■創業300年超、老舗企業のオリジナル商品
2010年の発売以来、累計約6300万個を売り上げている「K&K 缶つま」。1712年創業の老舗食品卸売業・国分グループ本社が展開する自社ブランド商品だ。
K&K 缶つまシリーズのラインアップは、桜チップで燻製にした「広島県産かき燻製油漬け」、備長炭で焼き上げた「宮崎県産日南どり炭火焼」など全部で58種(2025年11月時点)。
ツナ缶、サバ缶など1個100円台が売れる市場に、全国各地で厳選した魚や肉を、酒に合わせたぜいたくな製法で調理した「酒の肴」の高級缶詰をいち早く打ち出した。
価格は1個500円台が中心。中でも、高級シリーズ「K&K 缶つま極」は最高額1個1万6200円(税込み)とプレミアムな価格だが、家飲みを愉しむ40~60代の男性のニーズを捉え、瞬く間に「プレミアムおつまみ缶詰」という新ジャンルを築き上げた。
■「おつまみ缶詰」市場を開拓できた理由
発売以来、売上は順調に伸びており、販売先はスーパーマーケットだけでなく、コンビニや書店、アウトドアショップなど全国9500店舗以上に広がっている。
プレミアム缶詰が売れるというのもさることながら、男性層に缶詰が売れるとは、これまでになかった現象だ。
「酒のおつまみ」缶詰という現象を生み出し、缶詰の新市場を切り開いていった同社の強さは何か――。話を聞くと、その答えは本業を活かした販路開拓術にあった。
■狭い「すき間」を狙いうちした商品開発
「あくまでも私たちがこだわるのは、酒に合うおつまみです。『酒の肴』という軸だけは発売当初からブレていません。そのため、新商品を考える時に『ごはんと相性が良いよね』となったら、コンセプトに合わないので選択肢からは外しています」
こう話すのは、2020年より「K&K 缶つま」の開発を担う商品開発部開発一課の青木杏里さんだ。
ブランドの骨格となるのは、酒がすすむカンタンにつまめる料理だが、その全体像を青木さんが考案する。
全国発売のK&K 缶つまシリーズは定番商品に加えて、定期的に新商品も追加される。年によって変動するが、2025年度は「宮崎県産 日南どり 炭火焼」「北海道産いわしとジュレ 柚子胡椒風」「北海道産いわしとジュレ 燻製風」の3商品を新たに発表した。
既存商品の味や価格も随時改良しており、「めいっぱい焼鳥 炭火焼 たれ」「めいっぱい焼鳥 炭火焼 塩」をリニューアル発売した。
考えた試作品(1回平均10アイテムほど)を開発部10人で試食し、商品化できるかどうかを検討する。
15年間に発売された商品数はすでに100種を超えている。既存の商品の個性を上回る新たな商品を開発するむずかしさがあるはずだ。それに対して、青木さんはこう話す。
「食品は世の中にありふれています。
■お酒好きの心をくすぐる「相性表」
確かに、K&K 缶つまシリーズは桜のチップを使って燻製する、備長炭の炭火で焼き上げるなど、これまでの缶詰にありそうでなかった調理法で製造している。ビール、日本酒、サワー、白・赤ワイン、焼酎、ウイスキーと一般的によく飲まれている酒の種類ごとに合うおつまみ缶があることも、斬新な発想だ。
たとえば、「K&K缶つま 広島県産焼かきレモン黒胡椒味」など酸味テイストの料理はワインと相性が良く、「K&K 缶つま Smoke 鮭ハラス」「K&K 缶つま JAPAN 北海道・噴火湾産ほたて燻製油漬け」など燻した香りの商品はウイスキーとぴったりだ。
また、パッケージには、その商品とお酒との相性が5段階評価で記載されており、一緒に飲むお酒を選ぶ時の参考になる。
こうした商品企画は、本業から来る強みだけでは実現できない。青木さんが意識していることは、マーケティングの基本である「自分の足で原料からアイデアまで探すこと」だという。
■レモンサワーブームに合わせて商品開発
「新商品を考える際、まず今世の中で流行っているお酒や飲食店を調査します。そのうえで、実際に飲食店に行って、お酒を飲みながらおすすめの料理を食べたり、店主の方に料理や合うお酒について話を聞いたりして実地調査をしています。今流行りのお酒と料理の味を確かめないと、アイデアは浮かびません。
数年前にレモンサワーが流行ったときがありました。それまでレモンサワーに合う商品を作ったことがなかったので、お店に頻繁に足を運んで、実際にレモンサワーを飲んで、これに合うおつまみのことだけを考えていました。
原料も、自分の足で全国各地の名産地へ赴き、おいしい原料を仕入れに歩き回るという。
商品開発には分析力や想像力が必要になるといわれるが、K&K 缶つまに関してはそれだけでなく、「柔軟性のあるフットワーク」も良い商品をつくるベースにあるようだ。そして、「お酒が好きで強いことも必須」と、青木さんは笑いながら話す。
「ビールから日本酒、サワー、焼酎、ウイスキー、赤・白ワインまでオールラウンドに飲んで料理との相性を見極め、商品に落とし込むので、開発部の社員はお酒が好きな方が多いです」
例にもれず、お酒好きな青木さんがイチオシするのが、白ワインと相性のいい「マテ茶鶏のオリーブオイル漬け」だという。
■缶詰を開けた時の「映え」のために…
こだわりは酒との相性だけでなく、缶を開けた時の見た目もだ。
「缶から直につまむことを想定していますが、缶を開けたときに、身が崩れていたらお酒もすすまなくなると思うんです。調理したときのふっくらとした肉や魚の身の状態をキープしたいので、中身は手作業で1つ1つ丁寧に缶に詰めています」
ここまで究極のおつまみ缶詰を作り上げることができるのは、酒を嗜む人にとことん寄り添う姿勢があるからだろう。それが「K&K 缶つま」のロングセラー商品たるヒミツなのかもしれない。
■「K&K 缶つま」ネーミングの由来は1冊の本
K&K 缶つま発売から15年がたつが、最初から順風満帆だったわけではない。むしろ試行錯誤の連続だった。
2010年発売当初からの売れ筋商品は、「広島県産 かき燻製油漬け」と「宮崎県産 霧島黒豚角煮」だ。実は、この定番商品は2010年以前からK&Kブランドのプレミアム缶詰として販売されていた。
しかし……
「100円台の安価な缶詰市場のなか、結果は振るわず厳しい状況でした」(青木さん)
苦渋の決断を迫られていたときにめぐり合ったのが、世界文化社が2009年に出版した缶詰で手軽に作るおつまみの本『うまカンタン!缶詰で作る酒のおつまみ 缶つま』だった。
「弊社が缶詰提供で協力していたのですが、その本を見た当時の開発担当者がこれだと閃いて、『酒に合うおつまみ缶詰』というコンセプトで、これまでのプレミアム缶詰のリブランディングを考えたのです」
これまでにない、おつまみに特化した企画に対して、社内の上層部からは「酒のおつまみの高級缶詰なんて売れない」「開発リスクが大きすぎる」という反対の声が上がった。
「100円台の『保存食』缶詰とは思いっきり対極にある商品を作るというのが、開発部の考えでした。この考えだけは曲げずに押し通して、最終的にゴーサインがもらえました」
■ヒットのきっかけは缶詰売場からの「脱却」
既存のプレミアム缶詰に「酒のおつまみ」というストーリーを付け、世界文化社から許諾を得て「K&K 缶つま」にネーミングを変更。パッケージも白い箱に統一し、他の缶詰とは一線を画す高級感を演出した。2010年、「K&K 缶つま」シリーズとして新たに出発した。
しかし、発売から約2年間は苦戦した。やはり500円前後という高価格がネックとなり、日々献立を考える主婦から敬遠されてしまったのだ。いくら中身が良くても、料理の材料となる安価なツナ缶やサバ缶には太刀打ちできなかった。
缶詰売場で埋もれていく「K&K 缶つま」。
■3つの強みで前年比300%の売上を記録
缶詰は食品バイヤーと商談するという「縛り」を超え、社内のリカー担当の営業と連携し、酒専門のバイヤーに酒とセットでK&K 缶つまの売り込みを掛けた。
酒と「ついで購入」を狙ったのが功を奏した。乾き物以外のおつまみに惹かれた男性層から予想以上の反響があった。
唯一無二の商品価値、発想の転換、本業の強み。この3つの強みを掛け合わせたことで、発売4年目、2014年の売上は前年比300%の記録を叩き出す時もあった。
勢いに乗るK&K 缶つまに追従する企業が増え、競争が生まれたことで、縮小していた缶詰売場が活気を取り戻す。高級缶詰の棚が設置され、K&K 缶つまにとって、再び缶詰コーナーで市民権を得る好機になった。
「おつまみ缶詰の新規参入も多くなり、価格競争が一時期生まれたのですが、私たちは原料も製法も変えず価格もそのまま維持し、ブランドを固守しました。一度離れたお客様も最終的にK&K 缶つまに戻り、結果的に競争のおかげで、『K&K 缶つま』への再評価と販路拡大につながったと思います」(青木さん)
■次は海外へ飛び出す「K&K 缶つま」シリーズ
そして再び、K&K 缶つまは缶詰売場から飛び出した。
同社はスーパーマーケットや量販店から書店、大型雑貨店、空港、JR駅、ドライブイン、さらに全国の観光名所まで販路を広げている。
2023年から、全国の観光名所など10カ所に、1回500円で最高5000円の商品が手に入る「缶つまガチャ」を設置する事業をスタート。
次にK&K 缶つまが飛び立つ先は、海外だという。
「現在、台湾と香港の日本製品も扱うスーパーマーケットに缶つまを輸出しているのですが、もっと幅広い生活者の方々に日本の『おつまみ缶詰』文化を広めたいんです。海外では一回で食べきれるサイズで、品質の高いおつまみ缶詰はないと思うので、日本ならではの出汁や麹を使った日本のおつまみを缶詰にして海外に進出していきたいと思っています」
国分グループが2026年度より5カ年で実施する長期経営計画の柱の一つが、海外事業だ。K&K 缶つまの海外販売も今以上に推進されていくという。5年後、「K&K 缶つま」は日本のおつまみ文化を代表する商品として、海外で脚光を浴びているかもしれない。
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中沢 弘子(なかざわ・ひろこ)
ライター
ボストン大学大学院国際関係卒コミュニケーション専門。出版社にて編集者として勤務後、フリーライターとして独立。大手出版社の女性誌やビジネス誌にて人物取材多数。Forbes Japanなどでも記事を執筆中。社会課題の解決に取り組む経営者や起業家を取材。また、NHKドキュメンタリー番組の字幕翻訳や国際ニュース執筆、海外国別分析調査レポート執筆にも従事。最近は、日本の食文化を紹介する英文記事も執筆中。
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(ライター 中沢 弘子 聞き手・構成=ライター・中沢弘子)

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