■6割以上が「マナーの悪い外国人」を目撃
2025年に日本を訪れた外国人旅行者の数が3900万人を突破し、過去最高を記録した。すっかり観光大国になったニッポン。しかし、それが日本人の神経を逆撫でしているケースがあるという。
特に世間を騒がせているのが、新幹線におけるマナー問題だ。日々増え続けるインバウンド客に比例するように、SNSでは乗車マナーに関する愚痴や炎上投稿が“定番”となりつつある。
車内の雰囲気はそんなにギスギスしているのか。筆者が所長を務める調査サイト「鉄道トレンド総研」で「駅や新幹線、電車の中でマナーの悪い外国人を見かけたことがあるか」というアンケート調査を行った。すると「ある」と回答した人は62.4%。実に半数以上の人が外国人のマナー違反を目撃している結果となった。
文化や習慣の違いがあるのは仕方がないことだ。しかし鉄道会社も「外国人への対応が不十分ではないか」と、しばしば怒りの矛先を向けられている。
■通路に大型スーツケースを置いて知らん顔
まず、多くの乗客がストレスを感じているのが荷物問題だ。インバウンドの急増に伴い、車内には大きなスーツケースが多く運ばれ、時おり通路やデッキを塞ぐこともある。座席の上の荷物棚はスーツケースでぎっしり埋まり、乗せきれなかった荷物は、座席の上を占領することも。鉄道トレンド総研にも、荷物に関する困った声が聞かれている。
「外国人が大きなスーツケースを引っ張っている。ぶつかりそうで怖い」(女性/60代/東京都)
「通路に大型スーツケースを置いていて知らん顔。さらにスーツケースを広げて荷物を出し入れする始末。静観していたが、若い男の子がやんわりと英語で注意していた。しかし聞く耳持たずという感じだった」(女性/30代/茨城県)
実際に、JR東海にも多くのクレームが届いているという。言葉の壁がある外国人の場合、伝えるのも一苦労だが、こうした状況にJR東海は、「もし困ったことがあったら、気兼ねなく車掌やパーサーなどの乗務員に相談してほしい」という。
東海道新幹線の場合、乗務員は都度車内を巡回している。また、8号車に乗務員室があるので、困ったらここを訪ねると、相談可能だ。飛行機のように座席に呼び出しボタンがないのが不便だが、アナログながら、この方法を知っておいて損はないだろう。
■周知の足りない「特大荷物スペース」
荷物問題について、JR東海は何も対策をしていないわけではない。
東海道新幹線では、3辺の合計が160cm超の「特大荷物」の持ち込みにルールが設定されている。車両の最後部座席の後ろは「特大荷物スペース」として、座席とセットで事前予約制をとっている。また、デッキ(トイレの前あたり)にも荷物置き場を設置している。ここは現在、予約不要で利用ができる。
この予約が必要な「特大荷物スペース」は、予約制であることを知っている人は少ないのが現状で、勝手に荷物を置いてしまう例があとを絶たない。予約している人が来たら、「誰の荷物ですか」と車掌がその都度所有者を探し、移動を促すのだそうだ。
こうしたトラブルが多発する原因は、まだまだ周知がまだ足りていないからだろう。
東海道新幹線は開業以来「安全・安定輸送」を至上命題として、高頻度で正確な輸送を達成するための効率的な車両設計を追求してきた。しかしここ数年の観光利用の増加に伴い、環境は激変している。JR東海は、日々変わる乗客のニーズに合わせて、車両も進化させている。
■2時間、イヤホンなしで音楽を聞く外国人
荷物問題に続き、外国人に関して一緒に語られることの一つに「騒音問題」がある。鉄道トレンド総研には以下のようなイライラの声が届く。
「新幹線で外国人が動画視聴。イヤホン無しで大音量で音楽を流していた。2時間くらいずっとその状態でうるさかった」(女性/30代/東京都)
「新幹線で隣に座った外国人の方が、電話でずっと話していて、車内アナウンスで『通話はご遠慮ください』と流れているのに止めなかった。悪気はなさそうでしたが、文化の違いを感じた」(女性/20代/神奈川県)
こうした騒音のトラブルも、JR東海には多くのクレームが届くが、対策としては「困ったときは車掌に相談してほしい」という方針を貫く。「それしか方法はないんかい」と呆れることなかれ。「騒いでいる外国人観光客を車掌が一喝した」というシーンを目撃した人も少なくない。
騒音に対しても、車掌は頼もしい存在でいてくれるようだ。
■台湾の新幹線「うるさい客は降ろす」
新幹線の騒音といえば、海外で興味深い動きがある。台湾の新幹線(台湾高鉄)では、2025年9月から「静かな車内」を目指す取り組みを導入。通話時のデッキの移動や、イヤホンの使用、会話時は声量を抑えるよう求めている。注意しても改善しない場合は、運送契約の打ち切り、つまり列車の降車を求めることができるというのだ。
列車から降ろすというのは少し過激かもしれないが、過度に迷惑な客ならこれくらいしてもいいのではないか、と筆者は思う。だが、別の鉄道関係者に聞いてみると「注意を聞かない乗客を強制的に降車させるというのは、さすがに現在の日本では難しい」という。
ただし、騒音だけで降車させることは困難でも、車内で暴れたり他の乗客に危害を加えたりといった、安全運行を脅かす重大な事案であれば話は別だ。
「その場合は、車掌からの報告を受けて指令が即座に判断を下し、警察と連携した上で途中駅で降ろすという厳格な対応を行うこともあります」(JR東海)
余談だが、ドイツの新幹線(ICE)には、いわゆる「サイレントカー」が導入されており、この車両では静かでいることを求められる。静かに乗りたいならサイレントカー、同乗者とワイワイ乗りたいなら普通の車両と、座席の選択は乗客に委ねられている。日本の新幹線も、これくらいの棲み分けができれば、乗客のモヤモヤは減っていくのではないだろうか。
■苦情を言っても反論、聞こえないふり
「騒音」とはまた別の深刻な悩みとなっているのが、予約席への「居座り」や「占拠」の問題だ。
「外国人が指定席なのに勝手座っていて、文句言ってもどいてくれない」(男性/40代/群馬県)
「自由席のチケットしかないのに、指定席に勝手に座っている人がいた。ここは指定席車両だと説明しても、空いているからいいじゃないかと言われた。文化の違いに心が折れた。通りがかりの車掌さんが連れ出していた」(男性/30代/東京都)
「妻と予約した指定席に行ったら、外国人の家族(しかも大荷物)がすでに座っていた。こちらが話しかけているのに、聞こえてないふりをする。痺れを切らして、車掌さんにお願いしたら、どいてくれた。常識がないのかと怒りに震えた」(男性/60代/東京都)
JR東海にも、こうした「指定席に人がいる」というクレームも多く届くのだという。この場合は、外国人であっても遠慮なく声をかけるのがいいだろう。英語ができない人でも、チケットを見せながら「マイシート」と言えばわかるだろうし、最悪「すみません」という日本語でも、普通であれば事態に気がつくだろう。
■「日本語がわからないふりをすればいい」
それでも埒が開かない場合は「車掌に相談してください」というのがJR東海の回答だ。
こんなにクレームが多発しているのだから、「自分の席以外に座らないこと」と、座席のテーブルに注意書きを書いてもいいくらいなのではないか。それくらいの対応が望まれる。
余談だが、「日本語がわからないふりをすればいい」「新幹線に乗ったらトイレにこもっていればいい」など、外国人の間でけしからんライフハック的なものが出回っているようだ。これも同社はしっかり把握している。こうした「よからぬライフハックが出回っていますよ」との問い合わせも、実は少なくないようだ。対策が待たれる。
■インバウンド激増に日本人が慣れる日
新幹線を取り巻く環境は、変化の真っ只中にある。振り返れば、ほんの10年前までは車内で外国人観光客を見かけることは珍しかった。しかし急増するインバウンドによって車内の風景は一変。私たち乗客も、鉄道会社も、まだこのフェーズに慣れていないのが正直なところだろう。
だからこそ、私たちの意識を、時代に合わせてアップデートしていく必要があると筆者は考える。かつての「当たり前」が通用しないもどかしさを嘆くのではなく、多様な人々が乗り合わせる公共の場としてのあり方を、今一度見つめ直すべきだ。
JR東海は車両やサービスを着実に進化させている。私たち乗客もまた、不満を募らせるだけでなく、一歩踏み出したコミュニケーションや、ある程度の広い心を持つことが求められる。そんなアップデートこそが、これからの鉄道旅をより豊かにする鍵となるだろう。
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東 香名子(あずま・かなこ)
コラムニスト
鉄道コラムニスト。鉄道トレンド総研所長。メディアコンサルタント。外資系企業、編集プロダクション、女性サイト編集長を経て現在フリー。メディア出演多数。著書に『超タイトル大全 文章のポイントを短く、わかりやすく伝える「要約力」が身につく』ほか。
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(コラムニスト 東 香名子)

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