※本稿は、石黒成治『糖質リスク 自覚なき「食後高血糖」が万病を招く』(SB新書)の一部を再編集したものです。
■最初は苦手でも、飲み続けてみた
ところで、皆さんは、お酢は好きでしょうか? 実は以前の私は、お酢を飲むなんて考えられませんでした。健康に良いとは聞いていましたが、積極的に試す気にはなれなかったのです。
ところが、健康に目覚めてからは、毎朝1番に大さじ2杯のリンゴ酢を水に入れて飲むようになりました。でも、飲んでいるときの味や、飲んだ後の口の中や鼻に抜けるツンとした匂いが、どうしても苦手で、毎回憂鬱な気分になっていました。しかし、食生活を改善していくうちに(主に糖質をコントロールし、良質な油を摂るようにしてから)、明らかに酢の味が変わってきたのです。不思議なほどおいしく感じるようになりました。
今では、炭酸水に純粋なお酢を入れて飲んでいます。もちろん、甘みがついたものではなく、酸っぱいお酢です。このような味覚の変化は、私が指導した多くの生徒さんも経験しています。そして、血糖コントロールに注目してからは、お酢を飲む回数が格段に増えました。
■糖尿病薬の開発前は薬代わり
酢は古代から健康療法として利用されてきました。紀元前5000年頃のバビロニアでの酢の発見や、紀元前420年頃のヒポクラテスが傷の手当てに酢を用いたことなどが伝えられています(MedGenMed. 2006 16926800)。19世紀のフランスの細菌学者パスツールが酢酸菌を発見し、酢酸発酵の仕組みを解明してから工業的に作られるようになりましたが、それまでは酒と同様に自然発生的に作られました。日本では、5世紀に中国から酒の醸造法とともに酢造りの技術が伝えられ、米を原料とする食酢が作られました。
伝統的に血糖降下させる作用が知られていて、糖尿病薬が開発される前は、酢を紅茶にまぜるvinegar teaが治療薬として使用されていました。人々は何世紀にもわたって酢を飲んでいますが、その健康上の利点の背後にあるメカニズムを理解できるようになったのはごく最近のことです。酢の血糖降下作用を最初に報告したのは日本人で、糖質摂取前に酢を摂取すると血糖反応が改善することをラットとヒトで証明しました(Agricultural and Biological Chemistry. 1988)。その後、ヒトでの研究が進みます。
■肥満気味の人が4カ月飲んだ結果
日本人成人でBMI25~30kg/m2の比較的肥満気味の人を対象とした研究で、12週間、酢を15ml、30ml飲んでもらう群と飲まない群の3群の比較を行いました(BiosciBiotechnol Biochem. 2009 19661687)。食事は通常通りですが、酢を余分に摂らないように指導されます。
4カ月後の脂肪の量を測定すると、体重もウエストサイズも酢を摂取した群が減少していました。
血糖降下作用に関しては酢が食後の血糖値、インスリン、脂質レベル、および前腕筋の血流と筋肉の血糖取り込みに与える影響を観察した研究を紹介します。2015年に糖尿病患者を対象に食事5分前に30mlの酢を水に薄めて服用する群と水のみの群にわけて比較が行われました。食事内容はパン、チーズ、ターキーハム、オレンジジュース、バター、そしてシリアルバー(557kcal、炭水化物75g、たんぱく質26g、脂質17g)で比較的炭水化物の多めの食事です。
■食後の血糖値を下げる効果がある
糖尿病患者ですので血糖値のピークは高いですが、酢を服用しない場合のピーク血糖値は、食後60分で258mg/dLに対して、酢を服用した群では230mg/dLで大きくピーク血糖値が下がっています。同時に測定したインスリン値のピークは、酢を服用していないグループが約120μU/ml、酢を服用したグループが約88μU/mlであり、その差は約32μU/mlでした。血糖値もインスリン値も曲線下面積は明らかに酢を服用した方が小さくなりました。
食後の中性脂肪値にも大きな差を認めました。酢を服用すると食直後の中性脂肪値の上昇が強く抑えられます。
■酢には代謝を改善する効果も
インスリンは、単に血糖値を下げるだけでなく、肝臓での脂肪酸合成を強力に促進するホルモンでもあります。体内でエネルギーとして使いきれない余分なブドウ糖は、インスリンの作用によって肝臓で脂肪酸に変換され、それが中性脂肪として血液中に放出されます。
つまり酢を飲んでいないグループ内で見られたより高い血糖値とそれに伴うより高いインスリンレベルは、肝臓での脂肪酸合成を活発化させ、結果として血中の中性脂肪値が上昇することになります。このように単に酢を服用することが、大きな代謝の変化を誘導することになります。
酢が持つこの代謝改善効果、血糖改善効果のメカニズムは以下の2つの機序によって引き起こされると考えられています(Clin Nutr ESPEN. 2019 31221273)。
1 消化酵素α-アミラーゼの働きを抑える作用
2 筋肉のブドウ糖取り込みを促進する作用
■2つの働きで糖尿病患者を助ける
1.消化酵素α-アミラーゼの働きを抑えて糖の吸収を遅らせる作用
酢はデンプンをブドウ糖に分解する消化酵素であるα-アミラーゼの働きを抑制する作用があります。ヒトでは唾液中のα-アミラーゼが胃内でもしばらくデンプンを分解し続け、食後最初の30分でデンプンの約80%が加水分解されると報告されています。酢の強い酸性(pHは約2~3)により、この唾液由来α-アミラーゼは胃内ですぐに失活します(Dig Dis Sci. 1987 3652896)。その結果、胃内での分解が抑えられて小腸でゆっくり分解されることになるので、ブドウ糖がゆっくりとしか生成・吸収されないため、食後血糖の急上昇を防ぎます。
2.骨格筋など末梢組織でのブドウ糖取り込みを促進する作用
酸は筋肉など末梢組織でのブドウ糖取り込みを促進し、血中からの消失を高める作用があります(J Diabetes Res. 2015 26064976)。前腕の静脈にカテーテルを挿入して酢を服用することで血糖値が変わるかどうかを観察した研究があります。酢の服用で前腕筋のブドウ糖取り込みが大きく増大し、同時に血中グルコース濃度とインスリン濃度の低下が観察されました。この結果は酢の摂取によって、筋肉のインスリン感受性が向上し、ブドウ糖が筋細胞内に取り込まれたことを示唆します。
■ブドウ糖取り込みが進む仕組み
酢を飲むことで細胞内のAMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)という酵素が活性化されます。AMPKは細胞内のエネルギーセンサーで、活性化されると糖・脂質代謝に関わる多くの酵素や転写因子に影響を与えます。AMPKが活性化されると、GLUT4と呼ばれる筋細胞のブドウ糖取り込み口が細胞の表面に移動し、より多くのブドウ糖を受け入れる体制が作られます。
またAMPKはミトコンドリアの代謝群の遺伝子の発現にも影響を与えて、筋肉が持続的に糖代謝を行うように誘導する作用も示します。同時にまた脂肪燃焼関連酵素も活性化されて脂肪酸分解が進みます。このように酢は細胞内エネルギーセンサーAMPKを活性化することで、短期的な血糖降下作用のみならず長期的な遺伝子発現変化を通じて糖・脂質代謝を健康的な方向にシフトさせる役割を果たします。AMPKは運動でも誘発される酵素で運動プラス酢の摂取は相乗効果を発揮します。
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石黒 成治(いしぐろ・せいじ)
消化器外科医 ヘルスコーチ
1973年生まれ。
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(消化器外科医 ヘルスコーチ 石黒 成治)

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