■目指すべきは「良い記者会見」ではない
危機管理の専門家としてさまざまな方とお話をしていると、本稿のテーマのように「良い記者会見とはなにか」という質問を受けることが少なくありません。
たしかに不祥事を起こした企業にとって「良い記者会見」をすることは重要なことです。ですが、危機管理の本質は「記者会見を炎上させないこと」ではありません。専門家からすれば記者会見は「負け戦」です。
これは当然のことではありますが、「良い記者会見」をすることよりも、記者会見をせずに済むことのほうが企業にとってはダメージが少なく済みます。なので、専門家がまず目指すのは「良い記者会見を開くこと」ではなく「記者会見を開かずに問題を解決すること」なのです。
また、被害者がいる事案であれば、被害者対応を最優先する必要があります。事案によっては行政への対応も必要です。
「行政に報告すれば、メディアに流れてしまう」と警戒感を持つ企業の方もいますが、実際はそんな簡単には流れません。逆に事案を隠さず誠実に対応すれば、たとえ法令違反が含まれるような事案であっても記者会見を行わずにダメージを最小限に抑えられるケースも多々あります。
最優先すべきなのは、メディアへの対応ではなく被害者対応や行政対応なのです。
■事実確認をする前に謝罪してはいけない
記者会見に至らずに問題を解決した具体例として、私が関わったある企業の実例を紹介します。
海外からプラグアダプタを輸入している業者さんの元に、お客様から「プラグから発火し、壁が黒く焦げた」と主張する写真が送られてきました。お客様からは「誠意を見せてほしい。何もしなかったら、この写真をネットに公開するかもしれない」という脅しめいた言葉もありました。
慌てた輸入業者の担当者から「この事案をすぐに公表して、全部リコールをしたい。そのための謝罪文を用意してほしい」と連絡があったのですが、私は「まずは現物を回収してください」と伝えました。
その後、回収した現物を経済産業省所管の独立行政法人である製品評価技術基盤機構(NITE)に持ち込み、相談の結果、第三者検査機関に調査を委託しました。その結果、製品瑕疵(かし)ではないことが判明し、NITEもその結果を受理してくれました。結果はお客様には伝えましたが、公表も回収もせず、もちろん記者会見も開かずに事案は収束しました。正しいプロセスを踏んだ結果、公表の必要がないと判断されたのです。
マスコミを前にして記者会見をしないことが、そのまま隠蔽しているということにはなりません。むしろ、初動対応、被害者対応、行政対応といった会見以前のプロセスを完璧に行えば、社長が矢面に立って謝罪会見をする必要はなくなるのです。
■まずは消費者のケアを最優先すべき
このプロセスの重要性を理解するうえで、小林製薬の紅麹問題は非常に示唆に富んでいます。小林製薬は記者会見を無難にこなしていましたし、内容も決して悪いものではありませんでした。しかし、危機管理全体として見ると対応は失敗だったと私は考えています。
紅麹問題で彼らが真っ先に目を向けるべきは、マスコミではなく消費者です。当該商品を使っている方はもちろんですし、当該商品は飲んでいなくとも、小林製薬の別のサプリを飲んでいた方も当然、不安を覚えます。
しかし、当初の小林製薬のホームページに設けられた回収窓口には、商品名や商品の写真の掲載がありませんでした。このため、消費者は自分が飲んでいたサプリが問題の対象なのかどうか一目ではわからなかったのです。そこは消費者の気持ちになり、気づかなければいけなかった点です。
不安を放置すると、それは不満に変わり、やがて企業への不信へと繋がっていきます。そうならないためには不安の段階で、いかにタイムリーに情報を出せるかは非常に大事です。記者会見だけに目が行きがちですが、危機管理の専門的な立場から見れば、ホームページの使い方、プレスリリースの使い方、その順番を含めて全体を見て評価することが大事となります。
■王道を貫いた田久保氏の“辞任会見”
記者会見を含む危機管理の対応が求められるのは、企業だけではありません。
本人の学歴詐称に関する説明が二転三転し、証拠とされる卒業証書の提示を拒むなどして混乱を招き、結果として辞任に追い込まれ、12月14日に投開票された伊東市長選では落選しているのでそこはまったく擁護できません。しかし、辞任会見という一点に限って言えば、彼女の対応は非常に戦略的でした。その理由は、「キーメッセージの徹底」と「議論の回避」です。
辞任会見に出席した記者は何度も「卒業証書は本物だったのか、偽物だったのか」「本当は偽物だと知っていたのではないか」と問いただしました。似た質問を繰り返されればつい感情的になり、記者と口論になってもおかしくない場面です。しかし、田久保前市長は一切記者からの誘導には乗りませんでした。彼女が一貫して発信したキーメッセージは、「全ての証拠物は検察に提出した。判断は検察に委ねる」というものでした。
公選法違反の疑いをかけられている被疑者が自ら出頭し、証拠品である大学の卒業証書を捜査機関に提出する。そして卒業証書が本物か否かについては、プロである検察に判断を任せる。
■「ピンクのジャケット」は唯一の失点
また、市長選への再出馬についても「起訴されれば身を引く」と明確にしていました。辞任会見としての目的である職を辞す理由と今後の身の処し方を説明するという点においては、完璧にコントロールされていたのです。
ただ一点、田久保前市長の会見で気になったことがあります。それは服装です。彼女は辞任会見の場にピンク色のジャケットを着て現れました。2018年、日本大学のアメリカンフットボールの選手が関西学院大学の選手に危険な反則タックルをした問題で、日大の内田正人監督が関西学院大学の選手や保護者らに直接会って謝罪しましたが、その際にピンクのネクタイだったことが猛批判を浴びました。それと同じ過ちを犯しています。
謝罪や辞任といった深刻な場において、服装は会見にのぞむ姿勢を無言のうちに伝える重要な要素です。そこでピンクを選ぶというのは、場をわきまえていない、反省していないという印象を視覚的に与えてしまいます。
■注目すべきなのは会見内容だけではない
しかし気になったのはその一点だけです。会見に弁護士を同席させていましたが、すべての応答を弁護士に任せるのではなく、田久保前市長も論理的にきちんと話していました。
ただ、結果的に市長選で落選していることを考えると、たとえ辞任会見がうまくいったとしても、それまでの不信感の積み重ねは覆せなかったということなのでしょう。冒頭にもお伝えした通り、そもそも記者会見は「負け戦」なので、良い記者会見を一度行ったくらいでは信頼は回復できません。
我々のような危機管理の専門家は、会見が「負け戦」であることを前提に、いかに企業、個人としての致命傷を避け、必要なメッセージを伝えているかを注視しています。そのうえで、専門家は「記者会見に至った理由」にも注目しています。みなさんもテレビやネットで謝罪会見を目にしたときは、記者会見における戦略や、会見に至るまでの背景に注目してみてください。
----------
西尾 晋(にしお・しん)
エス・ピー・ネットワーク執行役員(総合研究部担当)主席研究員
エス・ピー・ネットワーク執行役員(総合研究部担当)主席研究員。2001年同社入社。悪質クレーム、反社会的勢力対応、危機管理広報などのクライシス対応支援を数多く手がける。おもな著書に『クレーム対応の「超」基本エッセンス』(第一法規)。
----------
(エス・ピー・ネットワーク執行役員(総合研究部担当)主席研究員 西尾 晋 聞き手、構成=ライター・徳重龍徳)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
