売れている加湿器はどう違うのか。売れ筋1位のダイニチ工業の「HD-LX1025」(4万8400円)と2位の象印マホービン「EE-RU35」(2万800円)を、家電プロレビュアーの石井和美さんが使って比べてみた――。

■「超音波式」「気化式」「スチーム式」3つの方式の違い
乾燥する季節になると気になるのが加湿器だ。店頭やネットには数多くの機種が並ぶが、ここ数年、売れ筋はある程度絞られてきている。とくに人気を集めているのが、ダイニチ工業(以下、ダイニチ)と象印マホービン(以下、象印)の製品だ。
加湿器の中には、「超音波式」「気化式」「スチーム式」の3つの方式があり、組み合わせた「ハイブリッド式」もある。それぞれ特徴があり、「超音波式」は水を細かな霧にして放出する方式で、静音性が高く省電力だが、こまめな清掃が必要となる。水をそのまま霧状にしているだけなので、お手入れを怠ると雑菌をばらまいてしまう。そのため、最近ではいったん加熱してから霧状にするものもあるが、売れ筋を見ると超音波式は以前よりも売れていない。
■数千円加湿器といったい何が違うのか
「スチーム式」は水を沸騰させて水蒸気を出すので衛生面で安心感があり、加湿量も安定している。消費電力は高めだが、お手入れは電気ポットと同じで簡単だ。「気化式」は水を含ませたフィルターに、ファンで風を当てて加湿する。電気代を抑えやすく過加湿しにくいのが特長だが、フィルターの掃除が少々面倒で、空気も冷えやすい。「気化式」には、温風を当てる「温風気化式」もあり、こちらは気化式よりもパワフルで、電気代は「気化式」と比較すると上がってしまう。
「気化式」と「温風気化式」を湿度に合わせて切り換えるハイブリッド式はここ数年で注目されている方式だが、本体価格は高価だ。
数千円から購入できる加湿器もある中、ダイニチの製品は適用畳数に応じて実売価格が約3万3000円~5万7200円、象印の製品は約1万7380円~3万3000円と、比較的高価格帯に位置している(いずれも公式ショップ価格、アウトレット品を除く)。それにもかかわらず支持され続けているのはなぜか。
そこで本稿では、ダイニチ「HD-LX1025」と象印「EE-RU35」を実際に使用し、その実力を検証した。
■石油ファンヒーターで高いシェアを誇るダイニチ
ダイニチの「HD-LX1025」は、公式ショップ価格で通常4万8400円と高価格帯のモデルだ。一見するとハードルが高い価格だが、それでも売れ続けているのには理由がある。
ダイニチは石油ファンヒーター分野で高いシェアを誇り、新潟県に本社を置く国内メーカーだ。石油ファンヒーターで培った送風制御や安全設計のノウハウを生かし、パワフルな加湿力と使いやすさを両立している点が、同社の加湿器の強みとなっている。
加湿方式は「気化式」と「温風気化式」を組み合わせたハイブリッド方式を採用。フィルターに温風を当てて水の気化を促進し、ファンで湿気を部屋全体に届ける。湿度が大きく低下したときには温風を使った運転に切り替わり、すばやく加湿できるのも特徴だ。その一方で、一般的にハイブリッド式は構造が複雑になりやすく、価格が高くなる傾向がある。

■高い加湿力+メンテナンスのしやすさが好評
ダイニチの加湿器も決して安価ではないが、それでも支持を集めている。累計生産台数は400万台を突破し、高い加湿力だけでなく、使い勝手やお手入れのしやすさにも定評がある。加湿器は手入れを怠ると雑菌が繁殖し、健康リスクにつながることもあるが、同社は清潔性を保ちやすい独自構造を採用。面倒になりがちな日常の手入れを負担に感じにくく、清潔な状態を保ちながら継続して使える点も、支持されている理由のひとつだ。
ダイニチの上位モデルである本機は、ぬめりが発生しやすく手入れが面倒なトレイ部分に「カンタン取替えトレイカバー」を採用している。半透明の使い捨てカバーをセットすることで、トレイ本体の洗浄が不要になり、交換目安は1シーズンに1回でよい。
さらに水タンクには「Ag+抗菌アタッチメントEX」(1760円)が標準装備されており、シーズンに1回交換するだけで、タンク内のぬめり発生を抑えられる。
■「手間をお金でカバーできる」タイプの製品
購入時に同梱されている抗菌気化フィルター(青色フィルター)は、約2週間に1回の水洗いと、月1回のクエン酸洗浄を行うことで、約5シーズン使用可能だ。
また、別売の使い捨てフィルター「カンタン取替えフィルター」にも対応している。こちらは約3カ月使用可能で、汚れたらそのまま廃棄するだけ。2枚入りで4290円と価格はやや高めではあるが、もっとも汚れやすい部分を手間なく清潔に保てる点は大きな魅力だ。
フィルター部分は黄ばみや白い粉(ミネラル分)の付着が起こりやすく、汚れも落ちにくい。
そのため、一般的な気化式加湿器は手入れの負担が大きいと感じる人も少なくない。
本機は、こうした悩みを軽減する工夫が随所に見られる。
また本体背面には、抗菌エアフィルターを内蔵した「かんたんフィルタークリーナー」を搭載。左右にスライドするだけで、ホコリや髪の毛を取り除ける構造になっており、日常のメンテナンスも手軽に行える。
ダイニチの加湿器は、いわば「手間をお金でカバーできる」タイプの製品だ。本体価格は高めで、使い捨てパーツなどのランニングコストもかかるが、そのぶん面倒になりがちな手入れから解放され、清潔な状態を保ちやすい点が高く評価されている。実際、過去に加湿器の管理が負担になり、使用をやめてしまった人からも支持を集めている印象だ。
容量7Lのタンクはかなり大きく、満水状態ではずっしりとした重さになる。加湿能力が高いぶん水の減りは早いが、大容量なおかげで給水の頻度は抑えられる。水タンクには、ダイニチの石油ファンヒーターと同様に上下2カ所にハンドルが付いている。給水後にフタをしてひっくり返し、本体にセットする際も、両手でしっかり持てる設計だ。細かな部分だが、実際の使い勝手をよく考えた工夫と言える。

■象印の加湿器は「電気ポット」とほぼ同じ構造
一方、売れ筋2位の象印の商品はどうか。
ベーシックモデルにあたる「EE-RU35」は、実勢価格が2万800円(税込)のスチーム式加湿器だ。構造は電気ポットに近く、水を入れるだけで使える。ダイニチのようなフィルターはなく、仕組みは非常にシンプル。水を沸騰させ、その蒸気で加湿する方式を採用している。適用床面積は木造約8畳、プレハブ約13畳で、タンク容量は3.0Lだ。
水を加熱して使用するため、気化式や超音波式に比べてカビや雑菌が繁殖しにくいのも特徴。また、加湿と同時にほんのり室温を上げる効果もある。
お手入れは比較的簡単で、基本的には残った水を捨ててすすぐだけで済む。ただし、水アカが付着しやすいため、こまめに水を入れ替え、洗い流すことが大切だ。水アカがこびりついてしまった場合は、クエン酸を使って洗浄することで清潔な状態を保てる。
スチーム式は熱湯を扱うため、安全性はとくに重要なポイントとなる。
その点、象印はチャイルドロックやフタ開閉ロック、転倒時の湯漏れ防止構造など、安全機能が充実しており、安心感が高い。他メーカーからもスチーム式加湿器は販売されているが、電気ポットなどで長年の実績を持つ日本メーカーであることも、安心して使える理由のひとつだ。
■ダイニチvs象印、電気代はどちらが安い?
ダイニチ「HD-LX1025」は、適用床面積がプレハブ洋室で27畳、木造和室で16畳と広く、6畳の部屋ではやや余裕のあるスペックだ。そのぶん加湿スピードが速く、湿度を効率よく引き上げられる。湿度センサーによる自動制御を備えており、設定した湿度に達すると、その状態を安定して保ってくれる。
テスト時の室内湿度は60%だったため、「標準」モードで目標湿度を70%に設定した。すると約10分で70%に到達し、その後は75%前後で安定した。室温自体はひんやりと感じたが、湿度が高まったことで体感としては快適だった。エアコン使用時は空気が乾燥しがちだが、これくらい加湿能力の高いモデルであれば、湿度をしっかりキープできそうだ。
一方、象印の加湿器は「標準」モードで連続運転したところ、湿度は約1時間で20%ほど上昇した。その後も湿度はさらに上がり続けた。湿度センサーと室温センサーによる自動制御が働いているはずだが、スチーム式の構造上、蒸気の発生を急にオン・オフする制御は難しいのかもしれない。

■「湿気」で室内は低温のスチームサウナのように
部屋に入ると、上部に暖かく湿った空気がたまり、室内は低温のスチームサウナのような感覚になる。寒さを感じにくく、体感的には快適だ。一方で、設置場所によっては結露が発生する可能性もある。ダイニチのようにファンで空気を循環させる機構は備えておらず、象印は加湿器周辺の湿度が最も高くなりやすい点は注意したいポイントだ。
電気代も比較してみた。象印の加湿器は、運転開始から沸騰するまでの約15分間は消費電力が900W前後となり、沸騰後はおおむね300W程度で推移した。ダイニチは運転開始から約10分後に400Wまで上昇し、その後は1W~20W程度という低い消費電力で安定した。
1時間あたりの電気代は、沸騰までの時間も含めて象印が約16円、ダイニチが約2円となり、両者の差はかなり大きい。ダイニチは、より広い部屋に対応する大容量モデルだが、それでもスチーム式に比べると消費電力はかなり抑えられている。
■3シーズンで「本体価格の差」を埋められる
本体価格はダイニチが象印の2倍以上となる。毎日8時間使用し、1シーズンを約3カ月として運用した場合、電気代の差額は3シーズンに満たない期間で本体価格の差を埋める計算になる(電気料金単価31円/kWh〈税込〉で算出)。今回検証した機種に限らず、本体価格と電気代のバランスを見ながら選ぶことが大切だ。
操作性については、ダイニチのように操作パネルが本体上面にあるモデルのほうが扱いやすい。棚の上など高い位置に設置する場合は、前面操作の象印でも問題はないが、床置きなど低い位置で使うと、かがまないと表示や設定を確認しづらい。ただ、どちらも日本製のため、きちんと日本語でモード名などが表記されているのは親切だ。
運転音に関しては、ダイニチは非常に静かだ。動作しているのか心配になるほどの静音性と感じた。一方、象印は運転中に「ゴーッ」という動作音や「コポコポ」という沸騰音が聞こえるため、就寝時など静かな環境ではやや気になる可能性がある。
■ダイニチは広いリビング、象印は個室向け
象印の加湿器は、お湯を沸かして蒸気で加湿するスチーム式で、適用畳数はやや限られている。上位モデルでも、適用床面積はプレハブ洋室で約17畳、木造和室で約10畳までのため、広いリビングでの使用にはあまり向かない。木造の我が家でも、10畳+6畳の空間をリビングとして使用しているが、象印では部屋の隅々まで均一に加湿するのは難しいと感じた。
一方、ダイニチはプレハブ洋室約27畳、木造和室約16畳まで対応しており、さらにファンを搭載しているため、広めの空間に適している。部屋の広さによっては、そもそも象印が選択肢にならないケースもあるだろう。
適用畳数の範囲内であれば、象印のスチーム式による、ほんのりとした温かさは大きな魅力だ。ただし、加湿器周辺の湿度が高くなりやすいため、サーキュレーターなどを併用すると、室内全体に湿度が行き渡りやすくなる。
我が家は特に古い木造一戸建てで、断熱性能は低く、毎年乾燥に悩まされている。仕事柄これまでさまざまな加湿器を試してきた結果、リビングではダイニチ、個室では象印(2台)を使い分けている。ダイニチは1シーズンごとにカバーやフィルターを交換しており、お手入れが面倒なフィルター式でも快適に使えている。象印は元々フィルターがなく、構造がシンプルなのでお手入れは簡単だが、結露が発生しやすいので、窓際には置かないようにしている。
どちらも日本製メーカーであり、お手入れのしやすさはもちろん、安全性や操作性の面でも高い満足度を感じている。加湿器を選ぶ際は、部屋の広さや使用環境、好みに合わせて選ぶとよいだろう。

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石井 和美(いしい・かずみ)

家電プロレビュアー

1972年生まれ。出版社の編集者を経てフリーランスに。日用品や家電のレビューを行うライターとして活動を始め、家電レビュー歴は15年以上。一戸建ての「家電ラボ」を開設し大型白物家電をはじめ生活家電の性能や使いやすさをテストしている。

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(家電プロレビュアー 石井 和美)
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