※本稿は、平山令明『スキンケアの科学』(講談社ブルーバックス)の一部を再編集したものです。
■洗顔した直後から肌は急速に乾いていく
洗顔後に肌は急速に乾燥します。
顔の肌ではありませんが、前腕の肌を石鹼と水を使って洗浄した後の肌の状態を測定した実験があります。洗浄の前後で肌のTEWL(経表皮水分蒸散量)を調べた結果を図表1に示します。
※編集部注:外部配信先ではハイパーリンクや図表などの画像を全部閲覧できない場合があります。その際はPRESIDENT Online内でご確認ください。
横軸が行った実験の種類、そして縦軸がTEWLを示します。TEWLの単位はg/hm2です。スケールがやや大げさな単位ですが、1時間(h)あたり、1m2の皮膚から蒸散する水のグラム数(g)です。
15人の被験者を使った実験で、その平均値を示しています。
実験条件のSは石鹼の使用、Wは水の使用、Tはタオルで優しく拭いての乾燥、そしてEは温風でない風による乾燥をそれぞれ示します。
■乾燥の原因は「石鹸」ではなく「洗顔」
洗浄は2時間の間隔を空けて2度行いました。洗浄に使ったお湯の温度はやや高い37℃です。第2回で述べましたように、洗顔に適する水温は少しぬるめの32~34℃のお湯です。実験を行った部屋の温度は21±2℃で、湿度は40±5%です。イギリスで行った実験で、やや湿度は低い条件です。
洗浄前(ベースライン)、1回目洗浄後および2回目洗浄後のTEWL値を見ると、どの条件でも洗浄後にTEWL値が上昇していることが分かります。
つまり、洗浄によって皮膚からの水分蒸発は明らかに増加します。
興味深いのは、石鹼を使っても使わなくても増加する水分蒸発量はほとんど変わらないということです。また、洗浄を繰り返すごとに、水分蒸発量は増加する傾向にあります。
つまり、1日に何度も洗顔すると、皮膚がどんどん乾燥していくことを意味します。
この実験結果から、洗顔後には石鹼や洗顔剤を使うか使わないかにかかわらず、肌からのTEWL値は上昇し、肌は乾燥していくことを意味します。
■入浴後の肌は入浴前より乾燥している
入浴時に洗顔をする人は多いと思いますが、入浴後の肌からのTEWL値を測定した実験結果を図表2に示します。
縦軸はTEWL値を、横軸は入浴後の経過時間を示します。
入浴直後には体が温まることからTEWL値は急速に上昇します。10分後にはTEWL値は大分下がりますが、入浴前に比べて少し大きい値を示しています。つまり、入浴前より肌は乾燥気味になっていることを示します。
その主要な理由を図表3に示します。
入浴すると角層の表面付近の細胞がふやけて、細胞同士の結合が緩くなり、その細胞間から保湿成分であるNMF(天然保湿因子)や水分が皮膚の外に流れ出します。当然ですが、肌の中の物質の濃度のほうが湯舟にあるお湯の中にある物質の濃度より圧倒的に高いため、肌の中の浸透圧は水中よりずっと高くなります。
すると、肌の中の成分は水に溶け出していきます。その結果、肌の中にもともとあったNMFなどの保湿成分が流出し、肌は水分を保持できない状態になってしまいます。
■洗顔後・入浴後は「すぐに保湿」が鉄則
さらに石鹼など界面活性剤を使うと、角層表面に分泌され、皮膚を保護し、かつ表面からの水分の流出を防いでいる皮脂が除かれてしまいます。
すると、水をはじけなくなるので、角層の表面はよりふやけやすくなり、内部からの水分やNMFの流出が促進されてしまいます。
皮脂は保湿上とても重要な働きをしています。また角層細胞間脂質であり保湿の役目をしているセラミドも油とみなされて界面活性剤で洗浄されてしまう可能性もあります。
一方、温度の高いお湯に入ったり、長時間お湯に浸かったりすると、角層の細胞の配列がより大きく乱れ、保湿成分等の流出が促進されます。このことから肌に優しい入浴の条件は、42℃より低い温度のお湯、入浴時間は15分以内、そして1日何度も入浴しないこと、という結論になります。
以上の実験結果から分かるように、洗顔後も入浴後も、肌はすぐ乾燥状態に陥ります。
浸透圧の差によるNMFなどの流出を防ぐための1つの手段は入浴剤をお湯に溶かして、お湯側の浸透圧を高めることですが、その作用には限界があるので、どうしても入浴後の肌は乾燥状態になります。従って、洗浄後は早めに肌の保湿を行うことが肝要です。その目的で使われるのが化粧水です。
■肌にみずみずしさを与える保湿成分の働き
化粧水のおもな目的は水分の肌への補給ですから、ほとんどが水でできています。しかし、ただ水をつけただけだと、またすぐ蒸発してしまうし、先ほど述べたように、入浴や洗顔により保湿成分も失われるので、それを補うための成分も配合されています。
肌にとって保湿は非常に大事なので、実に様々な保湿成分が使われています。ここでは代表的な保湿剤であるグリセリンとヒアルロン酸についてお話しします。
●もっとも古い保湿剤――グリセリン
グリセリンは昔から皮膚の保湿に使われてきたので、もっとも古い保湿剤ともいえますが、今日でも多くの化粧品で使用されています。
その化学構造は図表4に示すように、C原子を3個、H原子を8個、そしてO原子を3個含む比較的簡単な分子です。O原子の割合の多い分子です。
O原子は水分子を水素結合で引き寄せる力が強く、グリセリンの周りには水分子がたくさん寄ってきます。図表5にグリセリンの周りに引き寄せられた水分子の様子を示します。
■グリセリンが水分を引き寄せるしくみ
中央の太い線で描かれているのがグリセリン分子です。グリセリン分子の周りには分子の表面が薄い色で示されています。グリセリン分子内のヒドロキシ基(-OH)が水素結合(点線)で水分子を引き寄せています。ヒドロキシ基(-OH)は水分子を結合する上で重要な働きをします。
この図で1分子のグリセリン分子と強く水素結合した水分子は6個あります。実際に希薄溶液中では平均的に6.3個の水素結合があることが実験的に示されています。
そしてそれらの水分子はさらに外側にある水分子と水分子同士で結合することで、より多くの水分子をグリセリン分子側に引き寄せています。
このように、グリセリン分子はたくさんの水分子を引き寄せ保持することができるので、皮膚を保湿することができます。天然保湿因子NMFやトレハロースなどの保湿分子もみな同様の仕方でそれらの保湿分子の周囲に水分子を呼び寄せ、保持することができます。
余談ですが、グリセリンを含んだ化粧品をつけた後の唇が甘く感じたことはないでしょうか?
これはグリセリンの甘みです。グリセリン(glycerin)の語源は「甘い」という意味のギリシア語glykysに由来します。なお、グルコース(ブドウ糖)という言葉も、同じギリシア語から来ています。
■肌を内側から支える超巨大な保湿分子
●マルチに活躍する天然保湿成分――ヒアルロン酸
ヒアルロン酸はNMFとは呼びませんが、立派な天然保湿因子であり、表皮や真皮で作られます。図表7にヒアルロン酸の化学構造の基本単位を示します。
私たちの体内で合成されるヒアルロン酸は、N-アセチル-D-グルコサミン(左側)とD-グルクロン酸(右側)という糖分子の一種がO原子で連結した単位構造(単量体:モノマー)が複数繫がって(重合して)できた高分子(ポリマー)です。
生体内のヒアルロン酸ではこの連結数(重合数)は平均で2500程度、最大ですと2万5000にも及びます。1単位の平均的差し渡しは約1nmですので、1万単位からなるヒアルロン酸分子を直線にすると、その長さは10µmにもなります。これはヒトの赤血球細胞の直径にほぼ等しい長さです。
しかし、実際にはヒアルロン酸分子は折れ曲がり、コンパクトな形で存在しているはずです。この非常に長く柔軟性のある線維は私たちの皮膚の働きを支える上でも、とても重要です。
■ヒアルロン酸の保湿力は未知数
図表8に3個のモノマーからなる短いヒアルロン酸Naの構造(太線)を示します。
図の右からD-グルクロン酸→N-アセチル-D-グルコサミンと3回繰り返しています。
この図にはヒアルロン酸に引き寄せられる水分子も示しました。非常にたくさんの水分子が引き寄せられることが分かります。少し大きな丸はNa+イオンです。この場合もヒアルロン酸中の-OH基が水分子を引き寄せるのに活躍しています。
かつてヒアルロン酸はその重量の1000倍の水を保持するといわれていましたが、重合が中程度のヒアルロン酸では、それほどの量の水は溜め込まないというデータも示されています。せいぜい20~30倍という説もあります。
しかし、一方で高分子量のヒアルロン酸では逆に1000倍以上の水を溜め込むというデータもあります。
正確な数字を求めるためにはまだまだ研究が必要のようですが、仮に溜め込む水の量が1000倍以下であっても、ヒアルロン酸1分子あたりが抱きかかえる水分はかなりの量がありますので、その保湿剤としての価値が揺らぐものではありません。ただし化粧品メーカーが標榜するほどの保湿力はないのかもしれません。
■表面と内側で働くヒアルロン酸のパワー
実はヒアルロン酸のスキンケア上の価値はその保湿力だけにあるのではありません。ヒアルロン酸は抗酸化作用も持ち、肌の細胞の再生そして皮膚の弾力に極めて重要なコラーゲンの産生も促進するという素晴らしい働きも持っています。
化粧品に用いるヒアルロン酸は大きく分けて、重合するモノマーの数によって低分子量(50~250個程度のモノマーの重合体)のものと、高分子量(4500~8000個程度のモノマーの重合体)のものがあります。私たちの体の中にも両方あります。化粧品の成分として使う時も両方を使い分けします。
低分子量のヒアルロン酸は表皮を通過して真皮にまで達することができますが、高分子量のヒアルロン酸は表皮の細胞間を通過できません。その様子を図表9に示しました。
従って高分子量ヒアルロン酸は角層の表面に止まり、そこで水分をたくさん溜め込むことで、保湿効果を発揮します。高分子量ヒアルロン酸を表皮に塗るとTEWL値は下がります。
一方、低分子量ヒアルロン酸は表皮の深部にまで浸透し、細胞の再生を促進するので、抗老化作用を発揮し、肌の弾力を回復し、シワの深さを減少させることができます。
分子量によって、いずれもスキンケア上とても重要な作業をしてくれるヒアルロン酸はやはり無視できない存在です。
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平山 令明(ひらやま・のりあき)
東海大学医学部客員教授、理学博士
1948年茨城県生まれ。1974年東京工業大学大学院修了。インペリアル・カレッジ・ロンドン博士研究員、協和醗酵工業㈱東京研究所主任研究員、東海大学開発工学部教授、東海大学医学部教授、東海大学糖鎖科学研究所所長・教授、東海大学先進生命科学研究所所長・教授を経て現職。現在の主な研究課題は、コンピュータ科学を駆使した、より効率的で、より安全な医薬品開発。さらに人間のQOL向上につながる有用物質の探求・創製にも興味をもって研究活動を展開している。著書に『初めての量子化学』『「香り」の科学』『カラー図解 分子レベルで見た体のはたらき』『暗記しないで化学入門 新訂版』(いずれも講談社ブルーバックス)など。専門的でわかりやすい科学・化学の解説に定評がある。
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(東海大学医学部客員教授、理学博士 平山 令明)

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