■100万円の不正経費で辞めた取締役
「取締役ですから、かなり痛恨」
11月7日、フジテレビの清水賢治社長は悔しさをにじませながらこう報道陣に語った。清水社長に痛恨と言わしめたのは、いわゆる「中居問題」から再起を図っているフジテレビにとって冷や水を浴びせる不祥事だった。
同日のフジ側の発表によると、取締役の安田美智代氏が不正な経費請求を複数回行っていたというもので、一部は安田氏が取締役に就任してからも行われていたという。不正請求は2020年からの5年で約60件に上り、約100万円分の会食費用や手土産代の申請が記載と異なっていた。
一連の問題を受けた、社内の監査で安田氏の案件が浮上。外部専門家などを交えて詳細に調査したところ、安田氏は取締役の辞任を申し出るとともに、請求分の返金の意向を示したといい、私的流用はなかったとも説明しているという。
安田氏はなぜ5年にもわたり請求を続けたのか。テレビ業界関係者が説明する。
「この業界では古くからこうした経費の申請があり、特に昭和世代のテレビマンには慣習のようになっていた」
■AIなら「不自然な経費精算」を見逃さない
ドラマではないが、今の時勢に照らせば不適切にもほどがあり、そこを逸脱してしまったということだろう。こうした不正を根絶やすべくフジ側は早速、再発防止策を打ち出す。
AIを使って実際どのように不正を検知していくのか?
AI監査システムなどを開発、展開するスタートアップの代表、姥貝賢次氏が説明する。
「最近の生成AI技術を活用したチェックでは、請求内容の文脈を理解する。具体的には領収書やレシートの細目を分析して内容に不合理性がないかを検出する。例えば、会食の経費申請なのに『お子様セット』が含まれていたらおかしい。
また、取引先をWeb検索して事業の実態があるかを自動でリサーチしたり、社員のカレンダーと照合して東京で仕事をしているはずなのに大阪のレシートが上がっていたりしないかもチェックする。
なぜか休日に頻繁に領収書が発行されているといった不自然なパターンも、AIを使えば効率的かつ正確に検出できる。数字を見ていくだけでは捕捉できないものでも、文脈を理解できるAIならではのアプローチだ」
■中小企業が導入するにはコストが大きい
ITジャーナリストの三上洋さんは、AIが持つ威力を認める一方で、気をつけなければならない点も指摘する。
「不正は人間だとなかなか見つけられない場合もあるが、AIは細かな違和感を見つけられるのでそこをフックにして人間が最終的にチェックすることで、かなりの割合で不正を防止することができる。ただAIで気をつけねばならないのが『ハルシネーション』だ」
ハルシネーションとは、英訳では「幻覚」で、AIがデータを誤って学習、解釈することで、もっともらしい誤った現実をつくりだしてしまうことを言う。いうなれば「AIのウソ」である。例えばある取引があったとする。
また、三上さんによれば、AIにはとにかく大量のデータを取り入れて学習していくものだが、AIにデータを学習させることは実は大変な労力とコストがかかるという。
「不正請求で言えば、紙の領収書、稟議書などをすべてデジタル化してAIに学習させていく必要がある。AI不正検知システムの導入には多大な投資が必要になるため大手企業なら導入の機会はあるだろうが、中小企業ではコストがかかり導入をためらうのではないか」
■「合法」で24時間365日働けるAI
不正が巧妙化する中で、人間のチェックが時に引き起こす漏れのリスクを減らすべく、AIの力を借りるということだが、なぜAIなのだろうか。姥貝氏に尋ねてみた。
「まず時流として、2025年はニュースになる不正事件が多い年で企業の不正に対する社会の目が厳しくなった。同時にITトレンドとしてChatGPTなどのAIブームがあり、この2つが重なってAI不正検知への期待が一気に高まった。
もう一つ重要な背景として不正検知や監査という業務を担う人材が減っていることが挙げられる。不正検知は専門性が高くて誰でもできる仕事ではないことも拍車をかけている」
AI不正検知はいわば「ベテランの集合知」と姥貝氏は例える。さらに集合知の妙だけではないようだ。
「AIは24時間365日働き続けられることが強みだ。労働違反もなく、たとえ午前3時に経費精算が飛んできても、3時5分には「これは不正の可能性があります」という指摘ができる。
■「不正する側」もAIによって賢くなる
不正する側と捕まえる側はイタチごっこが続くものだ。今はどちらにアドバンテージがあるのか?
「双方のレベルは常に上がり続けている。今後は、AIを使って不正の手口が高度化していく可能性がある。見破る側もAIを使わないと対応が難しくなる。そこに専門家が少なくなってきているという現実が重なっている。したがって専門家が設計したAIの活用フィールドは広がっていくだろう。そうなれば専門的なトレーニングを受けていない人でもAIを使って高度な調査ができる」(姥貝氏)
不正を働きそうな人のタイプについて傾向はあるのか?
姥貝氏は「傾向を分類するのは非常に難しいところ」だという。
「監査に入った時に顧客からよく聞かれるのは、不正を働いた人について『まさかあの人が⁉』という反応だ。優等生だったのに、真面目だったのにという不正行為とのギャップの大きさに皆驚く。不正行為者は外見や振る舞いからは見えにくい傾向がある」
■「まさかのあの人」が不正を働く理由
姥貝氏によると、監査に関する学術研究でも「不正のトライアングル」という考え方があるという。
「動機、機会、正当化という3つの要素から成り立っている。
動機は業績、ノルマ、利益目標、IPOへのプレッシャー、株主からの期待、人間関係。こうした過度なプレッシャーが不正につながっていくとされる。
機会では、銀行口座の権限を持っている人、承認権限を持っている人、金庫の鍵を持っている人。長年経理業務を担当している人など、権限を持つ人がこれに該当する。こうした機会を持つ人たちが「まさかのあの人」であることが多い。
正当化は本人の内心で起こる言い訳で、第三者が察知しづらいもの。例えば『これだけ会社に貢献しているのに給料が少ないから少しくらいいいだろう』『自分は役員なんだからこんな小さな金額くらい使ってもいいはずだ』といった不正を正当化する心理だ。この3つの状況が揃った時に不正が発生することが多い」(姥貝氏)
■「業界に強いAI」が今後作られていく
AIによる不正検知は今後、どのように広がっていくのか。姥貝氏は「業界ごとのオーダーメード型」になっていくと予測する。
「業界によって不正パターンが異なるので業界特化型のAIが効果的だ。一例を挙げると金融機関は歴史的に不正事例を社内に蓄積している。
労働時間や退職を気にせずとも、稼働が期待されるAIによる不正検知。三上氏も指摘するように、問題は多額の投資。導入できる財務体力がある企業に限られている現状への処方箋はあるのか?
「中小企業での不正傾向が高い中で、AI導入はコスト高で見込めない。だからこそAI不正検知のプラットフォームをすでに持っている大手企業が、中小企業向けのサービスとして提供していく。そういう動きが広がっていくことで、中小企業でも導入しやすい環境が整っていくのではないか」(姥貝氏)
今後ますます企業を中心に広がっていくであろう、AI不正検知。あなたの会社でも密かに導入されているかもしれない。
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一木 悠造(いちき・ゆうぞう)
フリーライター
テレビ報道の現場で記者として主に事件取材を重ねてきたフリーライター。
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(フリーライター 一木 悠造)

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