不動産価格の高騰で、「賃貸派」が増えている。司法書士の太田垣章子さんは「目先のことだけでなく、自分は死ぬまでこの家賃を払い続けることができるのか、ということを考えて長期的に人生設計をすることが大切だ」という――。

※本稿は、太田垣章子『「最後は誰もがおひとりさま」のリスク33』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。
■年金に頼れない73歳の「おひとりさま」
賃貸の場合、家賃を死ぬまで払い続けられるか不安です……

→人生の最後をどこで迎えたいかはライフプランとも関係してきます

ミズエさん(仮名・73歳)が、家賃を滞納しているということで、家主から私のところに明け渡しの訴訟手続きを依頼されました。家主は毎月のように督促をしますが、のらりくらりとかわされてしまい、6万5000円の家賃なのに、既に20万円近く滞納になっているとのことでした。
この話のポイントは、賃借人の年齢が73歳ということ。そして家賃が生活保護の受給レベルより高いということです。
ミズエさんは、まだ働いていました。その理由はただひとつ。もらえる年金がほとんどないからです。ミズエさんは国民年金の対象で、さらにこれまで年金をほとんど払ってこなかったため、今働いて得る収入だけが頼りです。
■生活保護を受給するためのルール
73歳の現時点で、働いていること自体がすごいとは思いますが、近い将来に働けなくなる時がきっときます。その時には、収入は途絶えます。そうなるとどうやって生きていくのでしょう……。

あとは生活保護を受給するしかなくなります。でも生活保護を受給するためには、その受給ラインの家賃帯、つまり5万3000円以下(金額はエリアによって変わります)の物件に住んでいないといけません。生活保護の受給ラインより高額な家賃の部屋に住みながら、家賃補助は受給することは基本できません。最後のライフラインだからです。
■もっと早く引っ越しをしておくべきだった
中には高齢者が新たに部屋を借りられないという理由で、規定額より高い賃料でも受給できるケースもありますが、やはり基本は家賃の受給ラインが決められているので、その範囲内に住んでいることが条件となります。
ミズエさんは、もっと早く今より家賃の安い物件に、引っ越しをしておかなければいけなかったのです。そうすれば家賃補助が受けられたはずです。でも人は、先のことをそうそう考えられません。少なくとも高齢になると、多角的に物事を考えるということが苦手になるようです。
73歳という年齢で、ヘルパーとして働いているのは体力的にもかなりキツイと思います。仕事を終えて家に帰れば、何も考えずに体を休めて寝るだけになってしまうのでしょう。
訴訟の手続きに入ると、ミズエさんは「わたしに死ねと言うのですか?」と連絡をしてきました。
もちろんそんなことは、一言も言っていません。でも「契約を解除したので、退去してください」と書かれた訴状を読んで、ミズエさんは「もう生きてはいけない」と思ったのかもしれません。
■明け渡しを命じられ、緊急で公営住宅へ
長年住み続けてきたのですから……。そう言いますが、賃貸物件の場合、家賃を払わない人に部屋を貸し続けることはできません。家主だって、ビジネスで賃貸経営をしているのですから、家賃を払ってもらえないなら、退去してもらってきちんと払ってくれる人に借りてもらいたい、そう考えるのは当然のことです。
ミズエさんは、法廷では、急に弱気になって「他の部屋を借りられないし……」と言い出しました。裁判官も同情的にはなりますが、払えない以上仕方がありません。
たまたまミズエさんの住んでいるエリアは、低所得の方々への居住支援を手厚く行っている地域でした。そういうエリアは、明け渡しの判決書を持って行政の窓口へ相談に行くと、緊急性があるということで担当者も頑張ってくれることが多いのです。
ミズエさんにもその旨をしっかりお伝えして、窓口へ行ってもらいました。
結果として、空いている公営住宅に入居することができました。
■借金しても家賃が払えない夫婦の老後は…
民間の賃貸物件は、今現在、高齢者になると本当に部屋を貸してもらえません。
この先は日本の人口がどんどん減り、高齢者が増えてくるので状況も変わるかもしれませんが、劇的に変化するとは私には思えません。
だから目先のことだけでなく、この家賃を自分は死ぬまで払い続けることができるのか、ということを考えてほしいのです。働いている間は払えても、いつか体力的にも働けなくなる時がきます。賃金だって下がることはあっても、高齢者になって上がることは、普通はほとんどないと思います。長期的に人生設計をすることは、本当に重要なことだと思っています。
先日も50歳前後の夫婦が、家賃を滞納しているということで家主からご相談を受けました。二人の収入内で生活ができず、消費者金融からもお金を借りていました。連帯保証人になっている80歳近いお父さんが代わりに払ってこられましたが、「もう援助を続けるのは無理だ……」となり、訴訟手続きになったのです。
50歳前後の夫婦が家賃を50万円も滞納しているということは、貯金を隠しもっていたら話は別ですが、基本はお金がないということ。この年代で貯金がないというのは、本当に将来が厳しいことでしょう。
■生活保護に頼る前に自分でやれること
「老後2000万円問題」ではないですが、ある程度の貯金がないと、最終的には生活保護しか生きる術はなくなってしまいます。もちろん最後のライフラインですから、頑張った末に仕方がなければ胸をはって受給してほしいとは思いますが、それまでにも家賃が払えないなら安い物件に転居する、収入を増やす、などの努力はしてほしいなと思うのです。

お金に追い詰められると、視野が狭くなってしまいます。そうなると、今日の「今」のことしか考えられなくなるのも仕方がありません。それは高齢者になっても、同じことです。
だからこそクリアな考えができるうちに、しっかりと今後をどうしたいのか、そのために何をすれば良いのか、考えてほしいのです。
高齢者向けの住宅も、いろいろな種類があります。有料老人ホームから、グループホーム、サービス付き高齢者住宅等々、たくさんあります。それらを早くから把握しておくのも良いかもしれません。実際に入所を考える時期に選んでと言われても、よく理解できないからです。どのような種類があって、どのようなメリット・デメリットがあって、自分はどうしたいのかを考え、先に見学しておくのも悪くないと思います。
そしてまずは、今住んでいる家の家賃を最後まで払い続けられるかどうか、現状を把握することをお勧めします。
まとめ

自分が家賃を払い続けられるかどうか貯えも含め把握しよう

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太田垣 章子(おおたがき・あやこ)

司法書士

専業主婦だった30歳のときに、乳飲み子を抱えて離婚。シングルマザーとして6年にわたる極貧生活を経て、働きながら司法書士試験に合格。
これまで延べ3000件近くの家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。家主および不動産管理会社向けに「賃貸トラブル対策」や、おひとりさま・高齢者に向けて「終活」に関する講演も行い、会場は立ち見が出るほどの人気講師でもある。著書に『老後に住める家がない! 明日は我が身の“漂流老人”問題』(ポプラ新書)、『あなたが独りで倒れて困ること30 1億「総おひとりさま時代」を生き抜くヒント』(ポプラ社)などがある。

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(司法書士 太田垣 章子)
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