※本稿は、太田垣章子『「最後は誰もがおひとりさま」のリスク33』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。
■高齢者になると2階への足が遠のく
高齢者の一人暮らしはゴミ屋敷になりがちと聞きましたが……
→生活スペースが最小限になるなどいろいろなことが面倒になりゴミも溜めがちに
一戸建てを購入したり建てたりする際、将来的に夫婦ふたり、もしくはひとりで住むことを想定する人はいるでしょうか?
基本は今、家族で住むために一戸建てを選ぶ人が大半だと思います。
ところが月日が流れると、家族構成も変わってきます。そうなると必然的に、使わない部屋も増えてきます。
よくあるのが、高齢になり膝が痛くなって、寝る部屋を1階に移したら、2階には何年も上がっていないという話。1階にあるキッチンやトイレ、バスルームといった設備が生きるのに必要なものなので、それが揃っているエリアだけで生活が成り立つというのです。
特に男性にその傾向が強く、広い一戸建てであっても、結局のところ水回りと寝るスペースだけで過ごしている、私もそんなケースをたくさん見てきました。
■「昭和スタイル」のせいで娘2人と疎遠に
譲さん(仮名・76歳)もその中のひとりです。
一人住まいになって、15年以上になりました。奥さんが長年の闘病の末に亡くなってから、嫁いだ娘二人も家に近づかなくなってしまいました。その理由は二つ。
一つは、昭和スタイルの「誰の金で生活できてきたと思っているんだ」的な態度を、この令和の時代に妻ではなく娘たちにしてしまい、彼女たちから敬遠されてしまったこと。
二つめは、譲さんの家が片付いておらず、それを娘たちに見られたくなくて、娘たちを自分から遠ざけてしまったこと。
これらに加えて、娘さんたちも子育てに忙しく、最近では、娘家族たちとは年に数回、外で食事をするだけになってしまっていました。
■本人だけがどこに何があるか知っている
譲さんは、大学で建築を教えていました。そのため家の中にはたくさんの本や資料があり、それらが山のように積まれているため、今にも崩れ落ちそうです。
傍からすると、その資料っていつ見るの? 捨てても良いのでは? と思ってしまいますが、譲さん自身は「どこにどの資料がある」か、ちゃんと分かっています。捨てるという選択肢がないため、どんどん床が見えなくなってしまっていました。
さらに、ゴミを分別して捨てるのが面倒なため、どんどん家中に溜まっていくのです。
これはゴミ屋敷にありがちな状況です。
ゴミを出すにしても、家の前に出すのがルールなため、ある程度、出せる時間が限られてしまいます。つまり、あまり早く出しすぎると、カラスにいたずらされたりする可能性があり、ご近所の方は大きなゴミバケツに入れて出しているのですが、収集が終わった後、その空になったゴミバケツは片付けなければなりません。譲さんは、どうしてもそれが面倒なのです。
■ご近所から怒られ、ゴミ出ししなくなった
そのまま出しっぱなしにしていたら、ゴミが取り除かれて軽くなったバケツが風で倒され、かなり遠くまで転がっていってしまったこともありました。その時は、ご近所の方がバケツを譲さん宅に戻してくれましたが、大きな張り紙で「きちんと管理してください」と書かれてしまいました。
その一件以来、譲さんはゴミをそのまま出すようにしたのですが、そうするとゴミをカラスに散らかされてしまって、またご近所からクレームを受けるという状況に陥ってしまいました。
こうしたゴミ出しのストレスを避けることが、結果として家の中のゴミを溜めてしまうことに繫がったのです。
ここまで来てしまうと、家の中がこの先片付いていくことはなく、ただただゴミは増えるだけになってしまいます。いちばん良いのは、業者にお金を払って処分してもらうことなのですが、ゴミ屋敷にしてしまった人の大半はそれを人に知られたくないのです。そのため不衛生な状態が続いていながら、ゴールが見えないという状況に陥ってしまいます。
そんな事態が大きく動いたのは、予想もしていなかったことからでした。
■「高齢者は身軽になるのがいちばん」
夏に気温が高くなり、ご近所から譲さん宅から悪臭がすると役所にクレームが入ったのです。一人住まいを把握していたので、福祉と行政の人が訪問。すると家の中から熱中症気味で意識が朦朧としている譲さんが出てきました。
すぐに救急車が呼ばれて、譲さんをレスキュー。
救急隊も「これ以上ゴミが増えていたら、ご本人も玄関まで出ることができず、せっかくの訪問も留守で片付けられてしまったかもしれない。強運でしたね」と逆に褒めてくれたほどです。
病院に搬送され、譲さんは有料老人ホームに入所することを決めました。
「庭いじりが趣味ならいいが、年をとると大きな一戸建ては持て余すだけ。ゴミ出しひとつがストレスになってしまい、自分でもどうしていいのか分からなくなってしまった。本当はもっと早くに引っ越せば良かったのだが、荷物を処分しなければと考えるだけで億劫になってしまった。高齢になると、身軽になるのがいちばんだと実感した」
譲さんは、自分で家を片付けることはできないと断念。必要最小限の物だけを持ち出し、あとは全て業者に片付けてもらいました。
■広い戸建ては「ゴミ屋敷」のリスク大
高齢になっても多くの人は、ついつい「自分で片付けなければ」と思いがちですが、断捨離が自力でできるのは60代前半まで。荷物の整理は、明るい未来があるからできるもの。この先の生活にワクワクするから、処分することができるのです。
「片付けなければ」の思いからは、もはや前には進めません。上手に業者を使う術を、学んでほしいと思います。
また戸建てかマンションかによっても違ってきますが、半径2メートルほどで生活されている高齢者は、本当にたくさんいます。戸建てとマンションはそれぞれ一長一短ですが、そもそもそれほどの広さは必要でしょうか。
庭いじりやDIYが趣味なら戸建てでも良いかもしれませんが、高齢者になると座っている時間が増えるので、結果として簡単にゴミ屋敷になりやすいのです。
明るい未来を描きながら、過去は思い出だけを頭に残して断捨離をし、終の住処をどうするか、クリアな頭で考えていきましょう!
まとめ
引っ越しのリミットは「60代前半まで」と覚えておきましょう
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太田垣 章子(おおたがき・あやこ)
司法書士
専業主婦だった30歳のときに、乳飲み子を抱えて離婚。シングルマザーとして6年にわたる極貧生活を経て、働きながら司法書士試験に合格。これまで延べ3000件近くの家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。家主および不動産管理会社向けに「賃貸トラブル対策」や、おひとりさま・高齢者に向けて「終活」に関する講演も行い、会場は立ち見が出るほどの人気講師でもある。著書に『老後に住める家がない! 明日は我が身の“漂流老人”問題』(ポプラ新書)、『あなたが独りで倒れて困ること30 1億「総おひとりさま時代」を生き抜くヒント』(ポプラ社)などがある。
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(司法書士 太田垣 章子)

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