金融詐欺の被害にあってしまう人が減らないのはなぜか。金融犯罪対策専門家の千葉祥子さんは「お得な話に飛びついてしまう人は多い。
そういう人に限って自分は騙されないと思っている」という――。(第1回)
※本稿は、千葉祥子『奪われない!お金を守る7つの習慣』(きずな出版)の一部を再編集したものです。
■「無料」「限定」「いまだけ」に潜むワナ
「無料です!」

「限定品」

「いまだけ特別」
そういう言葉を目にすると、すぐ欲しくなる心理が働きます。
たとえば「無料なら受けてみようかな」と、無料セッションに申し込む。
「いまだけの割引だから、すぐ申し込まないと」と、つい新しい講座を購入する。
世の中には、こうしたお得に見える情報が溢れています。でも、気を付けてください。これらの言葉が私たちの判断力を鈍らせているのです。
たとえば「無料」。無料と聞いた瞬間に“損をしない”と感じます。そして損をしないと思ったら、得るものの価値を深く考えなくなるのです。
「限定品」や「いまだけ」についても同様です。
このタイミングを逃したら損をしてしまう、そのような心理が働きます。
世の中ではそういった人間の心理的行動をベースにマーケティングが行われています。当然のごとく、詐欺師もその手法を使っているのです。
そして、私たちは無料で受け取ったものに対しても「こんなサービスを受け取ったのだから、何かお返しをしないといけない」というように心の中で思うのです。
これを“返報性(へんぽうせい)の法則”と言います。
だからこそ、詐欺師は「いまなら無料で○○をプレゼント」あるいは「あなたにだけ特別な情報を教えます」といった餌をちらつかせるのです。
そして、人は何かをもらうとお返しをしなければと感じるため、「自分だけ得をした」「親切にしてもらった」と思わせておいて信用させたり、追加で要求をしたりするのです。
■詐欺でなくても、支払った代償は大きい
すべてが詐欺的なものばかりではありません。
「無料だから」と体験講座を受講してその良さを知り、「本当に無料でよかったのかしら。なんだか申し訳ない」と思ったところで、すかさず有料講座を案内されます。
有料の講座を受けるつもりはまったくなかったのに、なりゆきで購入してしまうということはよくあります。
そう。
これは、詐欺ではありません。
ですが、ここでもあなたの大切なお金は奪われているのです。
奪われているのは大切なお金だけではありません。
登録の際の情報提供、時間や手間といった形で“支払い”をしていることになります。
見えない対価を差し出していないか、自分に問いかける習慣を持つだけであなたの選択は変わります。
「無料」「限定」「いまだけ」、このどれかのキーワードを目にしたら、冷静さのスイッチもオンにしましょう。
① 無料とは何の“入り口”なのか

② 限定のもの、自分にとってなぜ必要なのか

③ いまだけ、は自分ではなく相手の都合
直感は、鍛えるほど強くなります。
自分に聞き返すだけで、「お得」の裏に隠れているものが、自分にとって本当に必要なものなのかを見つめ直すきっかけになるのです。
■大金を奪われる人に共通する7つの落とし穴
お金を奪われやすい人には、実はある共通点があります。しかも、多くの場合、自覚がありません。「自分は大丈夫」と思っている人ほど、気がついたときには手遅れになるケースがほとんどです。
お金をあっという間になくしてしまう人の7つの特徴は、こちらです。

① 友人や肩書きのある人の言葉を鵜呑(うの)みにしてしまう

② 相談できる相手がいない

③ ひと山、狙いがちで「おいしい話」に目がない

④ 独り占めしたがる

⑤ 「いまだけ」「あなただけ」と言われると欲しくなる

⑥ 損をしたらその分取り戻さないと気が済まない

⑦ 大勢の人と同じものを選びたくなる
いかがですか? あなたはいくつ当てはまったでしょうか?
一つでも当てはまった人は要注意です。
ある日、問い合わせの電話を受けたら、こんな悲痛な思いを語った人がいました。
「母が、以前に御社で営業をしていたという人に、2000万円もの大金を渡してしまったらしいのです。その後、その人と連絡が取れなくなったと。泣いている母にどうしたの、と詳しく話を聞いたら……。そんなことになっていたんです。
一言、先に私に話をしてくれていたら止めることもできたのに……」
■心のすき間に忍び寄る誘惑を撃退する方法
あなたには、どんなことでもすぐに相談できる家族や友人、メンターはいますか?
もしそういう人がいたとしても、お金のこととなると話しづらい、少し気恥ずかしい、止められるのが怖い――。
なかなか、言い出せないこともあるでしょう。実は、これらは決してあなたの欠点ではなく、多くの人が持っている自然な反応なのです。
頑張らなきゃと思っているとき、焦っているとき、寂しいと感じているとき――誰にでも起こり得るのです。そういう心のすき間に入り込んでくるのがさまざまな誘惑です。
では、そこに気づくための簡単な方法を習慣にしましょう。

「それ、ほんと?」

「そんなに急ぎ?」

「相談した?」
この3つの質問を自分に問いかけるだけで、次の行動を変えることができます。
単に疑い深くなれ、と言っているのではありません。
すぐに鵜呑みにせず、時には疑いの目を持って事実を確認することは、あなたと、あなたの大切な人を守ることにつながるのです。
■騙されてしまうのは脳の仕業だった
「私に限って騙されない」
そう思ったとき、既にあなたの視野は狭くなっています。大丈夫と思った瞬間から、脳は「大丈夫だという証拠」を探し始めるからなのです。
探し物をしている場面を思い出してください。
鍵をなくしたときに「鍵は玄関にあるはずだ」と思い込んでいると、机の上に置きっぱなしの鍵が目に入らないことがあります。
人間の頭脳は効率よくものを探すために、必要と思われる情報だけを優先して取り入れるという働きを持ちます。これを「RAS(Reticular Activating System 網様体賦活系(もうようたいふかつけい)」といいます。
RASとは、簡単に言うと脳の中の“気づきのフィルター”です。「ここにあるはず」と思うと、その答えに合うものだけがフィルターを通り脳に送られ、合わないものはふるい落とされてしまいます。
詐欺や勧誘でも同じことが言えます。

「この人は信頼できそう」「この話は前にも聞いた」――そう思った瞬間、脳はそれを裏づける材料ばかりを集めます。
思い込みと相反する情報は、脳が自動的に遠ざけてしまうのです。
「欲しい」「やりたい」という気持ちが強いほど、直感的に違和感があったとしても、「きっと気のせいだろう」と片づけてしまいやすくなります。
あなたの直感が警鐘(けいしょう)を鳴らしているのに、いつのまにか自分でその音量を下げて聞こえなくしてしまうのです。
これは無意識のうちに、注意が一方向に固定されてしまうからです。
■「過信」を手放して、自分を守る
実際に詐欺に遭った人は、「まさか、自分が被害に遭うとは思わなかった」と口を揃えて言います。
「自分は大丈夫!」「そうはならない」と、自信を持って言えますか?
RASという脳の機能が正常に働けば、誰でも騙される可能性があることをわかっていただけたと思います。
「自分は騙されない」と過信しないために、日頃からできることがあります。
一人で頑張る必要はありません。
確認するための小さな儀式を習慣にしましょう。
① その場ですぐに決めない

② 人に相談する

③ 本来の目的に合っているかを振り返る
実は、③の「本来の目的に合っているか振り返る」がもっとも重要なポイントです。
「価格が安い」「よくしてもらったから」という理由で、急いで決めてしまうことは、よくあります。

ぜひ、この小さな儀式を習慣にしてください。
自分を過信しないということは、弱さではありません。むしろ、強さです。
「私は間違えるかもしれない」
そう認められる人は芯の強い人です。
内心見たくないものも見る勇気。
それが、あなたと大切な人を守る砦(とりで)となるのです。

----------

千葉 祥子(ちば・しょうこ)

エグゼクティブマネーライフコーチ/金融犯罪対策の専門家

LA MER BLEUE株式会社 代表取締役。ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、PwCなど、世界的金融機関で28年間にわたり活躍。とくに金融犯罪対策の責任者として、マネーロンダリングなどのリスク対応に従事し、延べ2万人以上に研修・講演を実施してきた。心の限界を感じた経験から「お金と愛」「本当の豊かさ」のあり方を探究し、ライフコーチへ転身。現在は、金融知識と心理学的アプローチを融合させ、「奪われない生き方」と「愛されるマネーライフ」の実現をサポートしている。

----------

(エグゼクティブマネーライフコーチ/金融犯罪対策の専門家 千葉 祥子)
編集部おすすめ