■北欧の国が人種差別問題で炎上
連日SNSやメディアで騒がせていた「つり目」問題。発端は今年度のミス・フィンランドに選ばれたサラ・ザフチェさんがSNSに「中国人と食事中」というキャプションをつけ、自身の両目を指で引っ張る「つり目ポーズ」の写真を投稿したことでした。
「つり目ポーズ」は、かねてより「アジア圏以外の国の人が東洋人をバカにする時に使われる仕草」です。ミス・フィンランドの行為は人種差別だとの非難が殺到し、彼女はミス・フィンランドの称号を剥奪されました。
これだけでもひと騒動でしたが、騒ぎはさらに激化。その後、フィンランドの一部の政治家が「サラ・ザフチェさんのミス・フィンランドの称号剥奪処分は厳しすぎる」と反発。右派連立政権のポピュリスト政党であるフィン党のカイサ・ガレデウ議員、ユホ・エーロラ議員、そしてセバスティアン・ティンキュネン欧州議会議員の3人が、あろうことか「つり目ポーズをする自身の写真」をSNSに投稿したのです。
なぜ公人であるにもかかわらず、このような差別的な行為をすることを厭わなかったのか。ここでは、ヨーロッパに根深く残るアジア人差別について考えます。
■「目をつり上げる仕草」でからかう
「指で目をつり上げる仕草」を用いて、中国人、日本人、韓国人などのアジア人をバカにするヨーロッパ人は昔からいました。筆者は1980年代のドイツで子供時代を過ごしましたが、当時、この手の「からかい」を経験しました。
ドイツ人の父親と日本人の母親のあいだに生まれた筆者は、子供の頃、「パッと見て必ずしも日本の血が入っているとは分からない」容姿でした。でも子供ですから、公園で遊んでいれば母親(日本人)が迎えに来ることがあります。迎えに来た母親が東洋人だと分かるないなや、周囲の子供が「やーい、やーい、中国人、中国人! チンチャンチョン、チンチャンチョン、チンチャンチョーン!」という言葉とともに、私と母親に向かって「目をつり上げる仕草」をするのは「お決まりのこと」でした。
■「中国ではなく日本人」には意味なし
さて、ここまで書いて、色々と疑問に思われた方もいるかもしれませんので、ちょっと説明を加えたいと思います。
先ほど「中国人」と言ってからかわれた、と書きました。残念ながら、昔も今も一部のヨーロッパ人は東洋人を見るないなや「中国人」だと決めつける傾向があります。ですから、前述の悪ガキどもも「中国人、中国人!」と言ってからかったわけです。
こういう時に「私は中国人ではなく日本人だ!」とか「私は中国人ではなく韓国人だ!」と反論するのは悲しいことに何の効果もありません。なぜなら、相手は「ハナからアジア人を低く見ており、誰がどこの出身かどうかには興味がない」からです。ですから、「日本人だ」と反論した後に、そこから有意義な会話が生まれることはまずないでしょう。相手は普段から低く見ているアジア人を「からかって、いじめること」にしか興味がありません。
上に書いた「チンチャンチョン」もまた、東洋人をバカにするときによく使われるフレーズです。
■欧州に根強く残るアジア人蔑視
私は子供の頃、「チンチャンチョン」というからかいのフレーズを用いて、日本語などの言語をバカにするのはドイツ人だけかと思っていました。
ところが、大人になって日本に住むようになってから、「父親がイタリア人、母親が日本人のイタリア育ちの女性」と仲良くなりました。彼女に私が幼少期にドイツで「チンチャンチョン」という差別行為をされたという話をすると、彼女は暗い表情をしてこう言いました。「あ……私もあった。イタリアではチャンチュンチョンだったよ」。
アジア人を低く見て、アジアの言語の響きを「バカみたい」とからかう空気のようなものは残念ながらヨーロッパ全土にあります。さらに時間が経ってから知ったのは、中東やアフリカでもこの手のアジア人に対する差別行為が蔓延していることです。
■幼稚だが、差別的行為ではない?
先日、筆者がドイツを訪れ、取材のためにあるドイツ人男性から話を聞いていた時のこと。日本語で書かれた本を持っていたので、それを見せたところ、そのドイツ人男性は日本語の本をパラパラめくりながら、こう言うではありませんか。「へえ~……。やっぱり本にはチンチャンチョンとか書いてあるわけ……?」
筆者は呆れました。
さて、「東洋人ではない人が、つり目のポーズをする」というのは差別行為です。ところが残念なことに、欧米人の中には「つり目ポーズをすることは幼稚な行為ではあるけれど、差別的な行為ではない」と言う人がいます。
フィンランドの市議会議員のOtto Meri氏もエックスで、「目じりを引っ張ることは人種差別ではない。それは悪いし、幼稚なふるまいだ」と書いています。しかし東洋人の多くから人種差別だという声が上がっているのに、東洋人でない人が「つり目ポーズをするのは幼稚な行為ではあるが、人種差別ではない」と言うこと自体が高慢だと思います。
■「個人的には」と、ごまかしてはいけない
筆者は前述通りドイツで育ちましたが、ドイツでアジア人が「目の形」について差別行為を受けたと話すと、多くのドイツ人が“Aber ich finde die Augen total schön.”(「でも私は・僕は(アジア人の)目の形をとてもきれいだと思う」)と慰めようとする傾向があります。本当にそう思っている可能性は否定できませんが、本題から話をそらしているようにも思え、筆者は不快に感じます。
「目の形を揶揄することが差別だ」と言っているにもかかわらず、「でも僕は・私はアジア人の目は綺麗だと思っているから、それでいいじゃない?」と言うことで、「話を終わらせたい」という雰囲気がありありと伝わってくるからです。
■黒人の肌色に言及するのはタブーなのに
さらには「目の形がアーモンドのようでかわいい」と言う人もいます。でも黒人に対して「肌がチョコレートみたいでかわいい」と言うことがタブーだというのは、今や世界の多くの人が知っています。疑問に思うのは「なぜアジア人に対しては容姿についてアレコレと今まで通りに言って良いと思っているのか」ということなのです。
ですから、ここは東洋人や東洋にルーツのある人全員が団結して、「つり目ポーズをすることは差別だ」と断じて闘うべきです。困ったことに日本国内には次のような意見も見られます。それは「誰々さんはつり目ではなく、タレ目なのでは?」「そもそも、つり目ポーズは中国人をターゲットにしているのだから、我々日本人をターゲットにしたものではない」という旨の「意見」です。
しかしこの手の意見はトンチンカンだと言わざるを得ません。なぜなら前述のように、「つり目ポーズをする人」は、アジア人全員を低く見ているのであり、そのアジア人の本当の目の形になど興味がありません。バカにするのが目的なのですから、つり目ポーズをするわけです。
■差別されたら反論することが必要
「欧米人にはアジア人は皆同じ顔に見えてしまうから仕方がないのではないか」といった日本人の意見も見られますが、差別行為をしたヨーロッパ人に理解を示したり同情をしたりする必要は全くありません。残念ながら、差別行為をされた時に「スルーする」というのも良い結果をもたらしません。
なぜならヨーロッパでは「リアクションをしない」ということは、すなわち「その行為を受け入れた」と捉えられかねないからです。いったん「からかっても反撃してこない人達」と思われてしまうと、アジア人に対して何をしてもいいと勘違いをした人を助長させてしまう可能性が高いので、早めにビシッと差別だと言っておくべきなのです。
今回、SNSを中心に多くの日本人がフィンランドの政治家に抗議したことが一定の効果をもたらしました。
今回は「一件落着」といったところですが、油断はできません。騒動が忘れ去られたころに、また別の国の別の人が「やらかす」可能性があります。その時も日本人は東アジアの人々と連携して「相手が謝罪するまで譲らない」スタンスを貫くべきです。
----------
サンドラ・ヘフェリン(さんどら・へふぇりん)
著述家・コラムニスト
ドイツ・ミュンヘン出身。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフ」にまつわる問題に興味を持ち、「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。著書に『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)、『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)、『ほんとうの多様性についての話をしよう』(旬報社)など、『ドイツ人は飾らず・悩まず・さらりと老いる』(講談社)、『有休取得率100%なのに平均年収が日本の1.7倍! ドイツ人の戦略的休み方』(大和出版)などがある。
ホームページ「ハーフを考えよう!」
----------
(著述家・コラムニスト サンドラ・ヘフェリン)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
