仕事ができる人・できない人は何が違うのか。ビジネス数学の教育者、深沢真太郎さんは「同じことを学んでも理解力によって成果は変わってくる。
ビジネスマンに研修を行うと『わかったつもり』になっているだけという人が非常に多い。理解力は練習で習得できる一生もののスキルなので、ぜひ身につけてほしい」という――。
※本稿は、深沢真太郎『本当に頭がよくなる シン・理解力 具体と抽象で鍛える数学的・言語化トレーニング』(実務教育出版)の一部を再編集したものです。
■人生を壊す「わかったつもり」のワナ
誰にでも「連絡をしたつもりで、実際はしていなかった(連絡し忘れていた)」という経験があるでしょう。
「言ったつもりで、実際は言っていなかった」→ミスコミュニケーョンの典型

「終えたつもりで、実際は終わっていなかった」→それに気づいて慌ててしまうことも

「聞いているつもりで、実際は聞いていなかった」→相手からの信頼を損ねることも
私がいちばん「気をつけなくては」と感じるのは、このような「◯◯したつもりで、実際にはしていなかった」という出来事の場合です。
もしこれが「連絡をしていない認識で、実際に連絡していない」のであれば、基本的に問題ありません。認識と実態が一致している、つまり「自分のことが客観的にわかっている」わけですから、おそらくこの人は、本当に連絡が必要な場面ではしっかり連絡ができるでしょう。
しかし「連絡をしたつもりで、実際はしていなかった」は困りますよね。その人はいずれ本当に連絡が必要な場面で、連絡をし忘れる可能性があるからです。
同じことが、この本のテーマにも当てはまります。
つまり「理解したつもりで、実際は理解していなかった」という状態もまた、とても「たちが悪い」ということです。なぜなら、次のような結果につながりやすいためです。

・いざ説明を求められたとき、うまく言葉にできない(言語化できない)

・簡単に結論が出せると思っていたのに、考え始めると迷路に入ってしまう

・セミナーや読書で学んだことが、実際の職場ではなぜか実践できない
「理解したつもりで、実際は理解していなかった」という状態は、細かいところであなたが無意識のうちにじわじわと、しかし確実に(少し残酷な表現を使わせていただくと「真綿で首を絞めるように」)、その人物に悪影響を及ぼします。あなたが理解力を手にするための最初の一歩は、この「つもり」のワナの存在に気づくことです。
■「理解した」とはどういうことか
「つもり」のワナに気づいた人、つまり最初の一歩をクリアした人が、次に必要なことは「理解した」と「理解したつもり」の違いを知ることです。つまり「わかった」と「わかったつもり」の違いに気づくことですね。
そもそも、わかるってどういうことでしょう。
これは、じつに難しい問いです。
一般的に、誰もがふだんから常識だと思っていることほど、その意味や本質を言語化することが難しかったりします。
あらためて、「理解した」「わかった」とはどういうことなのでしょうか。
この問いが難しいのは「全世界共通の正解は存在しない」というところにあります。あくまで個人的見解という前提のもと、いまから私の定義をご紹介します。
【定義】「理解した(わかった)」とは、「同じ」と「違う」に分けられたこと。
具体例で説明します。

テーブルの上に1つのリンゴが置いてあり、あなたはそれがリンゴだとわかります。
少し意地悪な聞き方になりますが、あなたはなぜ、それがリンゴだとわかるのでしょう。
それはあなたが、テーブルの上の「物体」と、あなたの脳内にある情報を比較し、「同じ」と「違う」に分けて認識するからです。
つまり、あなたの脳にある「リンゴ」という情報は、テーブルの上の「物体」と一致し、それを「同じ」と認識します。その結果、あなたはその物体をリンゴと理解するのです。
もしその物体がホニャララ(架空の何か)だとして、あなたの脳にある情報すべてと比べて「違う」となるなら、あなたはそれがホニャララであることがわからないはずです。
初めて会った人は、誰なのかわからない。聴いたことのある曲が流れると、それが何の曲かがわかる。このようなことが日常にたくさんありますが、これらはすべてこの定義に当てはまります。
「理解した(わかった)」とは、「同じ」と「違う」に分けられたこと。つまり、理解の基礎は、認識した情報と脳にある情報との「比較」にある。
この4行は、この本の根幹となる考えですので、ぜひ覚えておいてください。
いますぐピンとこなくても大丈夫です。この本を読み進めながら体験的に覚えていきましょう。
■うまくできない人の特徴
次に必要なのは、「うまくできないこと」の視点です。
あなたがビジネスパーソンなら、ふだんの仕事において「うまくできないこと」を思い浮かべてみてください。それにはすべて、理解力が関係していると言っていいでしょう。
1 結論(答え)を出せない

そもそも、そのテーマの何が問題で、どういうメカニズムで起きて、どんな状態になれば解決なのかを理解できていなければ、結論(答え)を出すことは難しいでしょう。

2 言語化(説明)できない

その言語化する対象を、深く理解できていないことが原因だったりします。

3 業務を改善できない

業務改善とは何をすることなのか、どういう手順で行うものなのかが理解できていない可能性はないでしょうか。
■理解力がない人は感想しか言えない
人材育成や教育の仕事をしていると、「うまくできない」ことで悩む方にたくさんお会いします。
私はビジネス数学の指導を始めた当初、この「うまくできない」ことの理由は、その人が知識やノウハウを持っていないからだと思い込んでいました。ですから、「こちらが知識やノウハウを丁寧に説明すればできるようになるはずだ」と考えていたのです。
しかし、この活動を続けていくうちに、「『うまくできない』理由の原因は、違うところに潜んでいるのではないか」と考えるようになりました。

次に、そんなエピソードをいくつかご紹介します。
これは、私が登壇したある企業研修において、ある参加者(仮に山田さんとします)と交わした対話です。
深沢 ここまで、「DX時代に必要なデータ活用」というテーマで説明しました。山田さん、ここまでの内容で何か不明な点はありませんか?

山田 いえ、特にありません。わかりやすかったです。

深沢 そうですか。では、山田さんはここまでの内容をどう理解されましたか?

山田 ……どう理解したか、ですか?(戸惑い)

深沢 はい。私の説明をお聞きになって、それをどう理解したのでしょうか。

山田 ……。(沈黙)

深沢 では、ご感想でも結構です。

山田 あ、えっと、これからの時代に大事なことだと思いました。
山田さんは「わかりやすかった」と言っていますが、はたしてどうだったのでしょうか。

また山田さんは、私の「どう理解したか」という質問に戸惑っているように見えました。
おそらく、ふだん投げかけられることのない質問だったのでしょう。そして、自分自身に向けてこのような質問をする習慣もなかったのではないでしょうか。
つまり、山田さんは「理解の説明」を求められているのに「ただの感想」しか言うことができなかった、ということです。
このようなことが、ビジネスパーソンの育成現場ではたくさん起こります。失礼ながら、山田さんはこのままでは「DX時代に必要なデータ活用」を自身の業務の中で行っていくことは難しいのではないでしょうか。
なぜなら、「DX時代に必要なデータ活用」そのものを理解できていないからです。
■「質問がない」という症状
このような“症状”を、私は「理解したつもり」症候群と呼んでいます。
じつはこの症状は、研修中の質疑応答などにもよく見られます。私はビジネス数学の研修中、参加者から質問を募集しますが、質問をしてくださる人は常に少数派です。
もちろん、本当に質問がないくらい深く理解してくださったのであれば、それはとても素敵なことです。問題なのは、本当は質問すべきことがあるのにそれに気づくことができていないこと、あるいは質問したいと思っていることはなんとなくあるけれど、自分の理解に自信がなくて発言をためらってしまうことです。

私は、研修の休憩時間や終了後に参加者に雑談がてら、研修へのコメントをお願いすることがあります。多くの方は感想を伝えてくださいますが、私が少し内容を深める対話を始めると、次のようなことをおっしゃる方がいます。
「いま、ふと疑問に思ったので、一つ質問してもいいですか」
本来はこの「ふと疑問に思った」状態まで、研修中に自身でたどり着いてほしいのです。おそらく、彼らは研修中に私の話を聞くことはできても、理解するまでは至っていないのでしょう。
理解していなければ、質問もできません。だから表面的な感想しか言えない。先ほどの事例と、とても似ていますよね。
■「理解力」はレポートを見れば一目瞭然
人材育成を目的とした働きかけは、少し専門的に言うと「行動変容」がゴールです。行動変容とは、考え方が変化することで行動や習慣が変化し、その変化が定着していく一連の流れのことです。
このような仕事をしていると、行動変容できる人とそうでない人の違いを目の当たりにすることになります。もちろん「やる気」や「モチベーション」は、その大切な要素ですが、それとは別にもう一つ大きな要素があると考えています。それが「理解の有無」です。
ある企業の研修で、参加者に出していただいたレポートを例にしましょう。
テーマは「DX時代の問題解決! データ分析・超入門」です。仮に鈴木さんと佐藤さんとし、二人の内容を比べてみてください。
鈴木さんのレポート
DX時代にデータ活用がいかに重要か、よくわかりました。文系出身だったこともあり、これまでなんとなく苦手意識があって敬遠してきたテーマでしたが、今回の研修をきっかけに少しでもデータ活用に積極的に取り組むよう意識していきたいと思います。
講師の深沢先生はとても人柄が素敵で、優しく丁寧に導いてくださる姿に好感を持ちました。参加してよかったと思っています。ありがとうございました。
佐藤さんのレポート
今回の研修は、以下の3点が構成要素であったと理解しました。
① 時代背景(なぜいまデータ活用なのか)

② とりあえずデータを触る習慣からの脱却

③ 最低限のデータ分析手法さえ知っていれば戦える
個人的に重要度として高いと思うのは②であり、データ活用がうまくいかない人間の特徴を端的に表していると感じました。
今回の研修で示された「型」でまずはマーケティング計画を見直し、「広告費1円あたり収益」という指標の改善を目的とした具体策の抽出に入る予定です。そのための具体的な手法としては、③で解説された単回帰分析がそのまま活用できそうです。
まずはこの仕事で成功体験を得ることで自信が持てれば、自然に次のステップに進めると考えています。

■理解できないと行動できない
私は、この研修をより「理解」できているのは佐藤さんの方だと感じました。
鈴木さんの「感想」は講師として素直に嬉しいものですが、教育者としては少し残念な内容と言わざるを得ません。鈴木さんと佐藤さんの違いは、それぞれの理解力にあることが明確ではないでしょうか。
そして実際、研修後に即行動に移し、成果に結びつけているのも佐藤さんの方でした。
鈴木さんは残念ながら研修後に具体的な行動変容に結びつくことはなく、引き続きデータ活用ができているとは言えない状態でいます。
この話を究極までシンプルにして表現するなら、次のような表現になります。
感想(自分の心の動き=主観)だけを言う人 → 行動変容できない

理解した内容(内容把握=客観)を言える人 → 行動変容できる
この法則はどの業界、どの業種、どの属性で研修を行ってもまったく同じです。
■「理解力」はAI時代に必須のスキル
振り返ると、次のような構造の存在が明確になります。
理解できていない → ただの感想しか言えない

理解できていない → 効果的な質問ができない理解できていない → 行動変容できない



理解できていない → 仕事もプライベートもうまくいかない
この法則は決して人材育成の現場だけに存在するものではなく、あなたの仕事においてさまざまな場面で起きていることではないでしょうか。そういう意味で、「理解力とはすべてのビジネスパーソンに必須の、そして最強のビジネススキル」なのです。
また、「時代」という観点においても、理解力はとても重要なものと言えます。
たとえば、ご存じのように、私たちのビジネス環境にいよいよAIが普及してきました。AIとは、Artificial Intelligence(人工知能)の略で、コンピューターが人間の知的能力を模倣して推論や判断、学習などを行う技術のことを指しており、ChatGPT などに代表される「生成AI」を仕事で活用している人も増えています。
じつは、生成AIを活用するために理解力は欠かせません。その理由は、(先ほども登場した)この1行で説明することができます。
理解できていない → 効果的な質問ができない
私たちが生成AIを使うことの一番のメリットは、利用者の質問に対し、適切な(と思われる)回答を短時間で返してくれるところにあります。つまり、「どう質問するか」がきわめて重要なツールなのです。そんなツールを使うにあたり、適切な質問ができないことは致命的と言えます。
■人生100年時代の学び直しにも不可欠
さらに、現代は「リスキリング」という言葉が一般的になりました。
リスキリングとは、新しい業務や職種に適応するために、新たなスキルや知識を習得すること、またはその機会を提供することを指します。
かつては「一度学校を卒業したら、定年までずっと社会人」というテンプレートがありましたが、これからは人生で何度か大学や専門学校に通うことが当たり前になってくるでしょう。
その際、「何を目的に、どんな分野を学習するのか」を自分で考える必要があります。
しかし、これまでの経験や知見を自分自身が理解できていなければ、それが難しくなります。リスキリングが求められる時代にもかかわらず、理解力がなければリスキリングそのものが始められないのです。
これもまた、(先ほども登場した)この1行で説明がつくと考えられます。
理解できていない → 行動変容できない
あらためて、「時代」という観点においても、理解力はきわめて重要なスキルだと言えます。
■理解力は一度身につければ一生使える
私がこの本でここまで理解力を強く推す理由は、ほかにもあります。ひとことで言えば、理解力は「どこでも使える、一生モノのスキル」だからです。
ひょっとすると今日このあと、あなたはすぐに理解力を発揮するシチュエーションがあるかもしれません。
あるいは、あなたはいままさにこの本を読みながら、理解力を発揮しているかもしれません。それほどまでに、理解するという行為は私たちの日常に必要とされているのです。
つまり、「理解力とは、いつでも使える強力な武器」とも言えます。
さらに、理解力とは知識ではなく「反復動作」で身につくものです。
一般に、機械的に暗記したものはすぐに忘れてしまいがちです。しかし、理解力はそんなことはありません。一度身につけてしまえば、頭から抜けてしまうことはありません。
たとえば、子どもの頃から自転車に乗っている人が、大人になった途端に(18歳になった瞬間に)乗れなくなるということがあるでしょうか。病気や事故での長期療養など、特殊なケースを除けば考えにくいでしょう。
なぜなら、自転車に乗るスキルは知識ではなく動作の繰り返しによって身につけたものであり、基本的に身体から抜けてしまうことはないからです。
逆に(あくまで仮定の話ですが)、子どもの頃自転車に乗れなかった人が、大人になってから乗れるようになることはあるでしょうか。一般的な身体能力を持つ人であれば、正しく練習すれば十分に可能なはずです。
【基本的に考えにくい】

子どもの頃「自転車に乗れた」 → 大人になって「自転車に乗れない」
【十分にありえる】

子どもの頃「自転車に乗れない」 → 大人になって「自転車に乗れるようになる」

理解力とは、この「自転車に乗れるスキル」のようなものだと思ってください。一度乗れるようになれば、永遠に乗れる。それは子どもの頃からでも、大人になってからでも身につけることができます。
そして乗り方を覚えてしまえば、朝でも夜でも、日本でも海外でも、好きなときに好きな場所で自転車に乗ることができます。
私はあなたに、そんな「どこでも使える一生モノ」のスキルを身につけてほしいと考えています。

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深沢 真太郎(ふかさわ・しんたろう)

ビジネス数学教育家

日本大学大学院総合基礎科学研究科修了。理学修士(数学)。国内初のビジネス数学検定1級AAA認定者。予備校講師から外資系企業の管理職などを経て研修講師として独立。その独特な指導法で数字や論理思考に苦手意識を持つビジネスパーソンの思考とコミュニケーションを劇的に変えている。大手企業をはじめプロ野球球団やトップアスリートの教育研修まで幅広く登壇。SMBC、三菱UFJ、みずほ、早稲田大学、産業能率大学など大手コンサルティング企業や教育機関とも提携し、ビジネス界に数学教育を推進。2018年に国内でただ1人の「ビジネス数学エグゼクティブインストラクター」に就任し、指導者育成にも従事している。著書に『数学的思考トレーニング 問題解決力が飛躍的にアップする48問』(PHPビジネス新書)、『わけるとつなぐ これ以上シンプルにできない「論理思考」の講義』(ダイヤモンド社)、『数字にだまされない本』、『数学女子智香が教える 仕事で数字を使うって、こういうことです。』(ともに日経ビジネス人文庫)などがある。

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(ビジネス数学教育家 深沢 真太郎)
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