なので学生の貧困の実態は知っていたものの、拡散するためには決定的な事例が必要でした。あらわれた女性は現役国立医大生、名門高校卒、真面目な優等生という華麗な経歴――さらに望まないパパ活、望まない性風俗勤めをしていました。
そして、子どもの貧困該当者であり、社会問題のフルコースを背負っていました。
2017年は、労働者派遣法改正から始まった女性の貧困がピークを迎えながら、その実態を誰も理解していない状況でした。男女共同参画や男女平等、働き方改革が浸透する前夜で、まだまだ社会には男性優位が残っていました。そんなタイミングで偏差値70を軽く超えるエリート女子医大生が貧困に陥り、「学生生活を送るために、風俗で望まないアルバイトをする」という話を聞いたのです。
このような早い段階での第一次情報は、それを専門にしている人にしか巡ってきません。巡ってきたとしても、事例が社会病理と繋がっていることに気づかず、聞き流してしまうでしょう。彼女の語りは社会に伝えるべき事象と確信しました。最初に記事を掲載したビジネスサイトでは記録的なPV数になっています。
■書籍化→漫画化→そして…
ここから文章の複利現象が始まります。
そのビジネスサイトはPV数連動型の原稿料で、一般的な報酬の5倍くらいはもらいました。さらに「大学生の貧困」というテーマでいくつかの月刊誌で記事を書き、いくつかの週刊誌からコメント取材がありました。メディアのコメント取材は15分くらい電話で話しただけでお金をくれるので効率がいいです。
そして、「子どもの7人に1人が貧困」という日本財団の調査から、女性と子どもの貧困が社会問題になりました。先進国だと思っていた日本に貧困があるという現実は世間に衝撃を与え、多くの国会議員も知ることになり、各政党は貧困問題の解決を政策に掲げるようになりました。
その時流に乗って連載は『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)として書籍化されました。
書籍が発売されたことで、再び21歳の国立医大生の貧困が注目されました。増刷を重ねていきます。書籍は大成功です。一般的には文章の複利現象は書籍化、それが増刷されることがゴールですが、これでは終わりませんでした。
しばらく経ってから大手漫画誌から依頼があり、『漫画 東京貧困女子。』の連載が始まりました。漫画は電子コミックサイトで単話販売から始まって、連載が続けば紙の単行本になります。『漫画 東京貧困女子。』はこの21歳の国立医大生の話から連載が開始されてまだ継続していて、今は14巻まで発売されています。
■主演は趣里さん、主題歌はイエモン
文章の複利現象は、まだまだ続きます。
女性が売春する背景を描いた漫画も人気となり、次は海外の出版エージェントから翻訳本の依頼がありました。書籍は中国簡体字で翻訳され、中国本土で販売されています。おそらく、中国の出版社か書店が適当に制作したであろうものですが、中国語版の『東京貧困女子。』の広告に日本のある世界的ミュージシャンが登場し、中国語で『東京貧困女子。』を絶賛して推薦していました。
そして、出版社に映像プロデューサーがやってきました。「WOWOWで連続ドラマ化が企画されている」という話でした。ドラマ化は構想はあっても実現しないのが普通ですが、『東京貧困女子。』はトントン拍子で進行。国民的女優の趣里さんが主役を演じ、イエローモンキーが主題歌を書き下ろすというとんでもない形で放送されました。
■文章が資産となり、「複利」でまわっていく
『ドラマ 東京貧困女子。』は第14回衛星放送協会オリジナル番組アワードで最優秀賞を受賞し、WOWOWだけでなく、U-next、hulu、ジェイコム、アマゾンプライムなど現在進行形で配信媒体が広がっています。
筆者が貧困取材でたまたま遭遇した21歳の国立医大生の語りは、
「Web媒体→月刊誌→コメント取材→書籍化→漫画化(配信)→漫画の書籍化→書籍の海外出版→連続ドラマ化→複数のサブスクリプションメディアで配信」
と、複利としか言いようがない広がりとなったのです。
筆者がやったことは21歳の国立医大生から話を聞いて、執筆。たまたま社会から求められる決定的な人物、タイミングだったことで「文章の複利現象」が起こりました。筆者がやったのはきっちりと話を聞き、彼女が言ったことを文章にしただけです。
この筆者の事例に再現性はないですが、自分が書いた文章が資産となって複利でまわっていくのは著作権を持っているライターの醍醐味です。せっかくライターをやるならば、「文章の複利現象」は狙っていくべきでしょう。
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中村 淳彦(なかむら・あつひこ)
ノンフィクションライター
1972年生まれ。著書に『名前のない女たち』シリーズ(宝島社)、『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『崩壊する介護現場』(ベストセラーズ)、『日本の風俗嬢』(新潮新書)『歌舞伎町と貧困女子』(宝島社)など。現実を可視化するために、貧困、虐待、精神疾患、借金、自傷、人身売買、介護、AV女優、風俗などさまざまな社会問題を取材し、執筆を行う。
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(ノンフィクションライター 中村 淳彦)

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