「もう限界」。子育てで爆発する前に親はどんなメンタルコントロールをするといいのか。
「戦略的ほったらかし」のメソッドで8000人超の保護者の相談を受けてきた家庭教育コンサルタントの岩田かおりさんは「過干渉気味の子育てをしてしまう方に実践してほしい、子供への声かけ述と自分ケアの方法がある」という――。(構成=ディスカヴァー編集部)
■「何回言ったらわかるの?」は過干渉のサイン
私は家庭教育コンサルタントとしてこれまで8000人以上の親御さんの相談に乗ってきましたが、とくに多くのお母さんが口に出してしまうのがこれらの言葉です。
「何回言ったらわかるの?」

「この前も言ったよね?」
この言葉が出た時点で、「過干渉」になっている可能性が高いといえます。
ほとんどのお母さんが、「いちいち口出ししちゃいけない」「司令官になっていろいろ指示しちゃまずい」と、頭ではわかってはいるんです。でも、つい先回りしてしまう自分に悩んでいるんですよね。
よく耳を傾けてみると、本人は過干渉のつもりがなくても、実際には1から10まで全部言っていることがとても多い。このことに、自分自身で気づくのは難しいものです。
そんなときに自分の「過干渉」度に気づくフレーズが前述した「何回言ったらわかるの?」「この前も言ったよね?」なんです。あと、「これ言うの4度目だよ」と数をカウントし始めたらもっと危険です(笑)。「この3つのフレーズが出たときは、過干渉に気づくタイミング」というお作法にしておくといいでしょう。
■子どもなんて失敗すればいいし、困ればいい
なぜ、何度も言ってしまうのでしょうか。背景には、親御さんの心の中に、「子どもが困らないように」という思いがちょっと強めにあるから。
私はそう分析しています。
「子どもが学校で困らないように」と思うと、やっぱり「いちいち言わないと」って思ってしまいます。「困らないでほしい」という親心なんですよね。だから先回りして「水筒持った?」「体操服忘れてない?」なんて1つずつ点呼確認のようなことになるのです。
でも、私がそうした親御さんたちに声を大にしてお伝えしたいのは、「子どもなんて失敗すればいい」「困ればいい」ということ。
私は3人の子育てをしてきましたが、本当にそう思いながらやっていたんです。子どもが水筒を忘れても、「喉が渇いて困れば、次は忘れないように自分で工夫するようになるだろう」って。体操服を忘れて本当に恥ずかしい思い、困った経験をしたら、「次から持っていくための仕組みを自分で考えるだろう」って。
それが自分で生み出す「学び」なんです。
だから、「失敗すればいい」「困ればいい」と「ほったらかし」をしたのです。
もちろん第一子のときから、「失敗すればいい」「困ればいい」と思えたわけではないです。2人目、3人目と経験を積むうちに「ゆるまった」というか、覚悟が決まった感じです。

1人目でもまあまあゆるかったとは思いますが(笑)、以降はどんどんゆるく「ほったらかし」になりました。
それが功を奏して、主体的に自分のことを考える子に育ったと思っています。3人目の次女は、この夏、日本の高校を中退して、経団連の奨学金をいただいて、インドに留学中です。母親の私も驚く大胆な選択は、次女が自分で決めたこと。彼女の話を聞いて、しっかり自分で考えていることがわかり、認めたのです。
■× ただほったらかす ◎「戦略的」にほったらかす
とはいえ、子どものすべてを「失敗すればいい」「困ればいい」と放置するだけだと、それは「単なるほったらかし」です。私が子育てで実践してきたのは、「戦略的ほったらかし」です。作戦なんです。これにはポイントが2つあります。
1つ目は、「重要なことと些細なことを明確に分けること」。
私の場合、子どもに対して「これはどうでもいいけど、ここはちゃんとしてほしい」というラインを明確にしました。例えば、学校へ提出するプリントはちゃんとする。
「ランドセルのこのポケットに入れておくから、必要な時は出して」と保存する場所を決めておく。そして「提出類のプリントはちゃんとしてほしい」と念押しします。親としては同じ社会人である学校の先生にご迷惑をかけてはいけない。そういう大人の考えゆえの判断です。
一方で、水筒を忘れても、ハンカチがなくてズボンで手を拭いても、それは「どうでもいいこと」。忘れていっても「あら、そう」で終わり。完全に子どもたちにまかせてほったらかしでした。
重要なことと些細なことを、親もちゃんと分けることが大切なんですが、そのためには親自身が優先順位付けをして、そのうえで子どもに伝えるといいと思うのです。
■怒ると、本当に大切なことが伝わらない
2つ目のポイントは「怒りながら言わないこと」。
私がむやみやたらにガミガミ言わないからこそ、本当に重要なことが伝わりやすい関係性を築けたんですよね。もし、「怒りながら何度も同じことを言っている」と、どうなるか。会社の上司と部下の関係でも、怒りながら次から次へと言ってくる上司の話って、こちらも防衛本能が働くのか適度にスルーして100%頭に入ってきませんよね。

「ああ、この人、怒っているなぁ」「怒らせちゃったなぁ」という印象だけが残り、萎縮してしまって肝心の内容は右から左に抜けてしまいます。これ、子どもも同じなんです。
怒りが強くなればなるほど、子どもの頭の中には入っていかくなるんです。つまり、伝わらないのは「子ども」のせいではなく、「親の伝え方・話し方に問題あり」ということ。
職場で同じことを何度も繰り返し怒鳴ったりはしないはずなのに、親子だとやってしまう。ここに気づくことがとても重要です。
ただ、冷静に伝えても子供が実行してくれない時もあります。そんな時は、子どもに紙に書いて渡すこともありました。小学生の子供に「口で言ってもわからないよね。ちょっと要点まとめて、紙に書いてちゃんと伝えるわ」と言って。そうすると、子供も「なんだなんだ」という感じで、メモを読むんですね。そうすると意思や気持ちを理解してくれる。
そういう現象を経験すると、やっぱり「怒って何度も言う」というのは、「重要なことを伝える」という観点からするとまずい。というか、親が声を荒らげてエネルギー使うだけ損なんです。
■親のあせりや不安をどう解消するか
それでも、つい怒り口調になってしまう、イライラしてガミガミ言ってしまう親御さんの気持ち、痛いほどよくわかります。最近のご家庭は共働きが多くて、お母さんも仕事をしている。仕事で疲れてるし、子どもは言うこと聞かないし、家事も山ほど残ってる。「もう限界!」と体と心のキャパがないときは誰もが「怒り」に走ってしまいがちです。
共働きの親は忙しいので、「早く準備してくれないと、私の出社時間が」とか「早く宿題やってくれないと、私の寝る時間が」など、親の不安や心配が先に立つなどの理由もあります。
家庭の中でも、子育てにおいても、日常生活で我慢していることが多ければ多いほど、感情のコントロールが不能になる確率は高まります。
そういうとき、私は、「親になったからこそ『これをちゃんとしないといけない』と思うことを手放そう」とアドバイスしています。
拙著『自分から学べる子になる 戦略的ほったらかし教育』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の中でも、「◯◯しなければならない」「◯◯しちゃいけない」みたいな思い込みを、改めて冷静に考える必要があるということを書いています。
自分の心の中をじっと覗いてみると、「生活の中で『~すべき』と自分縛りをしていることが案外多い」と気づくかもしれません。
「洗い物を終えてから寝るべき」

「子どもが寝るまで親は起きておくべき」

「一度決めたことは『やめたい』と言われても続けさせるべき」

「家族のために休日はどこかに連れて行くべき」
こんな「~すべき」を抱えて、我慢ばかりしているのです。
そういう時は「~すべき」と思っていることを紙に書き出して、手放せそうな項目は思い切ってリリースするんです。
■親ができる、手軽なストレス解消法
親のストレス解消法には、この「~すべき」項目をリリースするほかにも方法があります。例えば、「コーヒーを飲む」とか、「いい香りを嗅ぐ」とか、「チョコレートを食べる」とか。意識的にちょっとしたことでガス抜きするのです。
ポイントは、手軽でお金がかからなくて、すぐ手に入る身近なものであること。いくら好きなことでも、エステに行きたいとか、海外旅行とかはだめですよ。お金がかかりすぎたり、実行できるまでに時間がかかることだと、その間ずっとイライラが消えないですから(笑)
手軽にできて、お金がかからず、すぐ手に入るもの。100円台でコンビニで買えるくらいが目安です。あと、味覚とか嗅覚って、本能に働きかける系は最強かもしれないですね。
嗅覚で言えば、「ハンドクリームに投資しよう」ってよく言っています。1本1000~2000円くらいの好きな香りの高級ハンドクリームをいくつか手元にもっておく。イラっとした時に手に塗って香りをかぐだけで、ちょっと気分がマシになるんですよね(笑)。しかもお肌がツルツルになるから一石二鳥です。デパートの美容商品売り場で子育てのストレス対策用に年間1~2本も買えば、しのげます。それで「炎上」した自分を少しでも鎮火できるなら、安いものです。
■SNSを見る=自分から不安になりにいっている
私の子どもは、上の2人はすでに成人していて、末っ子も高校生です。
私の子育て時代より、今の親御さんのほう大変だなと思うのが「SNS」への対応。
「ウチの子、まわりより遅れているんじゃないか」

「あの子はもうこんなことができているのに」

「この時期に◯◯をやっていないとまずいかも」
こういうあせりや不安、どこから来ているかというと、多くの場合、SNSなんです。
「本を読んでむちゃくちゃあせる」ということはあまりありません。自分の頭で考えながらゆっくり読むから。
でも、SNSは違う。衝動を刺激するサイクルがすごく上手なんですよね。だから、あせりや不安を感じたときは、SNSはあまり見ないこと。上手に距離をとることが重要ですね。私、SNSのことを時々「ゴミ箱」って呼んでいます(笑)。
「不安になるのがわかっているのにSNSを見る行為は、ゴミ箱を覗きに行って『臭い!』って言っているのと同じよ」とアドバイスするのです。
SNSを見る行為は、わざわざあせりにいっている、不安になりにいっている、そういう行為じゃないかなと思います。自分の行動を振り返ってみて、「あ、そうだな」と思うところがあったら、SNSをミュートにしてみてください。

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岩田 かおり(いわた・かおり)

家庭教育コンサルタント

ママプロジェクトJapan代表取締役。幼児教室勤務、そろばん教室の運営を経て、「子どもを勉強好きに育てたい!」という想いから、独自の教育法を開発。「子どもを学び体質に育てる」と「親を幸せ体質にする」ことを目指し、親がガミガミ言わずに勉強好きで知的な子どもを育てる作戦『戦略的ほったらかし教育』を全国へ展開中。また、3児の母親で、『戦略的ほったらかし教育』を実践した子どもたちは、中学生で起業、経団連の奨学生としてインドへ高校留学、学費全額奨学金で海外大学進学、塾なしで慶應義塾大学合格など、3人とも自分で自分の道を切り開いてきた。著書『自分から学べる子になる戦略ほったらかし教育』(ディスカヴァー)は、現在6万部突破のベストセラーに。

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(家庭教育コンサルタント 岩田 かおり 構成=ディスカヴァー編集部)
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