2025年11月に、プレジデントオンラインで反響の大きかった人気記事ベスト3をお送りします。マネー部門の第2位は――。

▼第1位 だから貯蓄9割の500万円をNISAに突っ込んだ…63歳「低年金」男性が自力で作った老後の収入源2つ

▼第2位 最も幸福度が低いのは極貧、2番目は金持ちに生まれた人、では一番幸福を感じるのは…「幸せな年収」の分岐点

▼第3位 貯金だけして死んでいくのは残念すぎる…FPが徹底解説「老後資金を使うベストタイミング」と「正しい使い方」

アメリカの研究によると、極貧の人は最も幸福度が低いが、意外にも2番目に低いのはお金持ちの家に生まれて、働く必要がない人なのだという。作家の橘玲さんは「いまはまだ年収800万円以下という人は、むしろラッキーと考えよう。そのラインに到達するまで、あなたの幸福度は上がり続けるのだから」という――。
※本稿は、橘玲、樺山美夏『しんどい世の中でどうすれば幸せになれますか?』(文響社)の一部を再編集したものです。
■将来の希望のない状況を逃れたい
Q 満員電車のストレスに耐えて、安い給料で将来に希望も持てない仕事をする毎日にうんざりしています。会社と家を往復するだけで、楽しいことが何もありません。このまま働き続けてもたいして年収は上がらず、40代になったらリストラされそうです。幸せに生きるためにはどのくらいの収入が必要で、どんな働き方をすればいいでしょうか。

(30代 メーカー人事 男性Bさん)
【Bさん】毎日、会社と自宅の往復だけでなんにも楽しいことがない。真夏の満員電車なんて地獄だし。生活のためとはいえ、いろいろ我慢しなきゃいけない人生を変えたいけど、どうすればいいんだろう?
【AI】“あるある”の悩みじゃな。1日2.15ドル(1ドル150円換算で約322円)しか使えない極度の貧困層が、世界には約7億人もおる。
1日6.85ドル(約1000円)未満で暮らす人は、世界の人口のほぼ半数とされている。衣食住に困らないだけでも恵まれておるのだよ。
【Bさん】AIなのにいきなり説教? その貧困層って海外の話でしょ?
【AI】日本も貧困化が進んでおる。厚生労働省の2021年の調査によると、日本で相対的貧困とされるのは、年間所得127万円以下で、6人に1人(15.4%)もいる。この割合は先進国35カ国中7番目に高いんじゃ。
【Bさん】日本ってそんなに貧しい国なの? 年収127万円じゃ東京では暮らせないよね。でも生活のためにイヤなことを我慢して働き続ける人生も幸せとは思えない。いったいどうすれば幸せな生き方ができるんだろう?
■幸福度の上昇は年収800万円で止まる
【AI】幸せな人生には、生活の不安がなくなるくらいの資産が必要じゃ。お金の心配をしないで暮らせる経済力があれば、精神的にも自由になれるからな。
【Bさん】じゃあ億万長者にならなきゃダメってこと?
【AI】いやいや、そこがおもしろくて、お金が増えれば増えるほど幸福になれるわけではないんじゃ。アメリカや日本の調査では、平均的には、ひとり暮らしなら年収800万円を超えると幸福度はたいして変わらなくなるらしい。
【Bさん】へえ~。
年収800万円か。ぼくの年収は今450万円くらいだから、キャリアコンサルタントや社会保険労務士の資格をとってキャリアアップしないとムリだなあ。
【AI】人事や労務の仕事が向いていると思うなら、今のうちに自己投資してスペシャリストになればもっと稼げるはずじゃ。
【Bさん】たしかに、少子高齢化で人手不足の時代だから、人事の重要性は高まっている。人事コンサルまでできれば何かと有利になりそう。
■2つの「好き」を掛け合わせて独立する
【AI】満員電車がイヤなら、独立したらどうじゃ?
【Bさん】独立するのは勇気がいるなあ。スポーツ観戦が好きだから、せっかくならスポーツ業界で働いてみたいとも思うんだけど。
【AI】人事労務専門のコンサルタントとして独立して、好きなスポーツチームの業務も担当すれば一石二鳥だ。自分がやりたいことをやるために目標に向かって努力すると、幸福度も上がっていくんじゃよ。
【Bさん】それはいいアイデアだね! つまらない毎日を我慢するより、本気でキャリアアップしてやりたいことにチャレンジしてみるか。
【AI】スポーツ業界に人事のスペシャリストは少ないじゃろうから、2つの「好き」を掛け合わせれば幸福度も倍増するじゃろう。
【Bさん】そうだね。
知り合いにも資格をとったあとに独立して成功している人がいるから、ちょっと相談してみよう。
■[解説]幸福の条件とは
幸福の条件は人それぞれ違う。
自分がやりたいことにどれくらいお金が必要か概算してみなければ、最低限必要な収入はわからない。
「“推し活”ができれば最高に幸せ!」という人もいれば、「世界中を旅したい」「日本中の美味しいものを食べ歩きたい」という人もいるだろう。
「収入がいくら多くても、朝から晩まで働きづめでプライベートを楽しめなかったら意味がない。いつでもどこでも自由に働ける仕事をしたい」という若者も最近は増えているようだ。
■幸せの感じ方には共通点がある
ただし、幸せの感じ方には共通点がある。ちょっと想像してみてほしい。
たとえばあなたが、真夏の炎天下の田舎道を1時間歩き続けて喉がカラカラに渇いているとしよう。ようやく見つけた自販機で買ったキンキンに冷えた水はものすごく美味しいにちがいない。
でも1本、2本……と飲み続けると、美味しいと感じる気持ちが薄れていき、それ以上飲めと言われても「もういらない」となるだろう。この美味しいと思う満足度を「効用」といい、量が増えるほど減っていく。

どんなに好きなアイドルでも、推し活を続けて4、5年も経てば、違う推しにも興味が湧くだろう。どんなにお寿司が好きでも、毎日寿司ばかり食べていたら「もう魚はいいから肉を食べたい」という気分になるのではないだろうか。
■貧しい人もゆたかな人も幸福度が低い
この効用の変化(限界効用の逓減(ていげん))は、人間の行動のあらゆることに当てはまり、お金も例外ではない。
つまり、収入が増えれば経済的に自由になって幸福度は上がるけれども、収入が増えれば増えるほど幸福度も比例して高まっていくとは限らない、ということだ。
アメリカの研究結果によると、日本円換算で年収800万円くらいまでは幸福度は上がっていくが、それを超えると幸福度に大きな変化は見られなかった。内閣府による「満足度・生活の質に関する調査」でも、同じような調査結果が出ている。
独身で年収800万円あれば、食べたいものを食べ、趣味も遊びも楽しんで、年に一度くらいは海外旅行もできるだろう。
ところが年収1000万円、3000万円、5000万円と増えていっても、幸福度はそれに伴って大きく上がるわけではないのだ。
むしろ高所得の会社員は仕事や接待で忙しくなるため、プライベートを楽しむ時間が減り、ゆっくり幸福感に浸る余裕もなくなる可能性が高い。
同じアメリカの研究調査では、もっとも幸福度が低いのは、食べるもの着るものにも困る極貧の人たちだった。
ところがその次に幸福度が低いのは、お金持ちの家に生まれて働く必要がないまま、漫然と生きている人だったのだ。ヒトは社会的な動物だから、どんなにリッチな暮らしをしても、誰からも評価されないと幸せを感じにくいのだ。

■努力して社会的・経済的成功を手に入れた人が最強
では、もっとも幸福度が高いのはどういう人なのか?
それは、恵まれない家庭に生まれながらも、山あり谷ありの人生で社会的・経済的な成功を手に入れた人だ。
たとえスタートは貧しくて失敗を重ねても、成果を出し続けていけば、笑いと涙の数だけ希望や感動が生まれる。その過程で出会った仲間との友情にも恵まれやすい。
さまざまなドラマや人間関係を経験しながら、人生が良い方向へと変化していく物語のある人生ほど、社会的動物である人間は幸福を感じやすいのだ。
誤解のないように言っておくと、これは「最初は貧乏なほうがいい」とか、「今のつらさや苦しみは将来の幸福のために必要だ」ということではない。
将来、成功したとき、恵まれた家庭環境で生まれ育ち、何の苦労もしなかった人生より、たくさんの人から「すごいね」と言われるほど、逆境や苦難を乗り越えてきた人生のほうが、ずっと大きな幸福を感じられるということだ。
そう考えれば、たまたま今経済的に苦しい状況にあるのなら、むしろラッキーだというとらえ方もできる。年収800万円を目指してできることにチャレンジしていけば、目標を達成するまで幸福度は上がり続けるのだから。
そんなチャンスが目の前にあるなら、努力しない手はないだろう。
■30代のうちに人生の方向性を決めよう
人事のスペシャリストとして転職するにしても、独立するにしても、まずは行動を起こさなければはじまらない。
たとえ失敗しても、それも財産。30代前半ならまだまだやり直しがきく。
失敗を糧(かて)にして、30代のうちに人生の方向性を決めよう。
あとで振り返ったとき、満員電車でストレスを溜め続ける人生や、リストラに怯えながら安い給料で我慢し続ける人生よりずっと楽しかったと思えれば、大きな満足感と幸福感を得られるはずだ。
〈幸福な人生設計の法則〉

独立を選べば満員電車から解放される。

経済的に余裕を持てるまで努力すればするほど幸福度も上がっていく。
(初公開日:2025年11月7日)

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橘 玲(たちばな・あきら)

作家

1959年生まれ。早稲田大学卒業。2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。同年、「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部を超えるベストセラーに。05年の『永遠の旅行者』が第19回山本周五郎賞候補に。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で2017新書大賞受賞。著書に『「読まなくてもいい本」の読書案内』(ちくま文庫)、『テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想』(文春新書)、『スピリチュアルズ 「わたし」の謎』(幻冬舎文庫)、『DD(どっちもどっち)論 「解決できない問題」には理由がある』(集英社)など多数。

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樺山 美夏(かばやま・みか)

ライター

リクルート入社後、書籍情報誌編集部を経て独立。雑誌、WEBメディアで主に人物インタビューを執筆。2018年、「上阪徹のブックライター塾」第5期を修了し、ブックライターとしても活動中。協力した書籍は「言いかえ図鑑」シリーズ(大野萌子著、サンマーク出版)、『投資家の思考法』(奥野一成著、ダイヤモンド社)、『社会問題のつくり方 困った世界を直すには?』(荻上チキ著、翔泳社)など多数。

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(作家 橘 玲、ライター 樺山 美夏)
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