■そもそも記者会見は“負け戦”
危機管理広報の専門家として、これまで数多くの企業の不祥事対応や記者会見の支援を行ってきました。本稿では、2025年に世間を騒がせた謝罪会見や危機対応について振り返り、特に対応が悪かったといえる「ワースト3」について解説していきます。
まず、「ワースト3」の解説に入る前に「何をもって良い会見とするか」という基準について説明しましょう。私がコンサルティングの現場で必ず提示している基準があります。危機管理広報、すなわちクライシスコミュニケーションには3つのキーワードがあります。
記者会見ではこの3つに加えて、会見で何を訴えるのかという「キーメッセージ」、会見で示される運営も含めた「企業姿勢」の5つのポイントが大事になります。
そもそも、不祥事や問題が起きたとしても、適切な対応を取れば記者会見を開かずとも済むケースがあります。ですので、私からすれば記者会見は始まった時点で「負け戦」です。すでに不祥事や問題が起きているわけですから、そうした場で勝とうとしてはいけません。メディアからの厳しい質問を受けるなかで、いかにダメージを最小限に抑え、信頼回復へどう繋げるか。それが記者会見の目的なのです。
記者は、登壇者が言い訳をしたり、敵対的な態度を取ったりすれば「こいつは反省していない」「わかっていない」とさらに厳しい質問を浴びせてきます。逆に、たどたどしくても真摯に謝罪し、情報を包み隠さず出す姿勢が見えれば、それ以上攻撃することは難しくなります。
■“フジ10時間会見”の最大の問題
さて、以上の5つのポイントを基準に2025年の記者会見を振り返ると、まずワースト3のひとつとして挙げられるのが、会見時間が10時間を超えたことでも話題となったフジテレビの会見です。
この記者会見にはさまざまな問題がありますが、専門家として指摘すべき最大の問題点は、会見冒頭でトップが辞任を発表してしまったことです。
会見の冒頭、フジテレビ社長の港浩一氏(当時)、フジ・メディア・ホールディングス代表取締役会長 嘉納修治氏(当時)の引責辞任が発表されました。一見すると、辞任することで一連の問題の責任を取っているように見えますが、専門家からすればむしろまったく責任を果たせていません。
「今日で辞めます」と宣言した人間が、その後の会見で今後の再発防止策や真相究明についてなにを語っても、説得力を持ち得ませんし、無責任に見えます。さらにいえば、冒頭での辞任発表をしたことで、本来なら前面に打ち出すべきだった「謝罪」というキーメッセージが薄まってしまいます。
会見では辞任に続き、後継として清水賢治氏の新社長就任を発表し、清水氏は今後の方針について会見で表明しました。ただ本来、経営責任というのは、問題を収束させ、再発防止の道筋をつけるまでがセットです。謝罪は謝罪、新体制は新体制と、フェーズを分けるべきでした。
これは2023年の中古車販売大手「ビッグモーター」の会見と同じ過ちを繰り返してしまっています。
■CM引き下げを加速させた「経営陣の言動」
会見は経営責任が追及される場のはずですが、フジテレビの上層部は記者からの質問に対し「第三者委員会に委ねます」と繰り返していたのも問題です。
もちろん、会見の場で言えることと言えないことがあることはわかりますが、出せる情報はきちんと出したうえで経営陣と第三者委員会の役割を明確にすべきでした。しかも、経緯報告を行ったのは壇上にずらりと並んだ社長、役員ではなく、なぜか司会の広報部長が行っていました。こうした振る舞いは、いずれも経営陣が責任から逃げている印象を与えました。
そうした責任逃れの姿勢が世間に対して伝わったことと、この会見の直後からフジテレビのCM引き上げがさらに加速したことは間違いなく影響しています。企業の経営者たちはあの会見を見て「同じ経営者としてあり得ない」と判断したのではないでしょうか。
■「論点のすり替え」に見えた広陵高校の会見
次に挙げたいのが、いじめ問題で夏の甲子園から出場辞退を発表した広陵高校の堀正和校長による会見です。ここに関しては、会見そのものの良し悪し以前に、そこに至るまでのプロセスに大きな問題がありました。
冒頭でも触れましたが、企業や個人の不祥事は適切な初動対応ができていれば、記者会見を開かずに済むことはあります。広陵高校のケースでは、暴力を受けた被害者(生徒・保護者)への対応や、初期段階での情報開示が不十分だったために、SNS上で学校への批判が拡大し、結果として会見の場に引きずり出されてしまった、という初動対応に失敗した典型例です。
「なぜもっと早く対応しなかったのか」「隠蔽していたのではないか」。そうした世間の疑念が膨れ上がった状態で会見を開けば、当然、記者からの追及は厳しくなります。会見を行わなければならない状況に陥った時点で、危機管理としてはすでに手遅れでした。
また、会見での発言にも大きな問題がありました。校長は辞退の理由として「高校野球の信頼を大きくなくすことになる」「SNSで叩かれ、生徒の通学に支障が出ているため守る必要がある」と説明しましたが、これは結果として“論点のすり替え”に映りました。
そもそも生徒による暴力事件を解決できていなかったこと、その状態で甲子園に出場していたことにこそ真の原因があるからです。
■「透明性」がなく誠実な態度に見えなかった
本来設定すべき「キーメッセージ」は、もっとシンプルであるべきでした。
暴力事案があった事実を認めた上で、被害者への対応と説明が不十分だったこと。その結果として、出場判断を含め大会に混乱と迷惑をかけたこと。そして、結果として野球部員や生徒に恐怖感を与えてしまったのは、すべて学校側の判断ミスであったと謝罪する。これに尽きます。
先に挙げたポイントの一つである「透明性」には、「企業の倫理・業界の常識の徹底排除」が含まれます。
もちろん、暴力事件に関しては未成年のプライバシーなど、話せる部分と話せない部分があったでしょう。それでも学校側として「どのような通報があり、どう調査し、どう判断したか」というプロセス、そして被害者への対応はどうだったのかについては、「情報開示」の観点からも誠実に明らかにすべきでした。
■嘘だらけだった「いわき信組の記者会見」
フジテレビや広陵高校の記者会見はどちらにもさまざまな問題点がありますが、さきほど挙げた基準から今年ワースト1の会見を選ぶとすれば、私は迷わず、いわき信用組合の記者会見を挙げます。
いわき信用組合では247億円もの不正融資を行っていたことが2025年5月に第三者委員会の調査報告で明らかとなり、会見はその調査報告を受けて開かれました。会見に出席した本多洋八理事長(当時)は自身の関与について問われ、淡々と否定していました。この会見だけを切り出せば大きな問題とはいえません。
しかし経営陣が刷新され、新理事長と後から立ち上がった特別委員会の調査でこれまで使途不明とされた約10億円の大半が反社会的勢力に支払われていたことが明らかになったのです。また不正融資への関わりについて積極的に関わっていないと答えていた本多前理事長も、実際は専務理事時代に不正融資を指示していたことも発覚しました。
重要証拠の入ったノートパソコンも、会見の時点では職員により破壊されたと報告されていましたが、実際には理事の一人に渡され、その理事が処分したことも明らかになりました。つまり会見の内容自体が虚偽だらけだったのです。
ちなみに、2025年10月31日にいわき信用組合が公表した特別調査委員会の報告書によると、不正融資の総額は5月時点よりも増額され約280億円に上るようです。
先ほど、危機管理のキーワードとして「説明責任」「透明性」「情報開示」を挙げましたが、嘘をついてしまえば当然ながらすべてアウトです。信頼回復のために開くはずの会見で、しかも理事長自らが嘘をつく。これでは会見でのキーメッセージが「嘘」となってしまい、謝罪会見としては崩壊していると言わざるを得ません。
最初から嘘をつく組織には、どんな危機管理のテクニックも通用しません。文句なしの会見ワースト1です。
■どうすれば「炎上会見」は防げたのか
では、これらの企業はどのような記者会見を行えば信頼を取り戻す、あるいはいまほどの信頼損失に陥らずに済んだのでしょうか。最後に「どうすれば良かったのか」という改善点を示しておきましょう。
フジテレビにおいてはさきほども解説したとおり「辞任」のタイミングが重要だったと考えられます。会見の冒頭でトップが辞めるのではなく、まずは現経営陣として事案に向き合う姿勢を見せるべきでした。
そうすれば、記者や会見を見ていた視聴者からの「投げ出しだ」という批判は避けられたはずです。また、第三者委員会に丸投げするのではなく、自分たちで把握している事実は、自分たちの口で説明する真摯な姿勢が欠けていました。
広陵高校においては「やるべきことの順番」の徹底です。野球部生徒による暴力事案がメディアに出ることを気にするのではなく、被害者生徒やその家族の不安をどう取り除くかを最優先にする。その当たり前の優先順位が守られていれば、結果は違ったはずです。
フジテレビも広陵高校も被害者の方がいる事案ですから、「まず被害者へのケアを最優先にする」という判断基準は常に意識すべきでした。そのうえで「現在の経営体制における責任を明確にする」「可能な限り情報を透明化する」といった原則を守れていれば、ここまで社会的な信用を失わずに済んだでしょう。
一方、いわき信用組合の事例に対するアドバイスはありません。嘘をつかないことは危機管理の観点というよりも、社会において守らなければいけないモラルだからです。
----------
西尾 晋(にしお・しん)
エス・ピー・ネットワーク執行役員(総合研究部担当)主席研究員
エス・ピー・ネットワーク執行役員(総合研究部担当)主席研究員。2001年同社入社。悪質クレーム、反社会的勢力対応、危機管理広報などのクライシス対応支援を数多く手がける。おもな著書に『クレーム対応の「超」基本エッセンス』(第一法規)。
----------
(エス・ピー・ネットワーク執行役員(総合研究部担当)主席研究員 西尾 晋 聞き手、構成=ライター・徳重龍徳)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
