体重や血糖値を気にする人には人工甘味料使用の飲み物やお菓子は魅力的だ。消化器外科医の石黒成治さんは「アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムKなどが広く使われているが、長期的な影響はわかっておらず、体内で血糖コントロールを混乱させるという研究もある」という――。

※本稿は、石黒成治『糖質リスク 自覚なき「食後高血糖」が万病を招く』(SB新書)の一部を再編集したものです。
■人工甘味料はリスクゼロなのか
甘い物を楽しみたいけれど血糖値が気になる。そんなとき、カロリーゼロで血糖値への影響が少ないとされる人工甘味料は、魅力的な選択肢に映るかもしれません。実際、これまで糖尿病患者の指導においても、血糖上昇を防ぐ目的で人工甘味料入りのお菓子やダイエットソーダなどが推奨されてきました。アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムKなどがその代表です。
しかし、近年、これらの人工甘味料が、カロリーゼロであるにもかかわらず血糖コントロールを悪化させ、さらには腸内環境にも悪影響を及ぼす可能性が指摘されるようになりました。
人工甘味料が糖代謝に悪影響を及ぼす可能性は、2007年の大規模調査「Framingham Offspring Study」で初めて示唆されました。この研究では、ダイエットソーダの習慣的な摂取がメタボリックシンドロームや高血糖のリスク上昇と関連することが報告されたのです(Circulation. 2007 17646581)。その後も同様の観察研究が多数発表され、日常的な人工甘味料飲料の摂取と糖代謝異常・糖尿病発症との関連が指摘されてきましたが、これらは「相関関係であって因果関係ではない」と解釈されることが一般的でした。
つまり、「元々糖尿病のリスクが高い肥満傾向の人が好んでダイエット飲料を飲んでいただけで、人工甘味料が直接の原因ではない」という反論が、当初は根強くあったのです(Am J Clin Nutr. 2011 21430119)。
■スクラロースで血糖値の上昇?
しかし、その後の研究では、人工甘味料が血糖コントロールに直接的な影響を与える可能性が示され始めました。2013年の研究では、人工甘味料スクラロース摂取後に糖負荷試験を行ったところ、プラセボの水を摂取したグループと比較して血糖値の上昇とインスリン分泌量が増大し、インスリン感受性が約23%も低下することが観察されました(Diabetes Care. 2013 23633524)。
こうした動物実験やヒトでの介入研究の結果が出てくるにつれ、人工甘味料と糖代謝の関連は無視できないものとなっていきます。
この関連の背景にあるメカニズム、特に腸内環境の関与を大きく示唆したのが、2014年にNature 誌に発表されたイスラエルの画期的な研究です(Nature. 2014 25231862)。この研究では、まずマウスに人工甘味料の一種であるサッカリンを与えると糖代謝が悪化することを確認しました。さらに、健康な成人ボランティアにサッカリンを1週間摂取させたところ、7人中4人で耐糖能試験(血糖値の上がり方を調べる検査)の悪化、すなわち血糖値がより上昇する傾向が見られました。
■腸内で糖代謝異常を引き起こしうる
驚くべきことに、これらの被験者の腸内細菌叢の組成は大きく変化していたのです。さらに重要な発見は、この変化したヒトの腸内細菌を無菌マウスに移植すると、そのマウスの耐糖能まで悪化するという結果でした。このことは、人工甘味料が直接ではなく、腸内細菌叢の変化を介して糖代謝異常を引き起こしうるという、これまでの常識を覆すメカニズムを示唆しています。このヒト試験は小規模ながらも、人工甘味料の短期間での大量摂取がヒトの血糖応答に悪影響を及ぼす初めてのエビデンスとして世界に衝撃を与えました。
その後も、人工甘味料と血糖コントロール悪化の関連を示す証拠は積み重なっています。2018年の研究では、人工甘味料を普段摂取しない成人33人に2週間スクラロースを投与したところ、明確なインスリン抵抗性(インスリンが効きにくくなる状態)が引き起こされることが示されました(Am J Clin Nutr. 2018 30535090)。さらに、19万人という大規模なコホート研究では、人工甘味料飲料の摂取量を1日あたり0.5杯以上増やした人は、その後の4年間で2型糖尿病の発症リスクが18%増加すると報告されています(Diabetes Care. 2019 31582428)。
これは砂糖入り飲料の場合の16%増加を上回る結果です。
この研究は、砂糖入り飲料を水やコーヒー・お茶に置き換えることで糖尿病リスクが低下するのに対し、砂糖を人工甘味料に切り替えても糖尿病リスク低減効果は全く見られないと結論づけています。
■なぜ血糖コントロールが悪化するのか
人工甘味料が血糖コントロールを悪化させるメカニズムは、腸内細菌だけでなく、脳の働きも関与していると考えられています。人工甘味料を摂取すると、脳は甘味の刺激を受け取りますが、通常甘味に続くはずの血糖値上昇が起こらないため、脳は混乱します。この混乱は、人工甘味料と炭水化物を同時に摂取した際に特に顕著に現れることが示されています。脳機能MRIによる研究では、スクラロースと炭水化物を同時に摂取すると、甘味刺激に対する中脳や島皮質などの脳領域の応答が低下することが確認されました(Cell Metab. 2020 32130881)。
これら中脳は甘味による快感や学習信号の生成に、島皮質は味の評価や満足感に関わる部位です。甘味の刺激と、それに伴う実際のエネルギー摂取量とのミスマッチが神経系の調節異常を招き、脳から膵臓や肝臓への適切な指令が出なくなり、結果としてインスリン感受性が著しく低下するという機序が想定されています。
■人工甘味料が安全とは言い切れない
人工甘味料の種類によって、糖代謝に与える影響は異なる可能性も示されています。2022年の比較試験では、サッカリン、スクラロース、アスパルテーム、ステビアの4種類を2週間摂取させた結果、サッカリン群とスクラロース群でのみ、腸内細菌叢の有意な変化と食後血糖応答の悪化が観察されました(Cell. 2022 35987213)。
一方で、アスパルテームとステビアでは糖代謝への顕著な影響は認められませんでした。ただし、アスパルテームやステビアの摂取でも腸内細菌の変化は生じているケースもあり、現時点で血糖応答への影響が見られなくても、腸内環境への影響がないとは言い切れないため、安易に「安全」と結論づけるのは早計です。
人工甘味料が糖尿病や肥満との関連はないとする研究の中には、製品を扱う企業からの資金提供を受けているものも少なくないことも指摘されています(Nutrients. 2022 35406042)。
実際、大手飲料メーカーが、ダイエットソーダではなく運動不足が肥満の原因であると主張し、自社に不利な視点をそらそうとした事例も明らかになっています(J Public Health Policy. 2019 31065042)。
■長期に摂取するのは避けたほうがいい
現時点では、人工甘味料の常用が血糖コントロールを悪化させる可能性が高いと考え、摂取は避けておくのが無難です。米国糖尿病協会や日本糖尿病学会でも、血糖コントロールのために人工甘味料を使用することは積極的には推奨せず、あくまでも一時的な置き換えとしての使用が望ましいという見解を示しています。
さらに、人工甘味料は血糖コントロールの問題だけでなく、がんのリスク上昇や心臓血管疾患のリスク上昇など、他の健康リスクとの関連も指摘されていることを知っておく必要があります(Cureus. 2023 38288206)。比較的安全性が高いとされてきた人工甘味料でも、30年以上経ってから新たなリスクが報告されるケースもあります(Nat Med. 2023 36849732)。現在「比較的安全」と考えられているステビア、羅漢果(ラカンカ)、キシリトール、エリスリトールなども、長期的な常用は慎重に避けた方が良いと言えるでしょう。

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石黒 成治(いしぐろ・せいじ)

消化器外科医 ヘルスコーチ

1973年生まれ。1997年名古屋大学医学部卒。国立がん研究センター中央病院(当時)で大腸がん外科治療のトレーニングを受け、名古屋大学医学部附属病院、愛知県がんセンター中央病院、愛知医科大学病院に勤務。現在は予防医療を目的とした健康スクールを主宰。Dr IshiguroのYouTubeチャンネルは登録者数24万人超。著書に『医師がすすめる 太らず病気にならない 毎日ルーティン』(KADOKAWA)ほかがある。


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(消化器外科医 ヘルスコーチ 石黒 成治)
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