日本が受け入れる留学生の数は33万6708人となり、過去最多を更新した(日本学生支援機構まとめ)。外国人問題を取材するライターの九戸山昌信さんは「留学生の53%は日本国内に就職し、そのうち82%は高度人材向けの在留資格「技人国」(技術・人文知識・国際業務)だ。
本来、こうした在留資格は国益に適う人材の活躍が目的だったが、現実には外国人の『ライフハック』として利用されるケースも多い」という――。(第2回/全2回)
■大学が「留学生集め」に躍起になるワケ
高市政権は外国人政策を主要課題の一つに据え、帰化制度の厳格化などが検討されている。一方で外国人の受け入れ自体を抑制する「総量規制」などの政策は、今のところ政権の方向性が掴めない。前向きとは言いがたい、その背景にあるのが「移民利権」だ。なかでも大きいのが、永住権や帰化の申請ができる「技人国」「高度専門職」などの就業系の在留資格へのステップが容易となる「留学ルート」だ。
「今、大学経営にとって、留学生は絶対に欠かせません」
こう語るのは大学運営に詳しい追手門学院大学客員教授でルートマップマガジン編集長の西田浩史氏だ。
「大学側が留学生を増やしたいと考える要因は大きく二つに分かれます。一つは東大や早慶など、偏差値上位の大学では、文科省の補助金を得る目的でワールドランキングを上げる必要があります。ランキングを上げるには、国際的な研究環境や留学生の数も重要になるため、大学院を中心に留学生集めに積極的になります。
もう一つは学生集めに苦慮する低偏差値の私大です。こちらは留学生集めが、もはや死活問題になっていて、日本語学校と提携するなどして、枠を確保しています。というのも、大学は留学生を含めた定員充足率が、補助金の獲得や新規学部申請に大きく影響します。
定員に対する充足率が90%を切ると、段階的に補助金が減額され、3年連続で充足率が80%を切ると、半額になります。
補助金が減ると、設備更新や教員集めに苦慮し、ますます経営が悪化します。新規学部申請も通らず、就職に有利な理系学部や、流行の学部を新設できなくなり、これも大学経営を悪化させます。
また、低偏差値大であっても、良くも悪くも地元自治体との協業が、アカデミックを理由に公費支出が正当化しやすく、ありがたがられています。それに加え、もちろん、大学の職員や教員は官僚などの再就職先にもあたります」
■東大入試ですら「高1レベルの数学」
なお、留学生の試験は学部でも大学院でも日本人とは別枠で、EJU(日本留学試験)という、難易度が低いとの指摘もある試験を利用できる。西田氏が続ける。
「EJUは、頭の良さを問うタイプの試験ではなく、標準的な高校レベルの勉強で解ける素直な問題が大半です。公表されている過去問を見ても、配点の多い『日本語』は、問題量は多いものの高校基礎レベルの内容です。特に漢字圏の中国人にとっては、格段に有利な制度となっており、実際、国別受験者数の3分の2は中国です。数学は高1~2レベルの『コース1』と高3~受験レベルの『コース2』に分かれていますが、学部によっては、これを“自由選択”としている旧帝大も多い」
例えば、東大の学部でも、EJUを使えるが、文系は数学は「コース1」を利用するなど、難易度は高くない。
■中国人留学生の「学閥」ができている
「さすがに東大であれば、EJUは満点に近い点数が必要になりますが、日本人が共通テストで満点に近い点を取る難易度と比べると、相当に容易であるのは間違いありません。あとはTOEFLか英検で高得点を取る必要はあります。
こちらも逆に英語圏であれば、有利になります。
さらに東大の大学院の留学生は約5000人で、この10年で1.7倍です。日本人が大学院自体にいかなくなった影響で、学生集めに苦慮している面があり、倍率が2倍を切る文系の研究科は独自のルールにより、出身校のランクが見られる程度でほぼ面接だけで入れるところもあります。
特に東大留学生の6割以上を占める中国人には富裕層も多く、入学後、将来的な寄付金への期待値が極めて高いといえます。ですから、見方によっては入試時点で入りやすいと話す関係者も少なくありません。なお、彼らは日本人東大生の同窓ネットワークに食い込もうとするだけでなく、中国人独自の東大閥も形成しています。税も投入されている最高学府の研究成果の行方も気になります」
■Fラン大卒でも「高度人材」扱い
東大でこの状況だ。EJUと面接だけで入ることができる有名大学も多く、その後は日本人でも難関な日本の有名企業の外国人採用枠に就職することもできる。留学生の53%は日本国内に就職し、そのうちの82%はホワイトカラー・高度人材向けの在留資格「技人国」(技術・人文知識・国際業務)だ。
さらに、近年、規制緩和され、最短で1年から永住申請が可能となった「高度専門職」に切り替えて就職する方法も流行っているという。こちらの資格取得の要件はポイント制だが、年齢や卒業、勤続年数など、“ライフステップそのもの”に対する加点割合が多い。偏差値が高くない大学であっても卒業するだけで加点対象となるケースもある。
能力や成果に際立った部分がなくても「高度人材」と認定されることで長期滞在につながる制度設計となっている。
■問題視された「経営管理ビザ」の10倍以上
こうしたライフハック的に外国人が使える制度は“優遇”と言われても仕方ないのではないか。そして就職すれば、失業しない限りは、長期滞在が視野に入る。「技人国」や「高度専門職」の在留資格を利用すれば、家族帯同も可能となり、留学期間と通算して長くとも10年いれば永住権や帰化申請(現在、厳格化を検討)が可能となる。つまり、「留学」とは、フツーの外国人でも卒業時には高度人材系の在留資格が容易に得られ、就職を経て日本の移民になることができる手段でもある。
なお、24年実績では、「技人国」の新規発給は約6万件で、現在、同在留資格の保有者は45万人。この2年間だけで11万人という急増っぷりだ。今年10月から厳格化された経営管理ビザの保有者は4万2000人であり、その10倍以上となっている。本来、ホワイトカラーの就業系の在留資格は、特定の技能に秀でていたり、外国由来の属性が日本企業で生きるなど、国益に適う高度人材としての活躍が目的だった。しかし、現実には単純労働に就いているケースも少なくないようだ。
■経済目的だけの「外国人受け入れ」の末路
このような現状をもたらす「移民利権」はすでに“岩盤化”していると言っていい。受け入れ企業や支援組織に“恩恵”をもたらす技能実習(育成就労・27年開始予定)と留学による受け入れ制度と体制が“稼働”している限り、高市政権の外国人に対する管理の厳格化政策とは無関係に、在留外国人が増え続けるのは間違いない。

制度上において、在留外国人の出身国や数を事実上、決めている現場は、人数の多さがそのまま“利益”となる、大学や、監理団体などに代表される外国人材の支援組織、そして低賃金人材の人数の分の利ザヤを稼げる企業だ。
そこには、地域社会への親和性や受け入れた後の文化摩擦や負担など、社会問題を見据えた判断やその動機は一切存在しない。あるのは、外国人を労働者として必要とする関係者の純粋な経済目的だけだ。文化摩擦がすでに指摘されているイスラム圏出身者でも、受け入れを実行する日本人の関係者らは地域住民が感じるデメリットとは無関係の立場だ。責任やデメリットと無縁な一方的な受益サイドの“営利目的”の思惑が、将来的な日本の民族構成を方向付けている現実がある。
政治家が唱える「人口減による人手不足」や「多文化共生スローガン」が、目的ではなく、“利権”維持の手段としての口実に過ぎないとしたらどうだろうか。

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九戸山 昌信(くどやま・まさのぶ)

フリーライター

大学卒業後、新聞社で勤務。社会やスポーツ面を担当。そののち出版社勤務を経て独立。現在は雑誌、ウェブ記事等に寄稿。取材範囲は経済、マネー、社会問題、実用、医療等。

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(フリーライター 九戸山 昌信)
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