肌を若々しく保つために、気を付けることは何か。東海大学医学部客員教授の平山令明さんは「紫外線はシミ・シワの原因になるだけではない。
DNAを破壊し、細胞の活動を阻害することで、がんや脳血管疾患を引き起こす原因にもなっている」という――。(第1回)
※本稿は、平山令明『スキンケアの科学』(講談社ブルーバックス)の一部を再編集したものです。
■30分以上の日光浴は健康に害
紫外線は最大の「お肌の敵」です。
しかし、一方で紫外線は生体内でビタミンDを作る上で必須なので、日光を浴びないわけにもいきません。表皮の角化細胞(ケラチノサイト)では、UVBのエネルギーを使って7-デヒドロコレステロールという分子から、ビタミンDを作る原料になるビタミンD3が作られます。ビタミンDはカルシウムの代謝に必須ですので、特に骨粗鬆症に罹っている人やその恐れがある人には適度な紫外線を浴びることが推奨されています。
もっとも、日本で晴れた日の正午頃の日差しであれば、顔、腕などに数分間、太陽光線を浴びるだけで1日に必要な活性型ビタミンDは作られると言われています。
たとえ長時間浴びても、原料になる7-デヒドロコレステロールが体内になくなってしまうため、それ以上ビタミンDは合成できず、後は紫外線の害だけということになります。また、活性型ビタミンDを作るという意味からは、30分以上の日光浴は意味がないとされています。ただし、紫外線には血圧を下げる効果があることも知られており、日光浴には確かに効用があります。
問題は、日本国内において太陽光に含まれる紫外線の量が最近増加していることです。人体に及ぼす紫外線量を表す指数として紅斑紫外線量が使われます。
紫外線が人体へ及ぼす影響は波長によって異なります。
■母子手帳から消えた「日光浴」の文字
そこでやや乱暴ですが、290~400nmの波長範囲の紫外線を実際にヒトの皮膚に当てて、まず波長の異なる紫外線の人体への影響を波長ごとに測定します。次にこれらの値を用いて、特定の波長分布を持った紫外線による影響を積算します。その積算値が紅斑紫外線量ということです。
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図表1につくば市で観測した紅斑紫外線量の1990年からの変化を示します。観測開始以降、明らかに増加しており、増加率は10年あたり+4.6%でした。つまり、20年前に比べれば10%近く、有害(日焼けを起こす)な紫外線の量は増えており、一昔前に比べて、スキンケアにおける紫外線対策の必要性はずっと高まっているということになります。
今日では、単に小麦色の肌にするためだけに、肌を曝して日差しの強い海岸や公園で日光浴をすることは、かえって健康的でないといえます。昔は赤ちゃんの健康には「日光浴」が必須と考えられ、母子手帳にもその旨が記載されていました。
しかし、紫外線の増加により、むしろ紫外線を浴びる弊害のほうが高まったという認識がされるようになり、1998年の母子手帳から「日光浴」の言葉は消え、代わりに「外気浴」という言葉が使われるようになりました。
小さい頃から紫外線を浴び続けると、その影響は20歳頃から顔などのシミとして、30歳頃からはシワとして現れます。
こうした影響の出る時期は、小さい頃から浴びる紫外線の量を減らすことで遅らせることができます。「長時間の日光浴をやめよう」という傾向は日本だけではなく、いまや世界的な流れといえるでしょう。
■日焼けマシンも安全ではない
自然の紫外線だけでなく、かつては安全とされた日焼けマシンによる日焼けも皮膚がんを起こすことが報告されています。米国皮膚科学会(American Academy of Dermatology:AAD)は、20歳未満の人がこのような日焼けマシンを使うと、皮膚がんの一種であるメラノーマ発症の確率が47%も上昇すると示しています。
またAADはその他に9つもの理由を挙げて、日焼けマシンは健康によくないことを学会のホームページで警告しています。ちなみに日焼けマシンから発せられる紫外線の大部分はUVAですが、UVBも少量発生しています。
ここで、紫外線がどのように私たちの皮膚に悪影響を与えるのか、その理由を改めて考えてみたいと思います。紫外線は電磁波の1つで波長は100~400nmですが、皮膚に影響を与えるのは280~400nmの波長を持つUVBとUVAであることをお話ししました。紫外線は可視光線よりずっと高いエネルギーを持っていますので、物質に対しても可視光線よりもずっと大きな影響を与えます。
■紫外線はDNAを破壊する
紫外線が分子に作用すると、その分子の種類により、大きく分けて2つのことが起こります。1つは、紫外線のエネルギーを吸収した分子が高エネルギーの不安定な状態(励起状態)になる場合です。
この場合、その分子同士の結合や他の分子との結合を引き起こしてしまいます。細胞の生命活動にとって必須の遺伝情報を蓄えているDNAを構成する核酸塩基(アデニン、チミン、グアニンそしてシトシン)は紫外線を強く吸収する性質を持っています。
たとえば図表2に示すように、隣り合うシトシン塩基が紫外線を吸収して化学反応性が高くなると、2つの塩基同士が結合してしまいます。このような異常な化学構造になってしまうと、図表3に示すようにDNAの構造が変形し、遺伝情報はもはや正常に伝わらなくなってしまうのです。通常は、このような誤りが生じたDNAを修復する働きが私たちの体の中にはありますが、修復がうまくいかないことも少なくありません。
その結果、その遺伝子の情報で作られるはずのタンパク質が正確に作られなくなり、細胞内の機能が異常になってしまいます。ひどい場合には、その細胞は死んでしまいます。こうしたDNAの損傷はUVBで強く起こりますが、弱いながらUVAもDNA損傷を起こします。DNA損傷は、日焼けの症状だけでなく、最終的に皮膚がんの発生や細胞死に繫がるので要注意です。
■紫外線は有害な活性酸素をつくりだす
私たちの体内には水分子を含め多種多様な分子があります。これらの分子にエネルギーの強い紫外線が当たると、様々な分子が生成されますが、その中に活性酸素と呼ばれる一群の分子があります。
活性酸素は非常に化学反応性に富む分子種です。
通常私たちの体内では整然と化学反応が起こっていますが、この活性酸素はあまりにも反応性が高いので、予期しない化学反応や私たちにとって望ましくない化学反応を次々と引き起こしてしまいます。活性酸素はその英語名reactive oxygen speciesの頭文字をとってROSとよく呼ばれます。私たちにとってはまったく迷惑な分子たちです。
生体内では種々のROSが作られますが、もっとも反応性が高い、つまり生体にとってもっとも有害なROSがヒドロキシ・ラジカル(・OH)です。ヒドロキシ・ラジカルのO原子上には、孤立した電子が1個あり、Oの横に書いてある「・」はこの電子を示しています。この電子は自由に動けるので、化学反応性に非常に富んでいます。英語のradical(過激な)は、孤立して存在するこの不安定で反応性が大きい電子の性質を指しています。
■必ず生まれてしまう危険分子
このヒドロキシ・ラジカルが生体内で生成される流れを図表4に示します。
酸素分子に紫外線が当たると、スーパーオキシド・ラジカルというROSが生じます。これ自身も危険分子ですが、私たちの体内ではスーパーオキシド・ジスムターゼ(SOD)という酵素で解毒され、過酸化水素(H2O2)に変化します。
過酸化水素は体内にあるカタラーゼなどの酵素によって水に変化し、安全に消去できます。ところが、過酸化水素は体内にある2価の鉄イオン(Fe2+)とも反応してしまいます。
すると、不幸にもヒドロキシ・ラジカルが生じてしまいます。
Fe2+はヘモグロビンにおける酸素運搬など、生体内で私たちにとって重要な反応をしますので、必須イオンといえます。宿命的に過酸化水素はヒドロキシ・ラジカルに変化する、つまり、ヒドロキシ・ラジカルは必然的に体内で生成されてしまうのです。
■大切な細胞の脂質破壊が連鎖
それでは、このヒドロキシ・ラジカルが私たちの細胞の中で一体どのように過激な振る舞いをするのか、一例を見てみましょう。
脂質は体内のエネルギー源となるだけでなく細胞膜を構成し、生命活動にとって重要な働きをします。
図表5(a)は脂質の一種である不飽和脂質の一般式を示します。色々異なる化学構造を持つ原子の集団を一般化してRで表しています。この脂質に・OHが衝突すると、持っている過激なラジカル電子は脂肪に受け渡され、(b)のような脂質ラジカルになります(ラジカル電子を・で表しています)。
同時にラジカル電子を渡された脂質上のC原子に結合していたH原子がはずれ、ヒドロキシ・ラジカルと反応して水分子になります(H・+・OH→H2O)。脂質ラジカルは反応性が高いので、付近に酸素分子があると、酸素分子を引っ張り込んで、(c)のような脂質ペルオキシ・ラジカルを容易に作ります。
この脂質ペルオキシ・ラジカルも反応性が高く、さらに近隣の脂質に攻撃をかけ、(d)のようにその脂質を脂質ラジカルにすると共に、自分自身は過酸化脂質(e)になります。このように近隣に脂質があると、脂質ラジカルがどんどん再生産されてしまいます。

■全身に広がる紫外線の害悪
(e)の過酸化脂質は、もはや私たちの役には立たない分子です。それどころか、シミやシワ、動脈硬化、脳卒中、心筋梗塞、そしてがんなどの原因になってしまいます。私たちに本来役に立つはずの脂質分子が、ラジカル電子によって悪玉に変身してしまうわけです。
ラジカルが厄介なのは、(d)のルートで分かるように、過酸化脂質を作るだけでなく、その前駆分子となる(c)分子を再生産するため、この反応はラジカルになった分子付近に脂質がなくなるまでいつまでも続きます。さらに、たちが悪いことに、ラジカル電子を渡す相手はどの分子でもよいので、その付近にいる分子に見境なくちょっかいを出すのです。その結果、ラジカルが生成した付近では思いもよらない悪影響が細胞内で広範囲に起こることになります。
ヒドロキシ・ラジカル以外のROSもすべて化学反応性が高く、生体内で生じると、同様に悪さをします。脂質ばかりではなく、タンパク質やDNAも悪影響を受けます。ROSの発生はUVAだけでなくUVBによっても起こります。皮膚のより深いところまで侵入するUVAはより多くの種類の分子にちょっかいを出すので、その影響も大きくなります。

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平山 令明(ひらやま・のりあき)

東海大学医学部客員教授、理学博士

1948年茨城県生まれ。1974年東京工業大学大学院修了。インペリアル・カレッジ・ロンドン博士研究員、協和醗酵工業㈱東京研究所主任研究員、東海大学開発工学部教授、東海大学医学部教授、東海大学糖鎖科学研究所所長・教授、東海大学先進生命科学研究所所長・教授を経て現職。現在の主な研究課題は、コンピュータ科学を駆使した、より効率的で、より安全な医薬品開発。さらに人間のQOL向上につながる有用物質の探求・創製にも興味をもって研究活動を展開している。著書に『初めての量子化学』『「香り」の科学』『カラー図解 分子レベルで見た体のはたらき』『暗記しないで化学入門 新訂版』(いずれも講談社ブルーバックス)など。専門的でわかりやすい科学・化学の解説に定評がある。

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(東海大学医学部客員教授、理学博士 平山 令明)
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